[サムライサッカーキング3月号掲載]
今、日本サッカー界でもっとも期待を集める若手プレーヤーである大津祐樹選手と酒井宏樹選手。柏時代から苦楽を共にしてきた2人のスペシャルトークをお楽しみください!!
海外でプレーしても自分の“根”となる部分は変えるつもりはない
――大津祐樹選手は渡欧して1年半、酒井宏樹選手は半年が経ちました。まずはプレー面での自己評価をお願いします。
大津(以下O) ドイツの時は30点。オランダは、まだ付けられないですね。1シーズンを通しての結果が大切ですし、その意味では評価ができないと思います。理想はありますし、そのとおりになるようにいかに結果を残していくか。僕自身、もともと目標を多くは語らないので、一つひとつやることしか考えていません。だから後半戦、これからどうするかが何より大事になります。
酒井(以下S) 僕も自己評価は低いですね。柏レイソルから移籍してきたこの半年間を後で振り返った時に、「良い準備になった期間」と言うことができれば良いのかなと考えています。自分が持っているプランどおりにいければ良いですね。その中でも毎日、ベストを尽くしていくという考えは変わりません。試合も生活も練習も、すべて目標とするプランに向けています。そうしていった結果、今が良い準備期間になれば良いと思います。僕はまだスタートラインにも立てていません。チームメートの出場停止やケガのために僕が出場したことはあっても、自分で勝ち取ったスタメンは“ない”と思います。良い練習と納得のいくプレーができて、試合に臨める状態になったという感覚もまだ感じていないので、まずはその状態に持っていくことが先決です。
――柏時代と比べて、周囲の見る目も変わってきたと思います。
O 今は海外でプレーをする選手が多いですが、一昨年はあまり多くなかったんですよね。注目されているのは分かっていますし、良いパフォーマンスを残さないといけないというのも感じています。やっぱり期待に応えないといけないと思うんです。その“期待”を自分のエネルギーに変えることが必要だと思います。もちろん、自分がやってきたことは継続的にやるつもりですし、“根”の部分を変えるつもりはないという感じですね。
S そうですね。“根”を変えた自分を想像しても、それはもう自分が考える“サッカー選手”ではないんです。自分にできることを考えて、できることをやってきて、サッカー選手になりました。だから、やっていることを変える気はありません。欧州では、日本と違って助けがない状態で、ストレスを抱えることも多くあります。だけど、日本で結果を出して海外移籍をした選手たちの中で、僕は海外で「試合に出てない」ことを重く考えてしまうよりは、「若い時しか経験できないことなんだ」とポジティブに考えてやっていくしかないと思います。今の自分を大切にしていきたいですね。
大津君は良い意味で“外国人になった”
――ではロンドン・オリンピック以降、互いを見ていて成長したと感じる部分はありますか。
O ロンドン五輪の前からそうだったけれど、宏樹はコンスタントに日本代表にも選ばれているし、すごく自信を持ってプレーしていると感じます。今はドイツで試合になかなか出られていないけれど、代表ではしっかりとプレーできている。それを見ても、日々成長しているんだなというのは分かります。まだこちらに来たばかりなので、もう少し慣れていくことが必要だと思うし、これからだよ。
S 大津君は良い意味で“外国人になった”と感じます。特にロンドン五輪のメキシコ戦のゴール。日本人選手の発想だったら、あそこはシュートではなくパスを選択していると思う。でもああいうゴールは、ドイツでよく見るプレーなんです。「それ、入れちゃうんだ」というような。それに、あのシュートで展開がガラっと変わる。ピッチの中では空気を読まないようなプレーが絶対に必要で、そういう意味でも積極性が出てきているのはとても良い傾向だと思います! レイソル時代は「大津君のシュートはゼロ」(打つ可能性がない)と思われていたからね(笑)。
O こっちでは、ああいうシュートを打っていかないと入らないから(笑)。
S ゴールを決めたことだけが評価されるんじゃなく、まず“打つ勇気”が必要。
O そこは間違いない。打たないと入らないから。そこで打てるかどうかで、海外は評価が違ってくるよね。
S そうそう。そこで(シュートを打つという)選択肢を自分の中に強く持てるかどうかって、かなり重要なことだよね。
――攻撃の選手と異なり、ディフェンスは『一発』でアピールできないですよね。
S ディフェンスは、個人的なアピールは全く必要ないですね。“一対一を止める”ことがベストではなく、“組織的な守備ができるか”などで評価されます。僕はまだ、そこが不安だと思われていて、「足りない」と言われていますが、悩む必要もないと思います。経験やチームメートとの共通理解が増えることで克服できる部分ですし、そこで落ち込まず、他の部分での自分のプレーを分かってもらうことが今は大事。それをやっている最中です。
――それぞれのチームで“自分の役割”をどのようにとらえていますか?
