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Q&A形式で分析、解析する“最強”バルセロナの強さと攻略法

2011.12.24

提供:小澤一郎の「メルマガでしか書けないサッカーの話

2011年12月19日、都内某所にてトークセミナー「バルセロナの指導法、戦術論を学ぶ」が開かれました。登壇者は、サッカーコーチの徳永尊信氏とサッカージャーナリストの小澤一郎氏。サッカーキングでは、このイベントの質疑応答部分を全文お届け。

 約50名の受講者が訪れ、会場は平日夜にも関わらず大盛況。都内からアクセスの良い場所ということもありますが、FIFAクラブワールドカップで衝撃的な強さを見せたバルセロナの戦術を詳しく知りたいという需要の高まりを感じました。

 さて講座の内容は、指導者の方が多いということもあり深く絞り込んだ内容。バルセロナの戦術的・技術的特徴を映像やスライドショーを用いながらわかりやすく解説し、疑問点がすっきり解消していく快感を味わえました。

 個人的にもっとも勉強になったのは、GKをフリーマンとして使うビルドアップ法です。バルセロナは、エル・クラシコでもあったようにGKのミスから失点することもあります。しかし、それでもGKからショートパスをつないでビルドアップすることは止めません。メリットが大きいと考えるからというほかに、クリエイティブなプレーに対する挑戦精神と、それを許容する環境があることが伺えました。

 以下、ここでは質疑応答のみ全文公開いたします。
 

――お二人に伺います。「良い選手」の定義とは何だとお考えですか?

小澤一郎(以下、小澤) 僕からお答えします。良い選手の定義は、時代によって変わってくると思います。良い選手イコール良い判断ができる選手だと思いますし、一番わかりやすいのはミスの少ない選手です。自分は「ミスの少ない選手」「プレーの判断がゴールに直結している、あるいはその先を見ている選手」というところで、良い選手かそうでないかの判断をしています。

徳永尊信(以下、徳永) 僕の場合、「効果的なプレーができる選手」だと考えます。うまい選手は大勢いますよね、柔らかいボールタッチからフェイントで1人、2人をかわしていく選手。だけどボールが離れるとき、パスをするとかシュートをするとか、プレーを完遂するときに的確なプレーができるか。それが良い選手だと定義しています。

小澤 逆に、質問された方はどんな定義をされていますか?

――僕は「考えて、判断できる」選手が良い選手だと思います。そのために指導者陣がどういう判断が良いのかを考える必要がありますので、指導者のレベル、僕自身のレベルを上げていく必要があると思います。

小澤 ありがとうございます。そのとおりだと思います(笑)。ところで、指導者がいう「良い判断」とは、自分たちが行なうサッカーにおけるスキーム内でのものです。ある意味、正解がないサッカーというスポーツに正解をあえて作る作業だと思いますが徳永さんいかがでしょう。

徳永 そうですね、正解はないけれども「これが正解だ」と信じてやることが重要だと思っています。特に育成年代だと、これからはどういうサッカーが主流になるか常に頭に入れて押し通して行かないといけません。いま教えている選手は5、6年後にトップに上がるわけで、つまり未来の話になります。

 みなさんはバルセロナのサッカーにご興味を持たれているのは、「この先こういうサッカーが主流になる」と感じられているからだと思います。育成年代を指導していくにあたって、未来のサッカーを見つめてやっていくことが、将来活躍していく選手を育てることに繋がると思います。

――「判断のクオリティ」に関して、バルセロナは特別なことをやっているとお考えですか? 例えばピッチの上だけでなく座学的なことだったり、議論であったり。

徳永 それは選手レベルの話ですか? それとも指導者レベルの話でしょうか。指導者に関していえば、スペインのどのクラブでも各カテゴリの監督の上に「コーディネーター」という職種があり、そのコーディネーターが「クラブが、どのようなスタイルでトレーニングしていくか」を明確に持たせてやっていくことが重要です。

