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2年目の香川真司が得た余裕「昨シーズン見えなかったものが今シーズンは見えている」

2012.04.23

「優勝争いを楽しみたい」

 盟主バイエルンとの熾烈な優勝争いの最中、香川真司はそう語っていた。「厳しい戦い」だと認めながらも「すごく楽しいですよ」と。

 そして迎えた第32節、ドルトムントはボルシアMGに2−0で勝利を収め、ブンデスリーガ2連覇を達成。定位置のトップ下でスタメン出場を果たした香川は、今季リーグ戦13点目となる駄目押しゴールをマークしている。

 今や欧州トップリーグの主役の一人となった香川真司。欧州移籍2年目にして、日本人選手の得点記録を塗り替え、ドルトムントの攻撃陣を“結果”で牽引するエースとなった。優勝直前に行ったインタビューから、香川の“手応え”を振り返る。リラックス感と力強さが程良く融合されたその言葉を聞く限り、2年連続のリーグ制覇は香川にとって“予想どおりのシナリオ”だったようにも思えてくる。

Interview and text by Yusuke MIMURA, Photo by Itaru CHIBA

『日本人最多ゴールは達成できると思っていた

高原直泰選手の持っていた欧州1部リーグにおける日本人最多ゴール記録(11ゴール)を更新しましたが、その実感はありますか?
香川「どうでしょうね……。今シーズンの前半戦はかなり苦しみましたけど、後半戦に入ってからゴールを量産することができているのは確かです。でも、それはタイミングもあるし、チームに助けられている部分もありますから。来シーズンも同じことができるかは分からないですよ。でも、この2シーズンを戦ってきたおかげで『これくらいはやれる』という自信はつかめています。決めるべきチャンスで決めていれば、今回の記録も達成できると思っていました」

ここまでの活躍の要因はどこにあると考えていますか?
香川「自分はブンデスリーガの首位にいるチームで、ゴールに2番目に近いポジションでプレーしている。そう考えれば、これくらいはゴールを決めていないとおかしいと思う部分もありますね。周りの選手がチャンスを作り出してくれるし、チームとして攻撃する時間も長いですから。ここにいれば誰にでもチャンスはやってくるので、それを決めているだけなんですよね。僕が日本人だということは別として、世界的にみれば普通のことだと思います。もちろん、日本メディアとしては、新しい記録ということに注目してくれるのは分かるんですけど……。振り返ってみれば、他にも決めなきゃいけないチャンスはあったと思っています」

これからドイツにやって来る日本人選手がいるとしたら、どういうアドバイスをしてあげたいですか?
香川「まずは自分のプレースタイルに自信を持って勝負するということ。そこで勝負すれば、絶対に通用すると思いますから。あとは、やっぱり結果を求められる世界なので、ゴールやアシストなどの結果をうまく残すことですね。それができれば、みんなからの評価も上がります。サポーターから評価されてプレーできるのはすごく幸せなことですよ」

香川選手がドイツにやって来た時はまだ21歳でした。どうして自分のスタイルに自信を持ってプレーすることができたのですか?
香川「ブンデスがどうしようもないほどレベルが高いところだとは思わなかったし、それは練習でも感じていました。もちろん、初めての海外移籍だったから、いろんな意味でのプレッシャーはあったんですけど、『自分はここでやれるんだ』と信じて、言い聞かせていましたからね。ブンデスに来たからプレースタイルを変えるというのではなくて、自信を持って自分のプレーをすることが一番大事だと思います」

シーズン後半戦で得点ペースが大幅に上がった要因は?
香川「まずは、昨シーズンよりも格段に余裕があります。ゴールシーン一つ取ってもそうだし、プレー全体をみてもそうだと思います。今は自分でチームの攻撃を組み立てている実感があるというか、ほとんどすべてのチャンスに関われていると感じます。『自分の調子でチームの成績も変わっていくんだ』という責任感を持ってやっているからかもしれません。そこが昨シーズンとは全く違います。昨シーズンの前半戦はチームに勢いがあって、その中で自分もゴールにも絡むというイメージだったけど、今は自分がたくさんチャンスを作った上で、それを確実にモノにできている。そういう意味で昨シーズンよりも成長しているということは強く感じますね」

「余裕ができた」というのは?
香川「ボールを受けた時にたくさんの選択肢があるということです。味方の特徴が分かってきた分、自分の中でプレーの選択肢が増えています。そういう意味で、今はボールを取られる気がしないし、本当に調子が良いなと実感しています。自信を持ってプレーできているし、どんどんパスを出してほしいという気持ちで試合に臨めていますね」

選択肢が増えたというのは自分がシュートへ至るまでの道筋がいくつもあるということですか? それとも、周囲を生かすパスも含めてプレーの選択肢があるということですか?
香川「うーん……チームメートを生かしつつ、自分もシュートに絡んでいけるという感じです。一つひとつゆっくりと考えながらプレーしているわけではないけど、とっさの判断がうまくできていると思います。今は試合中に得点のイメージがわいてくる。それはしっかりチャンスに顔を出せているということでもあるし、チャンスでボールを受けた時にも余裕を感じますね」

