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ヨーロッパの舞台における失態。“母国”イングランドのサッカーは衰退したのか

2012.01.28

ワールドサッカーキング 2012.02.02(No.205)掲載]
 チャンピオンズリーグのグループリーグでマンチェスターの2強が敗北を喫したことにより、ヨーロッパの舞台でのイングランド衰退がささやかれている。しかし、現地記者の見解は180度異なるようだ。長くヨーロッパの盟主に君臨してきた“母国”の地位は、今シーズンの失敗だけで大きく揺らぐことはない。ウィルソン記者はそう断言する。

Text by Jonathan WILSON, Translation by Alexander Hiroshi ABE
 

 イングランドのクラブはこれまで、ヨーロッパの舞台において押しも押されもせぬ地位を築いていた。チャンピオンズリーグ(以下CL)でリヴァプールが5回、マンチェスター・ユナイテッドが3回優勝しているだけでなく、近年の大会を振り返ると、過去7シーズンで延べ7チームが決勝に駒を進めている。この結果だけを見ても、近年のイングランドはヨーロッパの盟主の名をほしいままにしてきたと言える。

 そのせいか、少しでも結果を残せなくなると途端にパニックに陥り、危機が叫ばれる。今がまさにその状況だ。今シーズンのCLでは、まずマンチェスター・シティのグループリーグ敗退が決まった。そして、過去4シーズンで3度の決勝進出を果たしているユナイテッドまでもが、ライバルの後を追うようにまさかの敗退を喫してしまった。また、ヨーロッパリーグ(以下EL)ではトッテナム、バーミンガム、フルアムがそろってグループリーグ敗退。イングランド勢がここまで一気にヨーロッパの大会から姿を消してしまうのは、非常に珍しいことだ。

 この状況を受けて、メディアは例のごとく過剰に反応し、批判を繰り返している。ある新聞には「至高のプレミアリーグにピリオド」という大げさな見出しまで躍っていた。では、果たしてプレミアリーグのレベルは本当に下降線をたどっているのだろうか。

 現在、世界最高峰のリーグと言われているのはスペインのリーガ・エスパニョーラだ。中でもバルセロナとレアル・マドリーのレベルは突出しており、他の18チームとの実力差は開く一方。ユナイテッドやシティ、チェルシーなど5、6チームが拮抗したレベルにあるプレミアとはやや様相を異にしている。

 2チームの実力が抜きん出ている理由の一つに、イングランドとスペインとではテレビ放映から利益を得る方法が異なっている点が挙げられる。イングランドではプレミアのクラブ全体がテレビ局と交渉して放映権料を決め、収益は20クラブで均等に分配される。対してスペインでは、バルサやR・マドリーが独自にテレビ局と交渉するため、他のクラブと比べて大きな額の放映権料を懐に収め、さらなる補強に投資することができる。リーグ全体のことを考えると、イングランドスタイルこそが健全なのだろうが、バルサとR・マドリーの圧倒的強さを目の当たりにすると、何が正解なのか分からなくなってしまう。

■マンチェスター勢がそろって不覚を取る

 イングランド勢のヨーロッパ支配は、リヴァプールがビッグイヤーを獲得して世界を驚かせた2004−05シーズンに始まり、ユナイテッドがバルサの軍門に下った08−09シーズンに終了した。この間、イングランド勢は3シーズン連続で3チームが準決勝に進出したが、他国を圧倒する時代は終わりを告げ、今は支配期以前の状態に逆戻りしている。

 ただし、今シーズンの不調は運に見放された部分が大きいということをここで強調しておきたい。シティのグループリーグ敗退は、厳しすぎるグループに組み入れられてしまったことが最大の要因だった。長きにわたってヨーロッパカップ戦から遠ざかっていたシティは、復帰早々にして“死のグループ”を戦うことになった。評判倒れだったビジャレアルはさておき、バイエルンとナポリは現在のヨーロッパでもトップレベルの実力を備えたチームであり、簡単に勝てる相手ではない。強豪ひしめくグループでの戦いを余儀なくされた上、通常なら十分に決勝トーナメント進出を果たせる勝ち点10を獲得しながら、グループ3位となって涙をのんだ。まさに不運な結果である。

 一方、ユナイテッドのグループリーグ敗退は“不名誉”の一言に尽きる。これは同じグループに入ったベンフィカやバーゼルを軽視し、油断した結果だろう。グループリーグは実質的にこの3チームの争いとなったが、ユナイテッドはドローゲームが多すぎた。両チームとホームで対戦した試合でいずれも引き分けに終わり、勝ち点を1ずつしか積み上げられなかった。また、フルメンバーで試合に臨まなかった点は、今となってはアレックス・ファーガソン監督の判断ミスと言わざるを得ない。今までのユナイテッドならメンバーを落としても簡単に突破できていただろうが、今はチームの過渡期にあり、オーナーであるグレイザー一家からの資金援助も不十分な状態。経営危機が叫ばれている中でのグループリーグ敗退は、多額の放映権料収入を失ったという点でも大きな痛手だ。

