日本代表を率いるハビエル・アギーレ監督 [写真]=LatinContent/Getty Images
「表彰式行かなアカンねん」【写真】=LatinContent/Getty Images
文=フモフモ編集長
日本代表・アギーレ監督への世間の視線が厳しくなっています。就任当初こそ大歓迎ムードだったものが、日ごとに積み重なる「おや?」により、本当にこの人は大丈夫なのか、こんな調子で大丈夫なのかと不安になってきたのでしょう。メディアにおいても、解任の可能性を含めて、先行きの危うさを指摘する記事が出始めました。曰く、「ホンジュラス戦とオーストラリア戦の結果次第では解任もあり得る」と。
しかし、僕は思うのです。
ホンジュラス戦、オーストラリア戦は2連敗してもセーフであると。
今、試されているのは日本サッカー界の揺るぎない信念です。頼んだ仕事は頼んだ相手にしっかりと任せ、然るべきタイミングまではドッシリと見守ることができる度量です。アタフタしてはいけない。
例えば会社で、こんな上司がいたらどう思うでしょう。「4年間のビッグプロジェクトをキミに任せる」「届け、4年越しのこの想い」「ずっとキミのことを見ていたよ」と言いつつ、慣らし期間中に態度を豹変させ、「これじゃ困るんだよ」「早く結果を出してもらわないと」「もう見ちゃおれん!」とか言い出したら。おちょこを引っくり返してテーブルに置く面を上に向けている感じで、器が小っさいヤツと思うのではないでしょうか。
日本サッカー界がアギーレ監督をどう評価しようが勝手と言えば勝手ですが、その評価の姿勢を今度は世界のサッカー界が見ています。「この協会は器が小さいな」と思われたら不本意ですし、将来の各種交渉にとってもいい影響はないでしょう。段取り、根回し、大義名分。解任するにしても、ぴしっと筋を通していくことが重要です。
監督を解任するにふさわしいタイミングは3つ。
第一に、監督本人から辞めると言ってきたとき。これはバッシングを受けての精神的落胆や、健康上の不安、家族の問題などさまざまな原因があるでしょう。その理由が致し方ないものであれば、涙をのんで諦めるしかありません。
第二に、監督本人に重大な契約違反があったとき。無断欠勤であるとか、犯罪であるとか、選手への暴行などが認められれば、これは解雇せざるを得ません。その人物を信頼することができませんからね。
第三に、依頼した仕事を達成できなかった場合。これは依頼内容が達成できないという未来像が強く予見される場合も含みます。要するに成績不振です。Jリーグで降格間近のチームがやる解任もコレ。降格してしまっては手遅れなので、その未来が予見された時点で、少し早めに手を打つことになるでしょう。
「アギーレ監督はやめへんでぇ!」
さて、アギーレ監督を取り巻く状況はどうでしょう。
まず本人が辞めると言っているか。否、否、否、否。アギーレ監督は強い意欲を引きつづき見せています。健康面でもまったく不安はありません。奥さまと息子さんまで引き連れて来日しており、家族の問題も無縁の様子。「アギーレ監督はやめへんでぇ!」状態です。
つづいて、監督に重大な契約違反があるかどうか。否、否、否、否。確かに過去に仕事をしたクラブの八百長疑惑に関する報道や、代表合宿を離脱して何かの表彰式に向かうなど、キナ臭い動きはゼロではありません。ただ、どれも些末な話。アギーレ監督が八百長をしたわけでもなければ、試合をすっぽかして遊びに行ったわけでもありません。
すっぽかしたのは「試合」ではなく「練習」です。サッカー選手なども、24時間365日サッカーと向き合い、休養すら大事な肉体作りと考えるクチでしょう。つまり毎日、何かやることはあるのです。完全に何もない日などない。寝ているだけの日も、重要な休養日です。アギーレ監督も代表合宿以外の日も、視察であったりライバル国の分析であったり、重要な休養であったり、何かやることはあるのです。当然、ほかの用事とバッティングすることもあるでしょう。そこは重要度を鑑みて判断していかなくては。
