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いつもの90分、いつもの鹿島、いつもの川崎。勝利への「いつも通り」を鹿島が制す

2016.11.28

Jリーグチャンピオンシップ準決勝、川崎vs鹿島が11月23日に行われた

年間勝ち点1位・浦和レッズへの挑戦権を懸けたJリーグチャンピオンシップ準決勝は、かつての常勝軍団・鹿島アントラーズが制した。無冠のクラブと17冠のクラブが対峙した決戦で勝敗を分けた要素は、何だったのか――。緊迫した90分間の中で、その差は如実に顕在化していた。

▼決戦の地の風景


11月23日、勤労感謝の日。「祝日のお勤め、頭が下がります」と思いながら、休まず動く電車を降りスタジアムへ向かう。早朝から決戦に向けサポーターであふれた奥には、静かにその時を待つ等々力陸上競技場が見える。メインスタンド側の広場にはパブリックビューイングのトラックが待ち構え、「今日のコレオは……」と談笑するご婦人方とすれ違ういつものフロンターレの日。「今まではすべてが非日常だった、でもいまはこれが日常」。試合後の川崎・風間八宏監督の言葉に納得をする。チャンピオンシップであろうといつもと同じ、平常心が競技場周辺にあった。それでも、街灯に吊るされたフラッグには、「11月29日、決勝第1戦、vs浦和レッズ」としっかり主張をしている。『LOVE KAWASAKI』の横断幕で選手を迎え、チャンピオンシップ準決勝、川崎フロンターレvs鹿島アントラーズの戦いが始まった。

▼主役の着火と真打の登場

開始早々、長谷川竜也がクロスを上げる。枠は捉え切れなかったものの、キャプテンマークを巻く大久保嘉人のボレーが戦いの火を点けた。

川崎は自由に動く大久保、鹿島は金崎夢生が左サイドで突破を図る。互いのエースが流れをつかもうとする19分、川崎のエドゥアルド・ネットが自陣深くから大きくロングボールを蹴り出した。前線の長谷川は「待っていました」と猛ダッシュをしかける。鹿島GK曽ケ端準は距離を測りながらペナルティーエリアを飛び出し、ヘッドで難を逃れた。

接触はない、それでも長谷川は倒れ込んでしまう。足を抑え倒れる長谷川にタンカが用意された時、ベンチで立ち上がった背番号14にスタジアムは沸き立った。「川崎を支えてきた彼を」と風間監督は中村憲剛を送り出す。ただ「もっと余裕のあるところで使いたかった」とけがからの復帰戦に不安も抱えていた。大久保は自由に動く役割とキャプテンマークを中村に譲り、自身は前線に場所を移した。

▼引き分けのないレギュレーション

中村の動きにけがの影響は感じられない。中村が組み立て、大久保が仕留める。理想的な形を描き始めたゴール裏は、興奮を抑え切れず飛び上がっていた。だが、その夢を無邪気な男が打ち崩す。

50分、スローインから山本脩斗がニアにクロスを入れる。飛び込んで来たのは金崎。頭で合わせて大きな1点を奪った。

川崎サポーターは言葉を失った。だが、まだゲームは終わっていない。ピッチ上の川崎の選手たちは理解していた。悪夢から8分が過ぎた58分、中村の切り替えしてからのシュートでサポーターにも気付かせた。

ゴールは奪えなかったものの、中村が手を上げサポーターを鼓舞。この試合は、引き分け=勝利。1点を奪うだけで決勝への道が開ける。川崎サポーターはショックから立ち直り、後押しを再開した。

だが、鹿島も引き分け=敗戦を十分に理解をしていた。中村が最終ラインに下がってボールを散らし全体を押し上げる。川崎の意地は鹿島サポーターに伝わり、ポゼッションの恐怖をかき消そうと大きなブーイングで戦っていた。川崎にとって短く、鹿島にとって長いアディショナルタイム5分、谷口のヘッドはゴールポストの上を越え、86分からGKチョン・ソンリョンも攻め上がるパワープレーをしかけた川崎の反撃は終わった。

 ピッチに倒れ込んだ大久保は、谷口彰悟がつないだボールにあと一歩足が届かなかった88分の出来事を、「そんなもんでしょ」とサッカーの難しさを表現した。中村は「大きな喪失感」と言葉を発し、スタジアムを去った。

▼いつもと同じ鹿島、いつも通りを手に入れた川崎

川崎の風間監督が語った「一発勝負だろうが、リーグ戦だろうが、同じ90分」は、鹿島にとっても同じことだった。「どういう内容であれ、1点を上回ることが絶対条件」と考えていた鹿島・石井正忠監督は、金崎の得点は意図した狙いではなく、選手の状況判断によるものと説明した。その神妙な表情はまだ戦いが続く緊張感をにおわせる。

これが鹿島の“平常運行”。長い年月とともに育まれた勝負強さは、いつもと変わらない平常心によって磨かれた。「本気になれば必ずトップになれる」との哲学を残し、川崎の風間体制は終わる。

鹿島は浦和レッズが待つ決勝に歩み始め、川崎は強者としての第一歩を歩み始めた。

佐藤功
岡山県出身。大学卒業後、英国に1年留学。帰国後、古着屋勤務、専門学校を経てライター兼編集に転身。各種異なる業界の媒体を経てサッカー界に辿り着き、現在に至る。

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