 アーセナルとチェルシーは無事にベスト16入りを果たしたが、決勝トーナメント1回戦ではチェルシーがナポリと、そしてアーセナルはイタリア王者ミランと激突する。両者がここで姿を消す可能性も決して低くはなく、そうなった場合は再びメディアが騒ぎ出すことになるだろう。

■ELでも失敗続き勝ち残り組も厳しく

 ユナイテッドのパトリス・エヴラは、グループリーグで3位に終わってELに回ったことを「恥ずべきこと」とコメントした。だが、そのELでもイングランド勢は苦戦を強いられている。当初からの参戦組である4チームのうち、勝ち残っているのはストークだけという状況だ。

 トッテナムの場合は、リーグ戦に比重を置くあまり、ほとんどの試合でレギュラーメンバーを起用しなかったことが直接の敗因だろう。そんな中で勝ち点10を獲得した点は評価に値するが、PAOKサロニカ、ルビン・カザンにあと一歩及ばなかった。2シーズン前に決勝進出を果たしているフルアムも、ロイ・ホジソンが去った後は競争力を失っており、グループリーグ突破を目前にして最下位のオーデンセに引き分けるという詰めの甘さを露呈した。昨シーズンのカーリングカップを制して出場権を得たバーミンガムは、アウェーでクラブ・ブルージュを下すなどの健闘を見せたものの、惜しくも3位で敗退。国内で2部リーグを戦うチームとってはヨーロッパカップ戦に参戦するだけでも快挙ではあるが、イングランドの代表としてはやや力不足だった。

 唯一、グループリーグを突破したストークは時代遅れのフィジカルなサッカーをモットーとしながら、順調に勝ち星を重ね、楽々とベスト32入りを果たした。CLからの転落組であるユナイテッド、シティを合わせた3チームが決勝トーナメントを戦うことになるが、ユナイテッドの相手はアヤックス、シティはポルト、ストークはバレンシアと、CLと同様にこちらも厳しい対戦が待っている。つまり、イングランド勢がCL、ELの両方の舞台から早々に姿を消す可能性もあるのだ。

■それでも変わらぬ盟主としての地位

 こうなると、不安視されるのがUEFAランキングへの影響だ。とはいえ、私はこの点に関しては全く心配していない。UEFAランキングは各リーグからヨーロッパカップ戦に何チームが出場し、そのうち何チームが決勝トーナメントに進出できたかなどを係数としている。ただし、その計算は過去5年間の成績に基づいて行われるため、イングランド勢の低迷が今シーズン限りのものであれば、ランキングへの支障はほとんどないのだ。

 ポイントの算出方法は以下の通りだ。CLとELでは各チームが勝利するたびに2ポイント、引き分けた際には1ポイントが与えられ、特定のステージに進出するとボーナスポイントが加算される。そして両大会で獲得したトータルポイントを参戦している同国チームの総数で割り、更に5年間の平均値を算出してランキングを決定する。

 現時点でのイングランドの平均獲得ポイントは81.535。スペインは74.614、ドイツは70.686となっており、“低迷している”今シーズンでさえ、イングランドは最多ポイントを獲得している。また、CL、EL合わせて5チームが残っている点はスペインやイタリアと同じであり、たとえバルサやR・マドリー、バイエルンがCLで快進撃を見せたとしても、ユナイテッドとシティーがELで勝ち進めば、ポイント差の縮小は最小限に食い止められる。

 ヨーロッパトップクラスのリーグとして存在し続けることは、世界中からの信望を集めることにつながる。最も大切なのは、CLに4チーム、ELに3チームを出場させることができるランキングのトップ3を維持することだ。現在、UEFAポイントで首位に立っているイングランドと4位のイタリアとの間には、23.411ポイントもの開きがある。これは来シーズン以降の戦いでイングランド勢が極度の不振に陥ろうと、逆転するのが難しいポイント差だ。少なくとも向こう数年はトップ3から陥落するとは考えにくい。

 以上を踏まえて、イングランド勢は凋落などしていない、ということを改めて強調しておきたい。グループリーグを突破したかどうか、という表面上の結果だけを見れば不調だと思われても仕方ないが、実際にはここまでの戦いの中でも最多ポイントを獲得しており、何ら心配することはないのだ。確かに支配力は衰えたかもしれない。それでも、プレミアリーグがヨーロッパのトップリーグであることは今も、そして今後も変わらないのである。

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【浅野祐介@asasukeno】1976年生まれ。『STREET JACK』、『Men's JOKER』でファッション誌の編集を5年。その後、『WORLD SOCCER KING』の副編集長を経て、『SOCCER KING(twitterアカウントはSoccerKingJP)』の編集長に就任。『SOCCER GAME KING』ではグラビアページを担当。

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