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バルセロナのサッカーの戦術的ビジョン~2つのプレーから「裏を狙う」とは何かを考える~

2014.12.29

Getty Images

スアレス

 FCバルセロナは、12月20日、第16節、ホームでハーフナー・マイクのいるコルドバCFと対戦し5-0で圧勝して、今季の前半戦を終えウインターブレイクに入った。

 コルドバとの試合は、開始早々に得点が入る。イヴァン・ラキティッチが、コルドバのDFの頭を越えたロビングのパスを送り、DFの裏に走り込んだペドロがシュートを決めてバルセロナが先制する。

 後半になって、53分にアンドレス・イニエスタのスルーパスにペドロが抜け出して、中央に折り返したボールをルイス・スアレスが押し込んで追加点を挙げる。その後、リオネル・メッシの2得点も含めてバルセロナが2014年の最後の試合を勝利した。

 勝ち点39で首位にいるレアル・マドリードよりも1試合少ないバルセロナは、勝ち点38で2位につけて、2015年を迎えることになる。年明けのバルセロナのリーグ初戦は、1月4日の第17節、レアル・ソシエダとアウェイでの戦いが待ちうける。

 レアル・マドリードを追いかけるバルセロナにとって、今後も継続させるべき基本的で重要な二つの連係プレーがコルドバ戦で見られた。1つ目は、ラキティッチとペドロの連係であり、二つ目は、イニエスタとペドロの連係である。

 2つの連係を解説しながら、バルセロナの目指すべき戦術的ビジョンは何かを探ってみたい。

ルイス・エンリケ監督が選手に課したタスク

メッシ

 今シーズンのバルセロナは、新監督にルイス・エンリケを迎えてスタートした。シーズンが始まって、エンリケ監督は選手に次のようなタスクを課した。

【1】攻撃の際に、3トップの両サイドはピッチの中に絞ってポジショニングすること。たとえば、左サイドにいるネイマールはタッチラインに張らないで、ピッチの中よりにポジショニングする。

【2】3トップの両サイドが中に絞ることで、サイドのタッチライン沿いの場所が空くので、両SBが縦へとオーバーラップする。

【3】中盤の逆三角形のインサイドハーフは、SBの裏をケアするポジションをとる。たとえば、右SBのダニエウ・アウベスがオーバーラップしたなら、右のインサイドハーフのラキティッチがタッチライン沿いに移動して、アウベスの裏をケアする場所につく。

 シーズン当初は上位チームとの対戦がなく、第5節のマラガCF戦(0-0)の引き分けを除いて勝利を積み重ねてきたが、2014年10月25日の第9節、対レアル・マドリード戦での1-3の敗戦によって、エンリケ監督の戦術的ビジョンに狂いが生じてきたようにみえる。

 前述した3つのタスクは、サイドアタックを強化することに力点があるのだが、その場合に、タッチラインを駆け上がるSBの後ろのスペースが必然的に空いてしまう。

 空いたスペースをケアするためにインサイドハーフのラキティッチが、タッチライン寄りにポジショニングして、攻め上がった右SBのアウベスの後ろのスペースをケアする。あるいは、右CBのジェラール・ピケが、タッチラインに寄って空いたスペースをケアすることになる。

 バルセロナと戦う大部分のチームは、「自陣に引いて守って」という戦い方を強いられる。その場合、1人のFWを前線に置いて、残りのフィールドプレーヤー9人で守備をすることになる。

 つまり、バルセロナと戦う相手は、「引いて守って」という戦いをするので、SBのアウベスの後ろの空いたスペースにボールを放り込まれても、バルセロナの守備陣がボールに追いついてケアできてしまうのである。

 しかし、レアル・マドリードとの戦いでは、エンリケ監督が選手に課したタスクが機能しなかった。なぜならば、レアル・マドリードのショート・カウンターという戦い方は、サイドから攻撃の起点を作るので、あらかじめサイドに選手が流れていくようなシステムになっているからだ。

 具体的に言えば、次のようなやり方になる。

 攻撃で上がっているアウベスの後ろをラキティッチがポジショニングする。ラキティッチの近くにクリスティアーノ・ロナウドがポジショニングしている。ロナウドが味方からボールを受けたらベンゼマにパスをする。その瞬間にロナウドはタッチライン沿いに走り出している。そして、ベンゼマからロナウドの前にボールが送られる。

