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日本が警戒すべきパレスチナの3選手…アジアカップ初戦の注目点は

2015.01.09

日本代表と対戦するパレスチナ代表の注目選手とシステムの見方
~AFCアジアカップ2015に挑む日本代表の対戦国(1)~

 2014年に開催されたワールドカップ・ブラジル大会から半年後に行われるAFCアジアカップは、それぞれの国の代表にとって新しい指導体制で迎える重要な大会となる。

 前回のカタール大会優勝国である日本の場合、イタリア人のアルベルト・ザッケローニ氏からメキシコ人のハビエル・アギーレ氏に監督が受け継がれて、アギーレ監督にとってザッケローニ氏とは違った戦術を浸透させつつチームを構築する絶好の機会となる。

 グループステージD組に入った日本代表は、1月12日にパレスチナ代表、16日にイラク代表、20日にヨルダン代表と戦う。

 このコラムでは、日本と対戦する国の注目選手とシステムを紹介しながら、日本のシステムとマッチアップさせて試合観戦の際に注意を払って観てもらいたい箇所を記したい。

 まず、12日に対戦するパレスチナ代表から始めよう。

パレスチナ代表のシステム

 2014年にモルディブで行われたAFCチャレンジカップの決勝戦で、A組1位のパレスチナはB組1位のフィリピンと対戦して、1-0でフィリピンを破って優勝し、パレスチナは史上初となるアジアカップ出場権を獲得した。

 2011年から4年間代表を率いた前監督のジャマール・マフムード氏が2014年9月10日に辞任して、新監督にアフメド・アル・ハサン氏が就任した。前監督はシステムを[4-4-2]の中盤をボックス型にして、代表をAFCチャレンジカップで優勝に導いた。しかし、「個人的な理由」でマフムード氏が辞任したことによって、新監督のハサン氏は、昨年12月22日に行われた中国とのトレーニングマッチで[4-4-2](図を参照のこと)から[4-2-3-1]のシステムに変更している。

[4-2-3-1]のシステムは、FWのマハムード・エイドをトップにして少し下がり目のFWにアシュラフ・ヌーマンを置いた、2人のFWが縦並びにある[4-4-2]からの変形システムだと見ることもできる。

 代表メンバーもハサン監督になって何人か入れ替わっている。選手たちは、他国で生まれた選手もいるしパレスチナ移民もいる。そうした選手たちの中で、各ポジションの中心となるのは他国リーグに籍を置く選手たちである。以下に注目選手の名前と所属クラブを記す。

DF アブデラティフ・バハダリ(アル・ワフダート/ヨルダン)
DF アレクシス・モラムブエナ(ベウハトゥフ/ポーランド)
MF ジャカ・イハベイシェハ(クルカ/スロベニア)
FW アシュラフ・ヌーマン(アルファイサリ/サウジアラビア)
FW マハムード・エイド(ニーショーピン/スウェーデン)

 図で示したシステムに書かれた予想メンバーは、他国リーグで活躍する上記の選手たちが含まれる。

パレスチナ代表の注目選手たち

注目の選手 背番号7番 FW アシュラフ・ヌーマン

 パレスチナのキープレーヤーは、23歳で代表デビューして48試合14ゴールを挙げているFWのアシュラフ・ヌーマンである。前述したAFCチャレンジカップでは5試合4ゴールを挙げて得点王になる。決勝戦のフィリピンとの戦いで、先制点となるフリーキックをゴールに叩き込んだ。

 185cmの長身ながら突破力があってドリブルにも優れたスキルを発揮する。そのようなヌーマンのプレーの最大の特徴はキックにある。キックの振りのスピードがものすごく速い。ペナルティー・アークからのシュートには威力があり、もちろんフリーキックにも彼のキック力がものをいう。

注目の選手 背番号22番 FW マハムード・エイド

 ヌーマンとペアを組むだろうもう1人のFWマハムード・エイドも注目の選手である。21歳のエイドは、スウェーデンの3部リーグであるディビジョン1に加盟するニーショーピンBISで活躍する。彼の生まれはスウェーデンだが両親がパレスチナ出身であるので、パレスチナ代表として昨年11月に行われたサウジアラビアとの親善試合に初めて招集された。

 エイドは、初代表招集の感想を次のように語っている。

「パレスチナ代表の一員としてチームに帯同している理由は、スウェーデン国外のサッカーがどんなものなのか知っておきたいからだ。もちろん、代表ではスタメンを勝ち取る自信があるから、僕はここにいる」。

 彼は、サウジアラビア戦でスタメン代表デビューを飾ると、次のベトナム戦では初ゴールを挙げる。エイドは試合後に「アジアカップのメンバーに入るチャンスは大きいと思う」と語った通り、今回の大会のメンバーに見事に選ばれた。所属するニーショーピンではこれまで80試合以上に出場して、今シーズンはSHとして8得点6アシストを記録している。

 クラブでの好調を維持するエイドは、アジアカップを前に意気込みを語った。「パレスチナ代表のレベルは優れている。代表選手たちはすべてにおいてプロフェッショナルだ。代表のほうがクラブよりもプレーが速いから判断をすぐにしなければならない。だけど、なんの問題もないよ。僕はチームメイトがすぐれていればいるほど、いいプレーができる選手なんだ」。

