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「いずれミランの監督を務めてみたい」“レジェンド”インザーギが歩む第2の人生

2013.03.13

[ワールドサッカーキング0321号掲載]
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インタビュー・文=ジャンニ・ヴィズナーディ 翻訳・構成=高山 港

ワールドサッカーキング最新号では、“ミランのレジェンド”として未だ多くのファンに愛されるフィリッポ・インザーギのインタビューを掲載している。昨シーズン限りで現役を退いたインザーギは今、ミラン・ユースの指導者として“第2の人生”を歩んでいる。「いずれトップチームの監督を務めたい」新たな生きがいを見いだした彼が充実の日々を語る。

 昨年の今頃、フィリッポ・インザーギはまだミランの選手としてプレーしていた。彼自身が望めば、39歳となった今でも現役を続けることができただろう。ミランでレギュラーを奪い返すことは無理であっても、プロヴィンチャーレ(地方クラブ)で活躍することは十分可能だったはずだ。

 だが、カンピオナート(リーグ戦)が終了する直前の昨年5月、ピッポ(インザーギの愛称)はアドリアーノ・ガッリアーニ副会長にこう告げられた。

「ピッポ、もう選手としては潮時なんじゃないか? もし良かったら、ミランに残って下部組織の指導に当たってもらいたいのだが……」

 ガッリアーニは、ピッポが来シーズンのマッシミリアーノ・アッレグリ監督の構想から外れていることを知っていた。仮に契約を更新したとしても、試合の大半がスタンド観戦になることも。もちろん、ピッポも自身の立場をわきまえていた。他チームで現役を続行すべきか、現役を引退すべきか――。

 幸いにも、ピッポへのオファーが途絶えることはなかった。ヨーロッパ各国のクラブから必要とされるばかりか、大陸を渡ってアメリカやオーストラリアでプレーするチャンスももらっていた。セリエAで156ゴール、ヨーロッパカップ戦で70ゴール、イタリア代表で25ゴール……これまで数々のビッグマッチで輝きを放った“スーペル・ピッポ”のゴールセンスと勝負強さに期待を寄せるクラブは後を絶たなかった。

 しかし、考え抜いた末にピッポが出した結論は、スタッフとしてのミラン残留だった。ガッリアーニがピッポに用意したポストは、アッリエーヴィ(15~16歳の年齢カテゴリー)の監督。指導者の道を歩み始めたピッポは今、現役生活と同じように充実したセカンドキャリアを送っている。「トップチームの監督になる」という新たな目標に向かって――。

いずれミランの監督を務めたいと思っている

やあ、ピッポ。まだユニフォーム姿が目に焼きついているけど、スーツ姿もなかなか様になっているじゃないか(笑)。昨年の夏に現役を退いてから10カ月が経とうとしている。今こうして指導者としての道を歩み始めた気分はどう?

インザーギ(以下I)―何だか落ち着かないね。ウチのチームにゴールチャンスが来れば、ピッチへ飛び出しそうになるくらいソワソワするよ(笑)。冗談はさておき、日々新しいことに挑戦しているという実感があるし、一つずつ学習していっている。現役時代と同じくらい、今の生活も充実しているよ。

今の君は、ミラン・ユースに通う少年たちにサッカーを指導する立場になった。サッカーを教えるという経験は初めてだよね?

I―本格的にはね。立場的には、サッカースクールのコーチに近い存在だ。ただ、僕自身もそこで多くのことを学ばせてもらっている。日々の練習、週末の試合、試合翌日のミーティング……そのすべてが僕の血となり肉となっているよ。僕は20年間、プロとして多くのことを経験してきた。その経験を今度は子供たちに少しでも多く伝えたいと思っている。

現在、君はミランのアッリエーヴィの監督を任されている。チームの現状をどう見ている?

I―まず、ウチのチームはとても若い選手たちで構成されている。同じカンピオナートを戦っているチームの中で、最も平均年齢が低いんだ。16歳という年齢制限がある中で、他のチームの平均年齢と比べておよそ6カ月の差がある。これは君たちの想像以上に大きな差なんだ。もっとも、光るものがあれば14、15歳の選手を起用することもあるけどね。

特に、14歳のハシム・マンスールはかなり期待されているようだね。名誉会長のシルヴィオ・ベルルスコーニは、「来シーズンのセリエAデビューも可能だ」なんて言っているようだけど(笑)。

I―確かに、ハシムは末恐ろしいポテンシャルの持ち主だよ。ただ、セリエAデビューを果たすには、いくら何でも若すぎるけどね(笑)。14歳の彼が今すべきことは、日々の練習に集中すること。周囲の雑音は、時に彼の成長を妨げる恐れがある。それは他の選手も同じだよ。僕たち指導者の使命は、教え子を全力でサポートし、正しい道に導くことだと思っている。

アッリエーヴィは現在、カンピオナートでどの位置につけているの?

