2013.08.14

風間八宏「選手の眠っている能力を引き出せれば、Jリーグはもっと魅力的なリーグになる」

Jリーグサッカーキング9月号 掲載]
若くしてドイツに渡り5年間プレーした「欧州組」の先駆け的な存在だ。1994年にはキャプテンとして広島のステージ優勝に大きく貢献し、現在は川崎の指揮を執り、選手の個性を存分に引き出している。「常識を疑え」と言う革命児には、Jリーグがどう映っているのだろうか。

インタビュー・文=飯尾篤史 写真=山口剛生

ドイツでの5シーズンで、そうした貴重な体験をしたにもかかわらず、なぜ、帰国の道を選んだんですか?

風間 当初はドイツで現役をまっとうしようと思っていたし、フランスやオランダ、ベルギーからも誘いがあったんだけど、5年経ったら、急に空気が止まったっていうか、刺激を感じなくなっちゃったんだよ。そういう性格なんだ(笑)。だいたい5~7年くらいで周期が来る(笑)。それまでも毎年のように日本から誘いがあって、マツダからも今西さん(和男/元広島GM)や(ハンス・)オフト(元マツダ、日本代表監督)が来てくれたんだけど、すべて断ってきた。でも、ちょうどその頃、マツダが「一番になりたい。それにはキミの力が必要なんだ」って言ってきて、本気なのが伝わってきた。その頃、自分の中のプロ意識も確立されてきていたんだろうね。自分を必要としてくれて、やりがいがあるなら、ドイツでもロシアでも日本でもいいって思えるようになっていた。だから、面白そうだな、やってみるかって。

当時のマツダはアマチュアでした。一方、風間さんはプロ。そうした環境でチームを強くしていくのは、困難な作業だったんじゃないかと思います。

風間 パスがちゃんとしたところに出てこなければ、先輩に対しても胸ぐらをつかんだことがあるし、シャンプーを投げつけたこともある。負けた試合のあと、ロッカーを蹴ってそのまま出て行っちゃったことだってある。もちろん、演じているんだけど、それぐらい厳しくしないと勝てないと思っていた。今はみんなと仲良くさせてもらっているけど、当時は怖がられていたんじゃないかな。

演じてまで嫌われ役を買って出るというのは、簡単なことじゃないですよね。

風間 それを期待されていた部分もあったからね。それよりも、自分がこのレベルに染まってしまうんじゃないかっていう不安のほうが大きかった。不安はサンフレッチェになってからも消えなかった。というのも、5割の力でプレーしていたから。当時のバクスター監督から「半分ぐらいの力でやるのがちょうどいいから、チームのためにセーブしてくれ」って言われていてね。だから、葛藤がすごくあったよ。のちにバクスター監督が帰国する時、「コーチみたいな役回りをさせてしまって悪かったな。でも、お前のおかげで助かったよ」って言ってくれたのは、すごく覚えている。

勝たせるために帰ってきたマツダを日本リーグ1部に昇格させ、広島もステージ優勝に導きました。感慨深さ、達成感もひとしおだったのでは?

風間 それよりもフロントに対する思いのほうが大きかったかな。マツダが撤退するという話も出ていた中で、今西さんたちが苦労しながらチームを作ってきたからね。自分も一緒になってチームを作ってきたつもりだったから、泣きはしなかったけど、心の中では泣いたよね。ああ、この人たちが報われてよかったなって。

その広島も95年限りで退団します。マツダ時代を含めると7年……。

風間 そういうヤツなんだよ(笑)。ずっとセーブしていたから、自分の力がどれぐらいなのか、最後に確かめたくてね。それと、眼と頭の整理もしたかった。クビになったわけじゃなく、自分から勝手に辞めるわけだから、まず家族に「海外でサッカーを整理したいから、俺に投資してくれ」って話して、先に一人でドイツに渡ってチームを探したんだ。それで以前に所属したレムシャイトでプレーすることが決まって、家族を呼び寄せた。現役を続けながら、コーチの勉強もして、すごく充実した時間を過ごせたよ。家族とも一緒にいられたし。当時、娘たちが小学校3年と1年で、息子たちは幼稚園だったんだけど、「お父さんがこんなに楽しそうにサッカーしているの、初めて見た」って子供たちが言うんだ。実際、自分自身も「サッカーを楽しむっていうのは、こういうことだったな」って思い出した。自分が全力を尽くし、それがチームのためになるのは、こんな素晴らしいことなのかって。そういうこともあって今、選手の力は規制したくないし、選手の力をもっと引き出してチームを作っていけたら楽しいだろうなって思っている。選手の利益とチームの利益を一致させることを考えて、チーム作りをしているんだ。

昨シーズンから監督としてJリーグに戻ってきましたが、現在のJリーグのレベルについては、どのように感じています?

