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【独占】酒井宏や工藤らを育てた柏レイソル・吉田達磨氏が育成語る「日本も世界の一部」

2014.08.21

 8月28日(木)から31日(日)にかけて、「U-12 ジュニアサッカー ワールドチャレンジ2014」が東京都のヴェルディグラウンドおよび味の素フィールド西が丘で開催される。

 前年に続き、2回目となる同大会。昨年度はバルセロナの下部組織でプレーする久保建英くんが凱旋帰国となったこともあり、大きな話題を呼んだ。今回も海外からは欧州ビッグクラブのバルセロナとミランに加え、インドネシアのアシオップ・アパチンティが参戦。また、大会規模が拡大し、Jリーグ下部組織とともに、日本の街クラブが初の参加を果たす。

 開催を控えサッカーキングでは、酒井宏樹(現ハノーファー)や工藤壮人、大谷秀和など下部組織から昇格し、トップチームで活躍する多くの選手を輩出してきた柏レイソルの吉田達磨ダイレクターにインタビュー。

 長年、柏の下部組織監督やコーチを務めてきた同氏に、日本の選手育成や教育、今大会の意義や柏の育成システムなどについて聞いた。

●インタビュー=小松春生

W杯での日本代表により、目指す方向性は明確に提示された

吉田達磨
<柏レイソルの吉田達磨ダイレクター>

――昨年の第1回大会を実際に現地で観戦されていたそうですが、どんな印象を受けられましたか?

吉田達磨(以下、吉田) 世界と日本の比較、対比ということがクローズアップされ過ぎていたと感じました。僕は日本サッカーも世界サッカーに含まれているという認識を持っていたのですが、メディアでの取り上げられ方を見るとそうではないのだなと。

――確かに昨年はバルセロナに在籍する久保建英君が凱旋するということもあり、そのことばかりに注目が集まってしまいました。昨年はバルセロナが優勝しましたが違いを感じられた部分はありましたか?

吉田 単純に力の差があったと思います。勝負をデザインする力もそうですし、勝負どころで得点を取っていく、得点を取らせないためにしっかりとゲームをコントロールしていくことなど、彼らは当たり前のようにこなしていました。そういった部分で日本の少年サッカーとの差は感じましたね。

――トップダウンで育成方針がしっかりしているが、まだ日本はそこまで浸透していないということですか?

吉田 育成方針というより単純に歴史の差が大きいのではないでしょうか。

――まだ日本は時間がかかると?

吉田 日本では6-3-3-4制(小学校から大学まで)という教育制度があり、学校体育との関係性を考慮しなければならない。そういったシステムの違いを考えても彼らと同じ歴史を歩むことは不可能です。ですので、日本の教育システムの中で効率良く育成に取り組んでいけるかということが重要だと思います。

――どうしてもバルセロナですとか、去年の大会であればリヴァプールですとか、「すごいね」という感じになっていましたが、ご覧になって「日本のここは優っていた」という部分はありましたか?

吉田 大会を見る限りでは正直ほとんどなかった。優っているところがあったら、もうちょっと互角の勝負になっていたはずですから。あの大会では彼らと比較して日本の良さは何かというところまでは出せなかったと思います。ただ一方で、彼らとの距離を強く感じたこともありません。

――その理由はどんなところにありますか?

吉田 私たちの育成システムに関してもそうですし、指導者の質や普段トレーニングしていることは遜色ないと。ただ、タレントの違い、彼らが普段目にしているもの、戦ってきている環境という面では大きな差はあると思いますが。

――ジュニアの国際大会で日本が世界との差を埋めるためにはどんな取り組みが必要だと思いますか?

吉田 世界との差を埋める、という発想自体をまず取り除くことが大切です。また結果を残すということは一つの手段だと思いますが、その大会で勝つためだけにどうすればいいかという考えは持っていません。国際大会の中で「これで戦える」という実感、手応えを得られることが重要だと思います。そこから足りないものは何かということを突き詰め調整していく。その積み重ねだと思います。

――そういった積み重ねの中で「日本の良さ」を見出していくことが必要だということですか?

