2013.10.01

長友佑都「4年目の進化」、迷いなきプレーを生む“マッツァーリ教室”の成果

[ワールドサッカーキング1017号掲載]

セリエA開幕から2試合連続でゴールを決めた長友佑都はイタリアでの4年目のシーズンを最高の形でスタートさせた。ヴァルテル・マッツァーリとの出会いと持ち前の勤勉さによって進化の過程を歩む彼を、現地記者はどう評価しているのだろうか。ルチアーノ・マルティーニ氏が『ワールドサッカーキング』(10月3日発売号)の取材に答えてくれた。

文=ルチアーノ・マルティーニ Text by Luciano MARTINI
翻訳=小川光生 Translation by Mitsuo OGAWA
写真=ゲッティ イメージズ Photo by Getty Images

長友佑都が開幕から2戦連続でゴールを決める――。たとえ熱狂的なユウトファンであっても、この結果を予想していた者は少数派だったはずだ。イタリアで4年目を迎えた長友は、開幕戦のジェノア戦で今シーズン初得点を決めると、第2節のカターニア戦でも強烈なヘディングシュートをたたき込み、インテルの開幕連勝に貢献した。個人としてもチームとしても最高のスタートを切った、と言い換えてもいいだろう。

 カターニア戦後、今夏からインテルを率いるヴァルテル・マッツァーリ監督は、サイドのレギュラーを務める長友とジョナタンに対し、「2人がこんなに早く私の要求を理解してくれるとは思わなかった」と感嘆の声を上げた。

 指揮官はピンツォーロでのサマーキャンプで戦術的な練習を繰り返し行い、自身の哲学をチームにたたき込んだ。特にサイドの2人への注文は多く、何度も声を掛けては身振り手振り指導する姿が印象的だった。長友自身、「ここまで細かい戦術練習をした記憶はない。頭がパンクしそうなくらい覚えなきゃいけないことがある」と語っていたほどだ。だが、同時に「充実していますよ」と軽快な口調で話す彼の表情を見る限り、“マッツァーリ教室”の成果が開幕からの好調ぶりにつながっていると考えて間違いないだろう。

必然だった開幕2戦連続弾

 長友の変化は攻守両面に現れている。まず攻撃面についてだが、彼は今シーズン、以前にも増してゴール前に顔を出すようになった。もともと攻撃参加がストロングポイントだったが、昨シーズンは無難にクロスボールを上げる動きが多く、中央へ切れ込むことは稀だった。しかし、今シーズンはカットインして積極的にシュートを打つ場面が格段に増えている。更に逆サイドからクロスボールが上がりそうな時には積極的にゴール前へ飛び込んでいく姿が目につく。開幕からの連続ゴールは、まさにこういった変化の賜物だろう。第3節のユヴェントス戦で記録は途切れたが、名手ジャンルイージ・ブッフォンが守るゴールを脅かすシーンを作り出し、2試合連続得点がフロックではないことを証明した。

 ここで見逃してはならないのが、どのシーンでも長友が迷いなくプレーしていた点だ。そのすべてが彼の判断によって行われたとは考えづらい。恐らくマッツァーリの下で反復練習を行ったからこそ、思い切った判断が下せるようになったのだろう。

 マッツァーリは場面によって事細かに選手に指示を出すタイプの監督だ。様々なシーンを想定した練習が行われ、選手はそこで身につけた動きを試合で披露しているはずだ。要求が非常に細かく、多岐にわたることから、マッツァーリのやり方を嫌う選手もいる。だが、長友のような勤勉な選手と、明確な答えを用意して親身に指導を行うマッツァーリのような指揮官とは相性がピッタリなのだろう。

 カットインが増えたことで、中へ入ると見せかけた縦への突破も有効になってくる。周囲との連係も徐々に構築され、彼の長所である攻撃力に多彩なバリエーションが加わった。「今シーズンのユウトには勇気ある決然としたプレーが多い」というのは、我々インテルを追いかける記者の共通認識だ。

100試合の節目も通過点に過ぎない

 次に守備面に関してだが、こちらはまだ課題が残る。カターニア戦では対峙したセバスティアン・レトの制圧に手を焼いていたし、ユーヴェ戦ではカルロス・テベスの突進にひるんでピッチに倒れ込むシーンもあった。今のところウーゴ・カンパニャーロ、アンドレア・ラノッキア、フアン・ジェズスの最終ラインが安定していて、彼らのカバーリングによって空中戦が不得意な長友の負担が軽減されているため、大きな問題にはなっていないが、今後ほころびが出てくる可能性は否定できない。

 もっとも、サイドからクロスボールを上げさせないようにする動きやルーズボールへの反応といった面は合格点をつけてもいいだろう。守備に関してはユーヴェ戦が一つの試金石だったが、前述のようにテベスに手こずるシーンこそあったものの、総じて見ればよく対処していた。まだまだマッツァーリ教室で学ぶことは多いはずだが、受講の成果をピッチで見せてくれる日はそう遠くないはずだ。

『ガッゼッタ・デッロ・スポルト』紙は、ユーヴェ戦での長友に6・5点(最高10点、最低1点)の高評価を与え、「マッツァーリはユウトにルールとテンポ、そして方法論を与えた。そして従順な日本人はそれを素早く吸収している」と記したが、私も全く同感だ。

 カターニア戦は彼にとってインテルでの公式戦100試合目となるメモリアルゲームだった。ところが、「更にインテルへの思いが深まったのでは?」という我々記者の質問に対し、彼はサラリとこう応えるだけだった。

「確かに節目ですけど、一つの通過点に過ぎないと思っています」

 長友は常々「世界一のサイドバックになりたい」と口にしている。彼が見据えるものを考えれば、公式戦100試合という数字は進化していく過程での通過点に過ぎないのだろう。何より、今はマッツァーリの下で覚えなければならないことがたくさんある。理想の指揮官に出会い、急ピッチで進化を遂げ始めた彼には、節目を祝っている暇などないのだ。