2月7日の“ノースロンドン・ダービー”、トッテナム対アーセナル。この数年、シーズン途中でトッテナムがアーセナルを上回ることがあっても、シーズンが終了してみるとチャンピオンズリーグ圏内にいるのはアーセナルで、トッテナムは結局ヨーロッパリーグに回るという図式が多かった。
9月に行われたエミレーツ・スタジアムでの一戦は1-1の引き分けだった。しかし、今シーズンのトッテナムが今までのチームと大きく異なることは2つある。
1つはユース育ちの21歳、ハリー・ケイン。2009年にトッテナムと契約し、今シーズンは戦前の時点でリーグ戦11ゴールを挙げているのだが、それは12月以降の14試合で達成したものだ。彼が、いかに短期間で急成長しているかの証である。2012-13シーズンの前半は、レンタルでチャンピオンシップ(2部相当)のノリッジ、後半戦はレスター・シティでプレーしていた。トッテナムにとってはさながら「スター誕生」の雰囲気だ。ガレス・ベイルがレアル・マドリードに引き抜かれた経験からか、2月2日には2020年までの契約延長を発表している。
ケインの凄いところは、いつ、どこからでも、「シュート」を打って「ゴール」を狙う意識が高いこと。相手マークがぴったり付いていても、ボール1個分の隙間からシュートを打ってくる。そのため、相手DFがマークしてゴールへのコースをカットしているから大丈夫、と思ってもタックルの足が伸びてきた先や、股間からもゴールめがけて打ってくる。
ドリブルが凄い、ヘディングが凄いというより、全選手が好調のトッテナムにおいても、彼の体のキレは特別だ。僅か2カ月半で2桁のゴールを奪っている自信が、さらにゴールを狙う意識になるという好循環になっている。
もう1つは今シーズン、サウサンプトンから引き抜かれたマウリシオ・ポチェティーノ監督の存在だ。スペインのエスパニョールで90年代後半、守備の要として活躍し、パリ・サンジェルマンでもプレーした。最後はエスパニョールに戻り、コパ・デル・レイでは通算2回の優勝をしている。元アルゼンチン代表だ。
中村俊輔がセルティックからエスパニョールに移籍したシーズンの監督でもあった。そして、吉田麻也が所属するサウサンプトンでも2シーズン監督を務めていて日本人とは縁がある。サウサンプトンでは2012-13シーズン後半から指揮をとり、翌2013-14シーズンはクラブ初のプレミアリーグ8位に導く。この手腕を買われて、トッテナムの監督に引き抜かれたわけだ。
まだ41歳。そして、サウサンプトンを8位に導いた手腕。ディフェンダー出身だけあって、チームの前線からの守備意識が高い。ケインも1試合で13キロ近くを走り回り、ボールを取られたらすぐにボールを追いかける。
また、相手ボールになったときに、どう守るかの意識がチームとして統一されているのがよくわかる。特にサイドにボールが行くと、相手の選手がボールを受けてゴールに向かせないことが徹底されている。
試合はアーセナルが前半11分にメスト・エジルのゴールで先制。最初の15分はアーセナルが優位に進めていたが、次第にトッテナムペースに。前半こそアーセナルリードのまま終えたが、56分にケインの同点弾でトッテナムが追いつく。今シーズンは試合最後の5分間での逆転劇多い。その統計どおり、86分にトッテナムが再びケインのゴールで逆転し、勝利を収めた。選手もシーズン前の特訓により、年末年始の厳しい日程で他のクラブの選手の疲労がピークのときに、自分たちがよく走れていることが、最後の5分間の逆転劇に繋がっているようだ。
チェルシー、マンチェスター・C、アーセナル、マンチェスター・Uいう強豪に加え、サウサンプトン、トッテナム、リヴァプールがトップ戦線に加わり、上位争いが面白くなってきた。今の勢いを考えると、サウサンプトンとトッテナムがCL圏内に入ってくるのではと予測するが、どちらも外国人監督であるところが、イングランドのサッカーファンが気になるところだろう。