 ラキティッチは守備に回されるし、ピケも常にサイドに視線をやらされる。攻撃参加していたアウベスも下がって守備に身を削られることになる。

 エンリケ監督は、サイドアタックを強化する戦術によって、逆に守備に負担をかけられるという悪循環に落ち入らないように、守備強化として左SBの先発メンバーをジョルディ・アルバではなくジェレミ・マシューを使ってきた。

 しかし、下位のチームの戦い方に抗力を発揮してきた戦術も、レアル・マドリードには効果を現せなかったのである。

攻撃の際の原理原則=DFの「裏を狙う」やり方

 このコラムのタイトルにあるビジョンという言葉だが、これは、将来のある時点でどのような発展を遂げていたか、または成長していたいかなどの構想や未来像のことを意味する。

 今現在、エンリケ監督に問われているのは、彼には、戦術的にバルセロナの未来予想図があるのかどうかである。バルセロナのサッカーが、どのような成長を遂げて発展していくのかという未来像を、エンリケ監督はイメージできているのかどうかが問われているのだ。

 攻撃をする際には原理原則というものがあって、それは3つに数えられる。
【1】DFの裏を狙う
【2】中央突破を行なう
【3】サイドアタックを仕かける

 コルドバ戦でみられた2つの連係は、【1】にあたる「DFの裏を狙う」やり方だった。

 テレビ中継やサッカー専門媒体をみていると「裏を狙う」という言い方を耳にしたり目にしたりすることがあると思う。では、「裏を狙う」の「裏」とはどこを指しているのだろうか?

「裏」とは、DFの最終ラインとGKの間のスペースのことを指している。「裏を狙う」と言った場合、考え方として次のように捉えればよいだろう。

 GKの位置を起点にして、GKとDFを1本の線で結ぶ。パサーがその線上にだしたパスに対して、走り込む攻撃的選手とのタイミングが一致した場面が「裏を狙う」というのである。(図を参照1)

 裏にパスをだす選手は、その線上をイメージしてパスをだそうとする。GKとDFとを結ぶ線の位置にパスをだして、その一点に飛び込めば「裏を狙った動きとパス」という理想的な形が作られる。

 線上にパスをだす理由は、DFの視界の範囲から消える場所になるからである。ラキティッチィがCBの背後にフライングのパスを送る。ペドロは、そのCBの背後、つまりCBの右斜め後ろから飛び込んでいく。パスをだしたラキティッチィはCBの左寄りに立っているので、ペドロの動きが視界に入っていないのである。

 この理想的な形がみられたのが、ラキティッチィからのパスに反応したペドロの動きだった。

 もう1つの連係は、イニエスタからのパスを受けたペドロの動きである。この場合も、DFの裏にいかに抜け出すのかがポイントになる。

 ペドロは、DFとDFの間にポジショニングする。イニエスタはDFとMFの2つのラインの間を入ったり出たりして移動している。ボールが左右に動くので、コルドバのDF陣も左右に振られていく。つまり、ボールサイドに人も移動するのである。そうしたボールの動きを何度も繰り返していくと、マークのズレが生じてくる。

 そこで、ボールをもったイニエスタにコルドバの守備陣が寄ってきた瞬間、DFの間にいたペドロにパスを送って、DFを振り切ってペナルティエリア深く侵入し、ペドロはスアレスにラストパスを送ったのだった。

 攻撃の最初の原則は、DFの「裏を狙う」ことである。まずは「裏を狙う」という意識が選手全員に浸透していたのが、現バイエルン・ミュンヘン監督のペップ・グアルディオラの時代であった。

 当時とは、選手の質もサッカーの戦術も変化しているので、昔のようにとは言わないが、相手が困っていることを見据えて、そこを反復して攻撃するこだわりをもっと見せてもいい。なぜならば、ペドロのプレーを見ればわかるように、「裏を狙う」ことにこだわるプレーをすることで、局面の打開が生まれてくるからだ。

 今のバルセロナは、下位チームには勝てるが、チャンピオンズ・リーグで戦う強豪チームに勝てるだけの戦術理論の蓄えはない。エンリケ監督が、はっきりとしたビジョンを選手に植え付けられるのかに、バルセロナの命運はかかっている。

(表記の説明)
GK=ゴールキーパー
DF=ディフェンダー
CB=センターバック
SB=サイドバック
MF=ミッドフィールダー
WG=ウインガー
FW=フォワード

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