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グループ3連勝を飾った日本代表、攻撃が左サイドを起点に作られている理由

2015.01.21

Getty Images

アギーレ

 日本代表は20日、アジアカップ・グループDの第3戦をメルボルン・レクタンギュラー・スタジアムでヨルダン代表と戦った。両国ともこの試合の結果によって、予選リーグ突破か敗退かが決まる。

 日本は、前半24分、岡崎慎司のシュートをゴールキーパーが前に弾く。ボールを目がけて走り込む本田圭佑が、3試合連続となるゴールを挙げて先制する。後半37分には、武藤嘉紀がペナルティエリアの左からグラウンダーのパスをゴールエリア前に入れる。中央にいた香川真司が右足で合わせて試合を決めた。日本は、この試合を2-0で勝利して3連勝を飾る。この結果、日本のグループリーグ1位通過が決定した。23日には、準々決勝でUAEと対戦する。

百戦錬磨を切り抜けてきたと思わせる采配

 ハビエル・アギーレ監督は、相当にしたたかな人だ。なぜ、アギーレ監督がしたたかなのかと言えば、ヨルダン戦で見せた選手交代と、戦術を浸透させた手腕に現れている。「選手交代」に関しては、「このタイミングか」という場面での采配だった。また「戦術」については、「シンプルなやり方」を選手に浸透させているように見えた。

 選手交代は、この試合で3人すべての交代枠が使われる。1人目は、後半6分に乾貴士を清武弘嗣に替えた。2人目は、後半34分、岡崎慎司から武藤嘉紀に。3人目は、後半42に遠藤保仁が柴崎岳と交代した。

 1人目の乾は、イエローカードをもらってすぐの交代だった。この日の乾は、MVPと呼べるほどに動きに軽快さがあった。本田圭佑の先制点に繋がる岡崎慎司のシュートをアシストしたのは乾だった。また、前半18分に自陣後方からの香川のロングパスを左サイドで足元に受けてチャンスを作ったのも乾である。

 ヨルダン戦の日本は、左サイドの乾と長友佑都から攻撃の起点が作られた。なぜ、左サイドからの攻撃になったのかを少し説明しよう。

日本の攻撃が左サイドから起点になった理由

 ヨルダン戦において、日本の攻撃は左サイドを起点に作られている。それは、両チームのシステムの組み合わせに関係している。日本は、[4-3-3]で中盤が逆三角形であり、アンカー役として長谷部誠1人がDF陣の前にいる。

 一方、ヨルダンは、[4-4-2]で中盤がダイヤモンド型になっている。トップ下にあたるダイヤモンド型の先端には、背番号8番のアル・サイフィが構える。図を見てもらえばわかるのだが、長谷部とアル・サイフィがマンツーマンの形になっている。

 日本は、ビルドアップの際に、2人のCBである吉田麻也と森重真人が両サイドへとワイドに開く。CB2人の真ん中のポジションに長谷部が下りてきてボールをもらうと、日本のビルドアップが開始される。

 しかし、対面するアル・サイフィが長谷部についてくるので、縦パスを入れることができない。そうしたときに、香川がセンターライン近くまで下がってボールをもらいにくる。先に述べた、前半18分の香川から乾へのロングパスは、こうした状況から生まれた。

 また、グループリーグ3試合を通して見られたのは、右SBの酒井高徳がリスクマネージメントを考えてプレーしていることである。逆サイドにいる長友が攻撃のために前線に駆け上がって高い位置をとる。その際に酒井は、ヨルダンの左SH背番号18番のエリアスの動きを気にしながらステイして前線に行くのを自重している。

 つまり、からはずみに攻撃参加して、ヨルダンの選手にインターセプトされエリアスにボールが渡ったならば、前を向いてフリーでボールを持たれてしまう可能性だってある。あるいは、前線に上がった長友の空いた背後にボールを出されたなら、酒井が後方でステイしていれば、DF陣が長友側の左サイドにスライドして対処できる。