注目の選手 背番号25番 MF ムラド・イスマイル・サイド

 32歳のイスマイルは、2010年に代表初招集を受けた選手だが、現在のパレスチナ代表にはなくてはならない存在になっている。

 AFCチャレンジカップでMVPに輝き、昨シーズンまで所属していたヨルダンリーグのアル・ワフダートで主力として活躍し、クラブのリーグ優勝に貢献している。

 パレスチナ代表の生命線は、縦のラインがしっかりした関係を築いていることにある。DFのバハダリとFWのヌーマンの間にいて縦のラインを築くMFのイスマイルは、精度の高いパスとスピードを兼ね備えたゲームメイカーである。

システムをマッチアップさせる重要性

 日本代表は[4-3-3]で中盤の3人は逆三角形を作るシステム。一方のパレスチナ代表は[4-4-2]で中盤の4人はボックス型になる。前線のFWの2人が横並びになるのか、あるいは縦並びになるかによってシステムが変ってくる。2人のFWが縦並びならば[4-2-3-1]のシステムだと考えていい。ただし、中盤の3人のうち真ん中にいるヌーマンはストライカー色の強い選手だが、サイドに流れて攻撃の起点になったり、さらには2列目から飛び出すプレーなど自由にポジショニングしている点に注意を向けたい。

 また、ハサン監督は、エースのヌーマンと若いエイドの2人を横並びにして[4-4-2]で戦ってくるかもしれない。昨年末の中国との親善試合では、背番号10番のMFイスマイル・アルアムールをトップ下に起用して、エイドを1トップに置いていた(ヌーマンはこの試合に招集されず)。

 したがって、12日の本番当日にならなければ、スタメンとシステムははっきりしないが、ここでは[4-4-2]のボックス型のシステムであると考えてみたい。(図を参照)

 試合を見る際に、まずどちらのチームに視点を置いて見るのかを決めておく。日本代表に視点を置く場合、日本が「ボールを持っているとき」はどうなのかをみる。次に、日本が「ボールを持っていないとき」はどうなのかをみる。「ボールを持っているとき」は、相手からボールを奪って攻撃していく場面である。逆に「ボールを持っていないとき」は、相手にボールを持たれて守備に回っている場面を示す。

 日本代表が「ボールを持っているとき」にはどういう戦い方をするのか。反対に、日本代表が「ボールを持っていないとき」にはどういった戦い方をしているのか。この場合の「戦い方」が、一般的に「戦術」と呼ばれるものを指す。

「ボールを持っているとき」=「攻撃の際の戦術」
「ボールを持っていないとき」=「守備の際の戦術」

 システムをマッチアップさせて試合の展開をみるのに重要なことは、どこに数的優位があってどこに数的不利が生まれるのかをチェックすることにある。日本にとって数的優位になっている場所は、パレスチナにとって数的不利になっている場所だから、日本に視点を置いてゲームを見ていけば、パレスチナの弱点も自然に見えてくる。

 システムをマッチアップさせると、フリーになれるポジションの選手がでてくる。その場合、フリーになれる選手に相手チームはどのように対処したのかをみる。場合によっては、相手チームはフリーになっている選手に何も対処してこないこともある。対処してこないときは、なぜ対処してこないのかも考えてみる。そうすれば、よりいっそうゲームを見る目が養える。

 それでは日本代表が「ボールを持っているとき」と「ボールを持っていないとき」ではどのようなことが見られるのかを記していこう。

[4-3-3]と[4-4-2]の対比

【日本がボールを持っているとき】
(1)日本のDFが4人に対してパレスチナのFWが2人なので、ビルドアップの際に4対2で数的優位になれる。
(2)パレスチナのSHが縦に前進してこない限り、日本の両SBはフリーになれる可能性がある。
(3)中盤の配置を細かく見れば、日本の逆三角形の3人に対して、パレスチナはCH2人なので3対2で日本が数的優位になれる。
(4)日本のCHの3人のうちDFの前にいる1人は、パレスチナの選手とマッチアップしないので対処してこなければフリーになれる。
(5)日本の3トップの両サイドに対して、パレスチナの両SBは1対1の数的同数になる。1対1で対面しているが相手を躱せばフリーになれる。
(6)日本の3トップの真ん中にいるFWが、パレスチナのCB2人と1対2の関係にある。日本にとって数的不利な状態だが、パレスチナの2人のCBの間にポジショニングすれば相手の守備が難しくなる。

【日本がボールを持っていないとき】
(1)日本のFWは真ん中に1人いるが、パレスチナのCBは2人なので1対2の数的不利になる。
(2)中盤の全体像を見れば、日本はMFが3人に対してパレスチナのMFは4人なので3対4の数的不利になる。
(3)日本の攻撃的なMF(インサイドハーフ)が2人に対して、パレスチナのCHは2人なので数的同数になりマンツーマン状態になる。
(4)パレスチナの両SHがフリーになれる可能性がある。
(5)日本のCBの2人とパレスチナのFW2人が数的同数でマンツーマンの状態にある。

 以上が両チームのシステムをマッチアップさせて見えてきたポイントである。もちろん、試合当日の天候や選手のコンディションや個人のプレーの特徴などを考慮に入れて実際の試合を見る。このようにシステムをマッチアップさせて試合前に数的優位と数的不利な状況を想定してみることで、実際の試合のピッチで何が行われているのかが見えてくるようになるのだ。

 余程のアクシデントが起らない限り日本代表は勝利すると思うのだが、筆者が書き記したことを頭の片隅に置いて、12日の日本代表対パレスチナ代表の戦いを楽しみましょう。

(表記の説明)
GK=ゴールキーパー
DF=ディフェンダー
CB=センターバック
SB=サイドバック
WB=ウイングバック
CH=センターハーフ
MF=ミッドフィールダー
WG=ウインガー
FW=フォワード
CF=センターフォワード

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