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メッシの『満ち足りた日々』~“ペレ越え”、そして第一子の誕生~

2012.12.16

ワールドサッカーキング 1220号 掲載]
文=アルベルト・ヒメネス 通訳=工藤拓 写真=アフロ
メッシ

リオネル・メッシのゴールラッシュによってバルセロナはリーガ史上最高のスタートを記録し、個人でも年間ゴール数で“ペレ超え”を達成。非の打ちどころのない活躍を見せるメッシにとって第一子の誕生は何物にも代え難い喜びとなった。公私ともに充実するメッシはキャリア最高の日々を送る。

 プロ通算300ゴール達成、年間ゴール数の“ペレ超え”、リーガ・エスパニョーラ史上最高の出だしに並ぶ13節で12勝など、この1カ月でもリオネル・メッシは個人、チームの双方で申し分ない結果を出し続けた。だが彼の記憶に生涯残る最高の出来事は、11月2日に迎えた第一子チアゴの誕生に違いない。パパになった後も変わらずゴールを量産し続ける彼は、とうとうゲルト・ミュラーが1978年に樹立した年間最多ゴール数の記録更新にあと一歩まで迫るに至った。

リーガ・エスパニョーラ 第9節 vsラージョ・バジェカーノ

 前節のデポルティーボ戦で、2009年3月のアトレティコ・マドリー戦以来、218試合ぶりとなる4失点を喫したばかり。この日も守備面で不安を抱えて挑むことになったバルセロナだが、結果的にその不安は杞きゆう憂に終わった。

 2列目に4人のアタッカーを並べる超攻撃的布陣でハイプレスを掛けてきたラージョに対し、バルサは立ち上がりの15分にわたり自分達のリズムでボールを回すことができなかった。だが20分、敵陣右サイドでペドロ・ロドリゲスが相手DFからボールを奪うと、セスク・ファブレガスが素早くディフェンスライン裏へスルーパス。これに反応し、左サイドから中央へ走り込んだダビド・ビージャが右足でゴールネットを揺らした。

 その後はラージョの勢いが落ち、バルサが立て続けにプレスを突破してチャンスを作り出していく。48分には右サイドをえぐったマルティン・モントージャのクロスを受けたメッシがプロ通算300ゴール目となる節目の得点をゴール右上に突き刺す。更にチャビ、ファブレガスが2ゴールを加えて勝負を決めると、89分にはファブレガスのスルーパスを受けゴール前へ抜け出したメッシがGKとの一対一をやすやすと制し、ゴールラッシュを締めくくる5点目を流し込んだ。

 9試合で13ゴールとピチーチ争いの首位を独走するメッシとともに、チームは1997-98シーズンのクラブ記録と並ぶ8勝1分けで首位の座をがっちりキープ。試合後メッシは「2ゴール決めたことではなく、再びチームが勝てたことが重要だ。今日はとても寒かったけどチームは良いプレーをし、相手に1点も許さなかった」とチームの戦いぶりに満足感を示した。

リーガ・エスパニョーラ 第10節 vsセルタ

 11月2日、メッシはビラノバの許可を得て午前中の練習を休み、恋人アントネージャさんに付き添い、朝9時頃にバルセロナ市内の病院に向かった。そして待望の瞬間は約8時間後の17時15分に訪れる。

「今日の僕は世界一の幸せ者だ。息子が生まれたよ! このプレゼントをくれた神様、そして支えてくれた家族に感謝したい。皆に抱擁を!!」

 パパ・メッシが発した喜びの第一声、出産の立ち会いを終えたメッシとドクターの2ショット写真も公開された。プライベートで甥っ子をこよなく愛する彼は、既にミルクのあげ方もおむつの替え方も習得済みだというが、大の子供好きとして知られる彼のこと、前日練習を休みながらも出場を熱望したという翌日のセルタ戦では、息子に捧げる“パパ初ゴール”のことで頭がいっぱいになっていたとしても不思議ではない。

 ゴール後のパフォーマンスはおしゃぶりポーズか、ゆりかごポーズか。世界中のファンからパパ初ゴールの期待を受けたメッシだが、この試合では出産立ち会いの疲労からか後半は存在感が薄れ、ほとんどチャンスに絡めなかった。ゲーム終盤には相手DFと接触し、右ひざを痛めた際には冷や汗をかかされたものの、幸い大事には至らず。ビラノバ監督も「フットボールで起こり得る最悪の事態はこうしたケガだ。幸いにもただの打撲で済んだが」と胸をなで下ろした。

チャンピオンズリーグ GL第4節 vsセルティック

 セルタ戦ではお預けとなったパパ初ゴールを決めることはできた。しかし、ファン待望のおしゃぶりポーズに笑顔は伴わなかった。91分、GKのフレイザー・フォースターがゴール前にはじいたこぼれ球に素早く反応したメッシは、左足で追撃の一発を蹴り込んだ。だが、親指を口でくわえる仕草を見せたのは一瞬のみ。急いでハーフラインへと駆け戻った努力もむなしく、ほどなくバルサの今シーズン、公式戦2敗目を告げるホイッスルが鳴り響いた。

