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プレミアリーグ展望、混迷を極めるタイトルレース

2012.08.18

2012-2013シーズン プレミアリーグ パーフェクトガイド』掲載

 

マンチェスター勢の覇権争いが続くのか、ロンドン勢が逆襲を果たすのか、

それとも第三勢力がそこに割って入るのか。例年以上の混戦となりそうな

2012-13シーズンのプレミアリーグ。タイトルレースを制するのは果たして―。

優勝候補の最右翼はマンチェスター勢

 英国の若い世代には人口が多いバーミンガムよりも、マンチェスターこそが首都ロンドンに次ぐ国内第二の都市だという意見が多いそうだ。かつて産業革命の中心地と言われたマンチェスターは、それだけこの十数年で都市としての勢いを高め、活気を取り戻している。そして、ことフットボールの世界に関して言えば、マンチェスターはすでに首都ロンドンを凌駕してしまっている。

 

 創設から20年目の節目を迎えた2011ー12シーズン、プレミアリーグの歴史が大きく動いた。勢力図を書き換えたのは、史上5チーム目のリーグ王者となったマンチェスター・シティーだった。2008年夏にアラブ資本により生まれ変わったスカイブルーのチームは、それから過激な補強活動を繰り返し、存在感を高めてきた。

 

 そしてオーナー交代から4年目の昨シーズン、リーグの絶対王者として君臨してきたマンチェスター・ユナイテッドの連覇を阻止する形で44年ぶりのリーグ制覇を達成した。同じ街の宿敵同士による手に汗握る優勝争い、首位決戦となった4月のダービーマッチ、そして最終節のロスタイムに訪れた劇的なドラマは、見る者すべてを興奮の渦に巻き込んだ。そのハイレベルな争いを目の当たりにすると、新シーズンもプレミアリーグの中心地はマンチェスターであると言わざるを得ない。

 

 前年度王者マンチェスター・Cはプレミアリーグ連覇、そしてチャンピオンズリーグとの2冠という偉業に挑む。圧倒的な財力で集められたスターたちのクオリティー、分厚い選手層を考えれば、それも決して絵に描いた餅ではない。攻撃陣には昨シーズン23ゴールのセルヒオ・アグエロ、ユーロ2012でひと皮むけた感があるマリオ・バロテッリ、そしてスペイン代表でも攻撃の中核を担うダビド・シルバがいる。守護神ジョー・ハートと主将ヴァンサン・コンパニが固める守備陣も重厚かつ鉄壁だ。

 

 昨シーズン、93得点29失点はいずれもリーグトップだったが、今シーズンも好守にわたる安定感は群を抜いている。7月上旬にクラブとの契約を2017年まで延長したロベルト・マンチーニ監督が個性派ぞろいのスター軍団をうまくまとめ、一流のメディカルチームが長期離脱者を出さないようにケアを怠らないという、昨シーズンと同じことが当たり前にできさえすれば、彼らに死角はないだろう。

 

 だが、《うるさい隣人》をこれ以上のさばらせるわけにはいかないと考えているのがマンチェスター・Uのアレックス・ファーガソン監督だ。世代交代がテーマだった昨シーズン、ファーガソンの期待に応えたジョニー・エヴァンスやクリス・スモーリング、ダニー・ウェルベックやフィル・ジョーンズといった《原石》たちには、さらなる成長が見込めるだろう。若いチームを陰で支えるポール・スコールズの現役続行も決まり、ネマニャ・ヴィディッチ、ダレン・フレッチャーといった長期離脱組も帰ってくる。

 

 不動のエース、ウェイン・ルーニー、そしてエースの負担を軽減できる可能性を秘めた新戦力の香川真司を含め、チームの総合力は間違いなくアップする。そもそも、昨シーズンも勝ち点、勝利数、得点数、失点数はいずれも優勝した2009│10シーズンを上回っており、タイトルを逃したからといってチームが弱体化したわけではなかった。進化を続ける《ヤング・ユナイテッド》は、満を持してトップリーグ通算20回目の優勝に突き進む。

 