 バルセロナにも各カテゴリの上に長がいまして、そこにトップから指示が行きます。グアルディオラがトップチームの監督に就任した時も、ユース年代の統括も一緒にやっています。「1-3-4-3と1-4-3-3システムを併用するように」という指示を出した、と聞きました。上から統括する者がしっかりビジョンを持ち、浸透させることが重要だと思います。

小澤 補足になりますが、スペインの環境でいうと練習でも試合でも年下のカテゴリから順にあるので、選手も指導者も「上のカテゴリならこういうサッカー、こういう選手がいる」というのが見える環境にあります。自分も13歳以下のインファンティルを教えていましたが、試合が終わったらその上のカデテというカテゴリの試合がやっているんですね。

 子供たちは、例えばそこに近所で可愛がってもらっているお兄ちゃんがいたりするので、残って練習や試合を見るんです。ボカディージョでも食べながら、ワイワイ話しながら(笑)。そういう身近な存在、バルサでなくても上のステップでどういう選手になればいいか、イメージを膨らませられる環境があるのはうらやましいと思います。

徳永 日本では、学校チームに比べるとクラブチームが少ないと思います。どうしても6年・3年・3年の学校教育で切れ目に分かれていますから。スペインの場合、みなクラブ組織でスクールはカンテラから始まり18歳まで、そしてBチームがあってトップチームがある。この組織をどのクラブも持っています。

 バルサのようなビッグクラブでない限りは同じグラウンドで、時間帯に分けて練習しています。だから、例えば他のカテゴリの指導者が良いトレーニングをやって結果も残していれば、その他のカテゴリの指導者が学べるんです。そうやってクラブの色が出てくる、という特長もあると思います。

――お二人に伺います、バルサに勝つにはどうしたらよいのでしょうか?

小澤 まず、基本的に自分たちがどういう選手を持っているかという前提がなければ、バルサ対策は考えにくいものがあります。その前提をあえて取っ払っていうと、アルサッドやサントスがやったような引いて守るサッカーでは勝ち目がないと思います。

 後ろに引くのではなく前に出ていき、試合開始から強烈なプレッシャーを仕掛けていくことが重要です。あまり良いことではないですが、『ファウル覚悟で行け』『少なくとも前半は、バルサよりもファウル数で上回って戻ってこい』とも伝えるでしょう。

 ゴールキックの際も、レアル・マドリードがやったように3人のFWでバルセロナのDFをマークし、GKからショートパスをつながせないようにします。レアル・マドリードでも、先日のエル・クラシコでは後半ガクンとペースダウンしたようにペース配分は非常に難しいです。しかし自分が監督なら、そうやるほかないと考えます。

徳永 僕の場合は、ボール支配率でバルサに対して五分五分に近い形に持って行かない限り、勝利とはほど遠いと考えます。そういうチームが作れるかといえば別の話になりますが、サントスやアルサッドを見ていると後ろに完全に引くか前からプレスをかけるのか、そのあたりが中途半端だったと感じました。そこをはっきりさせることが、すごく重要だと思います。

 ユースレベルの話ですが、僕は自分の指導しているチームでバルサの下部組織と対戦して2-1で勝ちました。そのときは、完全に後ろに引かせました。2人のボランチを置いたのですが、その2人はふだんセンターバックをやっている選手です(笑)。で、FWを0枚にして中盤を厚くした、1-4-2-4-0のフォーメーションです。

 バルサは試合開始こそボールをつなごうとしたんですが、こんなフォーメーションのチームとは対戦したことがなかったのでしょう、戸惑ってあわててボールを回していた印象があります。

 またバルサは下部組織でもそうなのですが、試合前にピッチに散水してボールの滑りを良くしています。当日も天然芝に水をガンガンに巻いていまして、当時のバルサはライカールトがやっていたような1-4-3-3のフォーメーションをやっていたので、両ウイングを裏に走らせるパスを送るのですが、そのボールが水で滑ってことごとくラインを割っていました。そういうことも狙いではあって、実は試合開始前に僕は「よし、どんどん水を撒け」と思っていたんですよ(笑)。

