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2015.10.02

なでしこエースの37時間帰国が証明する“中西メソッド”の価値

スペイン在住歴5年。ラ・リーガに精通するサッカージャーナリスト
今夏のW杯に出場した際の大儀見 [写真]=FIFA via Getty Images

 9月19日に行われた明治安田生命J1リーグ・セカンドステージ第11節の川崎フロンターレと名古屋グランパスの試合で等々力競技場になでしこジャパンのFW大儀見優季が姿を現したことで会場の一角からは「なぜ大儀見がいるんだ?」という声が漏れ聞こえた。試合後に大儀見は中村憲剛と写真撮影をし、両者がSNS上で写真をアップしたことから多くのサッカーファンに知られることとなった大儀見の一時帰国だが、彼女は欧州女子代表のユーロ予選のためオフとなった週末から月曜までの3日間のオフを利用して日本に戻ってきたのだった。

 今シーズンはフランクフルトへ移籍したことで乗り換えなしで日本まで戻れるとはいえ、わずか37時間という滞在のため一時帰国する選択をした大儀見に対してチームメイトからは「クレイジー」という反応があったという。一時帰国した理由は、名古屋や川崎でプレーした元Jリーガーで現在はスポーツジャーナリストとして活躍する中西哲生氏のパーソナルトレーニングを受けるためだ。

 中西氏の著書『日本代表がW杯で優勝する日』で「僕は長友(佑都)がチェゼーナにいる時から、スイングをチェックし、アドバイスするゴルフのレッスンプロのように、キック、トラップ、ドリブルなどのフォームに関するアドバイスをさせてもらっている」と明かしている通り、長友佑都や大儀見優季といった選手に『中西メソッド』と呼べる独自の指導法でここ数年パーソナルトレーニングを行っている。

 同志社大学卒で学生時代から文武両道を実践してきた中西氏らしく、引退後はラジオやTVのコメンテーターとしてサッカーやスポーツの枠を超える分野の知識や教養を身に付けたことで結果的に中西メソッドの根幹を成す「日本人らしいサッカーをするために必要な身体の使い方と技術」が再定義されている。

 例えば、『軸足抜きトラップ』は今すぐにでも育成年代の指導に浸透させたい技術の一つで、言葉通り軸足を地面から離してボールを止めるトラップのこと。中西氏が「なぜ欧州や南米の選手は強いパスでもピタッとトラップできるのか」と観察していて気付いた技術で、ボクシングのサンドバックを思い浮かべてもらえばわかりやすい。宙吊りとなっているサンドバックはどれだけボクサーのパンチが強くともパンチを吸収するが、理論としては「身体全体が浮いていればボールは身体に吸収されて跳ね返りが弱まる」というもの。

 すでに軸足抜きトラップを習得した大儀見は「今では逆に速いパスでないとコントロールし難い」と話す。また、川崎や欧州のバルセロナの試合を見れば、「巧い」と評価される選手がことごとくこの軸足抜きトラップをしていることに気付くだろう。この例に代表されるように、中西メソッドの技術とその背後にある理論を知れば知るほどサッカー指導や技術の定義において実は未開拓の領域が多いことがわかる。

 日本トップレベルの選手に技術指導をしながら完全無料、逆に1時間数万円もする民間のフットサルコート代やトレーニング後の食事代を自腹で出し「日本サッカーのため、誰かのために生きる」ことを粛々と実践してきた中西氏はこうした活動を自ら宣伝することは絶対にしない。しかし、すでに完成の領域に入っている中西メソッドは日本サッカー界として絶対に共有すべき指導法だと断言できる。今回の大儀見の大胆な行動を見ても、中西メソッドの価値というのはすでに証明されている。

文=小澤一郎

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