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イギリス代表から本気のブラジルまで、サッカーフリークがオリンピックを見る8つの理由

2012.07.25

オリンピックは夏の暇つぶしに過ぎない? いやいや、甘くみてはいけない。無名の若手有望株から謎に包まれたUAE、さらには“イギリス代表”から本気のブラジルまで、ロンドン・オリンピックのサッカー競技には、魅力が満ち溢れている。

北京オリンピックで金メダルを手にしたメッシとアグエロ

文=ニック・ムーア

【POINT 1】新シーズン開幕前のいい息抜きになる

 この文章を読んでいる方は、恐らく我々と同じような“サッカーフリーク”だろう。いつ、どこにいてもサッカーの試合が放送されていないか、ついついチャンネルをチェックしてしまう。しかし、オリンピック期間はそうもいかない。卓球から乗馬、レスリングに至るまで、とにかく幅広いジャンルの戦いが行われているから、他の競技にも目移りしてしまう。そこでの新たな発見も多いはずだ。

 いい試合というものは、サッカーに限らずどの競技にも存在する。特にオリンピックのサッカーにはあまり期待していないという方は、普段は観戦しないような競技に熱中するのも一つの手だろう。サッカーファンにとっては、きっとユーロと新シーズンの間のいい“息抜き”になるはずだ。

POINT 2】“妖精”たちが潜む大会

 アフリカ勢はなぜかオリンピックに強い。2000年のシドニー大会でカメルーンが優勝したのは記憶に新しいが、サッカーファンにとって最も強烈に印象に残っているのは1996年のアトランタ大会だろう。決勝戦でアルゼンチンと対戦したナイジェリアは、激しいシーソーゲームを制して世界中に衝撃を与えた。本大会出場の切符を得ただけでも喜びは相当なものだろうから、当の本人たちがどれだけうれしかったかは想像もつかない。セネガルでは今大会の出場権を獲得した日に、国民がレディー・ガガの曲をBGMに狂喜乱舞している映像が『YouTube』にアップされたほどだ。

 今年のアフリカネーションズカップで初優勝を成し遂げたザンビアも、その実力が確かなものであることを証明するため、並々ならぬ決意で今大会に挑んでくることだろう。更に、今年2月に国内リーグの試合で暴動が起き、昨シーズンのリーグ戦が中止になったエジプトにも注目が集まる。ハニ・ラムジ監督は「大会に向けて準備するのがとても難しくなってしまった。新しい選手をチェックする時間もないし、親善試合をすることもできない」と嘆いているが、コンディションに不安を抱える彼らがどんな戦いを見せるのかも注目だろう。

POINT 3】オリンピックの不思議な魅力

 オリンピックのサッカーを「レベルが低くてつまらない」と最初から馬鹿にするのはもったいない。もちろん、ベストメンバーで臨まない国もあるが、実は多くの強豪国が真剣にこの大会に取り組んでいる。この各国間の“温度差”こそがオリンピックらしさであり、面白いゲームが生まれる理由の一つなのだ。

 205カ国がそれぞれ自国を代表する素晴らしいアスリートたちをロンドンに送り込み、永遠に語り継がれるであろう熱戦を繰り広げる。無名のアジア人選手がライアン・ギグスをマークすることだって、ホンジュラスのワンダーボーイがスペインからゴールを決めることだって、いくらでも可能なのだ。

 確かにワールドカップと比べれば注目度は下がる。きっと、開催期間中はほとんどのスター選手が、ビーチでバカンスを楽しんでいることだろう。だが、オリンピックには別の魅力がある。好奇心をくすぐられて、ミラクルが起きる可能性がある大会。たとえ、ベラルーシ対ニュージーランドのようなマイナーカードでも観戦する価値は大いにある。

POINT 4】ブラジル代表が熱い

 今大会を見なければ、サッカーファンは大きな損をすることになるだろう。なぜなら、セレソンが超本気のメンバーで臨むからだ。今回のブラジルはトップレベルの選手を擁しているだけでなく、A代表を率いるマノ・メネゼスが監督を兼任するという力の入れようだ。その背景には、2年後に控えた母国開催のW杯を前に、国際舞台で調整しておきたいという思惑がある。ネイマールも「ブラジルサッカー協会の会長には“必ず金メダルを取ってくる”と約束したよ」と気合十分だ。

 ブラジルは今大会にチアーゴ・シウヴァ、フッキ、ネイマールといった豪華メンバーを擁したドリームチームで挑む。逆に、早々に敗退するようなことがあれば、メネゼスが職を失う可能性さえあるのだ。いずれにしても、同組のベラルーシ、ニュージーランド、エジプトにとっては、本当に恐ろしい相手だろう。


POINT 5】新興勢力UAEの台頭

 イングランドにとって“アラブ”、そして“サッカー”という2つのワードから連想されるイメージは、金貨と小切手である。しかし、オイルマネーで様々な有力選手を買い漁ってきた彼らも、代表チームとなると話は別。いくら金をチラつかせても、選手たちはそれぞれの出身国の代表でしかプレーできないからだ。

 そんな中、UAEのマフディ・アリ監督は国内組の選手を中心にメンバーを選出し、ゆっくりと、丁寧にチームを作り上げてきた。グループリーグ突破は難しいかもしれないが、彼らにとっては自らの進化を世界中にアピールする最高の舞台が整ったと言える。

POINT 6】若手スターの登竜門

 1992年のバルセロナ大会から「23歳以下」という参加資格が決定して以降、オリンピックは若手にとっての登竜門的な大会となった。特にアフリカと南米は、数少ない国際大会を経験することで若手選手に大舞台の雰囲気を味わってほしいと考えている。メダルはあくまでもおまけだ。

