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ミランはアーセナル、インテルはマルセイユと激突。現地記者が語るCLべスト16展望

2012.01.10

ワールドサッカーキング 2012.01.19(No.204)掲載]
 2月に再開するチャンピオンズリーグ。決勝トーナメント1回戦で、グループ首位通過のインテルはフランスのマルセイユと、2位通過のミランはアーセナルと対戦する。イタリア勢のチーム事情とデータを基に、イタリア人記者がべスト16の展望を試みる。


記者=ルチアーノ・マルティーニ、翻訳=小川光生、写真左=Getty Images

■インテル対マルセイユは監督対決に要注目

 次の決戦の舞台は、ロンドンとマルセイユに決まった。

 グループBを3勝1分け2敗で首位通過したインテルは、イタリア人指揮官のルチアーノ・スパッレッティ率いるゼニトを始め、バーゼル、レヴァークーゼン、リヨンと対戦する可能性もあった。だが、最終的に対戦相手となったのはディディエ・デシャン率いるマルセイユだった。

 グループリーグの初戦、ホームのジュゼッペ・メアッツァでトルコの伏兵トラブゾンスポルに敗れた時には一抹の不安がよぎったが、直後に経験豊富なクラウディオ・ラニエリが新監督に就任したことで事なきを得た。ただし、インテルの1位通過は自力で勝ち取ったというよりは、他の3チームがつぶし合ってくれた結果だと表現したほうが適切だろう。仮にインテルがグループAのような“死のグループ”に入っていれば、決勝トーナメントに進出することは難しかったのではないだろうか。

 インテルはシーズン開幕から苦戦が続いていたが、その最大の原因は故障者の多さと主力メンバーの不調だった。ウェスレイ・スナイデル、マイコン、チアーゴ・モッタなど各ポジションの中心選手が続々と戦列を離れていては、満足な戦いなどできるはずがない。

 逆に、ケガの功名もあった。慢性的な戦力不足の中、若手を積極的に起用することで、リカルド・アルバレス、コウチーニョ、マルコ・ファラオーニ、ルク・カスタイニョス、ジョエル・チュクマ・オビなどの成長を促すことに成功した。もちろん、彼らが国際大会で通用するかどうかは未知数だが、若手の台頭によりチームの底上げを促進できたのは事実だ。また、規約上の問題でグループリーグに出場できなかったフォルランも決勝トーナメントからは出場可能となる。こうしたプラス材料を生かしつつ、ベストコンディションで2月のチャンピオンズリーグ再開を迎えたいところだ。

 対するマルセイユは、リーグ・アンの第19節終了時点で6位と波に乗り切れていない。そうした意味では、インテルと似たような立場と言えるだろう。警戒が必要なのは、デシャン監督の存在だ。彼は1994年から99年までの5年間、ユヴェントスでプレー。2006−07シーズンにはユーヴェの指揮官としてイタリアに舞い戻り、セリエBに降格していた古巣を1年でセリエA昇格に導いている。カルチョを熟知するデシャンがどんな策を講じてくるのか。また、フランスで最も熱いと言われる彼らの本拠地ヴェロドロームの熱狂的なサポーターが、インテルにとって“12番目の敵”になる恐れもある。

 ラニエリとデシャンの因縁対決も見どころの一つと言えるだろう。モナコの監督だったデシャンとチェルシーの監督だったラニエリは、2003−04シーズンのチャンピオンズリーグ準決勝で激突。結果はモナコが2戦合計5−3でチェルシーを撃破し、監督対決はデシャンに軍配が上がっている。

 抽選会後、ラニエリは次のようなコメントを残した。「デシャンとの“再戦”は、面白いことになるはずだ。当時のリベンジをぜひ果たしたいものだね」

 インテル、マルセイユはそれぞれの国を代表する強豪チームだが、過去の国際大会での顔合わせはわずか2度。03−04シーズンのUEFAカップ(現ヨーロッパリーグ)準々決勝で、当時はマルセイユがホームゲーム、アウェーゲームともに1−0で勝利を手にしている。ただし、現在の戦力を見る限り、インテルがやや優勢と見るべきだろう。