「自身のキャリアにつながる」とか「欠席するとめっちゃ怒られる」とかの理由で、「練習」より「表彰式」を優先するのは十分に理解できる範囲です。「試合」をすっぽかすようになれば別途検討しますが、現段階で咎めだてするのはコチラの身勝手です。例えば僕も、天皇陛下に園遊会とかに招かれたら、どんな重要な会議だろうとすっ飛ばして園遊会に向かいます。そんな名誉なこと、なかなかないですからね。そこで会社に出席を止められたらブチギレですからね。アギーレ監督にとっても、それぐらい重要な表彰式なのでしょう。
そして、もっともありがちな解任理由、成績不振はどうか。否、否、否、否。現時点の日本代表は成績不振などではありません。正確に言えば、成績そのものがまだ出ていません。今月までにこなすアギーレJAPANの6試合はいずれも親善試合。公式戦はゼロです。全敗だろうが全勝だろうが、それは成績の良し悪しではなく、気分の良し悪しの問題。
「2018年ロシア・ワールドカップに出場すること」
しかも、仮にこの6試合が全部公式戦で、11月の2連敗を含めて1勝1分4敗となったとしても、まったく問題ありません。そもそもアギーレ監督に依頼された内容はというと、「2018年ロシア・ワールドカップに出場すること」です。これは就任会見を含め、何度もアギーレ監督自身が発言していることです。その観点から言えば、11月までの6試合は、勝っても負けてもどっちでもいい試合ばかり。
【依頼された仕事内容、目標】
2018年ロシアワールドカップに出場すること。
【目標達成に必要なこと】
アジア予選の突破。レギュレーションは未確定ながらも、アジア枠は「3.5枠」から「4.5枠」程度が想定される。従って、達成にあたっては「アジアで4位以内」が目安となる。
【アギーレJAPAN発足以降の6試合の目標との関連性】
●9月5日ウルグアイ戦:目標との関連性ゼロ
ウルグアイはアジア予選に出場しない(※南米予選に出場)
●9月9日ベネズエラ戦:目標との関連性ゼロ
ベネズエラはアジア予選に出場しない(※南米予選に出場)
●10月10日ジャマイカ戦:目標との関連性ゼロ
ジャマイカはアジア予選に出場しない(※北中米カリブ予選に出場)
●10月14日ブラジル戦:目標との関連性ゼロ
ブラジルはアジア予選に出場しない(※南米予選に出場)
●11月14日ホンジュラス戦:目標との関連性ゼロ
ホンジュラスはアジア予選に出場しない(※北中米カリブ予選に出場)
●11月18日オーストラリア戦:目標との関連性わずかにアリ
オーストラリアはアジア予選に出場するが、直接対決を含むライバルとなるかは未定。仮にオーストラリアに負けたとしても、アジア4位以内となる可能性が断たれるわけではない。オーストラリアがアジア最強で日本が2位かもしれない。
【結論】
全敗したからと言って、目標が達成できないと予見することはできない。
うむ、ほぼほぼ無関係。この6試合の結果などどうでもよかったのです。そして、その過程もどうでもいいこと。テストマッチ6試合をどう使おうが、それは指揮官のやり方次第。1試合目からメンバーを固めてガチガチに勝ちに行くもヨシ。とにかくいろいろ呼べるだけ呼んでザックリ見るもヨシ。やり方にまでクチを出すなら、「お前が監督やれ」という話です。
振り返ってみてください。ザックJAPANの終焉を。あのとき、ワールドカップのたった3試合で実り多き4年間を全否定するような報道がたくさん出たじゃないですか。フランスに勝ち、ベルギーに勝ち、イタリアやオランダと壮絶な打ち合いを演じ、アジアカップを制し、ワールドカップ予選を圧倒的な強さで勝ち抜いたザックJAPANは、最後の3試合だけでクルッと手の平返しされたじゃないですか。「終わりよければすべてヨシ」の逆。結果は残酷です。
