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2012年のザックJAPANを検証②「ザックJAPANに見るザックの戦術的思考」

2012.12.22

[サムライサッカーキング1月号掲載]

アルベルト・ザッケローニが日本代表監督に就任してから2年と2カ月。ブラジル・ワールドカップ予選を戦いながらチームの色を変えていくザックJAPANを選手起用、そして戦術面から振り返る。

ザッケローニ
Text by Atsushi IIO Photo by Shin-ichiro KANEKO, Masashi ADACHI

ザックにとっての野心は代表監督就任だった

 出会いは双方にとって理想的なものだった。

 アルベルト・ザッケローニが日本代表監督に就任した時、彼の母国イタリアから聞こえてきたのは、「時代遅れの監督」という実に辛辣な風評だった。

 ミランを率いてセリエAを制したのは、1998-99シーズンのこと。以降、ラツィオ、イテル、トリノ、ユヴェントスを率いたが、目立った成績を残せていなかった。

 近年のザックがイタリアで監督を続けるのが難しくなっていたのは、虫食いの目立つ“履歴書”を見れば明らかだった。だが、当時まだ57歳。アマチュアチームからビッグクラブを率いるところまで登り詰めた野心家が、このままでは終われない、と考えていたのは想像に難くない。

 ザックにとっての野心――。それが代表監督だったことは、就任会見で彼自身が「ずっとクラブを率いてきたから、次のチャレンジは代表しかなかった」と明かしている。南アフリカ・ワールドカップ後には母国の代表監督の候補にも挙がったが、優先順位は随分と下で、ザックに話が行き着く前に、4歳年下のチェーザレ・プランデッリに決まった。

 このままでは代表監督どころか、監督業すらままならない。そんな時期に届いたのが日本からのオファーだった。

 一方、日本代表は岡田武史監督の下、南アフリカW杯でベスト16に進出した。しかし、当初思い描いていた「日本の良さを生かしたサッカー」、「攻撃的なスタイル」はついに実現できなかった。

 その後、選手たちは本田圭佑、長谷部誠に続けとばかり、ヨーロッパに続々と飛び出していく。そんな野心に溢れ、世界を相手に日々戦っている選手たちを束ねるのに相応しい監督を、日本も必要としていた。少なくとも、原博実日本サッカー協会技術委員長はそう考えて、ヨーロッパや南米を行脚していたはずだ。

 もともと、ザックは育成年代を指導するところから監督業をスタートさせた人物だ。若いチームを育てることが得意なのは、育成型クラブの典型であるウディネーゼを躍進させたことでも証明されている。一方、日本にも将来性があり、若く魅力的なタレントが揃っていた。

 指揮官は若く、可能性を秘めたチームを求め、チームも世界を知り、野心に満ちた監督を求めていた。2010年10月、両者はこうして出会った。

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指揮官の代名詞である3-4-3の採用

 近年のザックは、シーズン途中からの就任が多かった。決して名誉なことではなかったが、日本代表を率いるにあたっては、チームを引き継ぐコツを心得ていたことが大きなアドバンテージになったはずだ。

「4-2-3-1の布陣」、「遠藤保仁、長谷部、本田を軸に据えたチーム編成」、「ショートパスや敏捷性など日本人の特長を生かしたスタイル」など、前任者の“遺産”をうまく引き継ぐと、プレッシングの基本を植え付けて更なる効率化を図り、アルゼンチンを撃破。それから3カ月後に迎えたアジアカップも制し、4度目のアジア王者に輝いた。

 伊野波雅彦や細貝萌、李忠成らサブ組から日替わりでヒーローが生まれたこの大会で光ったのは、ザックのモチベーターとしての手腕とチームマネジメントの巧みさだった。大会期間中、選手一人ひとりに声を掛け、彼らの意見に耳を傾ける姿があった。

 戦術面で自分のカラーを押し出すようになるのは、この後からだ。

 Jリーグ選抜と対戦した11年3月の東日本大震災復興支援チャリティーマッチで採用したシステムは、3-4-3。これは90年代後半、ウディネーゼを率いて旋風を巻き起こした際のシステムで、指揮官の代名詞とされるもの。伝家の宝刀が抜かれた瞬間だった。

 ザックは「あくまでもオプションだ」と強調したが、時折、聞かれた「3-4-3はどんなシステムにも対応できる」、「3-4-3は最も攻撃的なシステムだ」、「3-4-3は日本人に向いている」という言葉には、こだわりが滲み出ていた。

 ところが、「3人いるサイドでの数的優位の築き方」、「3バックが横ズレを繰り返す守り方」、「時にボランチのような働きを求められるサイドハーフのポジショニング」など、機能させるための約束ごとは繊細かつ複雑で、簡単にモノにできる代物ではなかった。

