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暗黙の差別克服なるか…黒人含む少数民族への待遇改善へ/イングランド現地コラム

2014.12.08

during the UEFA Champions League Group D match between Borussia Dortmund and Galatasaray AS at Signal Iduna Park on November 4, 2014 in Dortmund, Germany.

Borussia Dortmund v Galatasaray AS - UEFA Champions League
CL各試合前に掲げられる差別撤廃を標榜するバナー [写真]=Getty Images

 サッカーの母国に隠れた人種差別が存在している。

 イングランドとウェールズにおける92のプロクラブで、黒人または白人以外の少数民族(Black and Minority Ethnic=BME)が専属スタッフ(監督、コーチ、医師、強化担当等含む)として働いている数は、552人中19人であることが新たな英国政府の調査で明らかとなった。

 今シーズン開幕時にプロリーグに皆無だった黒人監督だが、11月中旬、元オランダ代表FWジミー・フロイト・ハッセルバインクが4部リーグのバートン・アルビオン指揮官に就任したことで、その数は4カ月で3人(他の2名は2部ハダーズフィールドのクリス・パウエル監督と4部カーライルのキース・カール監督)に増えた。

Wycombe Wanderers v Burton Albion - Sky Bet League Two
バートン・アルビオンを率いるハッセルバインク監督 [写真]=Getty Images

 しかし、この数は10年前と変わらず。さらにハッセルバインクは最低年収の4万ポンド(740万円)で契約しており、これはマンチェスター・Uのイングランド代表FWウェイン・ルーニーがたった一日で稼いでしまう額であるという。

 プロクラブで働くBMEの専属スタッフが3%であるのに対し、BMEの選手数が30%いることから、チーム上層部における暗黙の差別が根付いている事がうかがえる。

Reading v Arsenal - Capital One Cup Fourth Round
2012年、レディング在籍時のジェイソン・ロバーツ [写真]=Getty Images

 スポーツ界や慈善活動への貢献が評価され、ブラックバーン在籍時の2010年に大英帝国勲章MBEを授かった元グレナダ代表FWジェイソン・ロバーツも、この調査結果に対して「恥ずべきこと」と警鐘を鳴らす。

「将来、僕たちはこの事実を他の歴史と同じように振り返り、2014年にこうした状況があり、まだ議論していたと恥ずかしく思うだろう。黒人が監督になれないという話は、かつてから存在する偏見の影響がある」

「よく黒人選手は身体能力が高いと特徴づけられるが、黒人選手に対して『知的』、『専門的』という言葉が使われることはなく、『力強さ』、『素早さ』といった言葉ばかりだ。それが全てを物語っている。周知のとおり、過去には黒人選手について『寒さに弱い』、『適さないポジションがある』などと言う発言もあった。決断を下す人間がどのように判断を下し、『適格でない』と言っているかが見て取れる」

 こうした中、アメリカのNFL(ナショナル・<アメリカン>フットボール・リーグ)で使用されているルーニールール(黒人または少数民族のコーチを必ず面接するという規則)に倣った制度の導入も囁かれており、賛否両論を巻き起こしている。

 ルーニールールに関して、イングランドのトップを担う2人の意見は分かれる。

 プレミアリーグのリチャード・スクーダモア会長は「ルーニールールは不必要」と一蹴するが、FA(イングランドサッカー協会)のグレッグ・ダイク会長は「似たようなものの導入はあると思う」としたうえで、「サッカー界は明白な人種主義を撤廃するというこの問題の第一段階をクリアしたところで、今は第二段階である問題改善のための制度改革を進めている」と話した。

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リヴァプールが04-05シーズンにCL制覇した際のドキュメンタリー公開に駆け付けたヘスキー [写真]=Liverpool FC via Getty Images

 同問題に関して、このほどレスターの大使に就任した元イングランド代表FWエミール・ヘスキーは、「誰かがドアの向こうへ行かなければならない」と肯定的に話したが、イプスウィッチのアカデミーでコーチを務める元同国代表MFキーロン・ダイアー氏と元DFタイタス・ブランブル氏は、「黒人だからといって面接されるのは嫌だ」、「肌の色だけで後任候補が選ばれるのは恥ずべきこと」と否定的だ。

 暗黙の差別に直面したと言う体験談も出ている。

 2009年に36歳で現役を引退した元バーミンガム・シティのマイケル・ジョンソン氏は、コーチング免許の最高位であるUEFAプロライセンスを保持するものの、過去3年間で招かれたたった3回の面接では全て落とされたという。

「周囲に色目を使ってほしくはない。私は努力し、お金をかけて免許を取得した。私が欲しいのは他の人たちが平等に得ているチャンスだ」

 さらに、かつてアーセナルでプレーし、現役引退後も2003年まで同クラブのアカデミーコーチを務めたポール・デイヴィス氏も過去に不当な扱いを受けた。クラブ内で人事異動があった際、「性格の問題」を理由に、自分よりも経験の浅いコーチが昇格したという。

「周囲は黒人の候補者が免許や能力を持たずに面接を受けると思っており、黒人はコーチング業に興味が無いと思っている。それは大きな間違いだし、この問題は本当に不穏なものになっている」

 デイヴィス氏もUEFAプロライセンスを保持しており、ウォーリック大学でサッカー経営学の学位も取得。2003年からPFA(選手協会)のコーチ育成部長に就任している。

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W杯では試合前に両チーム主将が差別撤廃宣言を行った [写真]=FIFA via Getty Images

「人種の優劣には根拠がない」

 UNESCO(国際連合教育科学文化機関)が発したこの声明は1951年の事だが、その後も世界は人種差別根絶に苦しんできた。60年以上経った今でもサッカー界の水面下で人種差別が行われているという現状に、当事者と第三者の間での意見や意識の差は歴然だ。

 プレミアリーグで現在首位を快走するチェルシーのジョゼ・モウリーニョ監督は同問題に関して、「サッカー界に人種差別はない。(黒人でも)能力があれば仕事を持てる」と一般論を説いたが、これも当事者からすれば「他人事として語られた意見」に聞こえてしまう。いずれにせよ、ピッチ内外でも選手やファンによる人種差別が横行している以上、この問題改善には今後も莫大な時間と労力を要することは間違いなさそうだ。

藤井重隆(ふじい・しげたか)。東京都出身。ロンドン大学ゴールドスミス卒。19歳からスポニチの英国通信員として稲本潤一選手の取材を中心にライター活動を開始。日刊スポーツ、時事通信を経て欧州サッカー界に精通。イングランド7部でのプレーも経験し、FAレベル2コーチング・ライセンス取得。現在も西ロンドンの社会人チームでプレーしながら、本場のフットボールに浸る。

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