 とはいえ、まだグループ首位は維持している。極寒のモスクワに“宿題”を持ち越すのは本望ではなかったが、残る2試合で勝ち点1を加えれば決勝トーナメント進出は決まる。「今日のゴールは勝利につながらなかったけど、息子に捧げるゴールはこれからたくさん決められる。残り2合で決勝トーナメント進出もグループ首位も決めることができる」とメッシは次こそ笑顔で息子にゴールを捧げることを誓った。

リーガ・エスパニョーラ 第11節 vsマジョルカ

 予期せぬ敗北を喫したセルティック戦から4日。気持ちを新たに臨んだマジョルカとのアウェー戦でも、バルサは思わぬ冷や汗をかかされることになった。

 ゲーム序盤から80パーセント以上のボール支配率を保ち、圧倒的に攻めながらもなかなかマジョルカの守備ブロックを崩し切れなかったバルサだが、28分にチャビの完璧な直接フリーキックで均衡を破る。44分にはメッシがペナルティーエリア手前からドリブルで切れ込み左足を一閃。シュート回転が掛かったグラウンダーのボールはカーブを描きながらGKドゥドゥ・アワットの手元をすり抜け、ゴールに吸い込まれた。更にその2分後には、左サイドから中央に切れ込んだクリスティアン・テージョがダメ押しの3点目。それはいずれもセルティック戦の苦労がうそのように“あっさりと決まったゴール”だった。

 しかし、ここまで5連敗中と後がないマジョルカはここから驚異の粘りを見せる。後半開始より前線から積極的にプレスを仕掛けると、55分にはバルサ陣内でハビエル・マスチェラーノからボールを奪ったビクトル・カサデススが中央にクロス。これをミシェル・ペレイラが合わせて1点を返す。2分後にはセルヒオ・ブスケのハンドで得たPKをビクトルが決め、あっという間に1点差に詰め寄ったのである。

 とはいえ、にわかに芽生えたマジョルカの希望は結局、メッシの“ペレ超え弾”によって打ち砕かれた。70分、相手CKの直後に仕掛けたカウンターで右サイドを駆け上がったダニエウ・アウヴェスがクロス。これを受けた途中出場のアレクシス・サンチェスが胸で後方に落とすと、最後はメッシが左足で豪快にゴール左上に突き刺した。

 これでメッシは2012年の総得点を76ゴールに伸ばし、58年にブラジルの“王様”ペレが記録した歴代2位の年間75ゴール超えを実現した。72年にミュラーが樹立した世界記録の年間85ゴールまではあと9発。クラブ、代表合わせて今年はあと10試合残っており、更新は十分に可能だ。「レオの記録はスペクタクルだ。彼は7、8シーズン掛けて樹立するような記録を1シーズンで成し遂げてしまう。しかもその大半がゴラッソ(スーパーゴール)だ」試合後メッシへのコメントを求められたビラノバ監督も、この日は舌を巻くばかりだった。

リーガ・エスパニョーラ 第12節 vsサラゴサ

 この試合ではひじの脱臼で離脱していたカルラス・プジョルが45日ぶりに先発復帰し、今シーズン3度目となるジェラール・ピケとのセンターバックコンビが復活した。対するサラゴサはアブラアム・ミネロとクリスティアン・サプナルの両サイドバックが出場停止の上、前日練習でセンターバックのグレン・ローフェンスまでケガで離脱する厳しいメンバー構成。それでもマヌエル・ヒメネス率いるチームは統制された守備組織と丁寧なパスワークによる攻撃で大健闘したのだが、不運にも彼らはメッシが好調の日にカンプ・ノウを訪れてしまった。

 16分、中盤をドリブルで持ち上がったメッシが左サイドを上がったジョルディ・アルバへパス。ゴール前中央でアルバのリターンを受けたメッシはファーストコントロールでDFの裏へ抜け出し、狙い澄ましたシュートをゴール左隅に流し込んだ。28分にはCKの流れから同点ゴールを許すも、サラゴサの喜びもつかの間。28分にはペナルティーエリア内左で相手DF2人の間を突破したメッシが、更にもう1人を縦に抜き去りマイナスのパス。これを受けたアレクサンドル・ソングがバルサでの初ゴールを決め、再びリードを手にした。そして60分、右サイドを駆け上がったモントージャにスルーパスを出したメッシがリターンを受け、ゴール左隅に勝負を決める柔らかな弾道のシュートを流し込んだ。

 ここまでリーグ4位の一試合平均14・24本のシュートを放ってきたバルサだが、この日はサラゴサの組織的な守備に苦しみ、わずか8本のシュート数にとどまった。勝負を分けたのはそのうち3本をゴールに変えた決定力であり、その意味で2ゴール1アシストと全ゴールに絡んだメッシの果たした役割は決定的だった。それだけに、「うちにメッシがいればこの試合に勝てただろう。だが彼は相手チームの選手だった」と嘆いたヒメネス監督の言葉も納得できるというものだ。