I―今のところ3位だよ。僕らが所属するジローネ(地域グループ)のトップは、ライバルのインテル。最終的には2位以内に食い込み、決勝トーナメントに進出することがチームの目標なんだ。もっとも、ユース年代の選手を指導する上でクラブが最も重要視しているのは、個々の才能を最大限に引き出すこと。トップチームで通用する人材をどれだけ育成できるか、それが僕らに求められている。

多くの人は、アッレグリの後任として君に期待しているようだけど?

I―もちろん、いずれミランのトップチームの監督を務めたいと思っている。だけど、そのためにはまだ時間が足りないよ。アッレグリはトップチームで最高の仕事をしていると思うし、見習うべき点が多々ある。現時点で、その話をするのは意味がない。まずはアッリエーヴィで指導者としての礎をしっかりと築き上げないとね。

今のミランは魅力的なチーム

ところで、君が現役だった昨シーズン、アッレグリとの間に微妙な空気が漂っていたことがあったよね?

I―確かにね。リーグ戦ではたった7試合しか出場できなかったし、スタメンのチャンスももらえなかったからね。まあ、出場機会に恵まれなかったら、少なからず不満を抱くものさ。

ただ、現役を退いた今シーズンもアッレグリとの確執が報じられている。ミランが不振に陥っていた時、メディアは「アッレグリを更迭し、ピッポを後任に据えるべきだ」と報じ、その一件を巡って口論があったとの臆測が流れた。そのうわさは真実なの?

I―それはもう終わった話だよ。大事なのは、今のミランが以前の強さを取り戻しつつあるという現実だ。僕がアッレグリの失敗を願うなんてあり得ない。ミランにはすべてのタイトルを勝ち取ってほしいと、いつも願っているからね。

では、今シーズンのミランをどう評価している?

I―シーズン序盤は、監督も選手もあまりに大きいチームの変化に戸惑い、過去最悪に近いスタートを切った。チームの柱だった(ズラタン)イブラヒモヴィッチとチアーゴ(シウヴァ)、ここぞという場面で頼りになったセナトーリ(上院議員。ここではベテラン選手を指す言葉)が一斉に退団したダメージが相当響いていたように思う。

つまり、序盤戦のスランプは、クラブの財政事情と無関係ではないと?

I―それは否定できない。だけど、ミランには他のクラブにはない美徳がある。例えば、忍耐力だ。序盤戦、ミランがスランプに陥っていた時でも(アドリアーノ)ガッリアーニ副会長と(アリエド)ブライダGMは常にアッレグリを擁護し、監督にチームを立て直すための時間を与えた。その結果が、後半戦での好調だ。開幕当初の成績から、ここまで盛り返せると誰が予想した? 今のミランはかつての“スター軍団”ではないけど、有能な中堅や若手を主体にして、魅力的なチームに仕上がっていると思う。

新チームを象徴するプレーヤーは誰だろう?

I―代表格はやはり(ステファン)エル・シャーラウィだろうね。これほどまでに急成長を遂げるなんて正直驚いたよ。多くの主力が退団したことで、逆に「自分がやらなきゃ」という自覚が芽生えたんじゃないかな。

では、1月に加入したマリオ・バロテッリはどう見ている?

I―もちろん、バロテッリの加入も大きい。移籍早々にいきなり2ゴールを決めたウディネーゼ戦を含め、4試合で4ゴールをマークしたことからも、その才能は疑いようがない。マンチェスター・シティーでは精彩を欠いていたようだけど、移籍後はプレーに集中している印象だね。彼はきっとミランで正真正銘の“フェノーメノ”(怪物)になるはずだよ。

彼ら2人に、エムバイェ・ニアンを加えた3トップはいずれも年齢的に20歳前後。そのプレーもさることながら、奇抜なヘアスタイルでも注目を集めている。ジェンナーロ・イヴァン・ガットゥーゾは以前、若者の容姿について苦言を呈していたけど、君はどう思っているの?

