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テベス問題の真相を解明。去就を巡る混乱と指揮官マンチーニが示した“可能性”とは

2012.02.17

ワールドサッカーキング 2012.03.01(No.208)掲載]
 1月の“目玉商品”と見られていたカルロス・テベスの移籍は、最終的に実現しないまま終わった。世界有数のストライカーの今後の動向は? そして指揮官が示した一つの可能性とは。

Text by Footmedia
 

■クラブとの根深い確執移籍が規定路線に

 1月の移籍マーケットが幕を閉じても、カルロス・テベスは“商品棚”に残されたままだった。マンチェスター・シティ、ミラン、パリ・サンジェルマン、インテルといった名だたるクラブを巻き込んだ一大騒動の中で、各クラブの思惑はいったいどのように交錯したのだろうか。

 まず、テベスとシティの関係についておさらいしておこう。事の発端は2010年12月、彼が「ジメジメしたマンチェスターを出たい」とカミングアウトしたことからすべてが始まった。テベスは不満を抱えながらも2011年1月、8月と2度の移籍期間で残留を決意したが、9月に決定的な事件が起こる。去就問題で開幕から出遅れ、キャプテンを剥奪された上にセルヒオ・アグエロとエディン・ジェコの控えに甘んじていた彼は、9月27日、チャンピオンズリーグのバイエルン戦で交代出場を拒否したのだ。

 試合後、怒ったロベルト・マンチーニ監督が「テベスを使うことはもうない」と発言したことで、両者の関係は泥沼化。クラブから謹慎処分を受けたテベスは、「ウォームアップを拒否しただけ。誤解があった」と主張して謝罪を拒否し、議論は平行線をたどった。11月には、テベスが無断で母国アルゼンチンへ帰国し、トレーニングやクラブとのミーティングをすっぽかす暴挙に出た。移籍を許されず、出場機会も奪われ、自身の主張も聞き入れてもらえないことに対する事実上の“ストライキ”である。クラブとテベスの関係はこれで完全に崩壊した。

 ここで、いち早くテベス獲得に名乗りを上げたのがミランだった。11月下旬には、アドリアーノ・ガッリアーニ副会長がテベスの代理人キア・ジョーラビシアンと最初の会談を行っている。アントニオ・カッサーノが心臓疾患の手術を受けて離脱したことでFWの獲得が急務だったミランは、この時点から1月末まで、常に獲得レースのポールポジションをキープすることになる。ミランのオファーは今夏の買取りオプションがついた半年レンタル。しかし、シティが希望したのは完全移籍での売却のみだった。

 結果的にシティーは最後までその主張を譲ることはないのだが、ユヴェントスやインテルが手を引く中、ミランはそれでもレンタル移籍を勝ち取るべく、粘り強く交渉を進めた。ミランとの綱引きが続いたまま、日付は移籍マーケット開幕前日の12月31日を迎える。マンチーニは「10日以内に移籍を完了させる」とコメントし、ここからシティと各クラブの本格交渉がスタートした。

■移籍不成立で浮上した新たな可能性

 1月、実際に交渉のテーブルに着いたのはミラン、インテル、パリSGの3クラブ。交渉をリードするのは12月末時点でテベス本人と「合意を取りつけた」ミランだった。カタール資本をバックに大物獲得を狙うパリSG、一度は手を引きながらマッシモ・モラッティ会長の“鶴の一声”で獲得レースにカムバックしたインテルがミランを追うという構図だった。だが、3クラブがいずれもレンタルでの獲得か、2000万ポンド(約25億円)程度での買取りしかオファーしなかったため、各クラブとジョーラビシアンの話し合いは一向に進展しなかった。シティは昨夏から一貫して4000万ポンド(約50億円)の完全買取りのみを要求。最終的に設定額は2500万ポンド(約31億円)まで下げられたと言われるが、この不景気とファイナンシャル・フェアプレー制度の導入による補強費の出し渋りが顕著な昨今、この額を簡単に出せるクラブなどないのは当然だ。

 1月最終週に入ると、インテル、パリSGが相次いで交渉終了を表明。テベス本人の“第一希望”で相思相愛だったミランだけが、カターニアと合意していたマキシ・ロペス獲得を“保留”にしてまでテベス獲得にこだわった。しかし、1月27日にはとうとうガッリアーニも白旗を上げた。移籍期限最終日、ミランが最後の手段としてオファーした2100万ポンド(約26億円)も、結局はシティの要求を満たすには至らなかった。なお、同じく最終日にはリヴァプールがアンディ・キャロルとのトレードを持ち掛け、エスパニョールもレンタル契約についての問い合わせをしたようだが、前者は完全な“飛ばし記事”で、後者はシティが一蹴。マンチーニの「10日以内」発言も空しく、すべての可能性が閉ざされた。

 2月に入っても、通年で移籍が可能なブラジルのコリンチアンス、2月24日まで移籍市場が開いているロシアのアンジなどが獲得に興味を示しているが、1月の件で分かった通り、シティーはクラブへの“迷惑料”を回収するため、移籍金等の条件に関して一切の妥協を許さない構えだ。テベスはこのまま母国での隠居生活を続け、夏にミランやパリSGと再交渉を行うことが有力だろう。

 ただし、マンチーニが“大逆転”の可能性をわずかに残したことも付け加えなければならない。実は、テベスは後半戦に向けたプレミアリーグの登録メンバー25人に名を連ねているのだ。指揮官はその真意をこう語る。「現時点では構想外だが、もし彼がここに帰ってきて、コンディションが万全ならば戦列復帰の可能性はある。この3カ月間、練習をしてコンディションを維持していることを願っているよ」

 アグエロ、ジェコ、マリオ・バロテッリが健在である限り、テベスに居場所はない。だが、彼らにもしものことがあった時、「プレミアリーグ制覇しか頭にない」と豪語するマンチーニは手段を選ばず、テベスの起用に動くだろう。そして、テベスがクラブへの恨みつらみをひと時だけ忘れ、ひと肌脱ぐことを決めたなら、彼がシティで最後のひと花を咲かせる可能性はあるかもしれない。

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【浅野祐介@asasukeno】1976年生まれ。『STREET JACK』、『Men's JOKER』でファッション誌の編集を5年。その後、『WORLD SOCCER KING』の副編集長を経て、『SOCCER KING @SoccerKingJP』の編集長に就任。
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