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長友佑都が引き出す日本代表の新たな可能性

2013.01.31

[サムライサッカーキング2月号掲載]

今シーズンのインテルで長友佑都に与えられた主な役割は、3バックシステムの左サイドハーフ。しかしポジションの概念を覆すように、彼はあらゆるエリアに顔を出し、オールラウンダーとしての高い資質を証明している。急成長過程にある長友が示す、日本代表の新たな可能性とは。

adachi-121016_0674文=細江克弥 写真=足立雅史

インテルの変化が促したナガトモの進化

 恐らく今の長友佑都にとって、その特長が最も引き出されるエリアは3バックシステムの中盤、左サイドにある。

 今シーズン、長友が所属するインテルのアンドレア・ストラマッチョーニ監督は、昨シーズンまで採用していた4バックから3バックにシステムを変更した。

 今や3バックシステムは、世界各国で多くのチームが採用し、ブームとなりつつある“最先端”である。このシステムにおける最も大きな特徴は、チーム全体の“重点”を押し上げ、前線から守備を発動して素早く攻撃に転じること。相手ゴールまでの距離を縮めることでショートカウンターの精度を高め、フィニッシュの回数を増やして得点につなげようとする。3バックの脇に広がるスペースで発生する“リスク”をうまく回避することができれば、前方に重点を置くシステムは高い位置で数的優位を作ることができる。

 攻撃に関しては、前線にショートカウンターの起点となるキープ力に優れたタレント、更に中盤に単独で相手からボールを奪う能力に長けた選手がいれば、このシステムの機能性は一気に高まる。インテルにとっては、サイドに流れてタメを作り、チャンスメーカーとしてもフィニッシャーとしても機能するアントニオ・カッサーノ、そして中盤で相手の攻撃の芽を摘み取り、豊富な運動量で縦に仕掛けることもできるフレディ・グアリンの急成長が3バックへの切り替えを促すカンフル剤となった。

 その攻撃スタイルをシンプルに解説すると、次のような流れが見えてくる。

 中盤で奪ったボールをキープ力に優れるカッサーノに預け、サイドからチャンスを作ってゴール前で待つフィニッシャーのディエゴ・ミリートに合わせる。あるいはカッサーノが中央寄りの位置でタメを作り、自らフィニッシュに持ち込む姿勢をチラつかせてサイドに展開し、長友や右サイドのハビエル・サネッティらが攻撃に絡んで決定機を作る。

 昨シーズンのインテルは1試合平均得点が1.53だったが、今シーズンはここまで1.67と上昇。この数字からも得点力の向上が読み取れる。

 もっとも、このシステムが機能するための最大の条件は、より高い位置から攻撃を発動させるための組織的な守備にある。もちろん、長友がサイドハーフに配置される理由もここにある。

 フォーメーション図をイメージすれば分かるとおり、3バックシステムにおいて、サイドハーフがカバーすべきエリアはフィールドプレーヤーの中で最も広い。前方にはサイドハーフが攻略すべきエリアが生まれ、後方には3バックの脇に急所となり得る広大なスペースがある。加えてピッチ中央をカバーするボランチのサポートも求められるから、サイドハーフのプレーエリアはタッチラインを底辺とする大きな扇形を描く。

 守備時に求められるのは、中盤で向き合う相手との一対一を制してボールを奪うこと。更に周囲との連係によってパスコースを限定し、チームメートにインターセプトを狙わせる“追い込み”にある。従って、ショートカウンターにつなげようとする敵陣内の守備においては、長友の走力と「やるべきこと」を見極める状況判断力がチームにとって大きな武器となることは間違いない。仮に前線からのプレスをかいくぐられて自陣での守備を強いられたとしても、長友にはいち早く自陣に戻り、前を向いて守備をするだけの切り替えのスピードと自身の役割に対する強い責任感がある。チームのここまでの平均失点は1.06と昨シーズンの1.45と比較して大幅に減少しており、これももちろん、システムとチームの相性の良さ、ポジションと長友の相性の良さを表していると言っていいだろう。