 6月のペルー戦とチェコ戦、10月のベトナム戦で試された3-4-3は、11月の北朝鮮戦、62分からの28分間を最後に、今のところ封印されている。

選手やシステムを変更せず攻撃の起点を逆サイドに

 一方、11年9月から始まったW杯3次予選では、本田が右膝を傷め、6試合すべてを欠場するハプニングに見舞われた。代わってトップ下を務めた中村憲剛の活躍などもあり、2試合を残して3次予選を突破したが、5戦目、前述の北朝鮮戦に0-1で敗れて、立ち上げ以来続いていた無敗記録がついに「16」で止まった。

 思えば、この頃がザックとチームが直面した最初の壁だった。3-4-3の習得にこだわって、チーム作りは進まない。「緩やかな世代交代」を重要なテーマに掲げてもいたが、清武弘嗣の他に新戦力の台頭もない。最高のスタートを切った11年は、本田の離脱もあって、尻すぼみに終わる。

 年が明け、ウズベキスタンにも0-1で敗れると、閉塞感はいよいよ強くなる。その雰囲気を一変させたのが、本田だった。6月の最終予選。オマーンを3-0、ヨルダンを6-0で下したこの2試合で、復活したエースは4ゴールを奪ってみせた。

 一方、ザックも周到な準備をしていた。その一つが右サイドからの攻撃だった。

 長友佑都、遠藤、香川真司の3人が仕掛ける左サイドからの攻撃は、日本の大きなストロングポイントだ。彼らがチャンスを作り、本田や岡崎慎司がゴール前に飛び込んでいく。左で崩して右で決める――。これが日本の攻撃の定石だった。

 ところが、この2試合では右サイドから攻撃を仕掛ける機会が格段に増えた。効果はてき面だった。相手は左サイドの香川に注意を払う分、右サイドへの守備の意識がどうしても甘くなり、岡崎や内田篤人がチャンスをどんどん生み出していく。

「どのチームも研究してくるから、日本の左サイドに人数を割いてくるのは当然のこと。右サイドからも崩せれば、相手の逆を突くことになる」と言ったのは遠藤だった。

 ザックはよく「どんな相手にも対応できるように、試合中に“チームの表情”を変えられるようにしたい」と語っているが、選手を代えたり、システムを変更したりせず、攻撃の起点を逆サイドに移すことでも、表情は変えられるということを示したのだ。

夏以降、大胆かつ緻密な采配が目立つようになる

 興味深いのは、オーストラリアとの第3戦を終えてからのベンチワークである。

 最大の難関と考えられていたこのアウェイゲームを1-1で乗り切り、2位以下を大きく引き離したことで、ゆとりが生まれたのだろうか。以降、大胆かつ緻密な采配が目立つようになるのだ。

 8月のベネズエラ戦では後半の途中から本田の1トップを試している。本田が1トップを務めるのは、南アフリカW杯以来、初めてのことだった。

「本田は基本的にトップ下で起用するつもりだが、チームが疲労していたので、前線でキープできる選手が必要だった」とザックは言った。それは、緊急処置だったという意味に取れたが、どうやらテストでもあったようだ。10月のブラジル戦、11月のオマーン戦でも本田をFWで起用し、バリエーションを増やしていく。

 10月のフランス戦では、左サイドハーフで先発させた香川をトップ下、1トップと移し、試合中に3つのポジションでプレーさせている。終了間際に奪った決勝ゴールは結果論だとしても、後半の半ば以降、日本は流れを手繰り寄せることに成功した。

 11月のオマーン戦では、後半の途中から左サイドバックの長友を中盤に上げ、サイドを切り崩しにかかると、終盤には守備の安定を図るため、細貝を投入した。その際、単に守備の枚数を増やすのではなく、遠藤をボランチからトップ下に上げ、4-2-3-1を維持しながらバランスを保った点も見逃がせない。

 もちろん、不安もある。例えば、欧州組偏重の選手起用や、レギュラー組とサブ組の経験値の乖離がそれだ。Jリーグで結果を出している旬の選手をタイミング良くすくい上げられず、遠藤が欠場した場合の対応策も、いまだに見いだせていない。

 ただし、新しいメンバーを呼ぼうにも、予選の最中はこれまで植え付けてきた戦術を一から教える時間がない、というエクスキューズも成り立つ。

 その意味で、オマーン戦で得た勝ち点3は、単に予選突破に王手を掛けたという事実以上に、予選を終え、本大会を見据えた実験やテストに少しでも早く着手できる、という点で価値があった。

 13年6月、ザックジャパンはブラジルで開催されるコンフェデレーションズカップに出場する。10月の欧州遠征から、世界との距離をどれだけ縮めることができているのか――。日本と同組に入ったブラジル、イタリア、メキシコとの真剣勝負で、ザックの次の一手が明らかになる。

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