2013.05.02

ジダン氏が語る成功の要因「キャリアの選択が最も重要」

[ワールドサッカーキング0516号掲載]
サッカー界の成功者は物静かに言葉を紡いでいく。選手として、チームとしての“成功条件”。ジネディーヌ・ジダンが発する言葉の一つひとつが、「成功と失敗」の分岐点をひも解くための鍵となる。
ジダン
インタビュー・文=ミシェル・デスラック Interview and text by Michel DESLAC
翻訳=石橋佳奈 Translation by Kana ISHIBASHI
写真=ゲッティ イメージズ、アフロ Photo by Getty Images, AFLO

 伝説のゴールが生まれたのは、11年前のことだ。舞台はグラスゴーのハムデン・パーク。まるで“その瞬間”が訪れた時のインパクトを強調するかのような山なりのクロスボールに合わせ、左足を一閃。試合後、「神に祝福されている」とたたえられた男が放ったボールは鮮やかな弧を描き、ゴールへと吸い込まれた。「今も素晴らしい思い出だ」

 ジネディーヌ・ジダンはグラスゴーの夜をそう振り返る。

 名門クラブで栄華を極め、“将軍”として母国を世界王者へと導いたこの男を「成功者」と呼ぶことに異論はないだろう。「ファンタジスタ」という甘美な響きも、彼の引退後は“市民権”を失ってしまっている。サッカー界での成否を左右する条件とは何か- 成功者の言葉に耳を傾けてみよう。

キャリアの選択がとても大事

――もしも今、あなたが現役の選手だったら、どのクラブでプレーしたいですか? クラブを一つ選んでいただけますか?

ジダン やっぱり、(レアル)マドリーかな。マドリッドに住んでいることもあるけど、スペインスタイルの暮らしが大好きだし、家族もここでの生活に満足している。それに、マドリーでは様々なタイトルの獲得が保証されている。マドリーの一員として、トップレベルの対決やクラシコを体験してみたい。もちろん、マドリーとバルサは僕が現役の頃もライバル関係にあったけど、今ほど激しいものではなかったように思う。ただ、「バルサを“権威の座”から落とす」というチャレンジは、すごくやりがいがあったし、クラシコに臨む選手のモチベーションは当然、高かったけどね。

――そして、チャンピオンズリーグ(以下CL)で2度目の優勝を果たすと。

ジダン もちろんさ(笑)。レヴァークーゼンを下して成し遂げた優勝(2001-02シーズン、2-1でR・マドリーが勝利)は、今も素晴らしい思い出だ。ただ、ユヴェントス時代に戦ったCL決勝ではドルトムントに負けている(1996-97シーズン、3-1でドルトムントが勝利)し、実はマドリーにも決勝で敗れているんだ(97-98シーズン、1-0でR・マドリーが勝利)。CLは、最初からタイトルを狙っていって優勝できるほど甘い大会ではない。ビッグイヤーを手にするには、死ぬほどの努力に加えて、少しばかりの運も必要になるからね。

――ユヴェントスでの自分は想像できませんか?

ジダン  おいおい、勘弁してほしいな。一つと言われたから「マドリー」と答えただけだよ(苦笑)。CL準々決勝でバイエルンに敗れたとはいえ、ユーヴェが欧州のトップクラブであることに変わりはない。ユーヴェの結果は毎試合しっかりと追い続けているよ。団結力、謙虚さ、闘争心、そして負けることへの拒絶。ユーヴェは今、クラブ伝統の価値観に立ち戻っているところだ。90年代に比べればタレントの数は減っているかもしれない。しかし、相手にとって極めて勝ちにくいチームであることは昔も今も変わらない。今シーズンはバイエルンをたたえるべきだし、来シーズンのユーヴェはかなり期待できると思う。

――期待と言えば、サッカー選手の中には、才能に恵まれながらも、あなたと同じような成功を収められない選手も数多くいます。選手としての成功と失敗。その違いはどこで生まれるのでしょうか?

