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祖国への想い…英霊を追悼しなかった理由/イングランド現地直送コラム

2014.11.13

during the Sky Bet Championship match between Bolton Wanderers and Wigan Athletic at Macron Stadium on November 7, 2014 in Bolton, England.

Tottenham Hotspur v Stoke City - Premier League
トッテナムvsストーク戦直前に行われた献花 [写真]=Getty Images

 祖国アイルランドへの複雑な想いがあった。

 イングランド2部リーグ、ウィガンに所属するアイルランド代表MFジェームズ・マクレーンが11月11日の英霊記念日に際し、7日に敵地で行われたボルトン戦でイギリス軍の戦没者への追悼の意を示す『ポピー=ケシの花』を着用することを拒否した。

 北アイルランド、デリー生まれのマクレーンは、「ブラディ・サンデー=血の日曜日事件」というアイルランドの歴史的事件を学んで育った。1972年に起こった同事件は、イギリス統治を反対する公民権運動のデモ行進中、非武装のデリー市民27名がイギリス軍に襲撃され、14名が死亡、13名が負傷したもの。当時イギリス軍には無罪判決が言い渡されたが、再調査の結果、2010年にようやくイギリス政府が非を認め、被害者遺族に謝罪した。

 マクレーンが初めてポピー着用を拒否したのはサンダーランドに在籍した2年前のことで、当時も賛否両論を巻き起こし、本人に対する脅迫や殺人予告に発展し、警察が調査に乗り出す事態に至った。ウィガンに移籍した翌年もマクレーンは再び着用拒否を宣言したが、当時のオーウェン・コイル監督は支障が出ることを避けてか、けがを理由にチームから外す事態となった。

Bolton Wanderers v Wigan Athletic - Sky Bet Championship
7日の試合でポピーのついていないユニフォームでプレーしたマクレーン [写真]=Getty Images

 そして今回、マクレーンは2度目の着用拒否を実現させた。マクレーンがウィガンのオーナー兼会長であるデイヴ・ウィーラン氏に対して送付した文書は7日、クラブの公式ウェブサイトに公開された。

「ウィーラン様、僕はあなたと会って話す前に、僕がボルトン戦でポピーを着用しない理由について手紙で説明したいと思います」

「僕は第一次、第二次世界大戦で戦死した人たちに心から敬意を表するし、あなたの祖父パディ・ウィーラン様も 戦没者の一人だと聞きました」

「私は周りの人たちと同じように哀悼の意を示しますし、もしポピーが第一次、第二次世界大戦の戦没者のみを追悼するものであるなら、私も付けるつもりです」

「しかし、ポピーは1945年以降の軍人への追悼も含まれており、それこそが僕にとっての問題なのです」

「僕のような北アイルランド、特にデリー出身の人々にとって、1972年のブラディ・サンデーの被害者にとって、ポピーは非常に違った意味を示します」

「どうか、僕のようなデリー出身の人を理解してください。デリーの人たちは未だにアイルランドの暗黒時代を背負って生きているし、それは僕のように事件の20年後に生まれた人も同じで、生まれた時からそれを背負っているのです」

「僕にとってポピーを付けることは、数々の事件の被害者、特にブラディ・サンデーを蔑ろにすることになり、故郷の人たちを侮辱するものとみなされます」

「僕は戦争を支持する人間ではないし、反イギリス感情も持たなければ、テロリストでもない。僕は平和を望む人間であり、たとえ宗教や政治理念が違っても、僕は周りの人が僕にしてくれるようにそれを尊敬するし、みんな仲良く生きるべきだと信じて います」

「僕は故郷を心から誇りに思っているし、自分が間違いだと思う事ができないだけです。あなたは私の感情に反対するかもしれませんが、僕は理解してくれることを心から望んでいます」

 マクレーンはU-21(21歳以下代表)までは北アイルランドでプレーしたが、本人の希望でA代表ではアイルランド代表を選択し、通算24試合に出場し3ゴールを記録している。

 今回のマクレーンの手紙は新たな論争を巻き起こしているが、少なくとも本人の真意と筋の通った理屈は、所属クラブの後押しを受けて正当化された格好となった。

藤井重隆(ふじい・しげたか)。東京都出身。ロンドン大学ゴールドスミス卒。19歳からスポニチの英国通信員として稲本潤一選手の取材を中心にライター活動を開始。日刊スポーツ、時事通信を経て欧州サッカー界に精通。イングランド7部でのプレーも経験し、FAレベル2コーチング・ライセンス取得。現在も西ロンドンの社会人チームでプレーしながら、本場のフットボールに浸る。

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