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絶対王者ユヴェントスは止められるか

2013.10.11

ワールドサッカーキング 2013年10月25日増刊『CALCIO+』(カルチョピュー) 掲載
新シーズン開幕を前にしたスクデット予想で、評論家や解説者は「ユヴェントス」と口を揃えた。しかし、2シーズン連続で優勝しているユーヴェの進撃に対し、「打つ手なし」というわけではない。各クラブが競争力を取り戻しつつある今、セリエAは一強体制ではなく群雄割拠かもしれないのだ。

 2シーズン連続でスクデットを獲得したユヴェントス。監督や主力選手のいずれかが退団することもなく、的確な補強で戦力を増した今シーズン、彼らが優勝候補の筆頭に挙げられるのは当然である。

 2011年夏に監督に就任し、古巣ユーヴェへの帰還を果たしたアントニオ・コンテは、自信を失っていた選手たちに喝を入れ、プロヴィンチャのクラブで磨き上げた“超攻撃的サッカー”を教え込んだ。この場合の「超攻撃的」とは、ただ攻めに力を注いで多くのゴールを奪うだけの意味ではない。コンテの掲げる「攻撃」は、相手が保持するボールにアタックする、苦しい状況でも決してあきらめず勝利を追い求める、という姿勢を意味している。

 これは現役時代のコンテの姿そのものだ。彼は決して優雅なタレントではなかった。ロベルト・バッジョやアレッサンドロ・デル・ピエロ、ジネディーヌ・ジダンのようなテクニックもアイデアも持たなかったが、チームのためにハードワークを続け、勝利への渇望を剥き出しにして戦い、そのスピリットをチームメートに及ぼす影響力を持っていた。そういった姿勢が首脳陣からも仲間からも評価されたからこそ、天才プレーヤーを支える労働者の一人に過ぎなかった彼が、チームを代表してキャプテンマークを腕に巻くことを認められたのだ。

 コンテは、自身が現役時代に体現したプレースタイルを、ユーヴェのプレースタイルとして定着させた。選手個々が常に勝利を追い求めて全力を尽くすことが、一つのチームとして貫徹できるようになった時、それは“勝者のメンタリティ”へと昇華する。コンテは彼の師匠であるマルチェッロ・リッピの哲学を蘇らせることで、ユーヴェを復活に導いたのだ。コンテ就任前の成績が2シーズン連続の7位だったことを考えると、ユヴェンティーニがコンテを救世主と称えるのも当然だろう。

 コンテ・ユーヴェは進化している。1年目と2年目を比較すると、2位との勝ち点差は4から9へと広がった。1年目は最終節だけを残してスクデット獲得を決めたが、2年目は3試合もの消化試合を作り出した。

 コンテが持ち込んだ新戦術は1年目から機能したが、“老貴婦人”らしからぬ謙虚さもしばしば見られた。多くのビッグネームを含めたチーム一丸となっての強さにより、ユーヴェはスクデット奪還に成功したのである。ただ、2年目の昨シーズンのスクデットは盤石の勝利と呼ぶべきもの。技術的、戦術的に他チームを圧倒し、それでいてさらに相手よりも強固なチームワークを見せた。サッカーではしばしば内容と結果が相反するものだが、昨シーズンのユーヴェは1年を通して内容も結果も伴った。序盤から快調に首位を走り、ライバルたちの追随を許すことなく連覇を飾ったのである。

 そして迎えたコンテ政権3年目。指揮官は今も理想のチーム作りに邁進している。彼のサッカーに対する姿勢からすれば、油断など起こりようがない。今夏の補強の目玉は、マンチェスター・シティから加入した「アパッチ」ことカルロス・テベス。FW陣にタレントを欠くという課題を、この夏の移籍市場で売りに出されていた最高のタレントを獲得することで解消したのである。テベスの獲得により、ユーヴェの攻撃陣にはチャンピオンズリーグやリベルタドーレスを戦った国際経験と、前線での“狡猾さ”が加わった。同様に、フェルナンド・ジョレンテの獲得で高さとパワーを補っている。