不確定要素を抱えるロンドンの3クラブ

 マンチェスターの《2強》に割って入ろうというのが、プレミアリーグの勢力図では第2勢力にあたるロンドン勢である。北の牙城に挑むのはアーセナル、トッテナム、チェルシーの3チーム。ただ、昨シーズンはそろって振るわなかった首都のビッグ3は、それぞれの事情によって不確定な要素を抱えている。

 

 まず、3チームの中で最も期待できそうなのは昨シーズン3位のアーセナルだ。しかし、このチームはキャプテンでありリーグ得点王であるロビン・ファン・ペルシーの去就次第ですべての状況が変わってくる。(※編集部注:執筆後マンチェスター・Uへ移籍。)昨シーズン、選手と記者が選ぶリーグ年間最優秀選手賞をダブル受賞した大エースは、7月上旬に残り1年となる契約を延長しない意向を明かしている。8月31日の移籍マーケット最終日まで彼をキープできたなら、新たにオリヴィエ・ジルーとルーカス・ポドルスキを加えたガナーズ攻撃陣には期待が持てそうだ。

 

 さらに昨シーズン、ケガに泣いたジャック・ウィルシャーが復帰を果たし、ユーロ2012で大器の一端を見せたアレックス・チェンバレンが順調に成長すればタイトル獲得の可能性も見えてくるだろう。

 

 一方、昨シーズン4位のトッテナムは現状を見る限りギャンブル性の高いチームと言えそうだ。巧みな人心掌握術で近年の躍進を演出したハリー・レドナップ監督が退任し、人心掌握に失敗して今年3月にチェルシーから追い出されたアンドレ・ヴィラス・ボアスが新監督に就任。ベテラン監督から青年監督へ、モチベーターから戦術家タイプへとトップが代わったことで、そのアプローチ方法は大きく変わると見られる。

 

 ポルト時代に輝かしい成績を残したとはいえ、チェルシー時代を見ても分かる通り若手監督が1年目から結果を出すことは難しい。しかし、ビッグクラブにも引けを取らない戦力とクラブが元来持っている勢い、ヴィラス・ボアスの攻撃哲学がうまくかみ合えば面白い存在になるかもしれない。まずは序盤戦で勝ち点を積み重ね、新監督が周囲から信頼を得られるかがカギになるだろう。

 

 トッテナム同様、チェルシーも見極めの難しいチームだ。ヴィラス・ボアス政権を志半ばで諦めた昨シーズンは、暫定的に後任監督に指名されシーズン終了後に続投が決まったロベルト・ディ・マッテオの指揮下で何とか息を吹き返した。結果的にFAカップとチャンピオンズリーグの2冠を達成したが、リーグ6位はここ10年間でクラブワーストという受け入れ難い結果だ。クラブの悲願だったヨーロッパ制覇も、ロマン・アブラモヴィッチが理想とするバルセロナのような攻撃サッカーにアンチテーゼを突きつけるような、守備的で直線的なカウンターサッカーで勝ち取ったものだった。

 

 注目すべきはディ・マッテオがそのパラドックスをどう捉えているか。守備的なアプローチを継続するのか、それともオーナーが希望する攻撃的なアプローチに切り替えるのか。ユーロ2012でゴールデン・ブーツを獲得したにもかかわらずなかなか輝きを取り戻せないフェルナンド・トーレスや、若き新戦力のエデン・アザール、マルコ・マリンの起用法も、指揮官のかじの取り方によって大きく変わってくる。攻撃的か守備的か、その判断に注目だ。

 

〜〜〜中略〜〜〜

 

 もはや《ビッグ4》の時代は完全に終わった。今シーズンのプレミアリーグは、その先の道筋を決定付ける分岐点である。今シーズンもマンチェスター勢が覇権争いを演じるなら、マンチェスター・Cが優勝した昨シーズンがプロローグで、新シーズンが《2強時代》の第1章ということになる。

 

 しかし、ロンドンのビッグ3が逆襲に転じて「マンチェスター対ロンドン」の構図となる可能性だってあるし、はたまたリヴァプールやニューカッスルが復権して、南北入り乱れた群雄割拠の時代に突入する可能性だってある。

 

 プレミアリーグはいつだって予測不可能。2012−13シーズン、混迷極めるタイトルレースを制して最後に笑うチームは果たしてどこになるのか。

 

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