2012.12.19

日本は2050年までにW杯で優勝できるか?―英国人記者が語る日本サッカーの強さ

ワールドサッカーキング 0103号 掲載]

 

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今や欧州各国のリーグで活躍する“Made in Japan”のプレーヤーたち。

着実にレベルアップを遂げてきた日本サッカー界は、

世界にどう見られ、どう評価されているのだろうか。

イギリスのサッカー専門誌『FourFourTwo』は、

育成をテーマにした記事で日本のユース育成システムを取り上げ、

彼ら独自の視点で日本サッカーのポテンシャルを称賛している。

 

文=ジョン・デューデン

翻訳=田島 大

写真=兼子愼一郎

 

  5歳の子供がボールに向かって助走を始めた。月曜日の静かな昼下がり、千葉県のとあるフットサル練習場。子供らしく、つま先で力任せに蹴るのだろう、という我々の予想は裏切られる。彼は右足の甲でしっかりとボールをインパクトし、真っすぐにゴールへと蹴り込んだ。しかし、ピッチの脇で見守る母親たちは何事もなかったかのようにおしゃべりを続けている。5歳児が完璧なインステップキックを蹴るのは、この国では当たり前のことらしい。

 

 JFA(日本サッカー協会)は1993年にJリーグを創設し、2002年にワールドカップ(以下W杯)を共催した。それから現在まで、彼らは一貫して「育成」を重視し続けてきた。多大な時間とエネルギーと資金を投じ、世界でも屈指のユース育成システムを築き上げたのだ。

 

 JFAの望みは、A代表がユース世代と同じ評価を受けるようになることだ。彼らには「2050年までにW杯を制覇する」という壮大な目標がある。夢物語に聞こえるが、日本人は本気らしい。

 

 実際、この国は過去20年で目覚ましい進歩を遂げた。日本代表はW杯の常連となり、過去3大会中2大会で決勝トーナメント進出を果たした。南アフリカW杯の半年後にはアジアカップを制覇し、ロンドン・オリンピックではベスト4に残った。女子のA代表は2011年に女子W杯で王者となり、ロンドンでは銀メダルを獲得。日本サッカーは確実に強さを増している。

 

 その成長ぶりを何よりも証明しているのが、欧州でプレーする若手選手の増加だ。マンチェスター・ユナイテッドの香川真司、CSKAモスクワの本田圭佑を筆頭に、日本の若手世代は次々と欧州に活躍の場を移した。アルベルト・ザッケローニが率いる現在の日本代表のメンバーには、欧州でプレーする選手が顔をそろえる。

 

 日本の若手世代はなぜ、欧州のトップレベルでプレーできるようになったのか? 日本サッカーはなぜここまで急激に成長したのか? 我々はその秘密を解き明かすために、日本の過去20年間の「サッカー教育」という点で重要な役割を果たしてきた人物に話を聞いた。人気子供番組の名物コーナー、『トムさんのサッカー研究所』(何とキャッチーなタイトルだろう!)と言えば、日本のある世代のサッカー選手なら誰でも知っている。香川は10歳の時、「トムさん」のトレーニングに参加して特別賞を贈られたそうだ。

 

 およそ50万人以上の若者たちが、ニューヨーク市警の警官を父に持つ、元アメリカ代表選手からサッカーの基礎を学んだ。そう、トム・バイヤーのような人物こそ、現代のサッカー界に最も必要な存在なのかもしれない。

 

 

完璧に整備されたユース育成システム

 

 アメリカのタンパベイ・ローディーズでプレーしていたバイヤー氏は87年、Jリーグの前身である日本サッカーリーグでプレーするために日本へやって来た。そして、現役引退後も日本を離れようとしなかった。日本の子供の技術的なポテンシャルの高さ、そして指導法の間違いにすぐに気づいた彼は、最初はクーバー・コーチングの日本校を設立し、後に独立。今では日本全国に100校を超えるコーチングスクールを展開している。

 

「日本の進歩はいくつかの要素が組み合わさったものだ」。小さな子供がドリブルのターンを学ぶ様子を満足そうに見守りながら、彼は言った。「オーケストラに似ているかもしれない。いくつかの異なるセクションから構成されているが、誰もが同じメロディーを演奏している」

 

 バイヤー氏が来日した25年前、日本サッカーに見るべきところはあまりなかった。プロリーグはなく、空席だらけのスタジアムではどこかの企業のチームが、他の企業のチームと対戦した。ナンバーワンのスポーツは何と言っても野球であり、後にセリエAでプレーした三浦知良のように才能に恵まれた若者は、サッカーを学ぶために自費でブラジルへ渡った。

 

 だが25年の間に、すべてが変わった。93年にJリーグが創設され、02年のW杯開催地に立候補するとともに、JFAは全国的な育成システムの構築に着手。従来ならサッカー選手は高校や大学でプレーし、企業のサッカーチームに《入社》するのが一般的だったが、現在ではJリーグの全クラブにU-10、U-12、U-15、U-18の各年代でチームの設置が義務づけられている。いずれも専任の監督が指導し、施設のレベルも押しなべて高い。

