[写真]=兼子愼一郎
Photo by Shin-ichiro KANEKO
日本代表は16日、アジアカップのグループリーグ第2戦、イラク代表と対戦して1-0で勝利した。日本は前半23分にFW本田圭佑が、初戦のパレスチナ戦に続き、2試合連続となるペナルティーキックで得点を入れる。日本のディフェンダーは、イラクの攻撃を抑えて2試合連続の無失点でゲームを締めた。
試合の中では、何度か得点のチャンスもあったが、ゴールポストやクロスバーに弾かれた不運に見舞われた。
前半17分に長友佑都からのクロスをファーサイドに入った本田がヘディングで合わせたけれども、ボールはポストに弾かれる。また、22分に乾貴士がボックス内からグラウンダーのクロスをゴール中央に送り、走り込む香川のシュートはGKの正面を突く。
48分に、本田が右足でシュートするもクロスバーに跳ね返される。さらに、65分には、左サイドからのクロスに対して、本田がゴールに詰めるがシュートはゴールポストを叩いてしまう。
何度も決定的な場面に遭遇しながら、得点を決められなかった本田圭佑だが、イラク戦の勝利は本田のポジショニングと、イラクを警戒させた彼の攻撃力と存在感にあった。
イラクが警戒した本田の攻撃力と存在感
日本代表と戦う相手チームは、まず本田の攻撃力を警戒する。どのように本田を抑えるかがテーマになる。
アギーレ監督の採用するシステムは[4-3-3]であり、本田はFW3人のうちの右サイドを任される。このポジションはウインガーと呼ばれて、次のような攻撃時の役割がある。
【1】タッチライン近くにワイドに張る。
【2】縦にドリブルを仕かけてチャンスメイクしクロスを上げる。
【3】縦に突破するだけではなく、時にはピッチの中に入ってシュートを打つ。
【1】 については、アギーレ監督の指示通りにタッチライン近くにポジショニングしてワイドに張っている。
【2】 に関しては、本田は足が速い選手ではないので、相手と1対1になって走力で置き去りにするタイプではない。しかし、巧妙なポジショニングによって、相手のDFの裏に出されたボールをフリーで持ちクロスを上げる場面がある。
【3】 ピッチの中にポジショニングしてシュートを打つ場面をもつ。また、マークする相手をピッチの中央寄りに一緒に連れていき、味方のSBがオーバーラップできる道を作る。
本田は、【1】から【3】のウインガーとしての役割を、イラク戦においてすべて完璧にこなしている。本田が、ウインガーの役割をまっとうすることで、チームにバランスの良さが生まれているのである。
イラクの左SBのデュルガム・イスマイルが、本田と対面することになる。イスマイルのプレーを見れば、本田にどれくらいイラクが警戒しているのかがよくわかる。
イスマエルは、本田を追い越しオーバーラップしてクロスを上げる場面を見せることができない。イスマエルが日本陣内深く侵入して、ボールをインタセプトされたなら、彼の背後の場所は空いてしまい、本田をフリーにしてしまう可能性が高くなる。だからイスマエルは、うかつに前線に上がることができないでいた。
本田をフリーにさせることを警戒して、イスマエルは積極的に攻撃参加できないので、イラクの左サイドの攻撃の威力は半減させられる。このようなイラクの警戒心は、本田の攻撃力と存在感によってもたらされていると言える。
ウインガーの本田がタッチラインに張る理由
本田がタッチライン近くに張ってポジショニングすることで、ピッチを広く使って攻撃できるというメリットが生まれる。タッチライン近くに立っていれば、本田にボールが渡されたときに守っているイラクのSBイスマエルがポジションをスライドして本田に寄ってくる。
4人で守っているイラクの最終ラインのうち、左のCBとイスマエルの距離が空く。その場所に、インサイドハーフの遠藤保仁が立つ。ちょうどイラクの最終ラインに並んでポジショニングする。それによって、イラクの最終ラインは下がらざるを得ない状況になる。さらに、遠藤にボールが入りクサビになって香川真司とのワン・ツーでDFラインを突破できる。こうした展開が何度か見られた。
また、タッチライン近くに本田が張ることで、次のようなメリットも生まれる。
日本の中盤の選手がボールを持っているとき、イラクがプレスにきたならば、ピッチの中央からサイドにボールを送ることで「逃げる道」を保てるのだ。本田がサイドに張っていると知っていれば、イラクのプレッシャーを回避するために斜めにボールを出せる。
守備の基本として、イラクはゴールサイドを固めようとする。守っている側は、縦を破られることを嫌うので、真ん中のバイタルエリア前で日本が持つとイラクの選手はボールの前に立って阻止しようとする。そのときに、本田がサイドに張っていれば、ボールを一度本田に預けて体勢を立て直すことができるのである。
ウインガーの本田の役割は、相手チームが強ければ強いほどに重要になってくる。
パレスチナ戦同様にバランス重視のポジショニング
イラクの攻撃を述べたコラムを以前に書いたが、そこでの指摘通りにイラクは右サイド(長友佑都がいる日本側左サイド)を起点に攻撃を仕かけてくる。日本は、パレスチナ戦で見せた守備戦術で対応する。イラクのサイドの選手がボールを持ったなら、日本の選手が2、3人でボールをタッチラインに押し込む。
また、長友が前線に上がっていたならば、長友の後ろが空くことになる。その場合、イラクが日本からインタセプトして中央でボールを持つと、近くにいる日本の選手がディレイにいってイラクの勢いを止める。長友をはじめ日本の選手は、瞬時にスタートポジションに戻っていく。
長谷部誠がボールを持ってビルドアップを開始すると、最初はプレスに来たイラクのFWやMFは、ゲームが進むとプレスに行かなくなる。イラクは、日本の中盤まではボールを持たれても仕方がないと考えるようになった。
日本のシステムは[4-3-3]の中盤は逆三角形。イラクは[4-2-3-1]であり[4-4-2]の中盤はボックス型でFW2人は縦並びの関係だとも言える。
両チームのシステムを組み合わせると、日本の中盤とイラクの中盤は3対3のマッチアップ状態にある。インサイドハーフの遠藤と香川は、イラクのCH2人とマッチアップする。
遠藤と香川は、相手からマークのズレを作り出そうとして、長谷部よりも下がってボールをもらったり、逆にイラクの最終ラインに並んでボールを受けようとした。このような2人の気のきいたプレーによって、イラクのCH2人は相当に苦労させられていた。つまり、日本の2人を気にして、プレーに制約を受けていたと言える。
そして、乾は長友のオーバーラップの道を作るために、ピッチの中にポジショニングする。さらにFWの岡崎慎司は、イラクのCB2人の間にポジショニングして守備を混乱させていた。
このように、選手全員がバランス重視のポジショニングをすることで、チームの構成力が高まっていくのである。