2012.07.12

アネルカに続きドログバも獲得、上海申花の経営戦略と大物選手が中国に新天地を求める理由

ワールドサッカーキング 2012.07.19(No.222)掲載]
 近年、急激な経済発展を遂げている中国の主要都市、上海にサッカー界のビッグネームが集まりつつある。中国の人気クラブの一つ、上海申花は今年1月に獲得したニコラ・アネルカに加え、6月下旬にはチェルシーでチャンピオンズリーグを制したディディエ・ドログバまで射止めた。一躍、時のクラブとなった上海申花の経営戦略、そして大物選手が中国に新天地を求めた理由とは。

Text by John DUERDEN

■マイナークラブに続々と大物が流入

 中国の中でも特に華やかでセレブな大都市というイメージが定着しつつある街、上海。今では世界でもトップクラスの人口を誇るまでとなった。その上海をホームタウンとするサッカークラブが上海申花である。世界的な視野で見れば、中国はサッカー後進国であり、上海申花も注目を集める戦歴があるわけではない。だが、我々はそのクラブを知っている。今年1月にニコラ・アネルカが加入したからであり、先日、ディディエ・ドログバもそれに続いたからだ。

 アネルカはケガによるブランクがあったにもかかわらず、今シーズンの中国サッカー・スーパーリーグにおけるデビュー戦でピッチの至るところを駆け回る、チェルシー時代と変わらないパフォーマンスを見せていた。背番号もチェルシー時代と同じ39。しかし、あとは何もかもが違った。1-1で江蘇舜天との“長江ダービー”に引き分けた試合のクオリティーはパッとしないものだった。果たしてアネルカがいる価値はあるのだろうか、と疑うほどに。

「申花はアネルカの実力に見合ったチームではないと思うでしょう。その判断はあながち間違ってはいません。申花はここのところ低迷していますから」と言うのは、この試合を観戦していたサポーターだ。中国スーパーリーグにおいて上位の常連である上海申花だが、最近の成績は思わしくない。昨シーズンは11位でアジアチャンピオンズリーグの出場権獲得を逃した。今シーズンも立ち上がりでつまずき、上海で我々の取材に応じてくれたフランス人監督のジャン・ティガナは既に解任された。

 それでも、話題性で言えば中国サッカー界ではナンバーワンだ。何せあのドログバを獲得したのだから。公式発表の数週間前から、申花のメンバーとサポーターたちはドログバの加入を確信し、大きな期待を抱いていた。申花には背番号11の選手がいないのに、いきなり公式HPの選手紹介に11番のスペースが作られたから、というのがその理由だ。

 また、アネルカは以前からこう話していた。「申花でチームメートにするなら、第一希望はドログバだ。大きな声では言えないけど、彼は必ず来る。チェルシーを発つ前、俺は彼に上海に来いと言ってきた。きっと俺たちはまた一緒にプレーすることになる」

 既に濃厚となっていたドログバ移籍のうわさを否定したのはティガナただ一人だった。取材班が市の北部に新しく建てられた申花のクラブハウスで彼に取材した際、ティガナはこう答えている。「ドログバが来るかどうか、私には何とも言えない。イングランドとは違い、ここには監督に補強の権限がない。理事会に獲得すべき選手のリストは提出したが、それから先は理事の仕事。交渉について詳しいことは全く分からない」

■オーナーが展開する独自の経営戦略論

 上海申花のオーナーである朱駿は、一時期アメリカに住んでいたものの、上海生まれの上海育ちだ。オンラインゲーム『The9』の開発によって手にした莫大な富を持ってサッカー市場に参入したのは05年のこと。ただし買収したのは上海のもう一つのチーム、上海聯城だった。その運営はうまくいかなかったが、彼は資金力を武器に大胆な策を実行に移した。ライバルクラブの申花を買収し、聯城と合併させたのだ。この合併は聯城の選手を多く残すものだったため申花サポーターの不満を買い、懐柔策としてチーム名に「申花」の名前を残した。

 朱駿はチームの作り方についてこんな理論を持っている。「ヒット映画を生み出す時と同じように、まずはタレントをそろえることが大事なんだ。アクション映画で言うなら、ジャッキー・チェンやジェット・リーを主役に据えた時点で、映画の成功はほとんど約束されたようなものだ。最初に優秀な人材を中心に据えれば、そこに良い人材が集まってくる」

 移籍交渉についても面白いコツを持っている。「女性をナンパするのと同じだよ。初めは邪険に扱われても、諦めずにいれば良い結果が出るものだ」

 朱駿のサッカーへの情熱は嘘ではない。ただ、彼は純粋なサッカーへの情熱だけを上海申花に注いでいるわけではなさそうだ。人気クラブは彼が展開する様々なビジネスの宣伝に使える。また、上海申花のオーナーという地位を使って政府との関係を築くこともできる。中国で成功を収めるためにはコネクションが必須であり、上海を本拠とするサッカークラブはそのための最上のツールであるというわけだ。

■アネルカが語る移籍の決め手

 中国の経済発展はすさまじく、上海はその象徴だ。過去にはイギリスとの戦争を引き起こす原因ともなったアヘン貿易の拠点だったが、現在は光り輝く超高層ビルと2300万人の人口を抱える巨大都市へと変貌を遂げている。経済が傾いたヨーロッパ諸国と比べると、その差は明らかだ。この国と街の成長ぶりを見るに、上海申花も大きな成功を手にしていると思われたが、現実はそんなに甘くなかった。少なくとも今のところ、上海にサッカー都市の側面はほとんどない。

「すべては成績次第だ」とクラブ関係者は言う。「この街はサッカーが人気を得るには発展しすぎている。別にサッカーでなくても、人々の娯楽は十分すぎるほどにあるんだ。サポーターもいるが、人気は成績次第だね」

 もっとも、新天地をこの街に求めたアネルカのような者にとって、人々のサッカーへの関心はさして問題ではない。

 アネルカは上海申花への移籍を決めた理由をこう語る。「もともとアジアの文化には興味があったんだ。アジア諸国へ遠征に行くとなると、プレーよりも各国の文化や雰囲気を楽しむことに重きを置いていたぐらいさ。だから上海申花からのオファーにはすぐに食い付いた。ほとんど即決だったよ」

 30歳を迎えたベテラン選手は自らの故郷の近くでキャリア最後の数年を過ごそうと願うのが普通だ。しかし、アネルカの考えは違った。彼は自らの故郷とはまるで異なる環境に飛び込み、異文化を味わいたいと考えたのだ。上海でのアネルカは充実した日々を過ごしている。

「自らの選手生命を一つのクラブに捧げるのもいい選択だと思う。でも俺が移籍を決めた理由として、異文化を体験してみたかったっていうのは大きい。サッカー以外にも世界はあるわけだし、いつかは引退しなくちゃならないんだ。自分とは異なる国の文化や人と触れた経験は、きっと引退後の人生をより充実させてくれると思うんだよね」


◆  ◆  ◆ 

 上海は成功の象徴だ。上海申花もこの都市が発展してきたのと同じように、大きな成功を収めことができるだろう。アネルカに続き、オーストラリア代表のジョエル・グリフィスが加入したことでチーム力は格段に上がった。そこへドログバが加わるのだから、ファンが期待するのも当然である。上海申花の変革が成功すれば、アジアサッカー界の“眠れる巨人”が目を覚ますかもしれない。

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【浅野祐介@asasukeno】1976年生まれ。『STREET JACK』、『Men's JOKER』でファッション誌の編集を5年。その後、『WORLD SOCCER KING』の副編集長を経て、『SOCCER KING @SoccerKingJP』の編集長に就任。

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