 日本がグループリーグ3試合を無失点で終えたのは、リスクを考えた酒井のポジショニングが関係しているのである。

戦術はシンプルに、そして徹底したやり方を浸透させる

 日本は、リスクマネージメントを考えた酒井のポジショニングに見られるように、ヨルダン戦では、長谷部の守備への貢献がうかがえた。

 先に述べたように、長谷部とアル・サイフィは、システム上でマッチアップすることになる。日本は、長谷部がCBの2人の間に入ってボールを持ってビルドアップをする際に、アル・サイフィが長谷部の前に立つ。長谷部は、縦パスを前線に入れないでサイドの選手にボールを渡し、または下がってもらいにきた香川にパスをする。そして、無理に前線に上がって攻撃に加わろうとしない。このプレースタイルも、酒井同様に、リスクマネージメントを考えてのものだ。

 ピッチの中央でボールを持っている相手に、日本の選手2、3人が一気に囲んでボールを奪おうとするが、躱されて相手をフリーにしてしまう、という以前の代表にあったシーンは見られない。

 サイドにボールがあるときは、タッチラインに追い込んだりボールの勢いを止めたりする。または、中央で相手がボールを持っていれば、相手の前にじっと立って攻撃を遅らせる。つまり、守備戦術のディレイが徹底して行われる。

 攻撃に関しては、両WGの本田と乾は、基本的にワイドに張ってポジショニングする。SBが前線に上がれる道を作るために、ピッチの中にポジションを移動してサイドアタックの助けをする。

 今の日本がやっている攻撃や守備の戦術を挙げても切りがない。問題にしたいのは、試合でやられている戦術を、選手がシンプルに、そして徹底して実行していることに驚く。選手たちは、バランス重視のポジショニングをしているのである。

選手交代のための巧みなカードの切り方

 アギーレ監督は、左サイドで攻撃の起点を担っていた乾を、後半が始まって6分に迷わず交代させた。イエローカードをもらっているからといって、好調な乾をまだ6分しか経っていないのに替える必要があるのか、と考えることもできる。

 しかし、アギーレ監督は、まったく躊躇せずに交代というカードを切ったように見えた。ここまでいさぎよく決断できるのは、百戦錬磨の中をくぐり抜けてきた経験者でなければできないことだろう。

 2人目は、後半34分、岡崎から武藤への交代だった。試合開始からヨルダンのDFにハードなコンタクトプレーを強いられていた岡崎は、相当に疲れが体にきていたように見えた。ピッチに入った武藤は、1トップであった岡崎のポジションにそのままつく。そして、香川の今大会初得点をアシストすることになる。これは、結果から見れば偶然の巡り合わせなのかもしれないが、サイドのWGではなく中央で武藤をプレーさせたことがアシストを生んでいる。

 3人目は、後半42分、遠藤と柴崎の交代である。今大会の試合にまだ出ていない柴崎をピッチに送れることができ、実戦の雰囲気を多少なりとも味わえた。それは事実だ。ただ、ここで筆者が話題にしたいのは、得点が1-0のままだったならば、柴崎の交代はなかっただろうということだ。おそらく、遠藤を試合終了までピッチに残したと思われる。

 アギーレ監督の中では、こうした状況ならば誰を誰に替えて、こんな状況では誰も替えない、という考えが明確に最初からあるのだ。つまり、心情とか感情では動かずに、実利でしか動かない。だからアギーレ監督は、プラグマティックな考えをする人だと言える。プラグマティックとは、実用主義とか実利主義の意味で、経験に裏づけられているものしか信じないという立場にあるのだ。

 日本には「海千山千」という言葉がある。これは、「海に千年、山に住んだ蛇が竜になる」という言い伝えを、人間の経験に当てはめたものである。「竜になる」とは「立派になる」と同義なので、「世の中の表も裏も知りつくした、したたかな人」の意味になる。

 アジアカップの3試合を見た限り、アギーレ監督は、「サッカーの試合の表も裏も知りつくした、したたかな監督」という意味にぴったりと当てはまる。それほど、老獪な采配だった。

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