2013.02.28

イタリアサッカーを変える“悪童”バロテッリの可能性

ワールドサッカーキング 0307号 掲載]

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文=ミケーレ・チビオーネ

翻訳=弓削高志

 

ワールドサッカーキング最新号では、2年半にわたるイングランドでの生活に終止符を打ち、イタリアに帰還したマリオ・バロテッリに関するコラムを掲載している。加入直後に先発出場し、いきなり2ゴールというセンセーショナルなデビューを飾ったバロテッリ。サッカー界を賑わす“悪童”の登場で、イタリアサッカー界は変わるはずだ。

 

後半戦の巻き返しに向けこれ以上ない起爆剤

 

 イタリア代表がベルリンの地でワールドカップ・トロフィーを掲げた前年、つまり2005年、北部ロンバルディア州の小さな3部クラブ、ルメッツァーネで、「バルウアー」姓を名乗る15歳の少年が特例によってプロデビューを飾った。デビュー直前のウォーミングアップ中、バルウアー少年は緊張のあまり両ひざをガクガクと震わせていた。「マリオ」という名のその少年は、後に養親の姓「バロテッリ」でイタリアのパスポートを取得する。

 

 それから7年あまりが過ぎた2013年1月、怪童バロテッリは2年半を過ごしたイングランドからイタリアへと舞い戻った。かつてのマリオ少年は、幼少の頃からの憧れだったロッソネーロのユニフォームに身を包み、ウディネーゼ相手にドッピエッタ(2得点)を挙げる極上のパフォーマンスを披露した。

 

 もちろん、“バロテッリ劇場”はこれだけでは終わらない。彼は試合後、そのまま友人たちと連れ立ってミラノと地元ブレッシャのディスコを3軒はしご。ひとしきりハウスミュージックに浸り、義両親が待つ実家へ戻ったのは深夜3時前のことだった。約1000日ぶりにセリエAの試合でフル出場を果たした直後だというのに、この放蕩ぶりはどうだろうか。

 

「マリオはミランでも主役を演じてくれるはずだ。キャリアにおいて重要なチャンスだということを彼自身も理解している。彼はまだ22歳だし、忍耐も必要だ。とはいえ、私も若い頃はやんちゃをしたし、彼に何かアドバイスできることがあるかもしれん」。軽口をたたくマッシミリアーノ・アッレグリ監督は、後半戦に向けてモチベーションを新たにしている。

 

 ズラタン・イブラヒモヴィッチやチアーゴ・シウヴァ、アントニオ・カッサーノといった主力の大量放出とベテラン組の一斉退団によって大きく戦力ダウンした今シーズン、序盤の戦いぶりは混迷を極めた。だが、新エースのステファン・エル・シャーラウィがゴールを量産し、エムバイェ・ニアンやリッカルド・モントリーヴォといった新戦力が機能し始めると、ミランはじわじわ順位を上げ、年をまたぐ頃にはヨーロッパカップ戦出場圏まで盛り返してきた。

 

 冬の移籍市場では、攻守両面の戦力再編成が更に進んだ。ドイツW杯優勝メンバーのベテランDFクリスティアン・ザッカルドを獲得して守備陣のテコ入れを図る一方、度重なるケガで戦力としてのメドが立たなかったパトもコリンチャンスに売却した。8つのタイトルを獲得したカルロ・アンチェロッティ時代を知る者は、もはやキャプテンのマッシモ・アンブロジーニやダニエレ・ボネーラなど、一部の古参のみだ。ただ、選手の顔触れが変わろうとも、クラブの財政戦略上、チャンピオンズリーグ出場権だけは絶対に逃せない。長年にわたり相思相愛だったバロテッリをようやく手に入れたことで、アッレグリはこれ以上ない後半戦の起爆剤を得た。

 

圧倒的な存在感に名誉会長も脱帽

 

 エースとしてチームを引っ張ってきたエル・シャーラウィを左ウイングに、フランスの新星ニアンを右に置く3トップのセンターには、ジャンパオロ・パッツィーニやボージャン・クルキッチなどが交代で起用されてきた。だが、バロテッリの頑強なフィジカルや繊細なパス能力、抜群のシュートスキルは、他のFW陣とは明らかに一線を画すレベルにある。

 

 レジスタとして攻撃のタクトを振るうモントリーヴォも、2トップを始めとする様々な攻撃オプションを可能にするバロテッリの加入を歓迎している。「ミラネッロの練習場にはクラブが定める厳しいルールがある。だからこそ、マリオが成長するには最適な環境だと思う。才能やテクニックについては今さら言うまでもないよ」

 

 ミランでのデビュー戦となったセリエA第23節のウディネーゼ戦は、もともとベンチスタートのはずだった。しかし、先発予定だったパッツィーニが試合前のウォーミングアップで筋肉トラブルを引き起こしたため、急きょスタメン出場。そして試合開始わずか37秒でいきなり左ポストをかすめる鋭いシュートを放ち、ダイアゴナルランでゴール前に走り込むニアンやエル・シャーラウィへ次々に仕掛けのパスを送るなど、最初からアクセル全開のプレーを見せたのである。

 

 ところで、この日3トップを組んだエル・シャーラウィ、ニアン、バロテッリの3人は、いずれもモヒカン頭で1990年代生まれのニュー・ジェネレーション。ミラネッロで始めて顔を合わせた日から意気投合した彼らには早速、“クレスタ(鶏冠)・トリオ”の異名がついた。

 

