2013.03.18

常勝軍団を作り上げたマンUファーガソン監督の超管理主義とは

3月2日にはプレミアリーグでアジア人史上初のハットトリックを達成し、日本のみならず世界に衝撃を与えたマンチェスター・ユナイテッドの香川真司。日本のメディアは連日大騒ぎだが、ふと気が付けば香川本人の生の声が伝えられることは少ない。それはなぜなのか。サムライサッカーキング4月号の中でその一端に触れている。

香川真司

文=森昌利[サムライサッカーキング4月号より一部抜粋]
写真=Getty Images

終始徹底したファーガソンのメディア対応

 マンチェスター・ユナイテッドのアレックス・ファーガソン監督は、私生活を含め、徹底的に選手を管理すると言われる。英国では『コントロール・フリーク』(管理マニア)と呼ばれるほど、その超管理主義は有名だ。
 
 そうした管理術はメディア対応にも見事に表れている。昨シーズンの終盤、香川の移籍が濃厚になったところで、宮市亮(現ウィガン)の取材で顔見知りになっていたボルトンの地元記者たちに、「それ(ユナイテッド番)はうらやましくない」と言われた。花形のユナイテッド取材なのになぜそんなことを言うのかと思ったが、香川を追い始めてその疑問はすぐに氷解した。
 
 まず会見。ファーガソン監督はリーグ戦で試合終了後の会見をやらない。そんなことをするのはプレミアの20クラブの中でこの71歳の闘将だけである。試合後のインタビューはテレビだけ。また、毎週行われる試合前日の定例会見に出席できるのは限られた招待記者だけだ。
 
 これは有名な話だが、11年のCL決勝直前にライアン・ギグスが女性スキャンダルを起こした際、ユナイテッドは前日会見で「ギグスに関するあらゆる質問を禁ずる」と記者団に通知した。しかし、その通達を無視してギグスの様子を尋ねた地元記者がいた。するとファーガソン監督は、隣に座っていた女性広報官に「次の会見であの記者は出入り禁止にしろ」と命じたのである。
 
 この小声でつぶやいた《出入り禁止令》がマイクに拾われ、全国ニュースになってしまったが、大事な欧州最強戦の決勝直前に一切の雑音は許さないというファーガソン監督の姿勢は強烈だった。
 
 もちろん、香川に対する取材も他クラブと比較して断然厳しい。昨年の10月末にケガをして、2カ月間も戦列を離れたこともあるが、日本のファンは今シーズン、ユナイテッドに移籍してから、香川の肉声が日本に届かなくなっていると感じることはないだろうか。
 
 実際、現場ではなかなか香川に接触できない。他クラブの場合、試合に出場すれば、よほどひどいパフォーマンスでない限り取材は許可される。しかしユナイテッドではそうはいかない。ここでもまずはチームの勝利が最優先される。負けたり、引き分けたりした場合、莫大な放映権料を支払っているテレビ以外のメディアが選手に接触するのはまず無理だ。

 だからフル出場したデビュー戦、プレミアの開幕戦となった昨年8月20日のエヴァートン戦、そして今シーズン2点目となった素晴らしいゴールを決めた9月29日のトッテナム戦でも、香川のコメントがない。日本人記者団が香川と話せていないからだ。その理由はエヴァートン戦が0─1、トッテナム戦が2─3の敗戦だったからに他ならない。

 こうした徹底したメディア管理からも《負け戦にヒーローはいない》というファーガソン監督の強烈な勝負哲学が浮かぶ。香川自身は、ファーガソン監督に関し、「偉大な監督で、また偉大なプレーヤーに囲まれている中で、毎年結果を出している。そういうところ(偉大な選手達)を『束ねる力』がすごい」と話しているが、その束ねる力の根源に、こうしたファーガソンイズムと言うべき、徹底管理の思想が流れている。

厳しいだけではない父親的愛情

 またメディア対応を厳しくすることで、マスコミに特定の選手がちやほやされることを防ぐという目的もあるだろう。03年にデイヴィッド・ベッカムがレアル・マドリーに放出されたのも、若きイングランド代表キャプテンに祭り上げられ、世界のサッカーアイドルとなった教え子が、ユナイテッドという偉大なクラブより大きくメディアで取り上げられるようになったことが原因だと言える。

 当時の英国ではチームの勝利より、ベッカムの息子の誕生日パーティーのほうが大きく報道されることもあった。こうしたことをファーガソン監督は良しとしなかったのである。一人の選手がチーム以上の存在になることを許さない。それが絶対的な方針なのだ。

 こうした厳しい管理の下で、ファーガソン監督はサッカー指導者として、予言者にも近い卓越した能力で選手を超一流に導く。選手はその本来の才能を監督の助言で開花させ、多くのトロフィーを獲得する。管理される代償は栄光で支払われるというわけだ。

 しかも、厳しいだけがファーガソン監督のクオリティーではない。追われるように退団したベッカムにしても、少年時代からの憧れを盾としてR・マドリーに移籍したクリスチアーノ・ロナウドにしても、今もスコットランド人名将を「父親的存在」と語り、その敬意と愛情を隠さない。それはなぜなのか。

 ベッカムは1998年のフランス・ワールドカップで悪夢のレッドカード事件を起こし、C・ロナウドは06年のドイツW杯で同僚のウェイン・ルーニーを退場に追い込んだことで、英国民の憎悪を集める存在になった。その際、ファーガソン監督が「私が絶対に守る」とマスコミを通じてサポーターに宣言した。全国的に嫌われたベッカムとC・ロナウドを敢然と擁護したのである。こうやってまずマンチェスターに彼らが帰る場所を作った。その後の2人の活躍は周知の事実である。管理の裏側にある男気。それがこの大監督のカリスマを支えているのだ。

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