一つひとつのプレーの判断を下すスピードが速くなったと?
香川「というよりも、チームメートのサポートが大きいんですよ。例えば、現時点で日本代表でも同じプレーができるかと言ったら、まだできていない。もちろん、それができるようにならないといけないんですけどね。ドルトムントではボールを持った時に選択肢がたくさんある。みんながよく動くし、ギュンと前に出て行くスピードがあるから、僕がボールを持ったら両サイドが積極的に前に駆け上がってくれる。僕も彼らの特徴やスピードはよく分かっているから、どんなパスを出せばいいのかもすぐに判断できる。そういうことも大きいと思います」

サイドバックの選手以外との関係でもそれは感じますか?
香川「例えば右MFの(ヤコブ)グラシュチコフスキとの関係で言えば、彼がボールを持った時にワンツーができるポジションでパスを受けるようにすれば、彼も生きるし、僕の特長も出せる。そういう判断がすぐにできるんです。だから、周りのサポートがあって、僕も生かされているという感じ。欲を言えば、もっとボランチからの縦パスが欲しいかな」

ボランチからの縦パスがうまく出てこないのはシーズン当初からの課題でした。
香川「でも、(イルカイ)ギュンドアンがスタメンに入ってからはすごく縦パスが入るようになった。だから今は以前よりも楽しいし、前よりもチャンスになる確率は高くなっていると思います」

最近のギュンドアンのプレーはすごく“効いて”います。彼のパフォーマンスが向上してきたのはなぜだと思っていますか?
香川「ギュンドアンはもともとボランチの選手ではなかったけど、ようやく自分の役割が分かってきたんじゃないかな。彼は自分のことをよく見てくれるし、信頼し合えているのもうまくいっている要因の一つかもしれない」

『常にパスを出してくれるそれは楽しいです(笑)

特に今年に入ってからは、「周囲の選手が自分を見てくれるようになった」とよく口にしていますね。
香川「明らかにそう感じますから。後半に入ってからは結果が出ているし、チームメートも『シンジに預ければチャンスになる』と考えてくれていると思う。だから常に自分を見てくれて、パスを出してくれるんだと思います。やっぱり、それは楽しいですよ(笑)」

その変化はどこから生まれたんだと思いますか?
香川「どうなんだろう、もちろん結果を残しているからだろうし……。あとは(マリオ)ゲッツェがケガで出られなくなったというのもあるかな。彼がいなくなった分、イマジネーションが欠けてしまいがちだから、僕に対する期待が大きくなったのかもしれない。ゲッツェがいた時は、みんなが気を遣っている部分もあった。彼もボールを持ったら勝負していくタイプで、たまにボールを取られてリズムを失うこともあったから。そういう意味では、チームとしてうまくリズムができている部分もあると思います。もちろん、ゲッツェにはゲッツェの良さがあるから、彼がいなければいいというわけではないですよ」

今は昨シーズン以上にボールを持ったチームメートが香川選手の動きを見てくれている実感もあるわけですね。
香川「すごくありますね。やっぱり今シーズンはゴールに直結するパスやシュートに絡めていますからね。実際、ゴール数も増えたし、アシストの数も増えた。そこが昨シーズンとの大きな違いですね。僕自身、昨シーズンは見えなかったものが今シーズンは見えているように感じます」

「見えなかったもの」とは? もう少し具体的に教えてください。
香川「スルーパス一つ、あるいは最終的にはシュートにつながらなかったパスでも、昨シーズンよりも質が上がっていると感じるんです。なぜかと言ったら、今シーズンはスルーパスを出すことをすごく意識していたんです。昨シーズンは得点を意識するばかりで、『俺は、スルーパスのセンスがないな』と感じていたくらいだった。でも、今シーズンからスルーパスを意識するようになって、うまくチャンスを作れるようになっている。一方で、ゴールを意識して臨んだ試合でもしっかりとゴールも決められている。その意味で手応えはありますね」

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 優勝を決めたボルシアMG戦後、香川は次のように連覇の要因を分析した。

「2年連続で優勝できたのは、いいチームに巡り会えたからだと思います。これは奇跡に近いことだと思います。でも、これがすべてではないので頑張りたいと思います」

「言葉でなかなか表すことはできないけど、いいチーム、いいチームメイト、いいスタジアム、すべてに巡り会えてこうやって2年連続優勝できて良かったです。難しいことがあった中、それを乗り越えて成長できたと思います」

 成長を止めないドルトムントの日本人エース。いくつかの試練を乗り越え、2年足らずでリーグを代表する選手へと成長を遂げた香川は、この2連覇の先にある“さらなる成功”を視界に捉えている。

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【浅野祐介@asasukeno】1976年生まれ。『STREET JACK』、『Men's JOKER』でファッション誌の編集を5年。その後、『WORLD SOCCER KING』の副編集長を経て、『SOCCER KING @SoccerKingJP』の編集長に就任。

<インタビュー全文はワールドサッカーキング 2012.05.03(No.213)でチェック>

 

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