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ポポヴィッチが見据えるビッグクラブへの道標「FC東京をブランド化したい」

2012.06.01

 軽快なパスで主導権を握り、チーム全体が連動したサッカーで勝利を目指す2012シーズンのFC東京。「C・O・A Football」をスローガンに掲げるチームは、文字どおり「Collective」(=組織的)に、「Offensive」(=攻撃的)に、そして「Attractive」(=魅力的)に戦い、結果と内容で周囲の期待に応えている。
 
 そのチームを率いているのが、今シーズンから監督に就任したランコ ポポヴィッチ。彼はFC東京というチームを、そしてクラブをいかなるステージへ押し上げようと考えているのか。FC東京が歩むべき道筋と今後の可能性を探るため、ここで指揮官の思考を紐解いていこう。

 

 
インタビュー・文=馬場康平 Interview and text by Kohei BABA
写真=新井賢一Kenichi ARAI

 
バルセロナならガウディとサッカー
東京も同じような存在に

 
ポポヴィッチ監督は「ずっとFC東京をブランド化したい」と言ってきました。
まずはその真意についてお聞かせいただけますか?

 
ポポヴィッチ(以下ポポ) それが日本サッカー界にとっていいことだと思いますし、東京にあるクラブならなおさらです。世界の首都には必ず、その国を代表する塔や橋、有名な建造物があります。そして同時に国を代表するサッカークラブがある。もしローマへ行ったとしたら、コロッセオのような歴史的な建造物を見る。そこでもし、ラツィオとローマのダービーマッチがあったら、みんなが見に行く。ベオグラードに来た観光客も、やっぱりレッドスターとパルチザンの試合を見たいと思うものです。マドリードではプラド(美術館)へ行ってレアル・マドリーの試合を見る。バルセロナならガウディの建造物を観光して、最後はバルセロナの試合を見る。そういう形でつながっているんです。
 
 だから、私は東京も同じようにしたい。経済的な効果も含めて、私たちにとってこれだけ大きくて意味のある挑戦はない。FC東京を世界に広める意味でもね。東京は外国から無数の観光客が訪れる場所です。その人たちがFC東京の試合を見に来て、グッズを買う。その思い出やグッズを持ち帰ることで、私たちのクラブがその国に知れ渡る。そのためにも私たちはやはり攻撃的かつ魅力的なサッカーで結果を出さなければならない。そうしてこそ、皆さんがスタジアムにより多く足を運んでくれると思うんです。今シーズンは何試合かそういうゲームを見せることができたとは思いますが、それを常に見せ続けることが東京のブランド化における第一歩だと思っています。それに私たちは「己に勝つ」ことも目指さなければならない。クラブとして同じことばかりを繰り返すのではなく、新しいことに挑戦していくことが必要です。

 そして最終的には、東京で生まれる子供たちがアニメのキャラクターではなく、東京ドロンパのぬいぐるみを欲しがるようにしたい。私が一番許せないのは、東京出身の人間でありながら、「FC東京よりもマンチェスター・ユナイテッドやレアル・マドリーが好きだ」と言う人がいること。東京に生まれたのならば、まず一番最初にFC東京を愛してほしいんです。
 
ただ、その一方で東京という大都市だからこそ難しい部分もあると思います。
 
ポポ だから私たちが魅力的で面白いサッカーをやらなければいけない。みんなを引き付けるものを作る必要があるんです。いきなり「絶対に外せない名所」になろうというわけじゃない。もちろん、そこに近付きたいとは思っていますが、まずは東京タワーや東京スカイツリーのような存在になっていきたいんですよ。
 
確かにサッカーの好きな日本人がバルセロナへ行けば、まずガウディの建造物を見て、パエリアを食べて、夜はスタジアムへ行くという流れが想像できます。
 
ポポ そうでしょう(笑)。ドイツへ行ったらソーセージを食べてビールを飲む。イングランドだったら、パブでビールを飲みながらサッカー観戦ですよね(笑)。東京もそうなりたいんですよ。寿司、シーフード、そしてFC東京のサッカーがあってほしい。
最高ですね。
 
ポポ そういう日が来ると信じなければ実現はしないですし、逆に信じているだけでもダメ。行動を起こさなければ。私はロマンチストなんです。サッカーに関しては、私のアイデアとか発想が実現できると信じていますし、そのために自分がやれることを精いっぱいやっていきたい。現代社会、皆さんは少なからずストレスを抱えながら生きています。だから私たちはストレスを和らげ、喜びを分け与えられるような存在になりたいと思っています。
 