 ボランチで起用したセンターバック2枚が相手の攻撃的な選手をどんどん潰してくれて、奪った後はサイドの選手がボールを受けて走りこんでクロス、それを中央の選手が合わせる。そのカウンターで2点を取りました。

小澤 両方ともその形で2点なのですね。

徳永 その後1点返されたのですが、結局勝って、それで1部リーグ昇格を決めました。ちなみにこの時にバルサでプレーしていたのがジョナタン・ドス・サントスです。オフェンシブの位置でプレーしていましたね。翌年、ジョナタンとは2部Aチームにあがった時に対戦したのですが、その時も後半残り5分まで同点だったのですが、FKからジョナタンに決められて負けました。

小澤 しかしそのシステムは確かに斬新ですね(笑)。徳永さんが考案したシステムなのですか?

徳永 いえ、僕はこのシステムには反対しました。監督がバルサ対策で考えてきたのですが、最初は「お前何を考えてるんだ?」と。 通常、ディフェンスというのは中央のゾーンを切って外に行かせるのが鉄則です。だけど今回は中に行かせて、クラッシャーであるセンターバックを入れ、そこでボールを奪う。サイドで奪うと角度は少ないですが、真ん中で奪えば両サイドにも縦にもボールが出せます。そこからカウンターを仕掛ける、という狙いでした。だから最初は半信半疑だったのですが、このやり方で勝つことができました。

――FIFAクラブワールドカップの決勝では、カメラアングルに疑問がありました。ボールに寄るシーンばかりで、引きのシーンがありません。ボールがないところの動きはとても重要で、かつ子供に教えるのは難しいのに、それを映してくれない。これは問題ではないかと思いますがいかがでしょう?

徳永 仰るとおりで、僕も特にテレビ放送でJリーグの試合を見ていると、すごく小さなスコープで撮っていてピッチ全体が映りません。これでは、選手が何も感じてくれない。ボールの局面だけを見て「これがサッカーだ」と思ってしまうのでは、と。

 やはり、スタジアムに実際に見に行くことが重要です。スペインですと1部リーグだけでなく町単位のセミプロでも3部、4部、5部と存在しており、そこでも相当なレベルのサッカーが見られます。そういうところに気軽に行ける環境が日本にもあればいい、と思います。

 これはサッカー文化の話になりますが、そうすれば本来の意味でトップレベルのサッカーに近づいていくのではと思います。

小澤 テレビ映像でいうと、スペインでも日本で制作された放送が配信され、かなりの文句が出ていました。やはり、『引きの画』(俯瞰の映像)が少ないことですね。日本での映像はボール保持者とその周辺のアップばかりで全体像を見渡せず、バルセロナの本当にすごい部分であり、サッカーをやる子供にとって本当に必要な『ボールがない所での動き』がほとんど映りません。

 ただ、個人的には日本のテレビ局の番組制作やカメラワークに文句を言った所で、なかなか簡単には変わらないと思っています。我々メディアの人間を含め、気づいた人たちが身近なところから変えていくしかないでしょう。

 お子さんをお持ちの方、チームを指導する方は、ぜひとも俯瞰的な視野を得られるスタジアムに連れていき、ボールのない所での動きを指摘して指導してほしいと思います。

――ところで3位決定戦はスペインでは放映されていたのでしょうか?

小澤 いえ、わかりません。ただ現地に来ていたスペインのバルサ担当記者は全員メディアセンターにいました。誰一人として記者席で見ていなかったと思います。

――あの場で見ていた人は、ピッチの使い方が3位決定戦と決勝戦ではぜんぜん違うとわかったと思います。

徳永 そうですね。そういうサッカーもトップに行って急にできるものではないと思います。例えば名古屋グランパスは1-4-3-3でやっていて、ライカールト時代のバルセロナに少し似ていると思います。グアルディオラ監督が就任してからのバルセロナに近いサッカーをやっているチームは見受けられません。

――バルセロナのサッカーはある意味現代サッカーの頂点に立っていると思いますが、5年後、10年後のサッカーはどう進化していくとお考えでしょうか。昨日ペップも言っていましたが、バルセロナのサッカーは決して特別なことをやっているわけではないと思います。ボールを止めて蹴る、というものを究極にミスを減らしていけば自然とああいうものに収れんしていくのだろうと。