その態度、貫かなければ。
しっかりと結果を見て、勢いよく手の平を返そうじゃありませんか。
アギーレJAPANはまだ何の結果も出していません。未来を予見するに足る材料は何もありません。「誰を呼べ」だの「誰を呼ぶな」だの「勝手に休むな」だの「戦術が意味不明」だの「顔が怖い」だの、結果以外のモノを引き合いにどうこう言うのは不誠実です。任せる部分は任せ、結果を見て粛々と判断する。それが仕事を頼む上での誠実さというもの。
目標達成の目安となる「アジア4位以内」になれるのかどうか。実際に達成できなかった場合は大変困るので、達成できない未来が予見できた段階で手を打つとして、それを予見できるのはいつなのか。アジアに置ける日本代表のチカラが揺るぎなく「結果」として示されるタイミング、それは第一にアジアカップでしょう。
『アジアカップでベスト4』
これがアギーレ監督に引きつづき仕事を頼むかどうか判断できる、最初のポイントではないでしょうか。アジアカップという大本番でベスト4に入れなければ、アジア最終予選の4枠に入れないという未来を予見するに十分な結果です。過程は問わない、結果こそすべて。準備期間の短さなど関係ありません。どれだけ準備していても、大本番直前に一斉にけが・体調不良が発生する可能性はあるのです。勝ちたい日に合わせてパッと準備し、ササッとチームを勝たせる手腕が、アギーレ監督にあるのか。言い訳無用の大本番で見極めるのです。
アジアカップまでは黙って見守る。
アジアカップでベスト4以上になれば引きつづき仕事を依頼する。
残念ながらベスト4に入れなかった場合は、粛々と解任する。
それが相手の仕事に対しても、自分たちの仕事に対しても誠実な態度です。公式戦でも何でもない試合でズルズルと「最終試験」と称した査定を繰り返したり、予選期間中にちょっと気に入らない試合があっただけで呼び出して面談したりするようでは、騒ぐ側がみっともないというもの。アギーレ監督をご覧なさい。1試合しっかり結果を見てから、ズバッと坂井達弥さんのクビを切ったじゃないですか。「見る前に切れよ」「見る前に切れるだろ」「ていうか、見るな」という世間の声を跳ね返し、しっかりと見てからズバッ。うーん、素晴らしき誠実さ。これでいきましょう。
日本代表がアジアカップでベスト4に入れなかったのは1996年大会が最後です。結局、当時の指揮官・加茂周氏はワールドカップ最終予選中に、成績不振で更迭されました。そして加茂氏が就任する前の指揮官ファルカン氏も、1994年アジア大会の成績不振をきっかけに解任されていました。ポンポンポーンとリズムよくクビを切っていったことで、最終的にのちの名将・岡田武史氏に行きついたのですから、これはなかなかの好判断でした。
のちの名将・岡田武史氏(右)
今後の4年間も、そうありたいもの。まずアジアカップの結果を見て判断する。そしてアジア1次予選(5ヶ国ずつ8組に分かれて戦い、各組の1位および各組2位から成績上位の4ヶ国、合計12ヶ国が最終予選に出場)では、「アジアで4位以内」を期待する以上「グループ1位」となることは当然として判断する。2度の判断タイミングを乗り越えられなければ、ポンポンポーンとクビにしていく。適切な「予見」のタイミング、これしかないと思います。
11月の2連戦は2連敗してもOK。
逆に2連勝しても、金一封とか出たりする試合でもない。
そのくらいの位置づけですので、アギーレ監督も落ち着いて手腕をふるってもらいたいもの。
コチラも落ち着いて見守りますので。
頑張れ、アギーレJAPAN!
勝っても負けてもどっちでもいいという気楽な姿勢で!
勝っても負けてもどっちでいい程度の気楽な試合を!