サッカーを通じて活力を与えたいということですね。
 
ポポ 逆に私たちも力をいただいています。真のファン・サポーターの皆さんは、苦しい時に一体となって背中を押してくれます。ブーイングをいただくのは、ウチの選手たちが100パーセントの力を出し切っていない時。結果が悪かった時にだけブーイングするのではなく、結果にかかわらず選手たちのプレーがどうだったのかを見ていただきたい。だから我々は手を抜いたり、全力を出し切らなかったりすることは絶対にやってはいけ
ない。皆さんの温かく、厳しい目が私たちを成長させてくれるのです。
 
監督はよく「家族になりたい」という話をされていますよね。
 
ポポ そのとおりです。自分たちが現在持ち得る実力を客観的に評価し、それよりも少し上の目標を持って、実現させなければなりません。そうなるためにはクラブやチーム内部だけではなく、ファン・サポーターの皆さんや、今まで東京の試合を見たことのなかった人たちとも一体にならなければいけない。継続することによって生まれてくるのが、最終的に習慣や文化になっていくのです。
 
家族も歴史を積み上げていくものですからね。
 
ポポ 段階を踏みながらですよね。すべてが一気にうまくいくわけではありませんから。サッカーも1試合でうまくなるわけではない。だから徐々に進んでいくことが必要なんです。大切なのは、家族がお互いにしっかりリスペクトし、助け合っていくこと。それは「大丈夫、大丈夫」と安心させるだけではありません。厳しい言葉を投げ掛けたり、間違いを指摘することも助け合うことなのです。
 
監督は先ほど「常に己に勝つことに挑戦したい」という話をされました。抽象的かもしれませんが、このチームにおける挑戦とはどんなものでしょうか?
 
ポポ 挑戦していくためには何度も申し上げたとおり、自分たちの力を出し切らなければならない。それには自分のためだけではなく、チーム全体でコレクティブ(組織的)にやっていく必要があります。自分のためだけに力を出し切ると、間違った方向に行く場合があります。時には直接的に自分のためにならないことがあるかもしれませんが、コレクティブに全力を尽くすことによって、最後には必ず自分へと跳ね返ってくる。東京における挑戦は、その積み重ねによって上を目指すことでもあります。
 
コレクティブなスタイルを求めるようになったきっかけはあったのですか?
 
ポポ これは私の受けた教育環境が影響を及ぼしていると思います。自分自身の考え方がコレクティブに取り組むという発想なんです。
 
ポポヴィッチ監督が意味するところの「コレクティブ」の真意について教えてください。
 
ポポ 例えば、人生において幸せなことや悲しいことがあった時、一人でいるのと、周りに気持ちを分かち合える人がいるのとでは大きく違います。悲しいことがあった時は一人でうなだれているのではなく、誰かに電話を掛けたりしませんか? そこでコミュニケーションを取って悲しみを和らげたりしますよね。サッカーも同じです。ここに水や米、パンがあったとします。ただ、それは一人分しかない、当然、分け与れば自らの取り分は少なくなってしまう。でも、幸せと愛情だけは分け与えたほうが大きくなるんです。私たちの前に大きなケーキがあって、周りに空腹の人がいるのを知りながら、それを一人で食べるとしましょう。気分はいいですか? それよりもみんなに配分して、楽しくコミュニケーションを取ったり、話をしながら食べたほうが楽しいですよね。これが私が考える「コ
レクティブ」ということなのです。
 
そのバックボーンには、祖国セルビアの内情があったりするのでしょうか?
 
ポポ そのとおりです。自分が手にしているものを独り占めするのではなく、分け与えたほうが幸せになれるという教育を受けてきました。それに友達との付き合い方や物事の考え方、社会的な考え方など、日本の感覚に通じる部分があるようにも思います。
 
監督が考えるコレクティブなスタイルに日本人は適しているのでしょうか。そのサッカーが非常に魅力的に見えるのは、お国柄の背景もあるように思います。
 
ポポ コレクティブに戦うスタイルは日本人の特性に合っていると思いますよ。それに自分たちの力をより引き出せる戦い方でもあります。あとはチームとしてコレクティブに戦う中で、自分の個性をどう生かすか。例えばドリブルのうまい選手がいたら、そのストロングポイントをどういう状況で、どういう時に使うのかが重要です。それを理解しているのなら、これほど効果的なものはない。もちろんチームに貢献するプレーとなりますし、非常にコレクティブと言えます。反対に自分のアイデアも個性もなしに、みんなが同じプレーをしていたら、それは「右へならえ」の軍隊でしかない。それは私が望むところではないですからね。

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開催日時:6月11日(月)開場18:30/開演19:30(21:00終了予定)
会場:調布市文化会館 たづくり(くすのきホール)
出演者:(敬称略)
◎ランコ ポポヴィッチ(FC東京監督)
◎前田治(サッカー解説者/元日本代表)
◎三田涼子(TOKYO MX)
◎占部哲也(東京中日スポーツ)


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