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シメオネイズムを吸収、フランスの未来を描くグリーズマンに宮本恒靖が迫る

2014.11.07
WOWOW
[写真]=WOWOW

 先週、フランスから帰国した記者仲間に尋ねた。「今(一番人気なの)はポグバ?」「ポグバも確かに人気だけど、今はグリーズマンだね。顔もイイし、彼の話ばかりだよ」。W杯ブラジル大会で、フランス代表が戦った5試合すべてに出場。今シーズンからアトレティコ・マドリードに移籍したグリーズマンが、やっと世界的な人気を獲得し始めている。

 しかし、リーガにおいては、前所属クラブのレアル・ソシエダで2009年に18歳でデビューして以降、ここ数年間は左のウィングとして輝き続けるクラックだった。

 デビューしてほどなくグリーズマンは、チームでレギュラーの座を獲得。非凡なパスセンス、時にはアクロバティックな技も見せる高いシュートテクニック、そして端正な顔立ちからは想像もつかないほど力強いスピードあふれるドリブルで、相手DFを蹴散らし局面を打開する。その力は12-13シーズンのチャンピオンズリーグ出場、昨季のリーガ7位という好成績の確保に、大きく寄与した。今シーズン開幕前、ジエゴ・コスタら主力選手を引き抜かれた昨シーズン王者アトレティコ・マドリードは、穴を埋める大きな目玉として彼を獲得。多くのリーガファンが“アトレティコはよい補強をした”と感じる交渉だった。

 そんな、まだ日本メディアで取り上げられることがそれほど多くないグリーズマンのもとに、元日本代表キャプテンの宮本恒靖が訪れた。10月末に行われたクラシコで、WOWOWの現地解説を務めるためスペインを訪れた際に、2人は言葉を交わしている。

アトレティコへの適応とシメオネのもとでプレーする意義

 前日にチャンピオンズリーグの試合を見た宮本がグリーズマンに尋ねたのは、好調に見える彼自身のコンディションとアトレティコというチームへの適応についてだった。

「アトレティコでは要求される激しさが今までとは違う。最初はフィジカル面で苦労したけど、今はどんどん調子が良くなっているよ。フィジカルコンディションも良くなってきたし、いいプレーをしたいという気持ちが強い。僕は、以前からスペインでプレーしていたので、チームに慣れるのはそれほど苦労しなかった。ただ、練習で監督から要求されるフィジカル面の激しさに慣れるのには苦労した。試合ではピッチですべてを出し切って、ファンの愛情を勝ち取ろうと思っている」

 何より、シメオネ率いるアトレティコは、プレー強度の高さが最も重要視されるサッカーだ。実力ある選手であっても、そのプレースタイルにあわせるのは簡単ではない。

simeone

 宮本は選手的目線から、以前の試合でゴールを決めた後、シメオネ監督に抱きつきに行ったシーンをピックアップし、その理由を尋ねた。

「それまで抑えていた気持ちが爆発したんだ。監督は『そのうち絶対に結果が出る』と言い続けてくれた。だから、感謝の気持ちを表したかったんだ。それに今シーズン、僕もベンチにいることがあったので、控えの選手たちと一緒に喜びたかったんだ。ベンチに座っているのは簡単なことではないからね」。その一節からも、選手と監督の信頼関係の強さがうかがえる。

 前日の練習風景からも、シメオネ監督がまるで選手のように指示を出し続ける姿は、チームが一枚岩となっている印象が伝わってきた。

「監督はいつでもチームが最高のパフォーマンスを出せるように、僕たちに指示を出し続けるし、アドバイスもくれる。監督は練習のときでも、僕たちに100%の力を発揮させようとしているんだ。1回1回の練習が試合のようなもので、すべてを出しきらなければならない。プレシーズンの準備や今、日々行っている練習のおかげで、僕たちはピッチでいいプレーができている。アトレティコのように厳しくプレスをかけるスタイルは慣れていなかったから、最初は苦労したよ。でも、しっかりプレスをかけることで、いい形でボールを奪える。高い位置でボールを奪えれば、すぐに相手ゴールに迫れるので、その戦い方には納得しているよ」

