2017.05.10

【ライターコラムfrom松本】新境地を切り開く石原崇兆、“あの日の忘れ物”を求めて

今季、ウイングバックとして起用されている石原は公式戦12試合で先発フル出場を果たしている [写真]=J.LEAGUE PHOTOS
1978年生まれ、東京都出身。長野県内の新聞社で15年まで勤務し、現在はフリーライターとして松本山雅FCを中心に信州スポーツを幅広く取材。クラブ公式有料サイト「松本山雅FCプレミアム」編集長も務める。

 あの日の忘れ物を取りに――。

 昨年11月12日、J2第41節。首位北海道コンサドーレ札幌と勝ち点で並んだ2位松本山雅FCは、アウェイFC町田ゼルビア戦でJ1自動昇格の可能性があった。16戦負けなしのクラブ記録を継続中で、町田とのJリーグでの戦績は3戦3勝。輝かしい未来が眼前に広がる…はずだった。

 だがその期待は悪夢に変わる。ピッチの選手たちは動きが硬く、前半にあっさり2失点。後半に巻き返しを狙ったものの、反撃は高崎寛之の1ゴールにとどまった。この一戦から歯車が狂ってプレーオフでも敗れ、今季も5勝3分4敗の9位と煮え切らないまま。閉塞感を切り裂くような「何か」が欲しい。

 その「何か」を秘めているのは、この男かもしれない。石原崇兆。あの日の町田戦でシャドーストライカーとして先発した当時は23歳で、11人中最年少だった。「みんな年上で経験のある選手なのにガチガチになっていて、僕自身も前半は消極的になって自分らしいプレーができなかった」と振り返る。息を吹き返した後半にペナルティーエリア内で倒されたプレーはシミュレーションの判定。後日に誤審と認められたものの、覆水は盆に返らない。

“あの日”の町田戦、当時23歳だった石原は先発メンバー最年少で出場するも無得点に終わった [写真]=J.LEAGUE PHOTOS

 仕切り直しの今季。石原はチーム事情に伴って左ウイングバックで起用され、新境地を切り開いている。ボールタッチの回数はシャドーだった昨季より少なく、利き脚とは逆の左を使う必要性も増した。とはいえ自身は「ボールを触ってナンボのスタイルだから、1回のプレーで何かしらインパクトを残さないといけない。小さい頃は左利きに憧れていたし苦手意識もないから、左でうまく蹴れるようになるいい機会だと捉えている」と前向きに受け入れる。

 相手DFを食い付かせての鋭いターンが象徴するように、そもそも爆発的なスピードは折り紙付き。現在の重点課題は左脚の精度だ。「相手のDF同士で『タテに行かせろ』って会話が聞こえてくることがある。左で蹴れないと思われているなら、それ以上のクロスを左で上げればいい。そうすれば今度はカットインからのシュートやクロスとか右脚で怖さを与えられる」と、最適なボールの置きどころを模索。「惜しいだけじゃ物足りないけど、徐々にイメージ通りのボールを出せるようなってきた」と手応えを口にし、実際に第6節徳島ヴォルティス戦では左脚クロスから工藤浩平の先制ゴールをアシストした。

「昨年の忘れ物を取りにきました」という横断幕はJFL時代から町田と松本の間でやり取りされている [写真]=J.LEAGUE PHOTOS

『昨年の忘れ物を取りにきました』

 JFL時代から町田と松本の間でやり取りされている横断幕の文言だ。負けた側が持ち帰り、次回対戦時に掲げるのが恒例となっている。松本の現状を考慮すれば、あの日町田に置いてきた「忘れ物」は大きく重い。

「プレーオフで岡山に負けたこともすごく悔しかったけど、あの試合から全てが大きく変わってしまったのは間違いない。その意味では絶対に負けたくない相手だし、同じようなミスはしたくない」。

 石原もまた、ピッチへ昨年の忘れ物を取りに行く。しかも今度は、一回り成長した姿で。

文=大枝令

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