吉田 まだ、日本サッカーは「日本の良さ」を確立した、というレベルまでは、いっていないと思います。それは今回のワールドカップでも残念ではありますが証明されてしまいました。ただ、日本が「こういうサッカーをしたい」という方向性は今回の日本代表によって明確に提示されたと思います。「戦える部分」と「足りない部分」が何かということを含めて。ジュニアや各年代の日本代表にもそのことが共有されているはずですから、今後国際大会でどんな取り組みを行っていくか楽しみですね。

日本人が、海外との差を煽ることにはとても違和感

久保建英
<昨年の大会にバルセロナの一員として出場した久保建英>[写真]=瀬藤尚美

――今、日本の育成の現状で、プラスに向かっていると実感されていたりする部分はありますか?

吉田 まず、「選手を育てなければ、未来がない」ということが浸透してきたということです。ごく一部の人が「育成に絶対に必要なこと」として提言してきたことがここ5年、10年で形にとして表れてきて、それをみんなが共通認識として取り組んでいる。「何をすべき」ということに改めて気付いたということです。

――成熟し、裾野が広がって、共有が進んでいると。

吉田 そう思います。これまでは選手育成が大事なことだと頭では分かっているけど、行動として起こせる土台がなかったり、その場所がなかったりという問題がありました。でも、Jリーグが発展し、日本代表が世界の舞台に立つことによって、世界との差を埋めるためにどうすべきか、ということが真剣に考えられ始めました。「選手を育てなければ、未来がない」ということがその一つの結論として導き出され、育成のインフラはどんどん整備されてきたことは、ここ数年でとても感じているところです。

――良い部分もあれば、当然悪い部分と言いますか、難しい課題、壁もあります。「今、ここは改善すべきポイント」と思うところはありますか?

吉田 私は特に思い当たらないですね。逆に、「改善しなきゃいけない」とか、「ここが足りなかった」ということを探し過ぎていると思っています。今取り組んでいることとか、見えてきたものに対して、もっと信じてそれを頑に貫き通すような力強さが必要だと考えています。

――今はまだあくまでも積み上げている段階で、いろいろなことをやってみようということでしょうか?

吉田 一つの取り組みの中で、軌道修正をしたり、マイナーチェンジしたりは当然していくべきだと思います。差を見つけることでそこを改善すること自体は大切なことですが、あまりにも課題を探すことに力を注ぎ過ぎているなと。柏レイソルでは自分たちの育成方法は間違いないものだと信じて取り組んでいます。もちろん、課題にも目を向けていますよ。

――課題や差を探し過ぎるということは、先ほど吉田さんがおっしゃっていた、第1回大会での世界と日本の比較、対比という捉え方にもよく表れていますね。

吉田 「どうだ、バルセロナすごいだろ」、「どうだ、リヴァプールすごいだろ」と彼らに関わる日本の人が、差を煽ることにはとても違和感を感じました。一体何に繋げたいのだろうと。「海外に出れば成長できる」、「日本の育成ではだめだ」、そのような風潮を作り出す必要はないですし、それを日本のクラブが受け入れていては勝負の土俵にすら上がれていないことになります。なぜ、我々は彼らに対してへりくだらなければならないのか。日本も世界のサッカーの一部だと考えているだけに、とても屈辱的な思いをしましたし、とても悔しかった。だから、今ある勝負に勝つということを成し遂げようとしなければ、それが我々にも選手にもずっと重りとなって、トラウマとなってしまう。今年はそうなりたくないなとは思っています。

地域の方々との協力によって日々年々、円滑に

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<昨年の大会では準決勝でリヴァプールと対戦し、敗れた柏レイソル>[写真]=瀬藤尚美

――ここからは柏レイソルについて聞かせてください。全日本少年サッカー大会の決勝で、柏は良いサッカーしているという印象を受けました。

吉田 決勝には過去4年間で3回出ていますが、一番良かったと思います。

――地域との連動にも非常に力を入れていらっしゃいますが、改めて、柏の育成システムを教えてください。

吉田 育成システムはピラミッド型の構図が多いですが、我々は“円”という形でシステムを構築しています。円の中心に柏レイソルがいて、そこから地域に円の輪が広がっていき、地域からは円の中心に向かって集まってくるという考え方です。

――実際に地域の方の協力もだいぶ広がっているようですね。

吉田 そうですね。地域の方々との協力によってこのシステムは日々年々、円滑になっています。

――柏はジュニアの頃から結果を残していて、海外のクラブと戦う機会もかなりあると思います。小学生年代で、海外クラブと試合・交流する意義は何でしょうか?