S ミルコ・スロムカ監督も、スティーヴン(チェルンドロ)のようなプレーを僕には求めていないと思うし「自分の特長を出してほしい」と言われています。求められているのはサイドバックとして基本的なことばかり。あとは、自分がチームにどれだけ貢献できるか。そのためには試合を読まないといけないんです。今僕に最も必要なことは“試合を読む力”です。それがすべてかもしれない。
O トン・ロクホク監督とは話し合いながらやっていますが、「うちにとってのナンバーテン( トップ下)は特別なポジションだ」と言われています。あのポジションはフリーになりやすいし、ボールをもらう前に相手から消えることができる。守備もそこまで難しくないけれど、だからこそ、求められるものは大きいんですよね。監督には2トップのように横の関係にならず、(縦の関係を維持するよう)「真ん中に残っていろ」とよく言われていて、相手CBとボランチの間でボールを受けてさばいたり、アシストすることを求められているので、なるべく中央のスペースで受けられるように意識しています。フェンロのボランチの一人が指示を出せるので、彼との関係も大事にしていますし、指示があるので僕もプレッシャーを掛けに行きやすいんです。前線からプレスを掛けられる形はやりやすく、チームとしての決まりごとも今ははっきりとある。それが全くなかった数試合前までと比べて今はチームとして機能している感じがすごくあります。その中で、僕はゴールという結果を残していきたいですね。
ハノーファーに来て自分の特長が分かってきた
――ここでは少し日本代表の話を。酒井選手はすぐに溶け込めましたか。
S 海外に在籍している選手たちと話したりしていたので、すんなりと代表に入っていけたというのはありますね。でも代表でアグレッシブにプレーができるようになったのは最近です。ドイツに来て、一人でよく考えるようになって、やっと自分の長所と短所をしっかりと把握することができたように思います。日本では「クロスが得意」と言われましたが、そのプレーより身体を使ったディフェンスや、ダイナミックなアクションを起こしてからボールを受け、相手の陣形を崩すことなどが本当の長所。(内田)篤人君やスティーヴンのような、ポゼッション力が高くて危険察知能力が高い選手ではないんです。自分の特長を分かってきたことは、ハノーファーに来て良かったことだと思います。
O 宏樹をずっと間近で見てきた。それこそ殻の中に閉じこもっている時から、それを破って駆け上がって行ったところまで全部(笑)。だから僕個人としては、素直にうれしい。キヨ(清武弘嗣)もそうだけど、同じ世代の選手が代表に入っているのは、日本代表が現実としてとても近くに感じられますよね。宏樹やキヨがいるから、僕たちは先を考えやすいんです。
宏樹も自信を持ち始めてから、代表まで駆け上がった。サッカー選手って“自信”っていうメンタルが本当に大事。自信を持てたら成長できるし、自分のプレーが出せる。これまで上手い人もたくさん見てきたけれど、その中でも「ここが勝負」っていうところで自分を出せるメンタルを持っている人が残っている。サッカー選手は負けず嫌いじゃないと上にはいけないし、僕も負けん気がなくなったら、サッカーを引退すると思う。チームが勝ったらうれしいけれど、自分が出られなかったなら悔しいと思えないと成長できない。悔しいから、負けたくないから練習する。そういう気持ちが大事だと思う。宏樹やキヨには刺激を受けるけれど、同時に負けたくない気持ちもある。サッカー選手はいつ花が咲くか分からないし、誰が登り詰めるか分からない。だから面白いんです。サッカーって!!
――大津選手は目標を公表しないタイプですが、酒井選手はいかがですか?
