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自らの手で未来を切り開いた五輪代表、ハードワークを支えたのはメンタル

2012.02.24

五輪代表

[写真]=足立雅史

 深夜だというのに、思わず声を張り上げてしまった。マレーシアに4ゴールを浴びせた日本の戦いぶりに、ではない。グループ内のもう一つのカードが、驚きと興奮を誘ったのだ。バーレーン対シリア戦である。

 前半12分にホームのバーレーンが先制すると、1-0のまま終盤に突入する。ところが、86分にシリアが同点に追いつく。

 これだけでも十分に劇的だが、本当のドラマはまだ幕を開けていなかった。とっておきのサプライズがおきるのは90分だ。シリアDFがペナルティエリア内でボールを失い、バーレーンのFWがGKと一対一になる。先制点をあげていたアル・アラウィというストライカーは、冷静な右足シュートでゴール左スミを射止めた。残り時間わずかで、バーレーンが再びシリアを突き放す。もはや、スコアは動かなかった。

 シリアに降りかかった悲劇は、日本にとっての歓喜である。マレーシアを下していた関塚監督のチームは、勝ち点12の単独首位に躍り出た。3月14日のバーレーン戦を引き分け以上で乗り切れば、日本は首位でロンドン五輪に出場できる。薄暗かった足元は明かりに照らされ、自分たちの手で未来を切り開ける状況を取り戻した。

 残り2つのグループはどうか。

 グループAでは、韓国がロンドン行きを決めた。オマーン、カタール、サウジアラビアという中東勢の包囲網をくぐり抜け、最終戦を待たずに首位通過を確定した。

 グループBは2チームの争いとなっている。勝ち点11で首位のUAEと、同8で2位のウズベキスタンが、最終節で対戦するのだ。得失点差はUAEのプラス5に対し、ウズベキスタンはプラス3である。ウズベキスタンが勝てば、得失点差も引っ繰り返る可能性を含む。3位のイラクとは勝ち点差が「4」あるため、勝者がロンドン行きをつかみ、敗者がプレーオフへまわることが濃厚だ。

 試合会場はワールドカップ予選でお馴染みのパフタコールスタジアムではなく、サッカー専用のJARスタジアムとなっている。1万人収容のこぢんまりとした空間だが、そのぶんホームの雰囲気は濃い。

 2009年のU-20ワールドカップで8強入りしたUAEは、前評判の高い好チームだ。日本と同じように最終戦は引き分けでもOKだが、JARスタジアムではタフな戦いを強いられるだろう。こちらのゲームも注目である。

 それにしても、日本は良く踏み止まった。

 何かが大きく変わったわけではない。シリアに負けてからの3週間弱で、チームがいきなり強くなるはずはない。変わったのはメンタルであり、コンディションだ。

 客観的な力関係で言えば、マレーシアは難しい相手ではない。問題は、力関係どおりの試合ができるか。アウェイのシリア戦で受けた衝撃も、自分たちの力を出し切れなかったところにそもそもの躓きがある。

 この日は違った。暑さと湿気がまとわりつくなかでも、選手たちは集中力を切らずに戦い抜いた。最初からアクセルを踏み込み、最後までペースを落とさなかった。実際には落ちていたのだろうが、マレーシアより落差はなかった。ハードワークを支えたのはメンタルである。

 これ以上負けられない。連続出場の歴史を、途絶えさせるわけにはいけない。U-20に続いて、またしても世界大会を逃すわけにはいかない。様々な思いが責任感となり、プライドを呼び覚まし、彼らを奮い立たせたのだと思う。

 改めて言うまでもなく、ベストメンバーには遠い陣容だった。清武が抜け、山崎を失い、山田直も離脱した。頼みの大津も招集できなかった。関塚監督が全幅の信頼を寄せてきた、キャプテン山村もトップフォームではなかった。苦境を撥ね除けて五輪出場へ迫っているのは、チームとしての地力が上がってきたからに他ならない。そして、五輪予選を突破すれば、さらに成長の機会が増える。18人のメンバー入りをかけたサバイバルが、選手たちを短期間で逞しくするのだ。

 だから、出場権を逃してはいけない。つかまなければいけない。3月14日のバーレーン戦は、ブラジルW杯にも影響をもたらす、きわめて重要な一戦となる。

【戸塚啓 @kei166】 1968年生まれ。サッカー専門誌を経て、フランス・ワールドカップ後の98年秋からフリーに。ワールドカップは4大会連続で取材。日本代表の国際Aマッ チは91年から取材を続けている。2002年より大宮アルディージャ公式ライターとしても活動。著書には 『マリーシア(駆け引き)が日本のサッカーを強くする(光文社新書)』、『世界に一つだけの日本サッカー──日本サッカー改造論』(出版芸術社)、『新・ サッカー戦術論』(成美堂出版)、『覚醒せよ、日本人ストライカーたち』(朝日新聞出版)、『世界基準サッカーの戦術と技術』(新星出版社)などがある。2011年12月に最新著書『不動の絆』~ベガルタ仙台と手倉森監督の思い(角川書店)が発売。『戸塚啓のトツカ系サッカー』ライブドアより月500円で配信中!

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