風間 外から見ていた時は、レベルはそれほど上がってないんじゃないかって感じていたけど、チームを率いてみると、選手のレベルがすごく高いと感じるね。でも、それと同時に、選手一人ひとりに、まだまだ多くの能力が眠っているんじゃないかとも感じている。それが開花したら、もっとすごいリーグになるんじゃないかって。フロンターレの選手を見ても、どんどん成長しているし、ベテランたちも、まだまだ伸びているからね。

たしかに、中村憲剛選手も大久保嘉人選手も、今でも成長しているように感じます。では、若く有望な選手たちが軒並みヨーロッパのクラブに移籍してしまう現状については、どう感じていますか?

風間 二つあると思うんだよね。一つはお金の問題。プロにとってお金は重要で、ヨーロッパにはお金や夢がある。もう一つは、強い相手と試合ができるし、そうした中で自分の評価を知れること。ただし、そうしたことと、自分に合ったチームに巡り合えるかどうかは、別の問題。自分の力が最大限に発揮でき、本当に楽しめるチームはどこかって考えた時、その答えが日本のチームだったとしても良いと思う。イブラヒモヴィッチだってバルセロナに合わなかったんだから。

一番合うのがJリーグのチームだったら、移籍する必要はないだろうと。

風間 もちろん。だって、憲剛も、遠藤(保仁)も素晴らしい選手でしょう。彼らはJリーグでプレーしていても、これだけの選手になれた。だから、ただ海外に行けばうまくなれる、という考えは、そろそろ終わりにしてもいいんじゃないかな。選手の能力をどんどん引き出し、選手が生き生きとプレーできるようなチームが日本にたくさんあれば、わざわざ海外に行かなくてもいいっていう流れになると思うんだ。チームを作る時、戦術から植え付ければ、ある程度形になるんだけど、そうすると、選手はそれを守ろうとして力をセーブしてしまうことがある。そうじゃなく、一人ひとりの能力を引き出し、あとから固めていくほうが面白いものができるんじゃないかって僕は思っている。すぐに結果を求められる世界だから簡単じゃないけど、Jリーグの選手は本当にうまいし速い。能力を引き出してあげれば、Jリーグは他にはない魅力的なリーグになると思うよ。

風間さんは選手の能力を引き出すことにトライしてきて、結果が出ずに苦しい時期もありましたけど、ブレなかったですね。

風間 自分では言われるほど悪いとは思ってなかったんだけどね(苦笑)。まあ、何が正しいかなんて簡単に見えるものでもないから、責める気はないけれど、日本にも育てる文化がもう少しあってもいいんじゃないかなって思う。厳しい目で見るのも大事だけれど、逆に、うまくやれたら称賛して育てていくのも大事なこと。自分でしっかり判断して、批判と称賛がフェアに行われるようになるといいなって思うよね。

では、サポーターについては?

風間 昔と比べてだいぶ変わってきたよね。僕がJリーグに可能性を感じるのは、まさにサポーターの存在なんだよ。以前は勝つか、負けるかだけだったけど、今は要求するようになってきたよね。「どういう風に勝つ」とか、「これをうちのクラブの誇りにしよう」とか。僕たちはプロとして、そういうものにも応えていかなければならない。特に「どう勝つか」は大事。選手というのは、人よりも優れた能力や技術があるからプロになれたわけで、それを見せて、しっかり勝って、お客さんを喜ばせる使命がある。憲剛や嘉人が能力を存分に発揮してチームが勝てば、お客さんはうれしいし、それを見て、子どもたちも育っていく。そうしたリーグを目指していきたいよね。

最後に、日本サッカーをさらに発展させるためには、何が必要でしょうか?

風間 日本のサッカーというのは、ヨーロッパをモデルにして構築されてきたと思うんだけど、そろそろ日本のほうがすごいんだっていう考えに切り替えるべきじゃないかな。例えば、UEFAチャンピオンズリーグを見て、彼らのプレーを盗もうとするんじゃなく、彼らに勝つにはどうすればいいかって考える。ヨーロッパよりも自分たちのほうが面白いし、強いし、勝てるというサッカーを、協会、各団体、各チームみんなで目指していく。Jリーグは今、自信を持ってそこを目指せるレベルになってきているよ。もちろん、それには猶予も必要で、目先の結果も大事だけれど、その先の理想を見据えていなければならないから、成績が多少悪くてもクラブやサポーターが信じることが大事。逆に、指導者の見極めも重要になる。いずれにしても、本当に世界一になりたいんだったら、そろそろ次のステップを踏む時期だと思う。でもそれは、とんでもなく大きな発想じゃなく、グラウンドや各部署で、一人ひとりが「もっと面白いことができないかな」って考えることから始まると思うんだ。

日本オリジナルの発想が必要になるということですね。

風間 そうだね。これまではクラブ運営や指導方法をヨーロッパから学び、ノートを取って勉強してきたわけだけど、そのノートはそろそろ脇に置きませんかっていうこと。これから先は日本人が日本人のために日本人の発想で作り上げていく。それをグラウンドだけでなく、各部署、各団体が考えていけば、日本のサッカーはもっともっと面白くなるんじゃないかな。

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