 アトレティコで、まさに自身のキャリアを飛躍させようとしているグリーズマンに、「クラブでの目標は」と投げかける宮本。彼は、その質問に強い言葉で答える。「アトレティコのクラブ史上有数の選手になって、できるだけ多くのタイトルを獲得することだ」。

レアル・ソシエダへの感謝

 フランス生まれのグリーズマンは、スペインのサッカークラブでプロ生活をスタートさせるという珍しいキャリアをたどっている。両親いわく、“足にサッカーボールがくっついたまま生まれてきたような子”だったらしく、いつもボールで遊んでいたそうだ。

 ベッカムに憧れていたサッカー少年は、14歳のときに才能を見初められ、スペインのレアル・ソシエダに入団する。海外でのプレー経験もある宮本は、若くしてスペインに来たことが壁にならなかったか、そしてソシエダとは自分にとってどんなクラブなのかを尋ねた。

「スペイン語を話せなかったから、相手の言うことを理解して、僕の言いたいことを相手に伝えられるまで、1年かかったよ。苦労したけど、チームメイトが助けてくれたので、チームにも溶け込めた。フランスのバスク地方の学校に通って、午後5時半からは移動してスペインのサン・セバスティアンまで行き、練習に参加する。その後、フランスに戻って寝る。そんな生活を続けていたんだ。ソシエダは僕を信頼してくれて、すべてを与えてくれたクラブ。1部でプレーするという夢を叶えてくれたクラブだ。僕はソシエダのユニフォームを着て、クラブのために全力で戦った。これからもずっとソシエダに感謝し続けるよ」。

Real Sociedad de Futbol v UD Almeria - La Liga

 2007年から3シーズンにわたってレアル・ソシエダは2部に所属していた。1部昇格を決めた2009-10シーズン、グリーズマンが涙を浮かべていたシーンは、彼のクラブへの想いの強さを表している。

「あれは美しい瞬間だったよ。プレッシャーも大きかっただけに、嬉しかった。1部に昇格したときと、チャンピオンズリーグの出場権を獲得したときが、ソシエダでの最高の想い出だね」

 その後、チャンピオンズリーグの舞台でも活躍するようになった昨シーズン。リヨン戦では歴史に残る美しいオーバーヘッドを決めて、一躍時の人になった。彼自身にとっても最も印象に残っているゴールだ。

「チャンピオンズリーグ予選のリヨン戦で、オーバーヘッドキックで決めたゴールが特に記憶に残っているね。フランスで行われた試合で、相手がリヨンだったんだ。僕は子供の頃からリヨンのファンで、スタジアムによく試合を観に行った。チャンピオンズリーグの試合も観ていたから、ひとしおだったね。あれは今後もずっと、僕のベストゴールだと思うよ」

目標、アトレティコにとって重要な選手になること

 ひとたび、サッカーを離れればXboxやFIFAのゲームで遊んだり、彼女と映画を見に行くという普通の23歳の青年だ。休みの日は「家で家族と一緒にゆったりした時間を過ごすのが好きだね」という彼のもとには、日本のファンからもファンレターが届いたことがあるという。

 最後に宮本がサッカー選手としての目標を尋ねると、グリーズマンはこう言った。

「素晴らしいキャリアを送ること、世界のビッグクラブでプレーすることだね。とにかく、今はアトレティコにいることを楽しんで、全力を出し切り、チームにとって重要な選手になることが一番大事だよ。ワールドカップも素晴らしい経験だった。僕にとっては夢だったからね。クラブでいいプレーをして、また今後も出たい」。

 フランスの未来を背負うスペイン育ちのゲームメイカーは、シメオネイズムを吸収して、より大きな選手に、今なろうとしている。

 なお、このインタビューは11月10日(月)午前4:57~から生中継されるリーガ・エスパニョーラ第11節「レアル・ソシエダvsアトレティコ・マドリード」内で放送される。

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