 2008年の北京大会ではリオネル・メッシの出場を巡って、バルセロナと代表チームが裁判で争ったこともあった。メッシはそれほどまでにオリンピックに出場したかったのだという。金メダルを獲得し、帰国したメッシは「アルゼンチン代表の一員として、この大会に参加できたことを誇りに思う」と語った。若手スターにとってオリンピックは大きな刺激を与える大会なのだ。

 1996年のアトランタ大会で銅メダルを獲得した“元祖”ロナウドも最高の体験だったと語っている。また、同大会で金メダルを獲得したナイジェリアにとっても、タリボ・ウェスト、セレスティン・ババヤロ、ヌワンコ・カヌ、ジェイジェイ・オコチャといった“黄金世代”が誕生した記念すべき大会となった。

 過去のオリンピックにも、古くはレフ・ヤシン、最近ではジョゼップ・グアルディオラやアンドレア・ピルロ、チャビやカルロス・テベスといったそうそうたる面々が出場している。その歴史からも大会の偉大さが分かるだろう。

POINT 7】イギリス代表への期待

 今年は久々に“フットボールの母国”で権威ある大会が開催されることになる。当然、イギリス代表には大きな期待が掛かるわけだが、大事なのは金メダルではない。サッカーファンにとっての楽しみは、夏の日差しが降り注ぐウェンブリー・スタジアムで、ブラジルとの決勝戦が開催されることなのだ。

 ギグスが左サイドを駆け上がり、トム・クレヴァリーやダニエル・スタリッジといった期待の若手がピッチで躍動する。恐らく、チームは一丸となって戦ってくれるだろう。我々をどれだけを興奮させてくれるのか楽しみだ。

POINT 8】お気に入りの選手を先取りチェック!

 多くのプレミアリーグファンは、愛するチームのお気に入り選手をオリンピックでチェックするのを楽しみにしていることだろう。例えば、リヴァプールのファンならルイス・スアレスやセバスティアン・コアテスを、チェルシーファンならオリオル・ロメウやフアン・マタの活躍に注目してしまうはずだ。他にも、韓国にはサンダーランドのチ・ドンウォンやアーセナルのパク・チュヨン、ニュージーランドには、この夏にQPRへ加入したライアン・ネルセンなどがいる。さらにブラジルにはトッテナムのサンドロやマンチェスター・ユナイテッドのラファエウ・ダ・シウヴァもいるから目が離せない。

 我々にとっての一番の楽しみは、多くの有望な若手選手がブレイクしてくれることだ。そして数年後、「あの選手は2012年のロンドン大会から目をつけていた」とお互いに自慢し合う。

 皆さんにぜひ注目してほしいのは、ホンジュラスのロヘル・ロハス、ガボンのピエール・エメリク・オーバメヤン、エジプトのモハメド・サラ、そしてUAEのアーメド・カリル……。カリムはなんと15歳の頃からUー20代表に“飛び級”で招集されていた逸材なのだ。大勢の若きタレントの活躍に胸を弾ませようではないか。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 さて、サッカー界ではとかく軽視されがちなオリンピックだがこの大会で金メダルに輝くこと、“世界一”の称号を得るということは、選手たちにいったい何をもたらすのだろうか。体験者は口をそろえてこう言う。それは「すべてだ」と―。

リオネル・メッシ(アルゼンチン代表|2008年北京大会で優勝)
「大会開幕前、周囲の人たちに『オリンピックに出場できる喜びは、他の大会と比べものにならない』と散々言われたけど、まさにその通りだったね。大会の開催期間はわずか3週間だったけど、本当にきらびやかで最高の3週間だった。あの思い出は一生忘れないよ。オリンピックのような価値ある大会に出場したからには、絶対に金メダルを狙いに行こうと思って、初戦からそのつもりで臨んだ。アルゼンチン代表の一員として、あの熱い夏を体験できたことを誇りに思う」

ロベルト・アジャラ(アルゼンチン代表|2004年アテネ大会)
「アルゼンチンのユニフォームを着て、なおかつキャプテンマークを巻いて金メダルを手にした瞬間は、僕のキャリア史上最高の瞬間だった。96年のアトランタ大会では決勝で敗れ、目の前で優勝を逃してしまっていたから喜びもひとしおだったよ。アトランタの時は突然ナイフで刺されたような感覚を覚えた。ぼうぜんとしてしまったんだ。でも幸いにも、その4年後にオーバーエイジ枠で代表に呼ばれ、再びあの舞台に立つことができた。4年前の“忘れ物”を取りに行くことができたんだ」

ヌワンコ・カヌ(ナイジェリア代表|2004年アテネ大会)
「開幕前はまさか優勝できるなんて思ってもいなかった。でもチームがいいパフォーマンスを見せ、勝ち上がっていくにつれて自信が出てきたんだ。自分たちの力を信じて、新しいチャレンジをしてみたいという気持ちがどんどん強くなっていったよ。ブラジルとの準決勝でゴールデンゴールを決め、チームを決勝に導いた瞬間のことは生涯忘れない。もちろん、アルゼンチンとの決勝戦のこともね。強豪国を次々と倒し、世界の頂点に立てたことは、キャリアの中でも輝かしい記憶だよ」

 

【浅野祐介@asasukeno】1976年生まれ。『STREET JACK』、『Men’s JOKER』でファッション誌の編集を5年。その後、『WORLD SOCCER KING』の副編集長を経て、『SOCCER KING @SoccerKingJP』の編集長に就任。

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