 

 U-12、U-14、U-16の各年代には「トレセン制度」という強化制度があり、全国レベル、9つの地域レベル、47の都道府県レベルという具合に、何段階ものレベルで選手を発掘・育成するための講習会が開かれている。

 

 また、才能ある選手を集めて特別なプログラムを行う「JFAアカデミー」という育成機関もある。選手たちはここで6年間を過ごし、地元の学校に通いながら、最先端のトレーニングをこなす。最初の3年間は主にボールスキルと判断力(これはパススピードと同じく、日本サッカーの改善に必要な要素としてよく論じられる)を磨く。戦術面が重要になってくるのは、15歳になってからだ。

 

 この点で、JFAとバイヤー氏はまさに、違う楽器で同じメロディーを奏でている。彼のスクールには戦術練習や試合形式の練習はない。「子供にはボールで遊んでみよう、自分の足で動かしてみようと教える。どの選手もボールを一つずつ持って、ボールにたくさん触れる」と彼は言う。バイヤー氏は子供にボールスキルを教える名人なのだ。「練習は子供たちにとって楽しいものでなければならないからね」

 

「学校」という日本独特の育成機関

 

 日本では、すべてのサッカー道は東京都文京区にある「サッカー通り」に通じている。その中心に立つJFAハウスは、勢いを増す日本サッカーの象徴だ。11階建てのスマートな建物に入ると、ロビーに設置されたテレビに日本代表の試合が流されている。我々は最上階まで上り、JFA副会長兼専務理事の田嶋幸三氏を訪ねた。日本のユースシステム改革に大きく貢献してきた人物である。

 

 ユース育成のベースとなる骨格は70年代からあったが、Jリーグの創設に伴い、90年代初めにシステムの見直しが行われた。その際、関係者は「先人から学ぶ」という日本の良き伝統に従った。多くの指導者が欧州や南米を訪れてエリートの方法論を学び、協力して育成に取り組むようになった。「最初は難しかった」と、アジアサッカー連盟の理事を兼任する田嶋氏は振り返った。「JFAと各都道府県の間で何度も意見が衝突しました。彼らは地域ごとに独自の道を進もうとしていたのです。それに対し、我々は世界と日本の差を示しました。協力しなければこの差は縮まらない、と」

 

 彼らが重要視したのは全国レベルの一貫性だ。U-12、U-15、U-18の各世代に全国レベルの大会が設けられ、その他にも高校のサッカーチームが参加する全国選手権大会がある。

 

 日本サッカーの育成面を考える時、この「学校」という存在を無視することはできない。高校サッカーにおける全国選手権の規模は、我々が想像する「学校の大会」ではない。4000を超える高校が参加し、国立競技場で行われる決勝を目指して戦うのだ。大会は全国にテレビ中継され、スタジアムは観客で埋まる。2012年の決勝戦の観客動員数は4万3000人。一般の注目度も高いため、毎年新しいスターが生まれる。本田圭佑もこの大会で知名度を上げた一人である。

 

 日本サッカーにおける高校と大学は、単にサッカーをプレーする場というだけでなく、プロになるために必要なルートを提供する場として確立されてきた。Jリーグのクラブが持つアカデミーには、この「高校・大学システム」への依存度を減らし、従来とは別の選択肢を提供する狙いがある。田嶋氏によれば、U-12レベルの登録選手の約半数が学校のチームで、半数がクラブチームでプレーしている。高校生の年代では7対3の比率で、学校のチームでプレーする選手が多い。Jリーグの新人選手の半分以上は大卒だ。

 

 大卒プレーヤーの割合は今後、減少していくだろうと田嶋氏は予想しているが、「大学からJリーグへ」というルートの必要性を認めていないわけではない。「大学ルートの根強い人気には、経済状況という側面もあります。子供が優秀なプレーヤーであっても、保護者は大学でしっかり教育を受けてほしいと考えることが多いのです」。これは勤労と勤勉を美とする日本文化の特徴かもしれない。

 

Jリーグから欧州へと旅立つ

 

 ハーフナー・ディド氏は日本サッカーのことも、日本の育成システムについてもよく知っている。2人の息子が、そのシステムを通ってきたからだ。オランダ出身の彼は86年に来日し、様々なクラブでゴールを守り、GKコーチを務め、そしてバイヤー氏と同様に今でも日本に住んでいる。94年に日本国籍を取得した彼は、現在は清水エスパルスのコーチだ。

 

 25歳になった長男のマイクは194センチの大型FW。父親の祖国オランダのフィテッセでプレーし、日本代表にも名を連ねる。17歳の弟ニッキは兄よりも長身で、来年から名古屋グランパスのトップチーム入りが決まっている。「次男は名古屋のユースチームで日本中を旅している」とハーフナー氏は言う。「全国リーグで戦っているからね。ある週に広島にいたかと思えば、次は東京だ。Jリーグのアカデミーは施設もいいし、専任の指導者がいる。学校で育った選手よりも、Jリーグで育った選手のほうが大抵は基礎がしっかりしている」