神出鬼没のスタイルはシステムに起因する

 今シーズンの長友の存在感が攻撃面で際立つことも、このシステムによるところが大きい。前方に位置するカッサーノはサイドに流れて起点を作るスタイルを好むため、必然的にサポート役の長友が前に出る回数は増える。長友が絡めばカッサーノの駆け引きの幅は広がり、シンプルに使うこともあれば、長友を囮(おとり)として中央に切り込むケースもある。ある意味、長友はフリーランニングを“無視”されてもストレスを抱えることなく上下動を繰り返すことができるから、カッサーノにとっては使い勝手がいい最高のパートナーだ。そうした2人の信頼関係が、インテルの攻撃にリズムの変化とスピード感をもたらしている。

 自身の特長を引き出してくれるパートナーを得たことによって、長友自身の攻撃への関わり方も変化した。今シーズンは特に、サイドの高い位置でパスを受けて相手との一対一の局面に挑むシーンが多い。縦へのスピードはセリエAでも群を抜いているから、ラストパスとなるクロスを放り込む回数も大幅に増えた。

 また、3バックは全体を非常にコンパクトに組織するため、特に敵陣で守備をする際、ボールが右サイドにあれば中央寄りの位置に自らのポジションを絞ることになる。また、状況に応じてボランチの選手や前線のカッサーノと一時的にポジションを入れ替えるシーンも多く、危険なスペースをケアするために自身のエリアを飛び出すことも、逆に有効なスペースを察知して左サイドを離れることも少なくない。今シーズンの長友がボランチやトップ下、ウイングやサイドバックのプレーエリアにまで顔を出すオールラウンダーに映るのはそのためだが、つまりそれは、インテルのシステムが組織的に機能していることの表れでもある。90分間でそれだけの変化が求められるサイドハーフのポジションは、やはりこのシステムにとって絶対的な生命線であると言っていい。

 こうして左サイドハーフというポジションと長友自身の相性を考えると、チームとして機能すれば、3バックシステムは長友の能力を最大限に引き出す可能性があると考えることができる。

 では、現時点で4バックシステムの左サイドバックを主戦場とする日本代表ではどうか。指揮官のアルベルト・ザッケローニは一時期の熱から冷めたように実戦で3-4-3を試さなくなっているが、恐らくこのシステムの信者である彼自身が可能性を捨てたわけではない。

 高い位置からプレスを仕掛け、素早くショートカウンターに転じる。キープもフィニッシュも可能なタレントを前線に並べ、変化に富んだ攻撃を仕掛ける。遅攻の際には中盤で主導権を握り、素早くパスを回して相手を揺さぶる。ピッチ全体の活動量で相手を上回り、連動したチームワークで攻守を形成する――。インテルが理想とするスタイルは、ザッケローニが日本代表で表現しようとするスタイルと極めて近い。

 時間をかけて4-2-3-1の完成度を高めてきた日本代表にとって、左サイドバックの長友は特に守備面で不可欠な存在だった。世界を相手にしても一対一の局面で屈することはほとんどなく、体を投げ出してゴールを守るメンタルの強さも、守備陣の集中力を維持するリーダーとしての資質もある。抜群の体力と走力が生むオーバーラップは、守備に重点を置いていたからこそ際立っていた。

 ところが昨年10月に行われたブラジル戦、圧倒的な劣勢を強いられたこの試合で、特に後半、日本代表に攻撃のスイッチを入れる動きを見せていたのは左サイドバックの長友だった。ブラジルは明らかに、最後まで衰えない長友のスピードを嫌っていた。今シーズンのインテルで得たサイドハーフとしての手応え、つまり攻撃面での成長は、日本代表においても攻撃の中核としても機能する選手に変化させているのである。

 広大なスペースを与えられて躍動するインテルでの長友の姿を見て、かつてウディネーゼやミランで3-4-3システムを操って旋風を巻き起こしたザッケローニが、簡単にその可能性を放棄するとは思えない。“長友ありき”ではなく、他のタレントをこのシステムに当てはめてチームとしての相性を考慮してみても違和感はない。あとは完成までに要する時間の問題だが、誰よりも広いエリアを与え、攻守両面で大きな仕事を期待するポジションのほうが、現在進行形で成長し続ける長友をより効果的に生かせることは間違いない。

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