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ユヴェントス・スタジアムと子供たちがカルチョの未来を示す

2013.12.06

 12月1日、ユヴェントス・スタジアム。オープンから盛況が続く新スタジアムは、いつもとは一味違う雰囲気に包まれていた。この日のクルヴァ(ゴール裏)には、13歳以下の子供が無料招待され、実に1万2200人の“小さなユヴェンティーニ”が終結したのだ。

 先のナポリ戦でサポーターが侮辱的なヤジを飛ばしたために、観客席閉鎖処分を受けたユーヴェ首脳陣は、ただゴール裏を空席とするのをよしとせず、子供たちの無料招待をリーグ側に提案し、認められた。トリノ市とその周辺の少年サッカークラブ単位で招待が行われたため、引率者として入場できる大人はコーチのみ。こうしてクルヴァは子供たちで埋まった。

 旧デッレ・アルピを建て替えたユヴェントス・スタジアムは、イタリアで最新にして最も快適なスタジアムだ。1990年のイタリア・ワールドカップのために建設された各地のスタジアムは老朽化が進み、観客のニーズに合っていない。イタリアで唯一となるクラブ所有のスタジアムは、音響やビジュアルなどの演出効果に優れ、座席も快適で、何よりも観客席とピッチの距離が短くプレーが見やすい。新たなユヴェントスのシンボルとして、ファンの誇りになっている。

 そのスタジアムを埋めた子供たちが、最高潮のテンションで試合を迎えたのは当然のこと。「イタリアで最も熱狂的なスタジアム」は、その熱狂の度合いをさらに高めていた。そうして行われたのが、先の日曜の試合だ。

 先に行われる相手チーム(ウディネーゼ)の紹介はごくあっさりと。続くユーヴェの選手紹介はこれでもかとばかりに盛り上げる。そんなスタジアムで“非日常”を楽しむ子供たちの熱狂ぶりは素晴らしいものだった。

 試合が始まっても彼らのテンションは最高潮のまま。ユーヴェの選手が良いプレーをするたびに喝采が起こり、歓声とため息が交差する。選手たちにとってこれほど気合の入る試合はなかったに違いない。

 前半早々、アンドレア・ピルロが相手選手と交錯してひざを強打し、ピッチに倒れた。応急処置の間、子供たちは大声でピルロの名をコールする。ユーヴェのレジスタは子供たちの期待に応えるために立ち上がり、プレーを続けた。10分後に自ら交代を申し出てピッチを後にしたが、本来であれば立つことのできない衝突だったはず。ファンの熱狂が彼を突き動かしたのだった。

 子供たちの応援は素晴らしい試合を演出する大きな要因となったが、試合後に問題視された点もあった。相手のゴールキックのたびに、GKが蹴る瞬間に「MERDA!」(クソ)と叫んだ「侮辱行為」である。試合後のスポーツニュースでは、子供たちに悪い慣習を教えたコーチに責任を求める声が噴出した。もっとも、これはイタリアではお決まりの「応援スタイル」の一つであり、子供たちは“律儀に”この慣習をなぞっただけだ。だいたい、「うんち」と叫ぶ機会があれば喜んでやるのが子供である。スタジアムで一度でも「MERDA!」と叫んだことのある人間に、この日のコーチや子供たちを批判する権利はない。

 一方で、相手のエースストライカーであるアントニオ・ディ・ナターレが抜け目ない動きでマークをかわして決定的なシュートを放てば、子供たちは失点を免れたことに安堵するため息をまず漏らし、素晴らしいプレーを見せたウディネーゼの10番に拍手を送っている。これは“大人のユヴェンティーニ”にはできない美しい行為だ。目を向けるべきはそちらだろう。

 とにかく、あの場所にいて感じたのは、子供たちのカルチョに対する愛情である。体感温度はゼロ度、試合も決して“熱い”ものではなかった(後半ロスタイムの1点で辛くもユーヴェが勝利)。それでも子供たちは(ゴールキックの瞬間を除けば)ユヴェントス・スタジアムに素晴らしい雰囲気を作り出し、その雰囲気に酔いしれ、90分間の戦いを存分に堪能した。ユーヴェが劇的な勝利を得たこともあって、帰路でも子供たちははしゃぎ回っていた。

 試合後の会見でアントニオ・コンテ監督は言った。「今日スタジアムに来てくれた子供たちこそが、我々の希望であり、将来だ。彼らの存在は喜ばしい」

 そう、この日に我々が見たのは、イタリアサッカーの希望であり、将来だった。悪い慣習に少々毒されてはいるかもしれないが、カルチョへの愛情は確かに感じられた。低迷するイタリアサッカーは、このユヴェントス・スタジアムから再起の一歩を踏み出したのではないか。そう感じる夜だった。

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