2013.06.07

川淵三郎「第2のメッシが日本人であっても、何ら不思議はない」

川淵三郎(公益財団法人 日本サッカー協会 キャプテン[最高顧問])

Jリーグサッカーキング7月号 掲載]
今から20年前の1993年5月15日、日本サッカーは大きな一歩を踏み出した。誰もが願ったプロリーグの発足―。その実現を目の当たりにして、“仕掛人”としてプロジェクトを推し進めた川淵三郎は、その感慨に浸る余裕もなく走り回った。Jリーグはなぜ誕生し、わずか20年でなぜここまで成長したのか。20年前の記憶を呼び起こしながら初代チェアマンが語る。
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インタビュー=岩本義弘 協力=Jリーグメディアプロモーション 写真=兼子愼一郎

ここからは20年という歴史を積み重ねてきたJリーグの“今”と“未来”について伺いたいのですが、まず、現状におけるJリーグのポジティブな要素からお話いただけますでしょうか。

川淵 実は、今日は朝からずっとそのことを考えていました。そうして導き出した答えとしては、やはり、サポーターが温かいということが一番じゃないかな。サッカーそのもののレベルやクラブの規模については、世界のトップリーグと比較すればまだまだもの足りない。しかし、海外から高く評価された「女性や子供が楽しめるスタジアム」は今もなお続いていて、Jリーグのスタジアムには常に温かい雰囲気がある。それは、私たち日本人の国民性を非常に端的に象徴している。それこそがJリーグが世界に誇れる要素だと思います。

スタジアムの安全性については、世界中の記者も驚くほどの高水準を誇っています。

川淵 間違いないと思います。そういった部分、それから、もちろんサッカーそのもののレベルも含めて、たった20年間でこれだけ発展したリーグは世界中どこを探しても見当たらない。ほとんどゼロの状態から始まったJリーグの成長は驚異的であると、世界各国から高い評価を受けています。しかし、現状のJリーグが世界のトップリーグと比較して同等にあるかと言われれば、決してそうではない。スタート地点のレベルが低かったから進化度が急速だっただけ。個人的には、ヨーロッパのトップリーグ、あるいはトップクラブと肩を並べるためには、まだまだ多くの時間を必要とすると思いますね。

Jリーグが生んだ選手が世界で活躍していることも、功績の一つと言えると思います。

川淵 これは間違いなく、Jリーグがなければ成し得なかった成果ですね。マンチェスター・ユナイテッドの香川真司もインテルの長友佑都もJリーグがなかったらありえなかったでしょう。Jリーグで活躍したいという夢があったから、Jリーグに入って経験を積み、そこから世界に飛躍した。もちろん、カズ(三浦知良)のように育成年代で海を渡った先でプロになる選手も出てくるかもしれない。しかしそれは極めて稀なケースだと思います。

特に近年は、子供たちの技術レベルの向上が著しいと感じます。

川淵 正直、僕の時代の日本代表選手よりも、今の小学生の技術レベルのほうが高いのではないかとさえ思いますよ(笑)。僕はかつて、ラモス瑠偉よりも優れた技術を持った日本人選手が出てくると思っていなかったけど、今は高いテクニックを身につけた子供たちが数えきれないほどいる。香川のようなボールコントロールのしなやかさなどを見ると、サッカーは日本人に合っているスポーツだと思いますね。

確かに、わずか20年という区切りでの現状を考えると、未来への期待がさらに膨らみます。

川淵 フリースタイル・フットボールの世界大会で、日本人選手が世界一の座に輝きましたが、それこそ一昔前までは考えられないことですよね。日本人がそういうポテンシャルを秘めているということを考えると、楽しみで仕方がない。第2のメッシが日本人であっても、何ら不思議はないと思いますね。

一方で、現状で抱えている課題についてはどのようにお考えでしょうか。

川淵 具体的なことを言えば、アクチュアル・プレーイング・タイム、つまり90分間の中でのプレー時間を延ばすことを考えなければならない。世界のトップリーグと比較すると、Jリーグは10分近く少ない。この問題は、そうした意識を全員が持つことですぐにでも変えられることなんですよね。細かく見れば、すぐに改革できることはいくつでもある。例えば、レフェリーに文句を言う時間、倒れてファウルをもらう時間をプレーイング・タイムに変えることで、そうした意識の変化がスタジアムに足を運んでくださるお客様の満足につながる。そういった認識をすべての選手が持たなければならないと思いますね。

意識を変えるだけでプラスに作用することは、非常に多くある気がします。

川淵 加えて、すべてのことをもっと能動的に動かすこと。同じエンターテインメントであるという意味において、Jリーグの魅力が東京ディズニーランドに劣っている部分があるのだとしたら、その差を補うための工夫を凝らさなければならない。もちろん、Jリーグにしかない魅力もあるわけですから、もっと観客動員が増えて、地域社会の活性化、ひいては日本社会全体の活性化につながるという意識をすべての人が持つべきではないかと思います。この20周年という節目をきっかけに、ぜひ思い切った動きをしてほしいと思います。