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J2初陣を終えた金沢の森下監督“発言の裏に隠された思惑とは”

2015.03.09

文●川本梅花

◆悔しい表情を見せる森下監督


 3月8日、J2第1節、大宮アルディージャツエーゲン金沢の試合が大宮のホームであるNACK5スタジアム大宮で行われた。試合は終了間際の86分に家長昭博のゴールで大宮が開幕戦を勝利した。J3から昇格した金沢は、善戦虚しく勝ち点を得ることができなかった。

 試合が終って記者会見場に入ってきた森下仁之監督は、大きく息を吐いて椅子に腰掛けた。すぐに大宮の広報が、会見の始まりを告げる言葉を発する。

「おまたせいたしました。それでは森下監督の会見を始めさせていただきます。まず本日の試合の感想からよろしくお願いします」。

 森下監督は、「えー」と言って一拍を入れて、さっきまで行われていた試合の結果の悔しさを噛み締めながら一語一語を自分に言い聞かせるように置いていく。

「まあ、J2第1戦、クラブとして、今後クラブの歴史として、今日の戦いがずっと残っていくような……最初のJ2の試合に、できれば勝ち点1もしくは勝ち点3を取りたかった。最後の結果は残念ですけど、非常に選手は最後まで集中して戦ってくれました。自分たちの良さを含めて、結果は残念でしたけど、このJ2リーグに今後戦っていけるような、もてたような90分間だったように思います。また次のヴェルディ戦に向かって、J2初勝ち点を目指してやっていきたいと思います。以上です」。

 J3から昇格して初めての試合。終了間際まで勝ち点1は金沢の手中にあった。今後を見据えたならば、引き分けでも十分に価値のある戦いだった。金沢というチームがもっているいい部分が見られた試合である。それは、全員の意思疎通が計られたしっかりとした守備にあった。チームがもう少し集中して最後の部分で守り抜ければ勝ち点1が奪えた試合だった、という悔しいが森下監督の表情から読めるし、彼の言葉のあちこちに込められている。

 次に、大宮広報の「それでは、質疑応答に入らせてもらいます」という知らせによって記者の質問が始まった。

――自信をもてた90分間ということでしたが、どのような点で自信をもてたのでしょうか?

「しっかりとした守備のところからというところで、今年もやっていかないといけないと思うんですが、でも、大宮さんに対してスペースを消しながら、ブロックを築きながら、そういった形の中で守備はできたんじゃないかと思っています」。

――失点の場面はどう振り返りますか?

「失点する前から交代する選手も含めて、自分たちがサイドから入れられているボールに対しても、少し中でバタバタした時間帯がありました。ゴール前では、少し密集の中で、ベンチからもはっきりとわからなかったんですけれども、ワンタッチでひとつ繋がれたあとに、最後は少し対応しきれなかったんじゃないかなと思います。非常に苦しい時間で、体もキツかったですし、前でスピードある選手が少し入ってきて、自分たちがまたリズムを悪くして、守備の中からでもリズムが悪くなった時間帯だったのかなと思います」。

 森下監督の述べた「前でスピードある選手が入ってきて」というのは、66分に負傷したムルジャに替わってピッチに入った泉澤仁のことである。泉澤がサイドハーフに入って、それまでサイドハーフをやっていた家長昭博がフォワードの富山貴光と2トップを組むことになる。結果的に、決勝点を挙げた家長は、フォワードのポジションになったから得点できる位置にいたとも言える。いずれにせよ、泉澤は持ち味のドリブルを活かして敵陣に切り込む姿勢を見せたことで、金沢のディフェンス陣にプレッシャーをかけられたことは事実だ。

◆真意を隠した発言の裏

――今日、対大宮戦ということで何か普段とスタイルを変えた部分があったんでしょうか?

「相手チームのことを僕はあまり言いたくないんですけれども、んん、まあ、あの……」。そう言うと、監督は少し言いたくなさそうな雰囲気をかもしだす。

「自分たちがブロックを作る形のところでは、大宮さんだとか、まあ家長選手がいるからということでの対応はあまり意識していませんでした。自分たちの形というのは、相手がどのようなシステムでどこに立っても変らない。大宮さんに対してというのはありません。もちろん、いる選手の特徴だとか、気をつけたいところはありましたけれども、そんなに大きな対応はありませんでした」

 ここの監督の発言は疑ってかかった方がいい。なぜならば、金沢の中心的なシステムは[4-2-3-1]であるからだ。大宮は当然、[4-4-2]のボックス型を採用するはわかっていた。大宮のシステムと上手くマッチアップさせるためには、同じシステムで挑むことが鍵になる。システムが同じだと、相手が何も対処しなければ、フリーになる選手を生み出さなくて済むからだ。

 それに、スタメンも当初予想されたメンバーと変えてきた。ワントップの水永翔馬の二列目に金子昌広やジャーン・モーゼルを置くのに、彼ら2人をスタメンから外している。そして家長がボールを持つと、必ず2人の選手が家長にプレスに行って、家長をピッチの中にスライドさせるように追い込んでいく。家長はクロスを上げられず、ミドルシュートも打てずに、ボールをサイドに送ったり、あるいは味方のディフェンダーにボールを戻す。これは、大宮対策の何ものでもないだろう。

 また監督の「自分たちがブロックを作る」というのが、金沢の守備のポイントになっている。この点では、どのチームと対戦しても同じ守備戦術をとってくる。つまり、大宮のディフェンダーがボールを持ってビルドアップを開始すると、金沢の選手全員がリトリートをして3ラインを作って守備をするのである。

 最終ラインをペナルティエリアに入ったところに置いて、ディフェンダーの前にいるミッドフィルダーとのギャップの距離は4から5メートル。ゴールキーパーとディフェンダーの距離も短く、ディフェンダーとミッドフィルダーの距離も短い。だから、大宮がサイドからクロスを上げてもゴールキーパーにキャッチングされてしまう。こうした守備戦術は、J2のいくつものクラブがやってくる守り方である。

 それに対抗するには、渋谷洋樹監督がシーズン前からかかげている「中央からの攻撃」がポイントになる。退いた相手に関する攻略については、渋谷監督の会見で触れたいと思う。

――立ち上がりはツエーゲンのペースだったと思うんですが、攻め切れなかった理由はどこにあると感じますか?

「前半の入りも後半の入りも良かったと思います。キャンプから練習試合で5分、10分の間に先制される場面がけっこうありました。そこは今日、みんな修正していい入りをしてくれた。ただ、前半拾えていたセカンドボールが、特に後半途中から前で収まらなくなったこと、もしくは疲労からカウンターのところで前に出られなくなったところは、もうひとつ大きなチャンスを作れなかった理由なのかな、と、思っています。最後のペナルティエリアの周辺で簡単にはやらせてくれない。もうひとつそこにアイディアとか強い気持ちをもって、仲間を信じて入っていくようなことが必要になっていくでしょう。リスタートのところは、自分たちの方がアドバンテージがあったように見えたので、そこでもうひとつ少ないチャンスを決め切れれば勝ち点1、もしくは勝ち点3になったんじゃないかなと思います」。

 会見を終えて部屋を出て行く森下監督の後ろ姿は、悔しさと自信を半分もち得た戦いだったと、語っていたように見えた。

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