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降格ゾーンのボルトンを上昇気流に乗せた宮市、「刺激的な19歳の挑戦」への現地評価

2012.04.06

ワールドサッカーキング 2012.04.19(No.212)掲載]
 19歳の宮市亮が、新天地ボルトンで周囲をうならせるパフォーマンスを見せている。「テクニックとスピードだけでなく、サイドからドリブルで仕掛ける積極性が目立つ」と現地記者は言う。若き日本人ウイングの加入は、降格ゾーンにいたチームを上昇気流に乗せた。

Text by David McDONNELL, Translation by Masao KURIHARA

 ボルトンのオーウェン・コイル監督から「かなり魅力的」と称された宮市亮だが、それもうなずける。日本から来た19歳のウイングは、世界のサッカー界でも屈指の“刺激的な若手”の一人で、最高峰のレベルへとのし上がっていきそうな勢いだ。

 アーセナルからのローン移籍でボルトンに来たことで、宮市はプレミアリーグのトップチーム(編集部注:トップクラブではなく、“一軍”の意味)でプレーできるまたとない機会を得て、選手として大きく前進している。

 同じルートをたどった若手として真っ先に思い出されるのはジャック・ウィルシャーだ。彼は2年前、ローン先のボルトンで半年を過ごした後にアーセナルに復帰すると、すぐにレギュラーポジションをつかみ、イングランド代表に名を連ねるまでになった。

 ウィルシャーはローン移籍先のボルトンで選手として急成長したが、同じことが宮市にも期待できる。いや、彼は既にコイル監督の下で、レギュラーとしての地位を確立している。

■勇敢さと自信を持って挑戦に取り組んでいる

 ボルトンは過去2シーズン、コイル監督の改革による細かいショートパスとロングボールを織り交ぜたスタイルで一定の成果を収め、昨シーズンにはFAカップでもベスト4と躍進した。しかし、シーズンオフに攻撃の核であったヨハン・エルマンデルとダニエル・スタリッジがチームを離れる。そして今シーズン、韓国代表MFイ・チョンヨン、アメリカ代表MFスチュアート・ホールデンの長期離脱による影響もあり、開幕から得点力不足に苦しみ降格ゾーンに沈んでいた。

 そんな中、プレミア残留に向けて必要な勝ち点を手にするために、ボルトンが本来目指すはずの流れるようなサッカーを犠牲にして、より機能的で、ダイレクトなスタイルを選択することも考えられた。だが、コイル監督は自身のサッカー哲学を捨てず、ロングボールに頼るプレーを拒んでいる。

 この環境は宮市のような選手には最適だろう。彼は自分をアピールし、持てる才能を存分に発揮することを監督から奨励されている。
①両サイドでのプレーが可能
②とてつもないスピードを持つ
③積極的にドリブルで仕掛けられる
④相手をかわすことができる
 これらはすべて現代サッカーのウイングにとっては貴重な長所で、ボルトンはこの宮市の長所を試合の中で生かそうと必死になっている。

 ボルトンの左MFにはマルティン・ペトロフという実力者がいるが、彼はもう33歳だ。経験豊富で、強烈な左足のキックを武器にするブルガリア代表の主軸とはいえ、宮市ほどのフレッシュなモチベーションとダイナミックな動きは望めない。また、左右のMFでプレーする26歳のクリス・イーグルスも悪い選手ではないが、スピードには難があり、宮市とは比べようもない。

 だからこそ、コイル監督はこの10代の日本人選手を起用し続けているのだ。最近は右サイドで起用するケースも多いが、宮市への信頼がとてつもなく大きいことは明らか。宮市もアシストや攻撃的なプレー全般で目立った活躍をして起用に応えている。

 普通なら、宮市のように若く、しかもプレミアリーグでの経験がほとんどない状態でローン移籍してきた選手の場合、疲れ切ってしまわないように、試合の終盤にベンチへ下げられることが多い。それでも、コイル監督は宮市を決して引っ込めようとはしない。タフな消耗戦である上に、一つのミスも許されない残留争いにあってフル出場が続いているのは、コイル監督が宮市の精神的、肉体的強さに全幅の信頼を置いている証だ。

 宮市自身も、その若さとあどけない表情にはそぐわない勇敢さと自信を持って、この挑戦に意欲的に取り組んでいる。テクニックとスピード、そして強い決意を武器に、イングランドサッカーに確かな足跡を残そうとしているのだ。日本代表の半数が欧州のトップリーグでプレーしている今、宮市もボルトンで前進を続けており、クラブでも早々にチームメートや監督から尊敬を集めている。

■最も印象に残ったのは相手に挑む“心意気”

 私が宮市のプレーを初めて“生”で見たのは、3月3日のマンチェスター・シティ戦だ。ボルトンはエティハド・スタジアムで0ー2と敗れたが、宮市は確かな存在感を発揮していた。左サイドを何度も駆け上がり、シティの右サイドバック、パブロ・サバレタを苦しめた。GKジョー・ハートのファインセーブに阻まれたが、0ー0の時点で宮市が放ったこのシュートが決まっていれば、試合はまた違った展開になっていたはずだ。

 宮市の一連のプレーを見て印象に残ったのは、テクニックやスピード以上に、前線への果敢な飛び出しやドリブルで相手に挑む“心意気”だった。シティ相手の勇敢なパフォーマンスにより、私はこの若き日本人に対して、「最高峰のレベルでの明るい未来を感じさせるプレーヤーだ」という極めてポジティブな印象を持ったのである。

 試合後、ボルトンのコイル監督に話を聞いた。予想通りと言うべきか、そこには宮市の貢献を絶賛する言葉が並べられた。

「彼は特別だよ。選手としてかなり魅力的で、何かやってくれそうな気配を感じさせてくれる。今日はあと一歩のところでゴールを奪えなかったが、もっと良くなるはずだ。私たちが彼に教えられることは、まだまだたくさんあるし、それは私から直接本人にも伝えてある。シーズンの残り数カ月、我々には彼のような選手が必要なんだ」

 その翌週の3月10日、2ー1の価値ある勝利を挙げたQPR戦でも、宮市は印象的なプレーを見せた。シティ戦で見せた果敢なプレーに加え、イヴァン・クラスニッチの決勝点をアシストしたのだ。連敗を4で止めただけでなく、残留争いのライバルとの直接対決を制したという意味でも貴重な勝利だった。その試合でマン・オブ・ザ・マッチに選ばれたことは、宮市にとっては大きな成果と言える。

 このような活躍をシーズン終了まで続けていけば、最後には「宮市の力でボルトンは残留を果たした」ということになるかもしれない。宮市の活躍にはそれほどのインパクトがある。

 この勝利の後、コイル監督は再び個人名を挙げて宮市を称えた。

「リョウはジャックとは異なるタイプだが、同じような効果をもたらすだろう。ウィガン戦では後半から途中出場して、ピッチ上でナンバーワンの選手になった。FAカップのミルウォール戦では素晴らしいゴールを挙げた。チェルシー戦でも相手をあっと言わせている。それはシティ戦でも同じ。つまり、リョウは特別なんだ」

 フットボールの母国のファンをうならせる“刺激的な19歳の挑戦”は、まだ始まったばかりだ。

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【浅野祐介@asasukeno】1976年生まれ。『STREET JACK』、『Men's JOKER』でファッション誌の編集を5年。その後、『WORLD SOCCER KING』の副編集長を経て、『SOCCER KING @SoccerKingJP』の編集長に就任。

<続きは ワールドサッカーキング 2012.04.19(No.212)でお楽しみください>

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