S (本田)圭佑君や(長友)佑都君のように、「ワールドカップ優勝」と口にすることで実現に近づくことはあると思います。でも、僕はまだ、先のことを言うのは難しいし、やっぱり自分のプレーを分かってもらうことが一番。そのためには、自分からアクションを起こすことですね。ドイツでの生活、環境、サイクルには慣れたので、今年から移籍してきたという気持ちで挑んでいきたいです。でも、この冬に新しく入ってきた選手たちとは、積極的に話すようにしていますよ。自分もそうしてもらっていましたしね。
ロンドン五輪の時は、みんな“洋楽かぶれ”だった
――ここからは質問コーナーに移ります。一問目は『大津選手は宏樹選手のどんなところが大好きなんですか?』
O 安定感と落ち着き。一緒にいすぎて、落ち着くから気が楽なところ(笑)!
S それに尽きると思いますよ。変な緊張感もないしね。
――続いて『おしゃれなヘッドフォンで、いつも何を聞いているのですか?』
O 洋楽ですね。あとはチームで流行っているものを聞いています。日本の曲も聞きますよ。『iTunes』で調べてダウンロードしてる。宏樹は?
S その時によって変わるけど、僕は試合前に落ち着いた曲を聞いて一回、心を落ち着かせるタイプ。最近は清水翔太さんかな。ミスチル(Mr.Children)や洋楽だったりもする。五輪の時は、みんな洋楽だったよね(笑)。
O みんな、かぶれてたもんね(笑)。
S ロンドンだったから!
――では『勝負ソングは?』
O 宏樹に教えてもらって「良いな」と思ったのがある!!
S 『涙空』っていうGreeenの曲。
O あれは良いよね。試合会場に行く前に必ず聞いてる。なんといっても、気持ちが上がる。
――では『海外生活で困ったことは?』
S 日本食がないこと。デュッセルドルフまで行かないと食べられない……。
O それに店が早く閉まる!
S そう。しかも日曜日はやっていない。
O ガソリンスタンドしか空いていない。
S ほんとないよね。
O オランダで言うと、実はガソスタすら空いていない!(笑)
S (笑)。フェンロは田舎過ぎて、ガソスタもやってないんだよね。普通は24時間オープンなのに。
O そう。閉まっちゃうんだよね。
ミチ君は「1年間で地球を2周した」って言ってた
――そうなんですか。では『ヨーロッパあるある』を教えてください。
S いつもなら、すぐに思い浮かぶんだけどなあ……。
O 思いついた!! ロッカールームがクラブみたいなんです。大音量で音楽が流れている。練習場も試合会場でも。あっ、フェンロは違うか。
S でも、そうだよ!! 爆音で音楽を流してるんだよね(笑)。びっくりした。
O 国をまたげる!
S 僕なんて一週間に一回、(国を)またいでいるもん。あと、渋滞がない!
O でも、実際はあるらしいよ?
S え? でも僕半年こっちにいるのに。
O 宏樹が走る道が混んでないだけだよ。
S ハノーファーからフェンロ区間?
O そうそう。初めてボーフムに行った時は大渋滞だったもん。
S 事故じゃなくて? 雪で?
O 違うよ、普通の渋滞。交通量が多いところは普通に渋滞してるよ。
S 欧州は高速でもETC渋滞がないから、てっきりないと思ってた(笑)。
O 宏樹がずっと高速を走ってるからだよ(笑)。でも確かに僕も全然渋滞を感じない場所に住んでる。デュッセルドルフに行く時も混まないし。でも実はあるんだよ!
S そう言えば、僕、こっちに来て走行距離が1万2000キロを越えました!
O ミチくん(安田理大)も1年間で地球2周したって言ってた……!
S 僕も大津家に行くだけで片道300キロ、往復で600キロだからね。それを一週間に一回やっているから……、計算は合っているはず(笑)。
――他にも、ありますか?
S こんなに寒いのに、試合では半袖の人がいる。自分もたまに半袖ですけど(笑)。でも、たまにその選手が後半になると長袖になってたりする。「やっぱり寒かったんだ」みたいな(笑)。ハーフタイムが終わって、後半が始まるまでが本当に寒い! それと、みんなオーバーアクションなんだよね。シュートを外したりしたら、とにかく自分にキレてる。それぞれでタイプも違うし、雰囲気も全然違うけれど。それからこっちはボールに対する寄せが速いんだよな。一個抜け出たと思っても、一回トラップしているうちに追い付かれることもある。その判断も早くしないといけないし。日本ではテクニカルな部分が際立つけれど、このプレッシャーの中でも同じようにできるなら本当にすごいと思います!!
O すっごい分かるけど(笑)、途中から真面目か! 宏樹らしいけど。