磐田戦で先制点を決めた鈴木唯人 ©J.LEAGUE
「全体的に考える頭のスピードが全然違った。それに慣れて対応できれば、できるとも感じているので、考えるスピード、判断、次のプレーの選択肢を意識し続けることが大事。とにかく頭をフル回転させてできればいいのかなと思っています」
1月17日から21日にかけて千葉で行われた日本代表国内組合宿。追加招集された清水エスパルスの20歳アタッカー、鈴木唯人は神妙な面持ちでこう語っていた。ワールドカップ経験者の長友佑都や大迫勇也、酒井宏樹らの強度と攻守の切り替え、シンキングスピード、世界基準への意識を目の当たりにし、パリ五輪世代の星は「このまま立ち止まってはいられない」と大いなる危機感と向上心を抱いたことだろう。
あれから1カ月半。2022年シーズンを迎えた清水で23番をつける鈴木は中核FWとして最前線に陣取っている。昨季のJ1で13得点のチアゴ・サンタナを筆頭に、FW陣の負傷者が続出していることもあり、鈴木唯人に託されるものは大きい。平岡宏章監督も「代表に入る選手は、いざという時に点を取れる。彼にはそのレベルを求めたいし、それくらいの選手になれると思っている」と期待を寄せていた。
もちろん本人も昨季リーグ戦2得点という数字には決して満足していない。同じ2001年の生まれの荒木遼太郎が昨季2桁得点でJリーグベストヤングプレーヤーに輝いたのだから、負けてはいられない。世界に目を向ければ、久保建英も同級生だ。そのレベルに這い上がろうと思うなら、目に見える結果を残し続けるしかない。
「ひたすらに最後の局面や、いろんな局面の練習を積み重ねていくことが(フィニッシュ改善への)最大の近道。去年はもう終わってしまったことなので、今シーズン、より数字を積み重ねられるように練習していくしかない」と代表合宿時にコメントしたが、1月末から参加した清水の鹿児島キャンプでも個の力をブラッシュアップさせることに力を注いだに違いない。
その成果が今季はしっかりと出ている。まず開幕戦の北海道コンサドーレ札幌戦では、原輝綺のタテパスに鋭く反応。相手の背後を巧みに取り、角度のないところから右足を一閃。貴重な同点弾を叩き出した。ホーム開幕戦ということで、欲を言えば勝ち切りたかったが、1-1のドロー発進というのは悪くない結果。自信を持って26日のジュビロ磐田との“静岡ダービー”に挑めたはずだ。
90~00年代にJの覇権を争ってきた両者の直接対決はやはり注目度が違う。かつて磐田でプレーし、指揮を執った名波浩は「エスパルスにはじゃんけんでも負けたくない」と発言したというが、平岡監督も「もともと自分はじゃんけんで負けるのも好きじゃない。ジュビロにも勝ちたい」と応戦。気迫を前面に押し出したほどだ。
2020年に市立船橋から清水入りした鈴木唯人にとっては初めての“静岡ダービー”となった。
「今のチームにダービーをやっている人があまりいなくて、どういう感じかはあまり聞けなかったですけど、いつもと違った独特の雰囲気を感じた」と彼自身も神妙な面持ちで言う。それでも不思議なほど肩の力が抜けた状態でゲームに入ることができた。
最初の見せ場は開始9分。杉本健勇の中途半端な横パスを左サイドの神谷優太がカットし、縦パスを送ったのが始まりだった。呼応した背番号23は寄せてきた山本義道と入れ替わり、背後に抜け出した。そのまま猛烈な勢いで持ち上がると、GK三浦龍輝の位置を見ながら少しスピードを落としながら右足シュート。2試合連続ゴールをゲットしたのだ。
「あんなにドフリーだったので、自分でもびっくりしましたけど、確実に決めきらないといけなかった。落ち着いて決められてよかったと思います」と本人も安堵感を吐露する。
早い時間の先制点で弾みがついたのか、ここからの一挙手一投足は凄まじかった。ボールを持てば迷わず敵陣へ切り込み、ゴールを狙っていく。その推進力と積極性、大胆さ、インテンシティの高さは1カ月半前の代表合宿時とは明らかに別人のようだった。
「いろんな選手とやることで、学ぶことは沢山ありますけど、何か特別に意識を変えるというよりは、自分のサッカーに対して自信を持って帰ってこれた。それをいかにプレーで表現できるか。そういったところが今はいいのかなと思います」
本人もこう語ったが、「代表に呼ばれた以上、自信を持ってやるんだ」という決意のようなものが、今の鈴木唯人にはあるのだろう。若い選手は何かのきっかけで豹変しがち。急激な成長曲線は実に頼もしい。セルティックやベルギークラブから関心を寄せられているという一部報道もあるが、それも当然と言えるかもしれない。
試合は前半を1-1で折り返した後、もつれにもつれ、磐田に2人の退場者が出る中、清水が2-1で勝利。待望の今季初勝利を挙げた。宿敵撃破の原動力となった鈴木唯人も素直に喜んでいた。しかしながら、11人対9人になった終盤、何度も決定機を迎えながら、追加点を奪えなかったことは今後への課題。それは本人も認めている点だ。
「自分を含めてあの時間帯はもっともっとやらなければいけない。そういうところが今後の試合に響いてくる。もっと厳しく求めていかないといけないと思います」
反省の弁を口にした20歳の若武者は自らのフィニッシュに磨きをかけ、どこまでゴール数を伸ばすのか。11月のカタールW杯の秘密兵器に名乗りを挙げるくらいの大ブレイクを果たしてくれれば理想的である。
取材・文=元川悦子
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By 元川悦子