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ユナイテッドのファンでほんとうによかった/粕谷秀樹

2015.01.27

 2011年にスタートし、1000名を超えるサッカー&映画ファンが集うイベントに成長、今年も2月14日(土)、15日(日)の2日間で8作品を上映する「ヨコハマ・フットボール映画祭2015 powered by バーコードフットボーラー」。さらに今年は全国8都市で映画を上映するJAPANツアーも開催されます。

 そこでサッカーキングでは映画祭の開催を記念し、豪華執筆陣による各作品の映画評を順次ご紹介。

 今回は2月14日に特別ゲストとしてご登壇も決まっている粕谷秀樹さんに、マンチェスター・ユナイテッドのスター6人が再び集まり、当時の思い出を語るドキュメンタリー作品『クラスオブ92』 についての映画評を寄稿いただきました。こちらの作品はJAPANツアーの大阪フットボール映画祭(2/22開催)でも上映されます。

ユナイテッドのファンでほんとうによかった/粕谷秀樹

『チャンプ』、『レイジング・ブル』、『ザ・ハリケーン』……。ボクシング映画の名作は数多く存在します。クリント・イーストウッド監督の『ミリオンダラーベイビー』もよかったな。モーガン・フリーマンが渋くて、渋くて。野球も『フィールド・オブ・ドリームス』や『ナチュラル』、『オールド・ルーキー』などの感動作も少なくはなく、アメリカン・フットボールでは人種差別の愚かさ友情の尊さを描いた傑作『タイタンズを忘れない』があり、名優ポール・ニューマン(故人)がプロ・アイスホッケー選手を演じた『スラップショット』は、旅から旅が続くアスリートの悲哀を表現した快作です。

 じゃあ、サッカーはどうよってなりますわな。では、アメリカのスポーツ情報サイト『Bleacher Report』が発表した〈史上最高のスポーツ映画トップ100〉のなかから、トップ10を抜粋してみましょう。(1)勝利への旅立ち(バスケット)(2)フィールド・オブ・ドリームス(野球)(3)レイジング・ブル(ボクシング)(4)ルディ 涙のウイニング・ラン(アメリカン・フットボール)(5)さよならゲーム(野球)(6)ロッキー(ボクシング)(7)ナチュラル(野球)(8)ボールズ・ボールズ(ゴルフ)(9)フープ・ドリームス(バスケット)(10)スラップショット(アイスホッケー)。

 サッカー、見当たりません。『くたばれ!ユナイテッド』が40位、『勝利への脱出』が62位、『ベッカムに恋して』が70位。トップ100入りしたのはわずか3作品です。まぁ、このランキングはハリウッドに偏っているでしょ。アメリカの映画関係者が、サッカー作品を創るとは思えません。それに、ランキングは選考者の主観に左右されますし、2011年3月発表のもの。鵜呑みにしなくてもいいでしょう。

 あっ、そうそう。スポーツではなく、恋愛映画の範疇になるのですが、『ラブ・アクチュアリー』ではヒュー・グラント演じる英国の首相がサッカーファン、いや、ユナイテッドのファンを思わずクスッさせます。是非ご覧ください。

 そして『クラスオブ92』も是非っ!

 1992年、トップチームにデビューしたデイビッド・ベッカム、ニッキー・バット、ライアン・ギグス、ガリー・ネビル、フィル・ネビル、ポール・スコールズ……。彼ら6人の証言に基づく、ユナイテッドのドキュメンタリーとでもいうべき作品です。しかも証言者にサー・アレックス・ファーガソン、エリック・カントナ、ジネディーヌ・ジダン、トニー・ブレア元イギリス首相、さらにユナイテッドの大ファンであるストーンローゼスのベーシスト、マニも加わり、ありとあらゆる真実味を醸し出しています。

 とくに、ベッカムとギグスが語るファーガソンの厳しさ、優しさは必見。どのようにして選手とユナイテッドを守り、育ててきたか。管理職の方にも参考になるんじゃないかな。それから渡り鳥の編隊飛行は……。おっと、ネタバレは無粋ですよね。

 また、ユナイテッドがイングランド史上初のトレブル(プレミアリーグ、チャンピオンズリーグ、FAカップ)に輝いた98-99シーズンには、伝えられていなかった秘話があることも6人が証言しています。ビッグマッチで痛恨のミスを犯した選手、大舞台に出場する権利を失った者。焦燥、苦悩、絶望、混乱。さまざまな感情が交錯した98-99シーズンは、彼らにとって忘れがたい一年のようです。

 アカデミー賞にノミネートされるようなタイプではありません。スポーツ映画のランキングでも上位には入れないでしょう。ただし、すべての証言が映画監督、脚本家では描けない迫力と真実味にあふれ、ユナイテッドの魅力に改めて触れることができるすばらしい作品です。生まれも育った環境も違う6人の男たちが、数奇な運命をたどりながら再会し、古巣に想いを馳せる……。

 いやぁ、ユナイテッドのファンでほんとうによかった。だって、この作品を創れるチームは限られますからね。ベッカム、ギグス、バット、ネビル兄弟、スコールズのように下部組織から育ち、一線級となってメジャータイトルを取る、しかも3つ取るなんて、ちょっと考えられないじゃないですか。

粕谷秀樹(かすや・ひでき)
日本スポーツ企画出版社刊の『週刊サッカーダイジェスト』副編集長、『ワールドサッカーダイジェスト』編集長、同社の編集局次長を歴任し、2001年に独立。以降、『Jスポーツ』、『スカパー』などでプレミアリーグ、チャンピオンズリーグの解説者として活躍。個性豊かな視線に基づく語り口に人気がある。東京・下北沢生まれ。

【映画詳細】
『クラスオブ92』
イングランド/ドキュメンタリー/98分
監督:ベンジャミン・ターナー、ゲイブ・ターナー
配給:UIP
(C) 2013 CO92 The Film Ltd. All Rights Reserved.

【ヨコハマ・フットボール映画祭について】
世界の優れたサッカー映画を集めて、2015年も横浜のブリリア ショートショート シアター(みなとみらい線新高島駅/みなとみらい駅)にて2月14日(土)、15日(日)に開催!全国ツアーの日程も含め、詳細は公式サイト(http://2015.yfff.org/)にて。

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