I―彼らはまだ若いし、自己主張したいという気持ちは理解できる。もっとも、20年前は少し違っていた。当時の僕たちは奇抜なことが珍しかったけど、今は逆に“普通”であることのほうが珍しいね。まあ、ヘアスタイルやタトゥーの数で選手としての価値が決まるわけじゃないし、ピッチ上できっちり結果を残せば問題ないんじゃないかな。逆に、まずいプレーをすれば、それだけ目立ってしまうけどね(笑)。

何事も大成するには時間が掛かる

君がストライカーとして大活躍していた2003年から07年までのミランは、チャンピオンズリーグ(以下CL)で優勝2回、準優勝1回を経験している。現在のミランは当時の圧倒的な強さが薄れているように思うんだけど……。

I―たとえ10年以上、CL優勝から遠ざかったとしても、ミランがミランであることに変わりはない。あの(レアル)マドリーでさえ、欧州制覇を達成した01-02シーズンから10年以上もビッグイヤーから遠ざかっている。それでも、対戦相手はマドリーを恐れ、リスペクトし、称賛している。ミランも同じことが言える。サン・シーロ(ジュゼッペ・メアッツァの愛称)に乗り込むチームはミランというチームを相手にすると同時に、スタジアムやティフォージ(ファン)、そしてミランの伝統とも向き合わなくてはいけない。先日バルセロナがサン・シーロで敗れたのは、そのいずれの圧力に負けたからだと思う。その結果、彼らにとって全く予期していなかった0-2の敗戦につながったんじゃないかな。

なるほど。では、今度は君自身について。キャリアで最高のハイライトはいつ?

I―CLを2度も制したし、ドイツ・ワールドカップ(以下W杯)でも優勝を経験した。CL決勝、クラブW杯決勝でもゴールを決めた。その中から最も印象的なシーンを1つに絞るのは酷だよ(苦笑)。ただ、あえて言うなら、リヴァプールを破った06-07シーズンのCL決勝かな。僕自身2ゴールを挙げることができたし、その2年前に同じ相手に屈辱的な逆転負けを味わっていたから、なおさら喜びが大きかったよ。

06年のドイツW杯では24年ぶりに世界制覇を成し遂げた。近い将来、アッズーリが世界の頂点に立つ日は訪れるだろうか?

I―そうなることを祈っている。国際大会での勝利はイタリアサッカー界にポジティブな刺激になるからね。W杯やユーロは本当に特別な大会だ。強いチームが勝つとは限らない。その時点でのフィジカルコンディションや運が左右するものだからね。

最後に、今後のミランについて。クラブが新しい黄金時代を築き上げるために必要なこととは?

I―まずは時間。少なく見積もっても2、3年は必要だろう。そのための良いスタートは切れていると思う。何度も繰り返すけど、シーズン開幕前にミランは大幅に陣容を変えた。それは“苦肉の策”だったけど、その分、チームは大きく若返った。そして、チームの将来を託せるだけの有望な選手も現れた。特にフロントラインは、今後10年間は心配ないと思う。あとは、(アレッサンドロ)ネスタや(アンドレア)ピルロのような超一流プレーヤーを内部で育てるか、外部から引き抜くか。もっとも、ネスタやピルロのような選手は探し当てることすら難しいんだけどね。

正直、かつてのような「常勝ミラン」を監督として率いてみたいと思う?

I―もちろん。ただ、そこまで認められるためには、様々なハードルをクリアする必要がある。僕としてはまず、下部組織の指導者として結果を残すことが先決だ。

その日が訪れるまでに相当な時間が掛かるかもしれない。

I―そうかもね。ただ、自分の中で覚悟はできている。僕はこれまで常に階段を一歩ずつ上がってきたつもりだ。19歳の時にセリエBのピアチェンツァでプロの道に進み、セリエCのレッフェでレギュラーの座をつかみ、22歳の時にパルマでセリエAデビューを果たした。24歳の時に代表デビューを果たし、同時期にユヴェントスに移籍した。28歳の時にミランに加入し、39歳になるまで現役を続けた。何事も大成するには時間が掛かるということを、僕は知っている。辛抱強く努力した者だけが、夢をかなえる資格を持つのさ。

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