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ペップ・グアルディオラ監督の戦術解体新書(2)~引いて守る相手からどうやって得点するのか~

2014.12.30

Getty Images

攻撃の原理原則を貫くバイエルン

ロッベン

 バイエルン・ミュンヘンは第16節のSCフライブルクを相手に2-0で完勝した。この試合で見せたフライブルクは、試合開始早々から「引いて守って」という戦い方を選択した。

 自陣に引いた相手をどのように攻略して得点を奪うのか、というテーマはとても難しいものである。

 両チームのシステムをマッチアップさせて、どこが数的優位でありどこが数的不利なのかをみることは、「引いて守って」という試合に関して意味をなさない。なぜならば、攻守や守攻の攻防があってはじめて、システムをマッチアップさせてゲームの推移を考えるということが成立するからだ。

 つまり、バイエルンのシステムが[4-3-3]でフライブルクのシステムが[5-4-1]だったとしても、フライブルクがFW1人を前線に残して、他の9人が引いて守備をすることで、システム上でマッチアップすることがないのである。

「引いて守ってカウンター」という戦術のときに、3つの点に注意を払ってゲームを見ればフライブルクが何をしたいのかがわかる。

【1】前線にいる1トップがどれくらい守備に関与しているのか。
【2】引いて守るフライブルクのDFの最終ラインは、どこに設定してどこまで引いて守っているのか。
【3】どのようにバイエルンからボールを奪って仕かけようとするのか。

 カウンターを狙うチームは、ボールを奪わないとカウンターが仕かけられないので、どのようにボールを奪おうとしているのかをみる。チームの守備の出発点はFWから始まるので、1トップがどこまで守備に関与するのかがポイントになる。

 さらに、DFはどこまで下がってブロックを作るのか。そして、どうやってボールを奪うのかが必要になってくる。しかし、試合を見れば、最初は抵抗していたフライブルクだったが、試合が進むうちに負けないように引いて守っている状態が続くだけとなった。

 フライブルクのDFが下がって引いて守らされているには理由がある。

 フライブルクの守備戦術がゾーンスタイルで守っているので、自分のエリアにボールと人が入ってきたら前に出てプレスにいくのがセオリになる。フライブルクの選手は、人に激しくプレスをかけないでボールにしかいかない。

 バイエルンの選手は激しくフィジカルコンタクトをされているわけではないので、ボールを簡単にサイドに運ぶことができる。

 ゾーンで守っていてどこかでプレスをかけるのであったら、バイエルンの選手に逃げ場を与えてはならない。もし、逃げ場を与えたならば、ボールをもって前を向かれるし、最終ラインを上げることができない。

 このように引いて守る相手に対して、バイエルンは、攻撃の原理原則を遂行した。

【1】DFの裏を狙う
【2】中央突破を行なう
【3】サイドアタックを仕かける

 試合では、【1】から【3】の攻撃がしつこいくらい反復されたのだが、引いて守る相手を崩すためにバイエルンが行なったのは、フライブルクのDFが横に広がるように攻撃を仕かけていったのである。

 アンカー役のシャビ・アロンソのパス回しを見れば、バイエルンが何を狙ってボールを動かしているのかがわかる。アロンソは、攻撃の原理原則に忠実なプレーをする。つまり、ピッチの真ん中の場所を攻めるために、どのように縦パスを入れるのかを考えてプレーしているのである。

 ピッチの真ん中から攻撃したいので、縦パスを入れるタイミングをうかがいながらボールを回していく。相手がピッチの中に絞ってきたら、今度はサイドにボールを運ぶ。ボールサイドに相手が移動したなら、今度は逆サイドにボールをもっていく。

 バイエルンの両SBは、タッチライン沿いに縦へとオーバラップするので、フライブルクの選手はケアするために、バイエルンの両SBについていくことになる。そうしたならば、フライブルクのDFが横に広がるようにポジショニングさせられる。つまり、ピッチの真ん中が空いてくることになるのである。

 バイエルンは、引いて守る相手に対して、フライブルクのDFが横に広がるようにボールを回して、ピッチの真ん中から「裏を狙う」やり方や「中央突破」で崩そうとした。

4分の1コートに攻撃陣を集約させる

ベルナト

 今季のバイエルンの戦術的特徴のひとつには、「4分の1コート」に攻撃陣を集約させて波状攻撃を仕かけるという形がある。

 国際大会では、フィールドの縦の長さは105メートル、横は68メートルと規定されている。見出しにある「4分の1コート」とは、縦105メートルを四分割した約26メートルの幅を指す。

 バイエルンは、26メートルの中に攻撃陣8人を集約させる。26メートルから外れた場所にはCBの2人とGKしかいない。

 2014年9月30日、UEFAチャンピオンズリーグ・グループリーグEの一戦におけるCSKAモスクワ戦の31分過ぎの場面を見れば、バイエルンのやり方がよくわかる。

 モスクワは最終ラインに5人のDFを置いて守ってくる。DF5人の前にはMF4人がいて、2ブロックを敷いている。ボールはバイエルン側からすれば右サイドで展開する。MFアラバがボールをもらうために下がり目になり、そして左SBベルナトは中に絞り、「4分の1コート」に8人のバイエルンの選手がそれぞれの場所についている。