チャンピオンズリーグ GL第5節 vsスパルタク・モスクワ

 CLのアウェー戦でこれまで出向いた14カ国のうち、ロシアはメッシが唯一ゴールを決めていない国である。過去2回のルビン・カザン戦はともに無得点。今回も気温1度という極寒の気候や不慣れな人工芝のピッチなど不利な条件は少なくなかったが、3度目の正直は意外にもあっさりと成し遂げられた。

 16分、ゴール前で7人に囲まれたメッシの横パスが相手DFの1人にひっかかり、ボールはD・アウヴェスの元へ。迷わず右足を振り抜いた彼のシュートがゴール左隅に突き刺さり、バルサが幸先良く先制する。27分にはメッシのスルーパスを受けたアンドレス・イニエスタがゴール前左からシュート。これはGKがはじくが、こぼれ球に素早く反応したメッシが右足でロシア初ゴールを押し込んだ。更にメッシは39分、ディフェンスラインの裏へ抜け出してペドロ・ロドリゲスのスルーパスを受け、飛び出したGKを難なくかわしてもう1点。このゴールで2012年の通算ゴール数を80の大台に乗せるとともに、前半のうちにバルサの「9大会連続となる決勝トーナメント進出」をほぼ決めてしまった。「セルティック戦の敗北を繰り返すわけにはいかなかった。だから試合開始からエンジン全開で挑む必要があったんだ」

 セルティックにまさかの敗北を喫した前節は、パパ初ゴールを勝利に結びつけられず苦い思いを味わった。だがこの日のメッシは試合中、終始笑顔で、プレーを楽しんでいるようだった。この2ゴールでCL通算ゴール数はルート・ファン・ニステルローイと並ぶ歴代2位の56ゴールに到達。また2012年のヨーロッパでの得点数は、103年前にイングランド人FWビビアン・ウッドウォードが樹立した最多記録の年間25得点と並んでいる。

「メッシの野心、飽くなきゴールと勝利への意欲は我々を驚かせてやまない。戦術的にも攻守両面で素晴らしく貢献している」と、ビラノバ監督は再び決定的な役割を果たしたエースの活躍をねぎらった。

リーガ・エスパニョーラ 第13節 vsレバンテ

 前日レアル・マドリーがベティスに敗れたことで、ライバルとの勝ち点差を11ポイントに広げるビッグチャンスを得た今節。だが昨シーズンからの好調を維持するレバンテは一撃必殺のカウンターを持つ難敵だ。必勝を期すビラノバ監督はS・モスクワ戦に続いてイニエスタを左ウイングに起用し、中盤のボール支配力を重視。ピケとプジョルがセンターバックのコンビを組む「現状のベストメンバー」で挑んだ。

 それでも前半は予想通りの困難な展開となる。バルサが80パーセント前後のボール支配率を保ってゲームをコントロールするも、統制の整ったレバンテの守備ブロックをなかなか崩せず、決定的なチャンスを作ることができない。逆にレバンテが1トップのオバフェミ・マーティンスを起点とした鋭い速攻から数度のチャンスを作っていただけに、後半がバルサの一方的なゴールラッシュとなったのは意外だった。

 47分、ゴール前左のスペースに抜け出したメッシがイニエスタのスルーパスを引き出し、巧みなループシュートをゴール左隅に流し込む。「テ・アモ(愛してる)チアゴ」とつづった左手首のテーピングをおでこに当て、息子にゴールを捧げるメッシ。その仕草は程なく繰り返される。50分、左サイドを縦に突破したイニエスタがゴールラインぎりぎりからマイナスのパス。これを受けたメッシが再びゴールネットを揺らし、あっという間に2点差とした。

 その後もバルサは攻撃の手を緩めず、この日の全得点を生み出したイニエスタの活躍で2ゴールを追加。ゲーム終盤にはバレンシアまで駆けつけた気の早いバルサファンによる「カンペオーネス(チャンピオン)!」の大合唱が大勝に花を添えた。

 宿敵マドリーに決定的な勝ち点差をつける重要な勝利を手にしたレバンテ戦は、バルサにとってもう一つ重要な意味を持つ一戦となった。14分にD・アウヴェスが肉離れを起こしてリタイアし、代役のモントージャが投入された瞬間、クラブ史上初めて公式戦のピッチで「カンテラ出身者のみの11人」が実現したのである。

 これまで何度も「いつか11人のカンテラーノで戦いたいとは思う。だがそれも試合に勝たなければ意味がない」と繰り返してきたビラノバ監督も、その希望を4-0の大勝で成し遂げたのだから感無量だろう。もちろん、カンテラの最高傑作と言えるメッシは、同じ環境、同じプレースタイルの中で育った仲間達とともに、「美しく勝つ」というクラブの理念をピッチ上で具現化し続けている。

 2012年も“極上”のフットボールを我々に提供してくれたメッシとバルセロナ。彼らに対する感謝の言葉とともに、今年最後の本稿を締めくくりたい。

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