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セバスティアン・ケールが語るドルトムントへの愛…情熱と誇りを胸に

2015.02.24

[ワールドサッカーキング3月号掲載]

2002年のリーグ制覇と2005年の破産危機、そして近年の大躍進―。セバスティアン・ケールはドルトムントの浮き沈みを知る“生き証人”だ。現役引退を半年後に控えた今、クラブのシンボルは何を思うのか。それはドルトムントに対する深い愛情と、13年間の美しい記憶だった。
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インタビュー=国井洋之
通訳=円賀貴子
写真=ムツ・カワモリ

ここで積んだ経験は唯一無二のもの

――現役生活が残り半年となりました。ただ、今シーズンのあなたはスパイクを脱ぐには惜しいパフォーマンスを見せています。それでも引退の意思は揺らぎませんか?

ケール 予定どおり、今シーズン限りで引退すると思う。昨年の夏に引退を決断してからドルトムントと契約に関する話は何もしていないし、現時点では新しい報告は何もないよ。

――2002年1月に入団してから、ドルトムント一筋を貫いてきました。他のクラブからオファーが届いたこともあったはずですが、このクラブを一度も離れなかった理由を教えてください。

ケール 居心地がすごく良かったからさ。たとえチームの状況が悪くても、むしろ危機を脱するために力になりたいって、そう考えていた。もちろん、君の言うとおり、スペインやイングランドのクラブからオファーが届くこともあった。国外でプレーしていたら良い経験になっていたかもしれないね。でも、引退を間近にしてこう思うんだ。ここでの13年間で貴重な経験をたくさん積んだ。それは本当に唯一無二で、かけがえないものになったって。

――最近はキャリアの晩年にアメリカやアジアでプレーする選手も増えています。引退を考え直して、最後に日本でプレーするというプランはいかがでしょう?

ケール 日本の選手たちは僕にはちょっと速すぎるかな。それこそシンジ(香川真司)みたいなスピードのある選手がゴロゴロいたら困るし(笑)。そもそも引退を考え直すことはないよ。実は昨年、アメリカに行くという選択肢があって、真剣に考えてみたんだ。家族と一緒に住む上で魅力的な国だし、興味はあった。ただ、100パーセントの気持ちで「よし!」と言える条件がそろわなかったんだ。ドルトムントで現役生活を終えるという結論は、考え抜いた末の結果さ。だからこの気持ちはもう変わらないよ。

――長年過ごしてきたドルトムントを一言で表現すると?

ケール うーん、難しいけどあえて一言で表すなら“情熱”じゃないかな。クラブの内部だけでなくサポーターとかもひっくるめると、この言葉が一番しっくりくる。

――では、最高の思い出は?

ケール やっぱりタイトルの獲得だね。リーグ優勝は3回経験しているし、DFBポカールを制して2冠を達成したこともあった(2011-12シーズン)。優勝には手が届かなかったけど、2013年のチャンピオンズリーグ決勝でバイエルンと戦えたことも大きな出来事だった。ちょっと古い話だと2002年のUEFAカップ決勝(対フェイエノールト)も良い思い出の一つさ。

――逆に、あまり振り返りたくない苦い思い出は?

ケール 悪い出来事として記憶に残っているのは、クラブの倒産危機だね。あの時本当に倒産していたら、その後のドルトムントの成功も現在の僕のキャリアもなかった。でも、僕らはその危機を脱することができた。クラブはあの危機を乗り越えて“自由”を手にしたんだ。知ってのとおり、僕がこのクラブに入団した2002年頃のチームはとても強くてね。でも財政危機の影響で一度どん底まで落ちて、そこから這い上がって国内王者に返り咲いた。このクラブにとっての特別なストーリーを体験したと思う。


Borussia Dortmund v Hamburger SV  - Bundesliga

クロップ監督は新たな哲学を植えつけた

――クラブが再生の道を歩む一方で、あなた自身は20代半ばから30代前半にかけて長くケガに苦しみましたね。

ケール そうだね。苦労した時期だった。特にひざの状態が深刻でね。ケガを乗り越えられたのは、強い意志があったからこそだと思う。負傷するたびに「これで自分のキャリアは終わりじゃない」って言い聞かせながら、リハビリに励んだよ。どんな困難に直面してもカムバックできたのは、僕が根っからの負けず嫌いだからさ。もちろん、簡単だったわけじゃない。すごく労力が必要だった。

――リハビリが厳しければ厳しいほど、戦列に戻った時の喜びもひとしおだったのでは?

