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シリア戦は互いに研究し尽くした神経戦、求められるのは得点のための「焦らない心」

2011.11.27

 テレビカメラが映し出す見慣れた光景に、ちょっとした違和感を覚えた。バックスタンドに観客がほとんどいない。ワールドカップ予選のたびに感じた盛り上がりが、マナマのナショナル・スタジアムにはなかった。現地での注目度が、さほど高くないことを実感する。

 11月22日に行なわれたロンドン五輪最終予選のバーレーン戦で、日本は2-0の勝利をつかんだ。前半を1-0で折り返すのは2次予選のアウェイゲームと同じだが、クウェートに逆転負けを喫した6月のゲームと異なり、今回はさらに1点を追加して勝ち点3をもぎ取った。不甲斐なさやひ弱さを感じさせた一戦が、教訓となっていたのだろう。

 マナマが既知の環境だったというのも、大きかったのではないか。バーレーンとは2月の中東遠征では対戦しており、開催都市は今回と同じマナマだった。そもそも、バーレーンとは過去数年にわたって日本代表が何度となく対戦しており、ホテル、練習場、スタジアムの雰囲気などを把握できている。アウェイに付きまとうストレスを感じることがあったとしても、あらかじめ想定できる範囲内に収まっていたことで、ゲームに集中できたところはあったはずだ。

 内容的に押し込んでの勝利ではない。最初のシュートは18分まで待たなければならず、それもペナルティエリア外からの一撃だった。相手GKを脅かすようなシーンは、なかなか作り出せなかった。逆に38分、ミドルレンジからの一撃が日本の左ポストを直撃する。初戦を落としているバーレーンのシンプルな攻撃が、日本をひやりとさせた場面だった。

 主導権をつかめない展開だけに、リスタートを生かしたい展開である。44分の先制弾は、そのとおりに右CKから生まれた。ファーサイドのボール処理に不安を抱える相手GKの弱みを、しっかりとついたものだった。

 大津のシュートは称賛されるべきだろう。右足アウトサイドできっちり逆サイドへ、しかもダイレクトで流し込んだところにこの一撃の価値がある。

 67分に東があげた追加点は、山田直のシュートのこぼれ球を至近距離から押し込んだものだった。こちらもワンタッチゴールである。9月のマレーシア戦であげたふたつのゴールも、ペナルティエリア内からのワンタッチゴールだった。

 ワールドカップなどの国際試合を振り返るまでもなく、得点の7割から8割はペナルティエリア内から生まれている。シュートまでのタッチ数が少ないほど、確率はさらに高まる。チャンスの総数は少なかったものの、バーレーン戦の2得点は必然として生まれたと言うことができるのだ。

 敵地でつかんだ勝ち点3は、チームの士気を高める。清武と原口の不在で招集された大津の得点も、勢いを加速させるだろう。とはいえ、27日のシリア戦はまったく別のゲーム展開になる。ホームの日本はボールポゼッションで優位に立てるはずだが、守勢に立つのはシリアにとって織り込み済みだ。

 失点をしないための「守備へのこだわり」がバーレーン戦で問われたとすれば、シリア戦では得点をするための「焦らないハート」が求められる。リードを奪えなくても慌てずに、相手の急所をじっくりと探っていかなければならない。

 その上で、思い切った判断を心がけるべきだ。自陣からつなぐのは大切だが、必要ならば大きく蹴り出す。パスワークで崩していくのが持ち味だとしても、チャンスがあれば中距離からでもゴールを狙う。中途半端なプレーだけは避けたい。

 ともにグループリーグ2試合を終えて迎える27日のゲームは、互いに相手のスカウティングを踏まえた神経戦にもなる。自分たちの良さを消されてしまう前提でプレーしていくべきだ。

 25日に日本サッカー協会から発表されたシリアの来日メンバーには、2007年のU-17ワールドカップに出場した選手が含まれている。サッカー協会とFIFAの資料を照らし合わせると、少なくとも4分の1は17歳以下の世界大会を経験しているメンバーだが、正確な人数はつかめない。

 中東諸国の選手は、大会によって異なる名前で登録されることが多いからだ。同じ名前、同じポジションでも、4年前のU-17ワールドカップと今回のリストで生年月日が違う選手もいる。

 今回の来日メンバーには、1月1日生まれが6人もいる。中東では少なくないケースだが、ちょっと都合が良すぎないかと思ってしまう。年齢詐称ではないのだろうが……。

 試合の見どころは、北朝鮮対日本のワールドカップアジア3次予選と同じだ。ゲームの入り方である。立ち上がりになかなかリズムをつかめないのは、関塚隆監督のチームにも共通する。対戦相手が日本に抱くイメージを覆すような──たとえば強引なミドルシュートを浴びせていくといったことも、ひとつの打開策になるはずだ。

 ここでシリアを叩ければ、予選突破に一歩近づく。日本らしさが出なくてもいい。勝ち点3を奪うために必要な手順を、慌てずにしっかりと踏んでいってほしいものである。

【戸塚啓 @kei166】 1968年生まれ。サッカー専門誌を経て、フランス・ワールドカップ後の98年秋からフリーに。ワールドカップは4大会連続で取材。日本代表の国際Aマッ チは91年から取材を続けている。2002年より大宮アルディージャ公式ライターとしても活動。著書には 『マリーシア(駆け引き)が日本のサッカーを強くする(光文社新書)』、『世界に一つだけの日本サッカー──日本サッカー改造論』(出版芸術社)、『新・ サッカー戦術論』(成美堂出版)、『覚醒せよ、日本人ストライカーたち』(朝日新聞出版)などがある。昨年12月に最新著書『世界基準サッカーの戦術と技術』(新星出版社)が発売。『戸塚啓のトツカ系サッカー』ライブドアより月500円で配信中!

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