2013.02.06

非常識だけど、本質的。風間八宏のサッカー観を伝える2冊

[サムライサッカーキング 2月号掲載]
2012年9月7日、風間八宏氏(現・川崎フロンターレ監督)をテーマにした書籍が2冊同時に発売された。一冊は風間氏が発行していたメールマガジンを元に、彼自身の言葉でその理論をまとめた『風間塾 サッカーを進化させる「非常識」論』(フロムワン刊)。もう一冊は風間氏を継続的に取材していたライターの木崎伸也氏がその言葉を読み解いていく『革命前夜 すべての人をサッカーの天才にする』(カンゼン刊)。同時に発売されたこの2冊はいずれも好評で、シーズン途中で川崎Fの監督に就任し、独自のサッカー観を披露して大きな話題となった風間氏に対するファンの関心の高さが窺える。『風間塾』の編集者・田中亮平さん、『革命前夜』の編集者・森哲也さんの二人に、編集者の視点から見た風間氏、そしてそれぞれの書籍について話を聞いた。
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インタビュー・文=岡田康宏

バルサよりうちのほうがアイデアがあるよ

──まずは『風間塾』について出版の経緯を教えて下さい。

田中 『風間塾』は、風間さんが発行していた有料のメールマガジンを元に加筆修正してまとめたものです。もともと風間さんが非常に面白い考え方を持っている方だということで、11年の6月から弊社でメルマガをスタートしました。つくば市で一緒に食事をした時に、「バルサより全然うちのほうがアイデアがあるよ」ってボソッと言ったんですよ。それで、この人の本を作りたいなと思って。メルマガは最初から書籍ありきで考えていました。いつ出すかというのは、原稿が貯まってきたタイミングから考えていたんですけど、まさか川崎Fの監督になるとは思っていませんでした。木崎さんの本と比べて、こちらは風間さん自身の言葉で、それも分かりやすい言葉で、新書をイメージした感じで作りました。それはなぜかというと、まえがきとあとがきにあるように、常識を疑えとか、常識から外れることを怖がるなとか、そういうサッカーだけではない風間さんのスタンス、考え方の部分に重点を置いて伝えたかったというのがあります。

 でも風間さんの言葉を分かりやすく伝えるというのはめっちゃ難しいですよね。

田中 ですね。「こういうことですか?」と聞くと「いや違う」って。そんなことの連続でした。

 メルマガは読んでいたので、どういうふうにまとめるのかなと思っていたのですが、思った以上に読みやすくて、分かりやすくできていました。筑波大ヘッドコーチの内藤さん(清志/風間塾の構成者)も風間さんの理論を充分に理解していて。内藤さんがいなければ筑波大であのサッカーもできなかったんじゃないかと思います。

田中 確かにそうですね。内藤さんがいなければ、この本もできあがっていないと言ってもいいくらい内藤コーチの存在は大きかった。

 内藤さんは風間さんが辞めた後も筑波大のコーチをしています。風間さんが川崎Fの監督になる時はシーズンが始まったばかりだったんですけど、選手たちがこのサッカーで戦いたいと言って内藤さんがそのまま指揮を執ることになったと。外部から監督を連れてくるという選択肢もあったと思うんですけど、そうしたらサッカーが変わってしまう。選手たちがそれは嫌だと。

田中 それだけ風間さんのサッカーが選手たちに支持されていたということですね。

今、お前分かったふりをしただろ?

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──『革命前夜』はどういう経緯でまとめられたのでしょう?

 最初に『フットボールサミット』での風間さんの取材があったんですね。それが木崎さんからの企画提案で、「常識を疑う」みたいなテーマだったんです。そこで初めてインタビューに同席して、衝撃を受けたんですよ。最初は言っていることが分からないんです。なにかすごいことを言っているのは分かる。だけどそれが腑に落ちない。木崎さんも分からないところがあれば、どんどん聞いていくんですけど、僕は分かったふりをしちゃうところがあって、それを風間さんは見逃さないんですよね。「今、お前分かったふりをしただろ?」って。「それじゃダメなんだ。話が終わっちゃうんだよ」と。筑波大の時、勉強しに来る指導者とかいるんですけど、そういう人が分かったふりをしてしまう。そうなるとそこで話が終わってしまうと。木崎さんは分からないところは、どんどん突っ込んでいくんですよね。「それは何なんですか?」、「どういうことですか?」って。そういうことを繰り返して、話が深まると。あの言葉を最初に聞いて理解できる人は、よっぽど頭が柔らかいか、逆にサッカーをやったことのない人のほうが分かりやすいかもしれません。サッカーの指導などに触れてこずに、固定観念のない人の方が話がスーッと入ってくる。風間さんがすごいのは、オシムのように攻守両面で発想を与えられるところ。だからプロであっても伸ばせるし、中村憲剛選手は「久々に個人として伸びた」と語っている。

