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【CS展望】ガンバ大阪 三冠王者の意地。Jの頂点は譲らない

2015.11.28

Urawa Red Diamonds v Gamba Osaka - J.League

[写真]=Getty Images

「ナショナルダービー」と言われる両者の激突はこれまで数々のドラマを生み出してきた。パスサッカーの看板は浦和に譲ったとしても、ひとつだけ譲れないものがある。[浦和レッズマガジン1月号掲載]

「引き立て役」と「主役」またひとつ新たな歴史を

 東西を代表する両雄の激突はしばしば、こう評される。

 ナショナルダービー。

 1993年のJリーグ開幕戦で顔を合わせたガンバ大阪と浦和レッズは、優勝争いにおよそ縁がなかったJリーグ創設期とは対照的に、近年幾多のタイトルを争うクラブに成長した。

 因縁。宿命。遺恨。雪辱……。両チームの選手の顔ぶれやスタイルが、時代とともに変わっても、サポーターだけは永遠に過去の勝敗を忘れることはない。

 G大阪が、悲願のクラブ初タイトルを手にした2005年以降、様々な大会で両者は時に勝者として感涙にむせび、そして時に敗者としての悔し涙を味わって来た。

 青色と赤色のペンで記された歴史書の第一章の始まりは2006年12月2日の埼玉スタジアムである。

 3点差以上で勝てばリーグ連覇を果たせる2位につけていたG大阪は、首位浦和との直接対決に挑んだものの、真っ赤に染まった埼玉スタジアムで見せつけられたのはワシントンや闘莉王らの歓喜。続く天皇杯決勝でも初優勝を阻まれた。

「またレッズの引き立て役に終わってしまった……」

 浦和への敵対心を決して隠そうとはしなかった当時の西野朗監督が甘受した「引き立て役」の構図が一変したのは、2008年のAFCチャンピオンズリーグ準決勝の2ndレグだ。

 遠藤保仁を中心としたパスサッカーがG大阪のスタイルならば、当時の浦和が押し出して来たのは攻守両面での個の強さ。そんな対照的なスタイルもナショナルダービーの味付けのひとつだったが、G大阪は3-1で快勝し、決勝進出。ライバルを下した勢いで、前年に浦和が勝ち取っていたACL初制覇に成功する。

 「引き立て役」と「主役」の構図が一変した2008年以降、G大阪は大一番でひたすら「浦和キラー」ぶりを見せつけて来た。2012年にはクラブ史上初のJ2降格を強いられたものの、依然G大阪は浦和のタイトルを阻む存在であり続けた。

 一シーズン制最後のシーズンとなる昨年、長らく首位を独走していた浦和だったが、11月22日の直接対決でG大阪が2-0で勝利し、2位に浮上。そして、天王山を制した大阪の雄は、最終節で2度目のリーグ優勝を手にすることになる。

 一時はリーグを独走していた浦和が、終盤戦で失速。Jリーグ史上最大の逆転劇で最後にスポットライトを浴びたのはG大阪だった。

 2008年のACL以降、タイトルがかかった大一番では浦和に一度も遅れを取っていないG大阪ではあるが、長谷川体制以降の公式戦は常に手に汗握る接戦の連続だ。「浦和とやる時は、いつも接戦になる」(遠藤保仁)。昨年以降、リーグ戦では2勝2敗。昨年のアウェーの天王山こそ2点差がついたものの、それ以外は常に最小得点差で勝敗が決している。

静かに闘志を燃やす『浦和キラー』遠藤保仁

 もっとも、長年積み上げて来たナショナルダービーの重みに変わりはないが、両チームのスタイルは確かに変化した。

 西野監督が率いた当時の圧倒的なポゼッションサッカーとはうってかわって、長谷川ガンバの持ち味は堅守をベースにした勝負強さ。

 今野泰幸の言葉は象徴的だ。

「今のガンバはまず粘り強く守備をして、それから相手の隙を突く」

 そんな三冠王者のメンタリティが象徴されたのが「アウェーで負けたリベンジをする」と指揮官が意気込んだ2ndステージの一戦だ。

 結果的にG大阪が2-1で振り切ったが、シュート数はG大阪の7本に対して、浦和は21本。主導権を握られながらも、守護神の東口順昭を中心に要所を耐え抜き、数少ないチャンスを点に結びつけた。

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[写真]=Getty Images

 ただ、スタイルや大半の主力の顔ぶれが変わっても、ひとつだけ不変の存在がG大阪にはいる。それが『浦和キラー』で知られる遠藤だ。「特に浦和相手だからと言って意識はしない」とマイペースな大黒柱は、過度のライバル心を否定するが、残して来た数字は雄弁だ。

 浦和戦ではチーム最多となる6得点をマークしている。昨年からのリーグ戦4試合では自身の得点こそないものの、昨季の天王山では自陣からのパスで先制点を演出。そして、奇しくも遠藤自身にとってJ1通算500試合の節目となった今年10月の対戦でも、2点を陰から演出し、やはり浦和戦にひときわ強い男であることをその右足で証明してみせた。

 10年に及ぶライバル物語を肌で体感し続けて来たJリーグ随一の背番号7が、チャンピオンシップで相まみえる浦和戦で燃えないはずがない。

「タイトルは何個獲ってもいいもの。これからも取り続けたい」

 2006年のJ1最終節では浦和にリーグ連覇を阻まれた遠藤にとって、今季はクラブ史上初のリーグ連覇を成し遂げる格好のチャンス。その戦術眼と右足で再び『キラー』ぶりを見せつけるはずだ。

 今季チームが最も重視していたACLでは準決勝で敗退したG大阪にとって、チャンピオンシップは三冠王者の意地を見せつける格好の舞台である。

 就任以来「相手に合わせるサッカーはしない」と公言して来た長谷川監督だが、サンフレッチェ広島や浦和の3バックに対してだけは、特別な布陣で相手の良さを消しにかかってきた。

 2ndステージからメインに用いる4-2-3-1のシステムを変えることはなさそうだが、『長谷川ガンバ』ではボランチだけでなく2列目や最前線もこなす遠藤の起用法は流動的。「今季、一番成長した選手」と指揮官が信頼を置く2年目の井手口陽介が台頭して来たこともあり、2ndステージの浦和戦では遠藤がトップ下に配置され、攻守で重要な役割を託された。

 右足首に古傷を抱える守備の軸、岩下敬輔の欠場が濃厚なのは痛手だが、攻守両面で「誰が出ても変わらないサッカー」を標榜して来たのが『長谷川ガンバ』である。昨年以降のリーグ戦で浦和を下した一戦では宇佐美貴史とパトリックの二大エースが沈黙したが、それでも伏兵の得点で手堅く勝ちきった。

 パスサッカーの看板はもはや浦和に譲った感は否めないが、ひとつだけ譲れないものがある。それは、チャンピオンシップの決勝で勝者として演じる『主役』の座だ。

By 下薗昌記

朝日新聞記者を経てブラジルに移住。南米で600試合を取材し、現在はガンバ大阪を追いかける。

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