ジダン 自分が成功者かどうかはさておき、プレーヤーとして成功を収めるためには、ベストのタイミングでベストの場所にいる、このチャンスをつかむ必要がある。たとえその選手がどんなに優れたプレーヤーだとしても、一人でチームを勝利に導けるほどサッカーは簡単なスポーツじゃない。一つの試合という意味では、一人の選手が“勝因に見える試合”は存在するかもしれないが、シーズンを通じてそういうことはあり得ない。キャリアの選択がとても大事なのは、サッカーにはそういう側面があるからだ。若い選手の中には、どれだけうまくなるかよりも、どれだけ稼げるかを重視する選手もいるようだし、地道なステップを踏まずに楽をしたがる若手もいる。そういう選手は20歳そこそこで「自分は既にビッグクラブでやれる力がある」と思いこんでしまい、結果的にベンチが定位置という状態に陥ってしまう。そういった選手を何人も見てきたよ。その年代で一番大切なことは、実戦の場で少しでも多くプレーすることなのにね。たとえ所属がどれほどのビッグクラブであろうと、ベンチで時を過ごせば実力は落ちていくばかりだ。僕は22歳の時にフランス代表でデビューし、24歳でトリノに渡り、29歳でマドリーと契約した。通過すべきステップを省略しようと考えたことはない。

――では、チームが成功する決定的な要因についてはいかがですか?

ジダン  チームとして一緒に目標に到達しようとする意志が、すべての選手に共通していることだ。もし、その共通意志がなければ、仮に世界最高の選手や監督を抱えることができても、たとえ資金に恵まれていたとしても、絶対にうまくはいかない。成功するチームには化学変化が起こり、メンバー間に気持ちが通じ合う瞬間が訪れるものだ。チームの成功のためには、選手が互いのためにピッチで努力を惜しまない心構えが必要で、これは「友人同士にならなければならない」とか「一緒にバカ騒ぎをしなければならない」ということではない。要は、チーム全体が共通のプロジェクトに支えられ、選手同士が同じ目的を分かち合い、クラブに所属する全メンバーがそろってプロ意識を持つということだ。

まず「負けを知る」必要がある

――今シーズンはCLでイングランド勢が準決勝まで進めませんでした。イングランドサッカーは凋落したのでしょうか?

ジダン いや、その考えは短絡的すぎる。チェルシーは昨シーズン、ビッグイヤーを獲得した。マンチェスター・ユナイテッドは08年から11年の間に3度も決勝の舞台に立ち、08年にはタイトルを獲得しているし、アーセナルもベスト16以上の常連だ。“一度の失敗”だけを見て、イングランドが勢いを落としているなんてことは言えない。むしろ、イングランドは今後ますます勢力を拡大するだろう。今のプレミアは“ビッグ4”ではなく、マンチェスター・シティーとトッテナムを加えて“ビッグ6”と呼ばれているくらいだ。その事実が、プレミアリーグのレベルの高さを証明している。

――では、今シーズン、イングランド勢の不振の要因はどこにあったと?

ジダン プレミアリーグは、選手へのフィジカル面の要求がとてもハードなリーグだ。クリスマス休暇がなく、FAカップに加えてリーグカップもある。その結果として、シーズン終盤を迎えた時に、慢性的な疲労がチームを襲うケースがあるんだ。それが今シーズンは、より顕著だったということじゃないかな。

――今シーズンのCLでは、パリ・サンジェルマンも目覚ましい活躍を披露しました。彼らの歩みをどう見ていますか?

ジダン  今後にとても期待が持てるチームだ。正直、バルサをあれほど苦しめるとは思っていなかった。しばらくCLでプレーしていなかったチームにとって、準々決勝に進んだこと、その準々決勝でバルサを相手に2戦ともドロー(アウェーゴール差でバルセロナが準決勝に進出)に持ち込んだことは、それだけで立派なことだ。

――今大会でベスト8まで進んだパリSGは、近い将来、CLを制覇できると思いますか?

ジダン それは分からない。実力があっても、ビッグイヤーを獲得するのに何年も掛かるチームがある。資金力はタイトル獲得の必須条件だが、かといって資金がすべてを解決するわけじゃない。CL制覇には経験が必要だ。チェルシーも優勝まで、長い間、辛抱しなければならなかった。過去の優勝クラブはいずれも、準々決勝や準決勝、そして決勝で何度も涙を流し、その涙を乗り越えて優勝している。栄冠をつかむには、まず「負けを知る」必要があるということだ。もちろん、近い将来、パリSGが有力な優勝候補になることは間違いない。既に今大会で、彼らはそのレベルまで上がってきていることを証明したんだからね。

――今シーズンはドイツ勢の躍進が著しいですね。

ジダン ここ数年で、ドイツサッカーは生まれ変わってきている。各クラブが素晴らしいスタジアムを所有し、熱狂的なサポーターに支えられ、健全な運営を行い、才能あるタレントが頭角を現している。クラブレベルでも代表レベルでも、ドイツにとって残すはタイトルだけだ。

ジダン氏のインタビューの続きは、今号からリニューアルしたワールドサッカーキング0516号でチェック!