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香川真司、吉田麻也はプレミアで成功する! 日本人選手活躍の条件

2012.11.21

プレミアリーグの戦術と戦略』掲載

 

日本代表の背番号10・香川真司や、ディフェンスの要・吉田麻也の移籍でがぜん注目が集まるこのフットボールの「聖地」を、権威あるイングランドフットボール記者協会元会長であり、最大発行部数を誇る「ザ・サン」元主筆アレックス・モンゴメリーが紹介する。

 

 

著者=アレックス・モンゴメリー

 

「日本人選手はプレミアリーグで活躍できるのか」

 そんな疑問をお持ちのかたもいらっしゃるだろう。

 

 そこで今季のプレミアリーグの数試合を参考資料として、私の意見を述べさせてもらうが、あくまでも数試合のみの判断であることを強調しておく。それゆえ、厳しい意見に聞こえる部分もあるかもしれないが、一人の親日家として思いは皆さんと一緒だ。心の底から彼らの成功を願っている。

 

 プレミアは欧州の中でも最もフィジカルコンタクトに寛容なリーグである。つまり、プレーしている選手からすれば最も肉体を消費するリーグである。このプレー環境の中で、香川が成功するための条件を2つ挙げたい。

香川真司、成功への条件

【条件1:中盤でのサポートアップ】

 

 香川がファイナルサードで孤立しながらボールを受けて激しくクラッシュされるシーンが多くなればなるほど、マンチェスター・ユナイテッドのチャンスは少なくなる。

 

 イギリス紙の中には、「(9月23日に行われたプレミアリーグの)リヴァプール戦での香川はファン・ペルシーをサポートできず、エースの孤立を招いた」という厳しい論調もあったが、そもそも、香川へのサポート自体が少ないのではないか。

 

 私はリヴァプール戦での苦戦の理由は、中盤のギグスとキャリックの不調にあったと思う。とくにギグスのパフォーマンスはひどく、香川に良質なパスをまったく供給できていなかった。

 

 また、両ウイングのナニ、バレンシアも攻撃が単調になりがちで、香川とのコンビネーションはまだまだといった印象だった。このあたりを改善できれば、香川の持ち味であるペナルティエリア付近での敏捷性、タテへの突破、冷静なフィニッシュワークがより生かされると感じた。

 

【条件2:香川自信のシュート力アップ】

 

 とはいえ、香川にも課題が残る。

 

 それはシュート力である。

 

 トップ下の選手として、ミドルシュートの数があまりにも少なすぎる。パク・チソン(現QPR)のシュート力はプレミアでも十分に驚異だった。また、小柄でもカソルラやアザールには、強烈なミドルという武器がある。香川が磨くべきなのは、このシュート力ではないだろうか。

 

 むしろ、私が香川の可能性を感じたのは2−3で敗戦に終わった、トッテナム戦(9月29日)である。

 

 トップ下でスタートした香川だったが、後半は左サイドにポジションを移した。1トップはファン・ペルシー、トップ下はルーニーである。

 

 香川はマンチェスター・ユナイテッドの2得点目を奪ったが、パサーにも徹することのできるルーニーが攻撃のリズムを作ったおかげで、ファン・ペルシーも攻撃の自由度を得た。香川のゴールは、ファン・ペルシーの鋭いパスから生まれている。マーカーに囲まれながら、自身でボールを受け、素早いターンで一気にフィニッシュ。日本の至宝の魅力が凝縮されたナイスゴールだった。

 

 今後はシュート力を高めていくのと同時に、ファン・ペルシー、ルーニーとのコンビネーション向上が成功の鍵となる。このトライアングルは共存できると私は思う。それはトッテナム戦の後半を見ても明らかだ。

 

 香川のような選手への評価はシーズンを通してみないと下せない。だが、成功の萌芽は序盤戦からすでに芽生えていると見るべきだ。

 

吉田麻也、成功への条件

 吉田は日本人で初めてのセンターバックとしてプレミアリーグでプレーする。ここでは元サウサンプトンのローレン・マクメネミーの言葉に耳を傾けることにしよう。

 

 ビック・マック(※マクドナルドの商品名ではない。「偉大なるマック」と言う経緯を込めた愛称である)は70年代から80年台にかけてサウサンプトンを強豪へと押し上げた名将だ。

 

 「まだ数試合しか見ていないが、吉田は印象的だった」

 

 というのが、第一印象である。

 

 「開幕からサウサンプトンはリーダーを必要としていたが、吉田にはその素質があるように映った。彼のデビュー戦(9月15日のアーセナル戦)では、多くの失点を喫してしまったが(1−6の敗戦)。通常、選手の評価は一定時間を立たないと判断できかねる。ましてや私は日本代表の試合をフォローしているわけではない。それにもかかわらず、吉田のパフォーマンスは目を引いた」

 

 では、具体的にはどのような部分が目を引いたというのか。

 

 「センターバックにとって、プレミアリーグは非常に厳しいリーグだと思う。昇格したばかりのチームなら、守勢に回る場面が多くなる。クロスボールはどんどん飛んでくるし、ミドルシュートも飛んでくる。最終ラインの裏へ飛び出すストライカーへの対処もある。だが、吉田は高さへの対応も及第点で、スピードへの対応もそつなくこなしていた。特にスピーディーなストライカーが多いプレミアでは、スピードへの対応力なしにセンターバックの成功はありえない。吉田はこの点で、今後の可能性を感じさせたね」

 

 マクメネミーが最後に強調していたのが「存在感」である。

 

 「彼の自信に満ちたプレーぶり、チームを引っ張っていこうという決意。アーセナル戦で大敗した後のアストン・ヴィラ戦(4−1で勝利)ではそれらが見て取れた。チームメートに大きな声で指示を出し、攻撃陣には『もっと前へ攻めろ』、守備陣には『しっかりと守れ』、チーム全体には、『ポジティブにプレーしよう』とおそらくはそんな発破をかけていたのだろう。吉田の存在感は最も印象的だった。早くもチームに溶け込んでいるようだし、クラブにとっても最高の補強になったと評価したい」

 

 もちろん、試合を重ねるにつれて、マクメネミーの吉田への評価が真逆になる可能性はある。とはいえ、ストレートな性格で知られる(つまり時には辛口な)名将からここまでの絶賛を得たことは、すでにプレミアの選手として認知されたことにほかならない。

 

 アタッカーだけではなく、第二、第三の吉田がプレミアの地に舞い降りることを個人的には願っている。

 

プレミアリーグの戦術と戦略 日本人選手活躍の条件

 

 

ファーガソン、ヴェンゲル、モウリーニョ……プレミアの名将たちと対峙し約50年にわたり、イングランドフットボールの最前線で取材を続けてきた大御所記者モンゴメリーによるプレミアリーグ最高の教科書!

 

・香川真司、宮市亮、李忠成、吉田麻也が活躍するための条件と現在の評価
・中田英寿や稲本潤一に足りなかったもの
・罵倒された実体験による「アレックス・ファーガソン」の本当の姿
・ヴェンゲルとの出会いとその戦術、チームマネジメント革命
・モウリーニョがもたらした新しいサッカー
・サッカースタイルで凌駕されるバルセロナに勝つ方法はあるのか
・現場にいたヒルズボラの悲劇、本当の悲劇とは……
・不況知らずのプレミアリーグ、その理由
・日本人に知ってほしいプレミアリーグの名将10人、歴代ベスト11

 

これを知らなければプレミアリーグは語れない!

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