──やっぱり最初は風間さんの言葉に戸惑う人が多いんですね。

 「非常識」というコピーはどちらの本にもあるんですけど、実は本質を言っているんですよね。今までの見方から言うと非常識になってしまうけれど、実は本質的なことだよね、ということを言っている。または、子供の頃はそれをやっていたのに、今は忘れてしまったこととか、そういうことが風間さんの言葉の中にはあるんです。それがすごく入ってきて、単純に面白いなと。それでぜひ本を出させてほしいということになりました。そこで『サッカー批評』とか『フットボールサミット』とか、木崎さん自身のメルマガとか、ネタを貯めていって。「そろそろ木崎さんまとめてくださいよ」、「いやなかなかまとめるのが難しいですよね」という話をしていたら、突然川崎Fの監督に就任したんで、どうしましょうかと。『風間塾』もそうでしょうけれど、川崎Fの監督になってからの風間さんにそんなに手間を取らせるわけにもいかない。さすがに現役のプロ監督に時間を取らせられないですから。そこで、それまであったものに加筆したり再編集して、風間さんに出していいかと相談したら、意外に優しいので「出していいよ」という話になり、『風間塾』と同日発売にしようかと。

田中 どちらが先に話をしたのかは分からないですけど、風間さんのほうから同時にしましょうと提案がありました。

 きっと風間さんのほうでもどちらが先って決めづらかったんでしょうね。それで別々の出版社から2冊同日発売という非常識なことに(笑)。川崎Fのサポーターだけに向けた本ではなくて、日本サッカーを強くするヒントが散りばめられているので、日本中のサッカーファンに読んでもらいたいなという考えで出版しました。

「非常識」と言いつつも実はそれが「本質」

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──書籍化する上で難しかった部分はありますか?

 風間さんの話をどうしたら伝えられるのかということに、木崎さんも腐心していましたね。例えば、Jリーグでも指導経験と実績のある指導者が「あのトラップいいね」と言ったりするプレーがある。だけど、それは風間さんの考えでは“止まっていない”んですよ。ボールが足元に止まっていて、あれをよく止めたねと言うんですけど、風間さんの見方では、それを次にどこに蹴りたいのかまで考えて止めているかどうかが大切で、バルセロナの選手はそれがみんなできていると。それで初めて「止まっている」ことになる、ということを話してもなかなか伝わらない。それは既に固定観念を持っているからですよね。そういうことを非常識と言っているだけで、実際に言っていることは非常に本質的なことなんですよね。

田中 この本を作った時の根幹として「『非常識』と言いつつも、実はそれが『本質』なんだよ」というのがメッセージとしてあって。読んでいくと本当に普通のことだったりするんですよね。つまり、ここで言う非常識って何かっていうと、固定観念とか、頭でっかち
になっているシステム論とかあるけれど、そういうもので見る側が勝手にサッカーの本質を見えなくしてしまっている。そのアンチテーゼとしての「非常識」という言葉でもあるわけです。どちらの本でも「ボールを手で扱うスポーツのように」というフレーズが出てきますけど、例えば僕はサッカーじゃなくてずっとバスケットボールをやってきたから、その感覚がよく分かったんです。バスケットボールは基本的にはマンツーマンで、ディフェンスはボールとマークを同時に見なきゃいけない。そうするとディフェンスが背中を向いた瞬間に動けば捕まえられないんですね。それが“人を外す”ということなんだと。

 固定観念に捉えられていると分からないことを木崎さんが解きほぐしていくというのが、この本の中でやっていることですね。推理小説のように、徐々に風間八宏という天才の脳内を解き明かしていく高揚感みたいなものは入れていきたいなと木崎さんと話していて。もう一つは取材の時系列にそって原稿を並べているんです。木崎さんが風間さんをどう読み解いていくかというのを追っていっている感じですね。

田中 木崎伸也という媒介を通して風間さんの考えを伝えるというのと、風間さん自身の平易な言葉でその考えを伝えるというのと、話し合ったわけじゃないんですけど、キレイに分かれたので面白いですよね。

 僕はこれを『すぽると』( フジテレビ系列)を見ているような人たちに読んでほしいなって思って作りました。やっぱり、『サッカー批評』とかだとサッカーが大好きな人しか見ようがないので。『すぽると』を見てる人って割とライトな感じだから、そういう人たちのサッカーの見方が変わったり、もっと深いところを知るようになったら、いろいろ変わっていくのかなと。そこを意識したいというのはあったんですよね。

──風間さんの言葉だけに触れたいのであれば『風間塾』のほうがすんなりと入ってくるだろうし、そのままでは分かりづらい部分を『革命前夜』では木崎さんが読み解いてくれる、という感じですね。

 だから、両方読んだほうがいいですよね。

田中 そうですね、両方買ってください(笑)。

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■風間塾~サッカーを進化させる「非常識」論
発売:朝日新聞出版/発行:フロムワン

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■革命前夜~すべての人をサッカーの天才にする
発行:カンゼン