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インテル長友佑都、“新しい自分”を示しチームの中心へ

2012.08.24

ワールドサッカーキング 2012.08.16(No.226)掲載]

 

 インテルにおける長友佑都の重要度については議論の余地がない。彼はチームにおける重要な戦力としての地位を確立しており、どの監督からも冷遇はされないだろう。ただ、まだ伸びしろはある。今シーズンの彼に求められるのは、率先して動き、多くの責任を背負うことだ。

 

文=ルチアーノ・マルティーニ
翻訳=小川光生
写真=マウリツィオ・ボルサーリ

 

 7月10日、イタリアのトレンティーノ州、ピンツォーロで行われたインテルのサマーキャンプに3日遅れで合流した長友佑都は、紅白戦に参加した後、次のようなコメントを残している。

 

「日本ではしっかりと休養が取れた。特に家族、祖父母と過ごすことで精神的に癒された。新シーズンは、このチームに何か痕跡を残したい」

 

 昨シーズン、長友は守備面での脆さを露呈した。昨シーズンのインテルは、チーム全体が極度の不振に陥っていたわけで、長友だけが不調だったわけではない。ただ、リーグ戦55失点という無残な数字の一端を、サイドバックのレギュラーである長友が担っていたこともまた事実だ。クリスティアン・マッジョにマークを振り切られて致命的な失点を許したナポリ戦、アレハンドロ・ゴメスに翻ろうされたカターニア戦のミスなどは昨シーズンの低調なパフォーマンスの象徴的な事例だろう。その他、ローマのエリック・ラメラ、レッチェのフアン・ギジェルモ・グアルダード、マルセイユのモルガン・アマルフィターノなど、テクニックとスピードを兼ね備えた相手とのマッチアップで苦戦する姿が目立った。

 

 長友の長所は、信じられないほどの運動量とスピードであり、それは守備の機会においても変わらない。一対一やヘディングも決して不得手ではないが、運動量とスピードで相手に守備を意識させ、前に出る余裕を与えないことが最大の持ち味である。2010年の南アフリカ・ワールドカップ、あるいは一昨シーズン終盤の彼は、《攻撃的な守備》で世界の注目を集めた。高い位置で敵の動きを封じておいて、そのままの流れで攻撃参加に転じる。それが長友佑都のスタイルのはずだ。

 

 ところが、昨シーズンはその流儀が機能しなかった。機能した時期もあったが、決して長続きはしなかった。その原因は多数あるが、長友自身の問題を一つ挙げるとしたら、気持ちの中で《攻撃的な守備》への積極性を失ったことだろう。

 

 序盤から不振が続く中で、チーム全体が失点を恐れて守備を強く意識するようになり、長友もまた徐々に積極性を失っていった。監督がジャン・ピエロ・ガスペリーニから守備偏重のクラウディオ・ラニエリに代わり、その傾向はより顕著になった。ラニエリは長友に最後まで大きな信頼を寄せていたが、その信頼があったからこそ、長友も「ますは守備から」という意識を強く持ったのかもしれない。

 

 とにかく、新シーズンの長友の課題は、原点に立ち戻って自分のストロングポイントをしっかりと発揮することだ。それこそが転換期を迎えた新しいチームの中で、長友が存在感を発揮できるかどうかのポイントとなる。

 

左サイドバックは長友しかあり得ない

 昨シーズンのインテルは、03−04シーズン以来の無冠に終わった。09−10シーズン、イタリアのチームとして初となる三冠(スクデット、コッパイタリア、チャンピオンズリーグ)の栄光も「今は昔」という感じ。昨シーズンの醜態を見て、一時代の終焉を悟ったのは私だけではないだろう。

 

 マッシモ・モラッティ会長も新たなサイクルを作り出さなければならないことをようやく理解したようだ。昨シーズン、インテルのプリマヴェーラを率いて「ユースのCL」と言われる大会を制し、シーズン終盤に不振のラニエリに代わりトップチームを指揮したアンドレア・ストラマッチョーニの続投を決めるとともに、この36歳の青年監督と3年の契約を結んだのである。

 

 ストラマッチョーニは、昨シーズンの9試合以外、育成年代での監督経験しか持たない。経験不足を指摘する声がある一方、若手育成のスペシャリストである彼をベンチに留めたことは、若返りを図る現在のチームにとって決して悪い選択ではない。

