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これほどまでに因縁めいたカードにしたのは両者の歴史によるものだ/下薗昌記

2015.01.31

 2011年にスタートし、1000名を超えるサッカー&映画ファンが集うイベントに成長、今年も2月14日(土)、15日(日)の2日間で8作品を上映する「ヨコハマ・フットボール映画祭2015 powered by バーコードフットボーラー」。さらに今年は全国8都市で映画を上映するJAPANツアーも開催されます。

 そこでサッカーキングでは映画祭の開催を記念し、豪華執筆陣による各作品の映画評を順次ご紹介。

 今回は南米各国で600試合を取材されているサッカーライターの下薗昌記さんに、ブラジルサッカーの深さを改めて知ることができる劇場初上映作品『フラメンゴ×フルミネンセ』 についての映画評を寄稿いただきました。

これほどまでに因縁めいたカードにしたのは両者の歴史によるものだ/下薗昌記

 日本の23倍に相当する広大な国土を持つサッカー王国には各都市でその土地を代表するダービーが存在する。

 サルヴァドールならば、バイーア対ヴィトーリアが、サンパウロならばサンパウロ対サントスが、そしてポルトアレグレならばグレミオ対インテルナシオナウが代表例だ。そしてこうしたダービーは両チームの名を短縮した愛称で知られるのだ。バ・ヴィ(バイーア対ヴィトーリ)、サン・サン(サンパウロ対サントス)、そしてグレ・ナウ(グレミオ対インテルナシオナウ)と言う風に。

 そんなダービーの中でも一際熱気を帯び、数々の因縁を生んできた王国最高のダービーがフラメンゴ対フルミネンセによる「フラ・フル」。このドキュメンタリーのタイトル名である。

 両チームの熱狂的なサポーターや名選手たちの回顧や、時に対談形式で進んで行く85分間は、決して作り込まれたシナリオに沿ったものではない。「フラ・フル」に限らず、スタジアムに足を運ぶサポーターは概ね似たり寄ったりのサッカー愛――しばしば狂信的でさえあるけれど――を持っているものだ。

 そういう意味では等身大のブラジル人サポーターが描かれていると言っても過言ではない。

 ただ、「フラ・フル」がブラジル最大のダービーだと認識されるのにはワケがある。両者がぶつかり合うステージは大抵の場合、ブラジルサッカー界の聖地、マラカナンスタジアムで、1963年のリオデジャネイロ州選手権で実に194603人の大観衆を飲み込んだ記録も持っている。

 もっともフラ・フルをこれほどまでに因縁めいたカードにしたのは両者の歴史によるものだ。

 ドキュメンタリー冒頭でフルミネンセのサポーターが陣取るゴール裏で、白い煙のようなものが沸き上がっていたが、正体はホワイトパウダーだ。1902年に裕福な白人によって設立されたフルミネンセ(リオデジャネイロの人の意)はスノッブなクラブで黒人は排除されていた。そんなクラブでプレーしたカルロス・アウベルトなる黒人選手は、顔に米粉を塗って肌の色をごまかしながらプレーしたのだが、汗で地肌が露わに。そこで対戦相手のサポーターが「ポー・デ・アロース(米粉)」とフルミネンセ側を揶揄するのだが、逆手にとったフルミネンセサポーターは自らを「ポー・デ・アロース」と称し、そのシンボルとしてホワイトパウダーを巻くことで、気勢を高めてきた。

 そんなスノッブなクラブでプレーしていたフルミネンセの選手9人がチーム方針に異議を唱えて、飛び出したのがフラメンゴを作り出すことになる。厳密には劇中でも語られているように、フラメンゴは本来、レガッタのために創設されたクラブで、創設は1895年であるが、1911年末にフルミネンセを離脱した選手たちが翌年、フラメンゴにサッカー部門を作り出すのである。

 百年を超える闘争の原点だ。2015年1月の時点で398回、激突し合ってきた両者には、ドキュメンタリー上では紹介されていない歴史的な対戦も含まれている。いわゆる「ラゴア(湖)のフラ・フル」である。
 まだマラカナンスタジアムが建設されていなかった1941年のリオデジャネイロ州選手権の決勝はロドリゴ・デ・フレイタス湖に隣接したフラメンゴのホームスタジアムで行われたが、リードしていたフルミネンセの選手たちはボールを湖に蹴り込み時間稼ぎ。これに対して元々はレガッタクラブであるフラメンゴ側は、ボートを用意して素早くボールを回収。ピッチに戻すと、フルミネンセ側が再び蹴り込むという繰り返しで、結局フルミネンセは優勝を手にした。

 そんな因縁は当然ながら、次世代のサポーターへと語り継がれ、共有されて行くものだ。極端なフラメンゴ愛、極端なフルミネンセ愛を口にする人物ばかりがドキュメンタリー中に登場するのは、ごく自然な流れだと分かってもらえるはずだ。

 そして、「フラ・フル」を象徴する日本になじみ深いクラッキ(天才)が登場するのも嬉しい所だ。44の「フラ・フル」に出場したジーコはフラメンゴのエースとして計19得点を叩き出しているが、これは「フラ・フル」史上最多得点。ジーコやジュニオール、そしてフラメンゴとフルミネンセの双方でプレーした悪童ロマーリオらのプレーや述懐が含まれているのもこのドキュメンタリーのアクセントになっている。

「スタジアムの神と悪魔」を記した世界的なウルグアイ人ジャーナリストのエドゥアルド・ガレアーノは、その客観的な視点でブラジル最大のダービーをこう評している。

「フラ・フルは反逆の息子と見捨てられた父の関係性を持つ」。

 家を飛び出たドラ息子がフラメンゴ。息子に歩み寄ろうとしない頑固な父がフルミネンセ……。未来永劫、和解なき戦いが、これからもリオデジャネイロを熱くする。

下薗昌記(しもぞの・まさき)
1971年、大阪市生まれ。サッカーライター。サンパウロ州スポーツ記者協会員。師と仰ぐ名将テレ・サンターナ率いるブラジルの「芸術サッカー」に魅せられ、将来はブラジルサッカーにかかわりたいと大阪外国語大学外国語学部ポルトガル・ブラジル語学科に進学。朝日新聞記者を経てブラジルに移住し、2002年に永住権取得。日テレG+で南米サッカー解説も担当する。南米各国で600試合を取材。心のクラブはサンパウロFC。「エルゴラッソ」ガンバ大阪担当。著書に「ジャポネス・ガランチード」(ガイドワークス)、訳書に「モウリーニョの本性」(ベースボールマガジン社)がある。

【映画詳細】
『フラメンゴ×フルミネンセ』
ブラジル/ドキュメンタリー/85分
監督:レナト・テラ

【ヨコハマ・フットボール映画祭について】
世界の優れたサッカー映画を集めて、2015年も横浜のブリリア ショートショート シアター(みなとみらい線新高島駅/みなとみらい駅)にて2月14日(土)、15日(日)に開催!全国ツアーの日程も含め、詳細は公式サイト(http://2015.yfff.org/)にて。

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