ケール とにかくうれしかった。再びチームの重要なピースの一つになれたんだから。何度も復活できたことは、自分でも誇らしく思っている。

――ユルゲン・クロップ監督の話を聞かせてください。彼はドルトムントに何をもたらしましたか?

ケール 新たな哲学を植えつけたと思うよ。財政的に厳しい事情があって、監督は就任直後から無名の若手をどんどん起用した。そうして抜擢された若手と経験豊富な選手のバランスが整って、チームのサッカー自体も変化していったんだ。僕らの成功はドイツサッカーのトレンドにも大きな影響を及ぼしたんじゃないかな。監督がここで長く指揮を執っているのは素直にうれしいよ。


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マッツは素晴らしいキャプテンさ

――クロップ監督からの信頼を得たあなたは、昨シーズンまでキャプテンの重責を担っていましたね。

ケール ドルトムントで長らくキャプテンだったことを本当に誇りに思う。今シーズンの開幕前にマッツ(フンメルス)に腕章を譲ったけど、引退を控える僕にとっては自然な流れだった。マッツは素晴らしい仕事をしているよ。

――キャプテンに必要な要素とは何でしょうか?

ケール 大切なのは、あらゆる事に目を向けること。どうしたらチームの助けになれるか、何か問題が生じたら、どのタイミングで介入すべきかを考えなければならない。キャプテンは監督や選手、クラブをつなぐ懸け橋になる必要がある。もちろん、人間性も大事。僕はもうキャプテンじゃないけど、そうした仕事はこれからもこなしていくつもりさ。マッツが頼りないわけじゃない。もともとそういう性分だからね。

――そのフンメルスを含め、あなたはこのクラブで多くの名手と一緒にプレーしてきました。ドルトムントの歴代ベストイレブンを選ぶとしたら?

ケール 例えばマルシオ・アモローゾやトマシュ・ロシツキー、ドイツ代表のレジェンドでもあったシュテファン・ロイターやユルゲン・コーラー。今のチームだったら(マルコ)ロイスや(ヘンリク)ムヒタリアン、もちろんシンジの名前も挙がるし、他にも本当に素晴らしい選手がたくさんいた。ただ、ドルトムントで一番大事なのは個の力ではなくて、団結力とか、そういった部分だと思うんだ。だから11人だけを選ぶというのはちょっとフェアじゃない気がする。

――では、最後の質問です。現役引退後のプランを教えてください。

ケール 辞めた後のことは、いろいろと考えているよ。多分、ドルトムントに住み続けると思う。やりがいを感じられそうなら、このクラブで何か仕事をするかもしれないね。引退までにフロントと話し合いの場を持つんじゃないかな。それと、仕事とは別にやりたいことの一つが旅さ。家族と旅行するのも悪くないし、一人で世界を回りたい気持ちもあってね。これまで僕はいろいろな国を訪れたけど、いつもホテルとスタジアムの往復で、その国の文化や人々とじっくり触れ合う機会があまりなかった。だから、ゆっくりと世界を旅してみたいな。

――もし、ドルトムント以外で仕事をするとしたら?

ケール いくつかアイディアはあるよ。細かいことは決めてないけど、どこかの会社に入るかもしれないし、独立して何かやるかもしれない。思いも寄らない“クレイジー”なことをする可能性だってある(笑)。でも僕はまだ34歳だ。現時点で残りの人生を「こう過ごす」って決めるのは難しい。引退後のことは楽しみながらじっくり考えるよ。

――世界を巡る際は、ぜひ日本にも来てくださいね。

ケール もちろんさ。日本には2002年のワールドカップの時に一度行ったことがある。みんなフレンドリーで楽しかったよ。

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