コンテがもたらした勝者のメンタリティ

 ユーヴェの3連覇は決まりなのだろうか? 「いや、そうではない」というのが本稿のテーマである。ユヴェントスはイタリアサッカー界において最多優勝回数を誇り、年代を問わずトップに君臨してきたが、そのクラブ史を紐解くと、セリエA3連覇は1930年代の5連覇までさかのぼらなければならない。その後、スクデット連覇は7回あったが、3連覇には至らなかった。3シーズン連続でのスクデット獲得は、かくも困難なのである。

 プレシーズンから楽観論が飛び交う中、コンテはその雰囲気に警鐘を鳴らし続けている。ヴァルダアオスタ州シャティロンで行われたキャンプ初日、シーズン最初の会見に臨んだコンテは次のように語った。「3連覇は真の偉業だ。我々はそれを目標にするが、相当に難しいと覚悟しなければならない。どのチームも打倒ユーヴェを目標とする。我々に勝つための補強を行い、我々に勝つための戦術を採用し、我々との試合となればピッチ上で死力を尽くしてくるはずだ。そういったライバルを、我々は100パーセントの、いや、それ以上の力で迎え撃つ必要がある。3連覇を達成するためには、一試合たりとも気は抜けない。そうでなければイタリア王者の地位を守ることはできないだろう」

 キャプテンのジジ・ブッフォンも、アメリカ・ツアー中に楽観論への懸念を口にしている。「2シーズン連続のスクデットが俺たちから勝利への渇望を奪うことはない。もちろん、人間だから自分に対して『よくやった』と褒めてあげたいこともある。だけど、シーズン中にそれをやったら大変なことになるだろうな。集中力を保ち、決然とシーズンを戦うことが大切だ」

 この2人は監督あるいはキャプテンという立場にある。チームから油断を取り除き、さらなるモチベーションを与えるために、あえてそういう言い方をしているのかもしれない。そこにはもちろん真実も隠されている。セリエAの歴史において、圧倒的な優勝候補と見なされながら、一つ歯車が乱れたことにより転落していったチームがどれだけあっただろうか。

 ただ、このテーマを編集部に提案した私も、今シーズンのユヴェントスがあらゆる意味でスクデット候補の筆頭であると考えていることに変わりはない。序盤戦の時点でチームとしての完成度が最も高い。コンテ3年目のシーズン、ユーヴェはすでにグループとしての強い結束力が見られる。第6節を終えた時点でいくつかのライバルが上にいるが、チームの完成度でユーヴェを上回ってはいない。コンテはいくつかのシステムを使い分けることで相手を驚かせるのを得意とするが、チームとしてのまとまりと戦力の充実、この2つが両立した今シーズンは、その傾向が強まっていくだろう。

 そして、2連覇を成し遂げたことで得た自信と経験も彼らの強みとなる。たとえチームの調子が落ちた時にも、今の彼らにはそれを克服するだけの経験がある。こうした経験も“勝者のメンタリティ”を形作る大きな要素。コンテ・ユーヴェの誕生以前にスクデットを獲得していたミランとインテルは、世代交代を進めたこともあって“勝者のメンタリティ”がまだチームに根付いていない。その差は大きいはずだ。

ユーヴェが内包する3つの不安要素

 3連覇という偉業に挑むユーヴェを止める術はないのか。そう考えた時に、彼らにはいくつかの弱点がある。正確に言えば、「まだ弱点とは言えないが、今後そうなる可能性のある部分がいくつかある」ということだ。いずれにしても、弱点のないチームなど存在しない。