 外見にうるさいシルヴィオ・ベルルスコーニ名誉会長も、彼らのヘアスタイルを黙認するしかなかった。スランプに苦しんだシーズン開幕当初、選手たちを激励するためミラネッロを訪れたベルルスコーニは、ケヴィン・プリンス・ボアテングやフィリップ・メクセスにモヒカン禁止を命じた。メディア王のベルルスコーニにとってモヒカンは醜悪極まりない髪型なのだ。ミラン内部においてベルルスコーニの一言は“王の勅令”に等しく、ボアテングやメクセスといった個性の強い選手ですら絶対服従が基本。自慢のヘアはすぐにペタリと寝かせられた。だが、前半戦で驚異的なゴールラッシュを見せたエル・シャーラウィは、名誉会長直々に禁止令を免除されたのである。

 

 昨年のユーロ2012でアッズーリの準優勝に貢献して以来、国民的人気を誇るバロテッリには、さすがのベルルスコーニと言えども「モヒカンを剃り落とせ」と強要できるはずもない。一度はバロテッリのことを「腐ったリンゴ」とこき下ろした名誉会長も、彼の獲得によって自ら率いる政党の支持率が急上昇したこともあって、「ウディネーゼ戦の2ゴールの後は、一晩中眠れなかった」とリップサービスしたほどだ。

 

アッズーリ指揮官も今後の成長に期待

 

 バロテッリのイタリア帰還によって、アッズーリの編成にも変化が起きた。イタリア代表のフロントラインは、今やバロテッリとエル・シャーラウィのコンビが中軸を担っている。2月6日にアムステルダムで行われたオランダとの親善試合でも、右にアントニオ・カンドレーヴァ(ラツィオ)を加えた3トップでキックオフを迎えた。だが、過密スケジュールの合間を縫ってのアウェーゲームで調整不足は明らか。前半から執拗なマークに遭ったバロテッリは、やる気が空回りした感もあった。

 

「マリオとは長く話をしたよ。今日の試合ではチームメートに譲る場面が多かったね。プレーしながらトップコンディションを取り戻してほしい。エル・シャーラウィと一緒にプレーした時間はまだ短い。いくつかの動きのメカニズムを身体に染み込ませることや、国際試合のプレッシャーに一刻も早く慣れることが必要だ」。昨年11月のフランス戦に続いて2人を先発させたチェーザレ・プランデッリ監督は、ミランのFWコンビを少なくともコンフェデレーションズカップまで攻撃のファーストチョイスに置くはずだ。親善試合の未勝利記録は6に伸びたが、それよりも若手2人が所属チームで見せる成長への期待が大きい。「ミランは彼ら2人に正しい戦術的ポジションをたたき込んでくれるはずだ。アッレグリの日々の仕事ぶりに、バロテッリとエル・シャーラウィの成長を託すよ」

 

 しかし、ド派手な髪型とは裏腹に謙虚で知られるエル・シャーラウィはともかく、バロテッリが人間的に成長するのはいつの日になるのか。ピッチ外でのお騒がせぶりは相変わらずだ。

 

 代表戦の翌日には、新たな恋人とうわさされるベルギー人モデルのファニー・ネグエシャ嬢を出迎えるべく、自らハンドルを握ってミラノ・リナーテ空港へ。もちろん、駐車禁止の標識などバロテッリには存在しないのも同然だ。駐車違反の切符を切られそうになり、警官とひと悶着を起こし、そのままミラネッロへ彼女同伴で出勤するという傍若無人ぶりだ。

 

 バロテッリとの復縁を迫る元恋人は複数名いる。昨年12月に女児ピアを出産、認知を迫るショーガール、ラッファエッラ・フィーコ嬢とのソープオペラも今後ますます加熱していくだろう。派手な交際関係は、気心知れる地元へ帰ってきたことによって更に過激化する可能性もありそうだ。

 

「彼には彼の個性があるからね」と苦笑しつつも、強力なライバルの出現を警戒するのは、ナポリのエースストライカーであるエディンソン・カバーニだ。第26節終了時点で18ゴールを挙げ、得点ランキングのトップを独走。イブラヒモビッチが去った後のセリエA最強のストライカーとして君臨するカバーニを、怪童は脅かすことができるのか。「間違いなくバロテッリはミランにとって大きな戦力になるよ。もし、サッカーだけに集中することができれば、彼はミランにとってもセリエA全体にとっても、非常に重要な選手になるはずだ。バロテッリが加わったことで、ミランはスクデット争いに加わることすら可能だよ」

 

 4月中旬の第32節で両チームは激突する。スクデットへの野心に燃えるナポリをジュゼッペ・メアッツァに迎える一戦には、カバーニとバロテッリによる“セリエA最強ストライカー決定戦”の趣も加わった。

 

「これからはピッチの中でもっと笑顔を見せられると思う。俺はようやく自分が応援してきたクラブの一員になれたんだから」。そう言って新たなチームメートたちとのボール遊びに興じるバロテッリの頭の中は、デビューした頃と変わらない。15歳のマリオは殊勝に語っていた。「サッカーは楽しむもの。ピッチに入ったら、何か驚かせるようなことをしてやろうといつも考えているんだ」

 

 リーグ後半戦、試合前に彼の名がコールされるたびに、地鳴りのような歓声が響くことだろう。2月24日のミラノ・ダービーの先には、プランデッリ監督が「単なるフレンドリーマッチではない」と意気込むブラジルとの親善試合(3月21日)が控え、シーズン終了後にはブラジルでのコンフェデレーションズカップが開催される。悪童バロテッリが主役となる白熱の勝負の連続に、今から興奮を隠し切れないのは私だけではないはずだ。

 

 

 

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