吉田 実際に海外のチームと試合をして自分たちが知らなかったプレーやスタイルを体感することで、「日本」と「世界」という考え方の境界線がなくなることですね。世界の中に自分たちもいるのだと。

――サッカー以外でも日本人は海外のことに対して、劣等感を意識しがちです。

吉田 コンプレックスはあると思います。私にだってあります。私たちの世代のように幼い頃、国際経験を積めずにサッカーをしてきた人間は、潜在的に持っている部分なのかもしれません。だからといって、遠くに世界を作りあげて下から上を見る必要はなくなっています。自分たちを信じるべきです。

――「日本」と「世界」という考え方の境界線をなくすためにもこの大会の存在は重要ですね。

吉田 とてもとても有意義な大会だと思います。レイソルもU-12が大会に出ますが、世界との線引きをしないという考え方は徹底しています。日本のシステムでも成長できるということを証明したい。ただ、負けは受け入れるし、相手の良いものは受け入れます。1つの良い国際大会として臨みたいと思います。

小さな積み重ねが、何年か後の将来を左右する

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<昨年の大会で監督から指示を受ける柏の選手たち>[写真]=瀬藤尚美

――小学生年代への教育という部分においては、どういうことが1番大切でしょうか?

吉田 指導者が言い訳をしない。選手たちに小さなことの大切さを徹底して伝えられるかどうか、選手たちがそれを大事に思って、自信を持ってピッチに表現できるまで、刷り込めるかどうか、しっかりと心の中に入っていけるかということですね。

――子供を指導する上でどんなことを伝えたいと考えていますか?

吉田 まず逃げない。一生懸命やる。サッカーを大切に扱う、大切に思い努力する。それがあって正々堂々と正面からサッカーで勝負する。またサッカーのピッチ内では、相手を騙す事はとても大切なスキルであり戦術です。そういった逞しさを同時に身につけさせていかなければいけないとも思います。ただ根底にあるのは、愚直に正直にサッカーに取り組むことが大切だということです。

――具体的にはどんなことでしょうか?

吉田 ピッチの中であれば、ボールを受けるときに立っている位置や姿勢に気をつけるとか、隣の子の様子を確認するとかですね。状況が確認出来なかった時にそのままプレーを続行するのか、そうじゃないのか、まだまだありますが、幾つもの小さなことをジャッジさせていく。気を抜かず、「もっともっと」、「まだまだ」という気持ちが続くように仕向けていく。ピッチの外では自分の行動の意味を知ることが大切です。練習後に炭酸飲料水を飲むのと牛乳を飲むことの違い、ピッチ周辺のボトルを給水したら投げずに置く、ルールを守る、本当に小さなことです。

――小さなことの積み重ねが今後の成長に繋がっていくわけですね。

吉田 本当に地味で些細なことだけど、その地味で些細な、小さなことを大事に思って、どれだけ積み上げられるかということが、彼らの何年か後の将来を大きく左右すると思います。

――そういった積み重ねが大事だということを子どもに気付かせるためにも指導者は重要ですね。

吉田 そのことにもっと大人が力を注ぐべきだと思っていますし、自らが示していかなくてはいけません。子供だから頭ごなしに叱り、子供だから許す、そういったことではなく、結果がうまくいった、いかないに関わらず、間違ったものに対しては「だめだ」ということを伝えていかなければいけない。ピッチ内でも外でも。サッカーは正解がないから、多くのアイデアが認められると共に、指導者にはたくさんの逃げ道もあります。そこを逃げずにやっていく監督やコーチでなくてはいけないでしょう。特にJリーグのクラブはそれをリードしていく立場にあります。地道な作業を怠ったらいけないと思います。

『U-12 ジュニアサッカー ワールドチャレンジ2014』サッカーキング特設ページ
【独占インタビュー】『U-12ワールドチャレンジ』主催の浜田満氏「選手も指導者も世界を感じてほしい」

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