■ファン・ペルシーの攻略法がミランの重要ポイント

 抽選後のあるインタビューで、かつてミランを8シーズンにわたって指揮し、昨シーズンまでチェルシーの監督を務めていたカルロ・アンチェロッティはこんなコメントを残している。「実力的にはミランのほうがアーセナルよりも上だろう。理由? ミランにはズラタン・イブラヒモヴィッチ、パト、ロビーニョといった単独で勝負を決められる選手がいるからだ。一方、アーセナルにはそういった選手が少ない。唯一、ロビン・ファン・ペルシーは例外だが、アレッサンドロ・ネスタとチアーゴ・シウヴァが門番となる最終ラインをこじ開けられるかどうかは疑問だね」

 両者の対戦で思い出すのは、2007−08シーズンのチャンピオンズリーグ決勝トーナメント1回戦。ミランはアウェーでの初戦を0−0で引き分けながら、ホームでの2戦目を0−2で落とす失態を演じた。当時はセスク・ファブレガス、エマニュエル・アデバヨールにゴールを決められた。しかし、今のアーセナルに勝負を決められるその2人の姿はない。

 アーセナルのアルセーヌ・ヴェンゲル監督は両者の力関係を「五分五分」と見ているようだが、アンチェロッティが語るように純粋に戦力だけを比較すれば、ティエリ・アンリの“サプライズ加入”があるとはいえ、ミランのほうが上なのは間違いないだろう。

 グループリーグでは首位のバルセロナに7ポイント差をつけられたものの、直接対決ではアウェーで2−2、ホームで2−3と欧州王者相手に互角の戦いを披露し、選手もそれなりの手応えをつかんだはずだ。

 シンプルに考えればキーマンはイブラヒモヴィッチとなるだろうが、アンチェロッティも述べているように、カギはファン・ペルシーをいかに止めるか。つまり、ネスタやT・シウヴァの出来がポイントとなる。また、アーセナルには若くスタミナ豊富な選手が多い。中盤での素速いパス回しからサイドをえぐってくる彼らの攻撃を、アントニオ・ノチェリーノやマルク・ファン・ボメルといった“労働者タイプ”の選手が中盤でいかに寸断できるかも重要なポイントとなる。

 ちなみに、ミランとアーセナルの国際舞台での対戦は、94年のヨーロッパ・スーパーカップ、そして前述のチャンピオンズリーグでの計4試合。戦績はミランの1勝2分け1敗と全くの五分となっている。

 最後にイタリア勢、イングランド勢、フランス勢の決勝トーナメントでの勝率に関するデータを見ていきたい。本大会の出場チームが32、決勝トーナメント進出チームが16という方式が導入された2003−04シーズン以降、昨シーズンまでの8大会でイタリア勢が決勝トーナメントに勝ち残ったのは合計22回。そのうちベスト8に勝ち上がったのは約半数の12回である。一方、イングランド勢はべスト16進出27回のうち、べスト8まで勝ち上がったのが20回。確率は実に70パーセントを超えている。ちなみに、ここ8シーズンにおけるイタリア勢とイングランド勢のベスト16以降の対戦成績は、イタリア勢の8勝6分け14敗とかなり分が悪い。一方、フランス勢との対戦では、2勝2分けとイタリア勢優位のデータが残っている。

 これらのデータを見る限り、イタリア勢はフランス勢には相性の良さを示すが、一方でイングランド勢との対戦をかなり苦手としていることが読み取れる。ただし、2009−10シーズンのインテルが大方の予想を覆してチェルシー、バルセロナ、バイエルンと並み居る強豪を次々に撃破し、欧州の頂点にたどり着いたことを忘れてはならない。逆境を跳ね返す強さこそが、イタリアのクラブの真骨頂でもあるのだから。

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【浅野祐介@asasukeno】1976年生まれ。『STREET JACK』、『Men's JOKER』でファッション誌の編集を5年。その後、『WORLD SOCCER KING』の副編集長を経て、『SOCCER KING(@SoccerKingJP)』の編集長に就任。『SOCCER GAME KING』ではCover&Cover Interviewページを担当。
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