 

 彼の基本システムは4−2−3−1あるいは4−3−3。例外的なオプションで4−4−2を採用することもあるが、いずれにしても4バックを好む監督である。

 

 長友の起用方法について、まず私の考えを単刀直入に言おう。彼は左サイドバックのレギュラーの第一候補だ。理由は簡単。そのポジションのスペシャリストであり、ある程度の経験を積んだ選手が彼以外にいないからだ。

 

 昨シーズンに彼と左サイドバックのポジションを争ったクリスティアン・キヴは健在だ。4月、セリエA初采配となった試合で、ストラマッチョーニは長友を先発から外し、控えに回っていたキヴをピッチに送り出している。指揮官には若手を重用する一方で、長くチームに貢献してきた《長老》に気を配る一面もあるのだ。その後、退団濃厚とも報じられていたキヴは、オフに入るとただちに契約を更新。引き続き長友の強力なライバルになると思われたが、ルシオのユヴェントス移籍で状況が変わった。今の彼はセンターバックの戦力として見込まれている。もちろん、時と場合によっては左サイドバックを任されることもあるだろうが、このポジションの優先順位としてはやはり長友が上と見るべきだ。

 

 イタリアのメディアには、左サイドバックにキャプテンのハビエル・サネッティを押す声もあるが、私はこれに懐疑的だ。彼は非常に広い範囲のポジションをこなせる超オールラウンダーで、あえて長友のポジションに持ってくる必要はない。中盤のバランサーに収まると考えるのが無難だろう。

昨シーズン以上のパフォーマンスを

 キヴとサネッティの2人を外すと、左サイドバックで長友のライバルになる選手はもう見当たらない。ただ、一人不気味な存在はいる。セネガル出身の18歳の新鋭、イブラヒマ・ムバイエだ。ストラマッチョーニが率いていたユースチームで大活躍していた。この夏、左サイドバックの獲得が検討された際も、ストラマッチョーニは「ムバイエがいるから大丈夫」と断った。そのムバイエはサマーキャンプからトップチームに帯同し、テストマッチでも出場機会を与えられ良い働きを見せている。ただ、まだ実力は未知数。すぐに長友を脅かすのは難しいだろう。

 

 私が長友のポジション確保に楽観的なもう一つの理由は、右サイドバックのマイコンの去就が微妙なこと。もう8月だと言うのに、マイコンはチームに合流していない(ジュリオ・セザルも同様)。「移籍市場は水物」だから、最終的にどうなるかは分からないが、もしマイコンが移籍となれば、右もこなせる長友のチャンスは広がる。

 

 新シーズンのインテルは8年ぶりにCLなしの1年を戦う。ただ、その代わりに待ち構えるのはヨーロッパリーグ。しかも予選3回戦からのスタートということで、8月2日から公式戦をこなすというハードスケジュールとなった。もしインテルが来年5月15日にアムステルダムで行われる決勝まで進むとなれば、ELだけで19試合を消化しなくてはならないことになる。

 

 そんな状況の中、若くてスタミナがある、つまり最も「無理の利く」長友が、ケガなどの理由なしにスタメンから長く外れることは考えづらい。マイコンが残留する、あるいはワールドクラスのサイドバックが新たにやって来たところで、柔軟性に優れた長友が監督に冷遇されることはないだろう。

 

 ともあれ、まずはレギュラー確保し、その上で彼には少なくとも昨シーズン以上のパフォーマンスを期待したい。

 

プレーの幅を広げチームの中心に

《攻撃的な守備》と並び、私が長友復活のキーポイントと考えるのは、ウェスレイ・スネイデルの去就である。昨シーズンは度重なる故障に悩まされ、チーム不振の戦犯ともなったスネイデルだが、やはり彼がチームに残ると残らないとでは大きな違いがある。特にプライベートでも《親友》である長友と最高の連携を築いていることは、日本の読者もご存知の通り。「使われるタイプ」のサイドバックにとって、攻撃の全権を握る司令塔が自分のプレーの特性を理解していることは大きなメリットになる。実際、昨シーズンに戦線離脱していたスネイデルは、息の合わない相手とのコンビネーションに苦しむ長友の姿を見て「オレならユウトをもっとうまく使えるのに!」と言っていた。