 

 大学ルートとクラブルート以外にも、成功への道はある。ウィガンでプレーする宮市亮は高校在学中にアーセナルと契約を結び、18歳で欧州へと旅立った。彼は日本の決まりきったルートを通過することなく、ただ日本を離れる、という選択を下したのだ。

 

 ただし、宮市のようなパターンはまだ極めて珍しい(バイヤー氏は、日本人にとって「決まったルートを外れる」のはとても難しい選択だと指摘した)。実際、欧州で活躍している日本人選手の大半は、Jリーグでサッカーを学んでから欧州へと旅立った。マンチェスター・Uの香川、インテルの長友佑都、CSKAモスクワの本田、シャルケの内田篤人、ヴォルフスブルクの長谷部誠といった選手たちは、いずれもJリーグで数年間プレーしてから欧州へ渡った。彼らの先駆者である中田英寿や中村俊輔らもそうだった。香川は2010年の夏にドルトムントへ移籍したが、それ以前にも欧州挑戦のチャンスはあった。「まだ日本で成長できると思います。レギュラーとしてプレーすることが、僕にとって非常に良い経験になっている」。これは、香川がセレッソ大阪でプレーしていた2010年1月のコメントだ。

 

世界基準に近づく日本サッカー界

 

 ここまでは、日本の優れた育成システムについて触れてきた。だが、日本の成功を支えてきたのは組織や施設の充実だけではないとバイヤー氏は言う。「ここ日本では、『教育』が非常に重要視されている。教えること、そして学ぶことは、日本人の生活を支える二大要素と言っていい。選手はモチベーションが高く、規律正しく、向上心がある。必死で学ぼうとしているから批判は全く気にしない。日本人は、外国の指導者から『ここが良くない』と指摘されるのが大好きなんだ」

 

 そんな日本人の性格は素晴らしい長所に思えるが、欠点もある。「日本の子供はとてもシャイで、目立ってはダメだと小さい頃から教えられている」とバイヤー氏は指摘する。「個人よりもチームを優先することをたたき込まれている」。バイヤー氏は、日本の子供たちが自分自身の力で問題を解決するように仕向けてやることが最も重要だと考えている。サッカーチームには、言葉やプレーで違いを示すリーダーが必要なのだ。もっとも、本田が前回のW杯で証明したように、日本人も個人主義という考え方を受け入れつつある。

 

 システムが整い、一貫した育成哲学があり、学ぶ意欲が高い。そこに日本が誇る勤勉の精神を加えれば、成功に必要な条件としては十分だろう。バイヤー氏は日本の「塾」という施設を例に挙げた。英語や数学、絵画や音楽など、学校のカリキュラムを超えた範囲まで教える「塾」では、毎日数百万人の子供が夜遅くまで勉学に励む。酔ったサラリーマンと小学生が同じ地下鉄で帰るのは、この国では珍しい光景ではない。

 

 サッカーでも全く同じだ。「日本には1年365日、毎日サッカーをしている子供たちがいる。本当に多くの時間をサッカーに費やしていて、どんどんうまくなっている」とバイヤー氏は語る。

 

 2010年のW杯の前、日本代表を率いた岡田武史監督は「目標はベスト4」と公言し、目の肥えたジャーナリストたちから嘲笑された。だが実は、これは非常に良いことだったのではないだろうか。ザッケローニ現監督はブラジルW杯の目標を「決勝進出」と言っているが、笑う者はほとんどいない。

 

「それが以前との違いでしょう」と田嶋氏は言う。少し前まで、若い選手たちの目標は学校のチームで地区大会に優勝し、全国大会に出場し、そして将来はJリーグでプレーすることだった。それが、今の若者たちはチャンピオンズリーグや、W杯で好成績を残すことを夢見るようになった。「世界基準で考えるようになったのです」と田嶋氏は強調した。

 

 最後に、このテーマについて聞くのに最適の人物、元アーセナルのフレドリック・ユングベリのコメントを紹介しておこう。今年の夏で現役を引退した彼は、キャリアの最後をJリーグの清水エスパルスでプレーした。欧州のトップレベルを知る彼は、日本の将来性を高く買っている一人だ。

 

「この国の選手はテクニックのレベルがとても高いし、美しいサッカーをしようとする。これはサッカー界の世界的な傾向に合っている。体が大きいだけでテクニックのない選手はもうプレーできない。相手に無駄なFKを与えるだけだからね。未来のサッカーはテクニックがすべてなんだ」

 

 そんなわけで、スペイン代表の近年の成功は、日本サッカー界では大歓迎されている。テクニックが他のあらゆる要素に勝ることを証明した最高のサンプルだからだ。日本人とスペイン人の体格は似ている。スペイン代表のハイレベルなテクニックにはまだ及ばないとしても、日本人ならこのテーマに取り組み、いずれマスターしてしまうだろう。

 

 最初にも書いたが、日本の目標は「2050年までにW杯で優勝すること」だそうだ。ここまで読んでも、まだ夢物語に聞こえるだろうか?

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