FOLLOW US

「奈良劇場総支配人」奈良クラブ岡山一成のJリーグへの道:第四回

2013.12.17

 Jリーグが終わって、一番印象に残ったのは俊輔が号泣したシーンやった。結果についてはいろんな感情があるから書かんけど、あの俊輔の崩れ落ちた姿にもらい泣きした。俺は泣き虫やから、俊輔の前でもよう泣いたけど、あの俊輔があそこまでの感情を露わにするとは思ってもいなかった。


写真=GettyImages

「オカ、俺らが見てても結果は変わんないじゃん。それよりもチームの行事として、バルサの試合に行かないとダメっしょ。子供じゃないんだし」

 俊輔がいつもの冷めた感じで言ってきた。

「アホ、これを見んで、なんでバルサの試合に行かなアカンねん。日本がワールドカップに行けるかの瀬戸際やぞ。行くやったら勝手に行け。俺は残るわ」

 岡野さんが歴史的なゴールを入れた瞬間は、俺も俊輔も見れなかった。マリノスがスペイン合宿をしていて、バルサから試合観戦に招待されていて、延長になる前に宿舎を出なアカンかったから。

 延長を見ると駄々をこねる俺を、先輩たちが引きずるように連れ出す中、俊輔は「我、関せず」とばかりにさっさとバスに乗り込んでいた。同期の関係やけど、これほど合わない奴もいなかった。

「どうしてオカがスタメンで俺がベンチなの? 納得できないんだけど」

「そう言うなって。俺がいま調子がええからやん。シュンも途中から出たらええパスくれな」

 こんな時代が確かにあった。

 ほんの一瞬やったけど、優越感に浸り、シュンが悔しさを抱えた時期が確かにあった(笑)。憎まれ口を叩き合う仲やったけど、シュンと一緒の時代を過ごせてほんまに幸せやった。

 海外生活を終えて、マリノスに復帰した時に二人で話す機会があった。

「やっぱりマリノスで優勝したいんだよね。前回はファーストステージでの優勝でチャンピオンシップで負けたじゃん。ちゃんとした形で優勝を成し遂げたいじゃん。前回は先輩達に引っ張ってもらってだったから、今度は自分が引っ張って、若いヤツらに優勝の味を経験させてあげたいんだよね。それがマリノスに対しての恩返しだし、決して安くない契約をしている者としての務めでしょ」

 3年前にそう言って、チームを強くするためにすべてを注いで来たのに。あと一つ、あと1勝が届かなかった。

「オカ、よう泣くなあ。俺には人前でそんな風に泣くことできないし、そんな感情にならないよな」

 俊輔がどれだけの想いを背負って、託されて、闘ったかはあの姿を見て、みんなが思い知ったでしょう。

 来シーズン、少しでもマリノスに関わる人達が、俊輔の肩にのしかかる重荷を一緒に担いてもらえる事を願います。

追記
シュン、ワールドカップの思い出で、俺のエピソード言ってくれてサンキューな。奈良で自己紹介する時にちゃっかり、中村俊輔の同期です。と使わせてもらってるわ。受けがいいんよ。だから、俺がやめるまで、シュンもサッカーやめんなよ。俺より先に引退したら、「勝った」って嫌味言うからな。ほな。

岡山一成(おかやま・かずなり)
1978年4月24日生まれ。大阪府出身。
初芝橋本高卒業後、テスト生として横浜Mへ。打点の高いヘディングとガッツ溢れるプレーが評価されてプロ契約を勝ち取ると、デビュー戦から3試合連続ゴールを記録して一気に頭角を現した。大宮、横浜FM、C大阪、川崎F、福岡、柏、仙台と渡り歩く中、川崎F時代に始めた試合後の“岡山劇場”でサポーターの心をつかむ。柏時代には日立台のゴール裏でサポーターともに応援したこともある。09年に移籍した韓国・Kリーグの浦項ではACLを制し、FIFAクラブW杯で3位に入った。11年から昨シーズンまで札幌に在籍し、今夏からアマチュア選手として奈良クラブへ加入。J1通算64試合6得点、J2通算214試合20得点。

SHARE

LATEST ARTICLE最新記事

RANKING今、読まれている記事

  • Daily

  • Weekly

  • Monthly

SOCCERKING VIDEO