 私自身、この先は中盤の選手すべてダニエウ・アウベスのような運動量を持って全員がダイアゴナル・ランを繰り返すようになると思います。結局、相手にポジションの変化を起こすサッカーに移行していくのではと思います。

徳永 それまでの主流は4-4-2でアリゴ・サッキが考案したプレッシングサッカー、ボールに対して中盤でプレスを掛けて奪っていくサッカーをやっていました。しかしグアルディオラがトップの監督になってからのバルセロナは、ピッチをワイドに使い、サッカーに革命を起こしたのではと思います。

 そして最近のエル・クラシコ、今回のクラブワールドカップと見て、さらに流動性を起こすサッカーをやり始めていて、「また進化している」と衝撃を受けました。この先、この流動的なサッカー、一つのシステムにこだわらない流動的なサッカーというのが主流になっていくと思います。また一つ、サッカーの限界を突破してきたなと。

小澤 私はバルセロナのサッカーがこのままもちろん行くと思いますが、これを打ち負かすサッカーも出てくると思います。まだ漠然としたイメージしかないですが、どういうサッカーが勝つのかと思った時、「日本ではないか」と思っています。

 まだ日本でUEFAチャンピオンズリーグで第一線で活躍するような選手は出てきていませんが、今までスペインで日本人選手が練習参加する現場を見たりコーディネートする中で、スペインにせよヨーロッパにせよある程度はポジションにこだわってしまう監督やサッカーが多い印象です。

 ポジションにこだわらない、ポンとボールが入ったときにリスクを冒してバンバン前に上がっていく、いまインテルで長友佑都が成功しているのもそういう部分だと思いますが、そうそう選手は欧州にあまりいない印象です。

 リスクマネジメントという部分で、まだ日本人の判断は足りていません。ですがそこで運動量があってスキルがあって、それを継続できる3点でいうと日本人選手はこれからの主流になり得ると思います。そういう選手たちを11人用意すれば、もしかすると日本代表が世界の覇権を取った時、ジャパニーズ・スタンダードがワールドスタンダードに変わるのかもしれません。

 そのために自分はいろんな勉強をし、いろんな現場を見ながらそういう機会を作りたいと思っています。5年後、10年後にワールドカップを取りたいですね。「自分の生きているうちに」といったスパンではなく、近い将来に。そういうスタンスで見ているので、止めて蹴る、それプラス走り続けられる選手がバルサを倒すのではないかと思います。

 バルサは質を求めているので、メッシのようにボールが来たときに何か決定的なことができ、それ以外の選手は基本的にメッシを活かすためにハードワークする。もちろんイニエスタやチャビも決定的なプレーはできるのですが、その質の追求を90分間できるポテンシャルを秘めているのが日本ではないかと思います。

――ありがとうございました。

<了>

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徳永
徳永尊信(とくなが・たかのぶ)
1975年、東京都出身。欧州と南米で指導経験のあるサッカーコーチ。スペイン サッカー協会公認指導者ライセンス・レベル2保有。街クラブや矢板中央高で コーチを務めると2004年8月にスペインにコーチ留学。バルセロナの名門エウロパなどでコーチを経験し、2010年からはエクアドルの強豪バルセロナ SCでU-18の監督、ユースカテゴリー統括責任者を兼任。2011年春に帰国し、現在は出身クラブの指導やクリニックなどで活躍中。

小澤
小澤一郎(おざわ・いちろう)
1977年、京都府生まれ。サッカージャーナリスト。早稲田大学卒業後、社会人生活を経てスペインにて執筆活動を開始。日本とスペインの両国で育成年代の 指導経験があり、育成や戦術のテーマを得意とする。著書に『スペインサッカーの神髄』(サッカー小僧新書)、訳書に『モウリーニョVSグアルディオラ』 (ベースボールマガジン社)。有料メルマガ『小澤一郎の「メルマガでしか書けないサッカーの話」』(まぐまぐ!)も好評配信中。

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