 まずは、チャンスをゴールに変える能力、つまり決定力不足である。昨シーズンのセリエAにおけるユーヴェの総失点は24。2位ナポリの数字が36だから、これは断トツの数字だ。ところが、総得点71はトップのナポリ(73)との差はわずかながら、ローマと並び4位タイ。得点力という点では、抜きん出た存在ではない。

 そもそも、コンテ・ユーヴェはゲームを完全に支配しながらも得点を奪うのに苦労して、勝つにしても薄氷を踏む勝利だったりするケースが少なくなかった。その傾向が今シーズン序盤戦に散見されることに注目したい。第3節のインテル戦、ユーヴェは90分間の大半で試合の主導権を握りながら、シュートまで持ち込むのに苦労した。マウロ・イカルディのゴールで先制した直後のインテルが明らかに集中を欠いたために、敗戦を免れたという形だ。第5節のキエーヴォ戦も同様で、最終的には勝ちはしたものの、ゲームへのアプローチが明確ではなく、苦戦を強いられた。今のところ大きな痛手ではないが、あのまま歯車が狂ってインテルに敗れていたら、大変な騒ぎになっていたはずだ。

 テベスは前線のキーマンとして開幕から順調なスタートを切った。空中戦とポストワークに強いという触れ込みでビルバオから加入したジョレンテも、調整が遅れていたが第4節のヴェローナ戦で得意のヘディングで決勝点を決め、実力を見せた。ミルコ・ヴチニッチもファビオ・クアリアレッラも、それぞれ自分らしさを発揮している。つまり、決定力は個人の問題ではなく、チームとして何かが欠けているということだ。今シーズンのユーヴェは謙虚すぎるのではないだろうか。もっと強引に、時には無慈悲に、抵抗する術を持たない相手から大量のゴールを奪う姿勢が必要だ。

 2つ目のユーヴェのアキレス腱、それは中盤の選手層にある。アンドレア・ピルロが中央にいて、右にビダル、左にクラウディオ・マルキージオないしはポール・ポグバを配置する。盤石の選手層に見えるが、3MFは消耗の激しいポジションである。3枠を回すのに4人のMFでは足りないだろう。シモーネ・パドインはバックアップとしては頼りになるが、レギュラーの誰かが一時期離脱し、その代わりに常時出場させるには物足りない。クワドゥオ・アサモアを中央に戻すことも可能だが、そうなるとシステムに根本的な改変を施すことになる。シーズンは長い。もし前述の4人のレギュラークラスに複数のケガ人が出たら、危機的状況に陥るだろう。中盤はユーヴェの誇るストロング・ポイントだが、それが一転、大きな弱点になる危険性をはらんでいるのだ。

 最後の懸念は、チャンピオンズリーグの存在だ。今シーズンのユーヴェには、カンピオナートでの3連覇だけでなく「ヨーロッパでの復権」というもう一つの目標がある。もし本気で二兎を追う気なら、先述したような控えの戦力不足という問題はより深刻になる。ユーヴェで素晴らしい実績を残しているコンテだが、全能なわけではない。監督としてはターンオーバーをあまり好まないタイプで、ポジションごとにレギュラーとサブの立場を明確にすることが多い。こうなると、レギュラーが揃わない時に強さをキープすることが難しくなる。苦戦を強いられたキエーヴォ戦、調子が上がらないまま引き分けたコペンハーゲン戦など、主力を何人か欠いた試合ではやはり何かが機能しない。

 ラツィオを4-0で粉砕したスーペルコッパに始まり、1週間に1試合のペースでスケジュールが組まれた8月は盤石の強さを見せたが、平日開催が重なる9月にはパフォーマンスを落とした。過密日程は今後も続くし、チャンピオンズで春まで勝ち進めば、落とせない試合の連続となる。10月23日にアウェーで、11月5日にホームでレアル・マドリーとの対戦が組まれている。まずはこの時期、その前後のセリエAの試合も含め、ユーヴェがどんな選手起用を行い、どれだけパフォーマンスを保てるかに注目したい。

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