 また、10月4日の第7節、ハノーファー戦でも同じ状態を見ることができる。7分過ぎの場面に注目してもらいたい。バイエルンの選手は8人が「4分の1コート」に密集している。この時も、左サイドにいるベルナトとアラバは、センターサークルの中央に位置するくらい中に絞る。

 2つの試合のこの場面で、共通していることがある。それは、バイエルンが守備をする場面から始まっていることだ。ボールは敵陣深くにあり、バイエルンのFW陣は高い位置からプレスをかけるので、相手のDF陣は自陣深く追い込まれる。

 バイエルン側からみて右サイドで相手がボールを回しているなら、バイエルンの左サイドの選手はピッチ中央にポジションを移動してくる。したがって、より狭いフィールドに相手を押し込んでいくことになる。この場面では、横幅の「4分の1コート」ではなく、縦のフィールドを分割した「4分の1コート」に選手が集約されている。

 なぜ、「4分の1コート」に選手を集約させようとするのか?

 それは、守備の際に数的優位を獲得したいからである。さらに、相手からボールを奪って攻撃に転じるときに、ピッチをワイドに使いたいのだ。

 ハノーファー戦で7分過ぎ以降にボールを奪ったバイエルンは、左MFベルナトと右WGロッベンがタッチライン沿いにポジショニングする。ワイドに開いてポジショニングすることで、相手のDFも同じようにワイドに開いて守備をせざるを得ない。

 そうすると、DF間の距離が開いて真ん中にスペースができる。そして、アロンソからの縦パスがレヴァンドフスキに送られる。FWが起点になることで、波状攻撃のスイッチが入るきっかけを作る。

マッチアップから生まれるメリットと個人のスキル

レヴァンドフスキ

 ハノーファー戦で両チームのフォーメーションをマッチアップさせた状態をイメージすると、5バックにして引いて守るハノーファーに対して、[4-3-3]で対抗するバイエルンという構図になる。

 両チームのシステムをマッチアップさせると、フリーになっている選手がどこにいるのかがわかる。バイエルンは、両SBのアラバとラフィーニャ、さらにアンカーのアロンソがフリーになれる。

 一方、ハノーファーでフリーになれるのは、ボランチのギュルセラム1人だけである。

 3人がシステム上フリーになれるバイエルンと、1人しかフリーになれないハノーファーの状態が見られる。フリーになれる選手が多いということは、ボールを持つときに相手からプレッシャーをかけられる確率が少ないことを意味する。

 つまり、ボールホルダーが前を向いて余裕を持ってパスを出せるのだ。そう考えると、どのような攻撃手段が有効になってくるのか見えてくる。

 ハノーファー戦でのバイエルンの先制点は、まさにシステム上のメリットから生まれたものだ。

 フリーでボールを持つことができるSBのラフィーニャに、相手のプレッシャーはかからない。左WBのアルボルノスはロッベンとマッチアップしている。その前にいるMF清武もラームと対面する。

 プレスをかけらえる可能性のある選手はFWソビエフだが、ラームやアロンソが下りてきてボールをもらうので、そちらに視線をやらざるを得ない。ハノーファーのこのシステムでは、ラフィーニャがフリーでボールを持てることになってしまう。

 ラフィーニャは前を向いてFWの動きを確認しながら、相手のDFの裏を狙ってロングボールを蹴る。「まずい!」と思った清武弘嗣がボールに寄せようとするが時はすでに遅かった。ボールが右サイドにあるので、「4分の1コート」を使って展開しようとするバイエルンの動きに引っ張られる形で、ハノーファーの選手も右サイドに集まってくる。

 選手全員が右に寄っていくことで、レヴァンドフスキをマークする相手DFのポジションもズレることになる。酒井宏樹とマルセロの間を抜けてフリーでボールを胸でトラップしたレヴァンドフスキが難なくシュートを決めた。

 フリーでボールを受けたレヴァンドフスキの一連の動きも、個人のスキルに支えられたものだ。

 バイエルンの大きな戦術的特徴は、次のように述べることができる。

【1】4分の1コートに攻撃陣を集約させる。
【2】ポジションを変えても保たれるバランス。
【3】マッチアップから生まれるメリットを活かす。
【4】アラバのポジショニング。
【5】攻撃の原理原則の反復。

 これらのバイエルンの戦術的特徴は、普段のトレーニングから養われてきたもので、グアルディオラのサッカー哲学が凝縮したスタイルだと言える。したがって、バイエルンの試合を見るときには、5つの指摘に注目しておけば、ピッチで何が行なわれているのかを知ることができるはずだ。

(表記の説明)
GK=ゴールキーパー
DF=ディフェンダー
CB=センターバック
SB=サイドバック
MF=ミッドフィールダー
WG=ウインガー
FW=フォワード

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