 

 長友のストロングポイントをより有効に引き出す形で、しかもそれを確実にチームの利益にも結び付けることのできるスネイデルの存在は、長友にとって極めて重要なもの。スネイデルのキープ力が計算できる分、長友は背後を気にせず大胆に攻め上がることが可能となる。スネイデルにボールが入った瞬間、それは長友がオーバーラップを仕掛ける最高のタイミングなのだ。

 

 本来のパフォーマンスを取り戻せば、スネイデルはパスの出し手となるだけでなく、自らシュートも打てる。それにより相手守備組織は彼をケアせざるを得なくなり、結果、長友の前に有効なスペースができる。もし今シーズン、スネイデルがインテルに残留し、そういう形で長友を活用したならば、長友の攻撃参加の価値は格段に高まる。

 

 しかし、スネイデルには移籍のうわさが絶えない。残留の確率は50パーセントあるかないか。もしスネイデルが退団となった場合、長友はロドリゴ・パラシオ、コウチーニョ、リカルド・アルバレス、ガビ・ムディンガイなど別の人材とのコンビネーションを新たに築く必要がある。だが、スネイデルとの間に出来上がっている連携とは比べようもない。

 

 思えば昨シーズンの長友は、ピッチ上の意思疎通の面で相当な苦労を強いられた。ディエゴ・フォルラン、マウロ・サラテといった新加入のFWは結果が欲しいばかりに、長友の長所を引き出すような動きをしてくれず、アルバレスやアンドレア・ポーリ、ジョエル・チュクマ・オビといった若手にもその余裕がなかった。

 

 だが、長友もインテルの一員として3年目を迎えるわけで、もう誰も彼を「お客さん」として扱ってはくれない。

 

 飛躍のポイントは、長友自身が「使われる側」から「使う側」に回ることだろう。彼もイタリアで3年目を迎える。ビッグクラブのレギュラーとして相手チームに研究され尽くしてもいる。これまでのプレーを伸ばすだけでなく、プレーの幅を豊かにすべきだ。

 

 その一つが、「自分が使われる」のではなく、「自分を使わせる」プレーだ。彼自身が囮となり、味方の長所を引き出すことで、攻撃のバリエーションが増える。チームにとっても彼自身にとっても一番なのは、ボールを彼のサイドで落ち着かせ、攻撃の構築にも加わるようになることだろう。そのためには技術と判断力を今以上に磨くだけでなく、「自分が攻撃を構築する」という自覚が求められる。

 

 その上で、守勢に回った時に前線や中盤の選手たちに指示を出して攻守のバランスを取ったり、攻めが単調な時に自分が動くことでアクセントを加えたり、あるいは若い選手たちに声を掛けて引っ張っていったり……。長友個人の資質を問う時期はもう過ぎ去ったと思う。今後は彼が率先して動き、どれだけ多くの責任を背負えるかが重要になってくる。

 

 

 長友は「痕跡を残す」という目標を掲げ、イタリアでの3年目のシーズンをスタートさせた。すべての状況が追い風というわけではないが、これまでの経験が彼の助けとなるはずだ。新しい監督の下、新しいインテルで新しい自分を見せるられるかどうか──。長友のキャリアにとって重要な1年が始まろうとしている。

 

wsk
ワールドサッカーキング
0816号 8月2日(木)発売 定価:570円

 今回の特集は、新シーズンの主役候補をテーマ別にフォーカスした「2012-13シーズンの『メインキャスト』」です。

 ヨーロッパの主要リーグが開幕する8月――。今年も選手たちの活躍に胸躍らせる季節がやって来ました。この夏に所属クラブを変えた者、2年目のジンクスに挑む者、失意の昨シーズンから再起を図る者……、その境遇は選手によって様々ですが、抱く思いは一つ。誰もが来たる新シーズンでの飛躍を心に誓っています。今回は2012-13シーズンの主役候補152人を一挙紹介。開幕前に注目タレントを総ざらいにしておきましょう。

 その他、インテル、ユヴェントス、レアル・マドリー、バルセロナのキャンプ・リポート、ロンドン・オリンピック出場16カ国のメンバーリストを収録。特別付録はマンチェスター・ユナイテッドとブラジル代表のネイマールのWSKスペシャル・ポスターです。

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